軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

前世の力

深淵総軍六名と冥王イージェスは対峙する。

奴らは各々構えた銃砲に、魔力を集中していく。

「槍で奴らを仕留めるのは至難の業。余が隙を作る。そなたの魔弾でとどめをさせ」

「わかったわ」

イージェスの指示に従い、サーシャは後方にて魔力を溜め始める。

「 緋髄愴(ひずいそう) ディルフィンシュテイン」

骨の魔槍が緋色に輝く。

イージェスが槍を突き出せば、穂先から緋色の血が噴出した。

合計六本に枝分かれたした緋色の水流は、長き槍の形状へと変わり、六名の隊長に襲いかかった。

「射程が長くとも槍は槍だ」

十番隊隊長ビリジアは右腕に魔法障壁を展開して、ディルフィンシュテインの 血槍(けっそう) を難なく受け止めた。

他の五人の隊長も、同じようにして血槍を防ぐ。

緋髄愴(ひずいそう) がいかに強力といえど、ここは魔弾世界。槍の威力は十全には働かない。

隊長らの銃砲に展開された魔法陣に青き魔力が集中する。

狙いはイージェスではなく、ミーシャが創った氷の世界だ。

「< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >」

青き魔弾が発射されるその寸前、ふっと魔法陣の一部が欠けた。

< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >は不発。魔弾が発射されることなく、消滅していく。

ビリジアは 魔眼(め) を光らせ、状況を解析する。

「……この槍か。全員、血の槍に近づくな。魔力が異空間に吸い込まれる!」

六本の血槍をそれぞれが弾き飛ばし、ビリジアたち隊長は、再び銃砲に魔法陣を描く。

「ぬんっ!」

冥王がディルフィンシュテインを回転させれば、六本の血槍はそれを中心として渦を巻き、散開した隊長らに刃を向ける。

やはり魔法障壁にて受け止められるが、ディルフィンシュテインの脅威は周囲の魔力を次元の彼方に飲み込み、魔法の発動を妨げることだ。

奴らが撃とうとした< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >の魔法陣が欠け、またしても不発に終わった。

「五番、六番、七番、八番は槍を止めろ。私と九番でガラス球を撃つ」

再び血槍を弾き飛ばし、彼らは陣形を変えていく。

五番隊隊長が右翼、六番隊隊長が左翼、七、八番隊隊長が前方にて、槍を警戒し、中心に位置する九、十番隊隊長が氷の世界を撃つ構えだ。

「槍が効かぬ世界なら、防ぐ術に乏しいのが道理というものよ」

イージェスがディルフィンシュテインを勢いよく突き出す。

魔槍から伸びる六本の血槍が、本体を中心に渦を巻きながら、奴らの右翼と左翼を崩しにかかる。

巨大な魔法障壁を展開し、深淵総軍は血槍を近づけぬよう、離れた位置で受け止めようとする。

「甘い」

血槍がジグザグに曲がり、展開された魔法障壁の隙間に滑り込む。迫り来るその穂先に、右翼と左翼の隊長は体を盾にするようにして突っ込んだ。

直撃しようと、槍では大した傷は負わぬとの算段だろう。

槍を体で押さえ込もうと高速で迫った二人の隊長だったが、血槍はそれ以上の速度でかくんと変化した。

目前で軌道を変えた槍を、想定内とばかりに奴らは手をのばしてつかみにかかる。

「確保完了」

五番隊隊長エイゼット、六番隊隊長ジェイミーが血槍の柄をつかんだ。

だが、

「それはこちらの台詞というもの」

その隙をつき、もう二本の血槍が奴らの体にぐるぐると巻きついていく。

「ぐうっ……!」

「ぬっ……!!」

「刺さらぬと油断したのが運の尽きよ」

隊長二名は血槍を振りほどこうとするが、しかしびくともしない。魔法をつかおうにも、その血槍の近くでは魔力が次元に飲み込まれ、満足に発動することができぬ。

締めつける力は魔弾世界では弱く、そのままねじ切ることは難しいが、それは奴らとて同じこと。

巻きついた血槍を破壊するには生身の体では難しく、魔弾を撃たねばならぬ。だが、その魔弾が封じられている。

残り二本の血槍はそのまままっすぐ、陣形中央にて氷の世界を狙う二人に迫った。

「想定内だ」

魔法障壁にてそれを受け止めたのが、前方に展開していた二名の隊長、ネロとコルクスである。

血槍が左翼、右翼に回り込んだときからこの状況を想定に入れ、下がり気味になっていたのだろう。

「「< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >」」

二本の銃砲に夥しい魔力が集中する。氷の世界めがけて、青き魔弾が発射された。

だが直後、その二つの魔弾が骨の槍に貫かれ、大爆発を引き起こした。九番隊隊長レゲロ、十番隊隊長ビリジアはその爆炎に飲み込まれる。

イージェスの魔槍に間合いはない。

緋髄愴ディルフィンシュテインの穂先が、次元を超えて奴らの銃口を貫いたのだ。

魔槍で致命傷を与えるのは難しい。イージェスは< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >を奴らの至近距離にて爆発させる手を狙っていたのだ。

血槍にてそれを撃たせぬように立ち回ったのも、奴らの油断を誘う策の一つ。

撃つことができれば勝てると思わせ、その実、撃った瞬間の魔弾を貫く算段だったのだ。

「槍だからと油断しすぎよ。ここが魔弾世界でなければ、とうの昔に全員串刺しだ」

隻眼を光らせ、イージェスが言った。

「――我々は規律に則り、作戦行動を行っている」

十番隊隊長ビリジアの声が返ってくる。

ダメージはない。

奴は< 魔弾防壁(ゴルロム) >を展開し、至近距離にて爆発した< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >を防いでいた。

血槍に拘束されていない残りの四人は、サーシャの闇の火輪により燃え続けていた要塞の前に着地する。

今の攻防の中、位置を移動していたのだ。

「< 消火結界(デゼンド) >」

結界が要塞を覆い、炎を鎮火していく。

「< 魔弾防壁(ゴルロム) >」

更に要塞をすっぽりと覆う魔法障壁が展開された。

「……疑似銀泡」

ミーシャが言う。

要塞の前方には、目映い光を放つ球体があった。創造神エレネシアに創らせている疑似銀泡だ。

「深淵総軍隊長の権限により、< 銀界魔弾(ゾネイド) >の緊急使用を申請する」

ビリジアが手を伸ばし、魔法陣を描く。

すると、要塞が変化していき、四門の大砲に変化した。四名の隊長は各々それを手にした。

四門の大砲それぞれに、疑似銀泡の魔力が感じられる。

「撃たせはせん」

ディルフィンシュテインの血槍が四本、奴らの足下に突き刺さり、< 銀界魔弾(ゾネイド) >の術式を発動するための魔力を次元に飲み込む。

すかさず、奴らは散開した。

四本の血槍はそれを追う。一人でも、魔力を吸い込む血槍の範囲外に出れば、< 銀界魔弾(ゾネイド) >が発射される。

銀泡を撃ち抜く魔弾は、氷の世界など一撃で粉々にするだろう。

「奴の槍が吸い込む魔力量は無制限ではない」

ビリジアの指示で、奴らは銃砲に魔法陣を描く。< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >だ。

< 銀界魔弾(ゾネイド) >の魔力を吸い込みながら、同時にその魔法陣をも封じることはできない。

「「「< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >」」」

四つの銃砲から、青き魔弾が放たれる。

「ぬるい」

一呼吸の間に、四連突き。次元を越えたディルフィンシュテインが、発射直後の青き魔弾を貫いた。

だが、爆発は起こらない。

< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >に似せたフェイクの魔弾だ。

ビリジアは銃砲を捨て、魔槍の穂先をわしづかみにした。どれだけ次元を超えようと、その穂先とイージェスの手にしている魔槍はつながっている。そのまま、力任せに、奴はディルフィンシュテインを押さえつける。

「武器を捨てて投降すれば、命は保証する」

残り三人の隊長が、< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >の銃口を氷の世界に向けた。

イージェスは槍を手放そうとはしない。

それを返答と受け取り、容赦なく青き魔弾が発射された。

「ぬるいと言うたはずだ」

槍を押さえつけようとするビリジアの力を巧みに利用し、槍術の技でもってイージェスは奴の体をよろめかせる。

瞬間、イージェスはつかまっているビリジアごと槍の穂先を次元の彼方に移動させ、放たれた青き三つの魔弾を連続で突いた。

当然、穂先をつかんでいるビリジアは< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >に直撃することになる。

奴は< 魔弾防壁(ゴルロム) >を展開してそれを防ぐ。

しかし三発目の< 魔深流失波濤砲(ベレニツィア・ノイン) >で< 魔弾防壁(ゴルロム) >は割れ、爆炎がビリジアを飲み込んだ。

傷はかなり深い。

四発目は耐えられないだろう。

他の隊長もその状況では不用意に魔弾を撃てぬ。

だが、それでもなお、奴は槍を放さない――