軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対抗策

絵画世界アプトミステ。 雲海迷宮(うんかいめいきゅう) 。

激しい剣戟と魔力の火花が散る。

幾度となく激突する力と力が渦を巻き、雲海に穴を穿った。

絡繰神(からくりがみ) を操る隠者エルミデに対するは、レイ、バルツァロンド、フレアドールの三者。

その死闘は凄絶を極めていた。

バルツァロンドの放った矢が目にも止まらぬ速度でエルミデを襲う。

二射、三射――と、矢を放つ度に狙いは鋭くなり、威力が増していく。隠者エルミデには当たらない。だが、バルツァロンドの狙いは奴の動きを制限することだ。

エルミデの回避方向で待ち構えていたフレアドールが、狩猟剣を振り下ろし、動きを縛った。

束縛が解かれるより早く、真正面から突っ込んだレイが、霊神人剣にて絡繰神の体を真っ二つに両断した。

これで七度目。

されど、何度斬り裂こうと隠者エルミデが操る絡繰神の体は、半液体状となり、修復される。

魔力は消耗しているはずだが、底をつく気配はない。

反対にレイたちは追い詰められていた。

奴が使う 輝神剣(きじんけん) ヴァゼスタの傷は、簡単には癒えない。回復魔法に集中すれば、攻めも守りも疎かになり、エルミデにつけいる隙を与えてしまう。

次第にダメージは蓄積していき、体の動きが鈍くなる。

三人の連携でどうにか凌いではいるものの、一人でもエルミデの動きについていけなくなれば、一気に形勢が傾くだろう。

特に< 覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ) >の直撃を受けていたフレアドールが限界ぎりぎりだ。

ゆえに、彼らは勝負に出た。

「はあっ……!!」

バルツァロンドの矢を避けたことにより、エルミデの体勢が僅かに崩れたところに、レイがエヴァンスマナを一閃した。

狙いは 輝神剣(きじんけん) ヴァゼスタを持つ右腕。これまでの限界を超える速度で敵の予測を上回り、剣ごと奴の右腕を斬り離した。

「フレアドール!」

「わかっています!」

切り離された右腕めがけ、フレアドールは狩猟剣アウグストを振るう。

「 聖覇狩道(モーテス) ッ!」

狩猟剣アウグストから真っ白な線が走り、格子状に右腕を取り囲む。

半液体状になった右腕は、それでも動く。

それは輝神剣を運びながら、 聖覇狩道(モーテス) に勢いよく激突したのだ。だが、鋭い切れ味を誇るその剣ですら、傷一つつけることができなかった。

「我が 狩道(しゅどう) は、獲物を捕縛するもの。この 聖覇狩道(モーテス) の中から逃げることは、何人たりとも叶いません!」

狩猟剣アウグストに魔力を込めながら、フレアドールは 聖覇狩道(モーテス) を更に強固にする。

捕縛に特化した結界とはいえ、あの絡繰神の右腕を抑え続けるとなれば、全精力を傾けなければなるまい。

「ヴァゼスタを奪おうと貴様らは勝てんよ」

エルミデは魔法陣を描き、< 覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ) >を連射する。

レイはそれを斬り裂いていく。

バルツァロンドが連射した矢にて、その悉くを爆発させる。

「< 断罪刃弾(ゲゼルデ) >」

エルミデが降り下ろした左手から、真っ赤な斬撃が放たれた。

霊神人剣にてレイがそれを受け止めるも、勢いは止まらない。激しい魔力の粒子が迸り、< 断罪刃弾(ゲゼルデ) >は彼を押し込んでいく。

「ふっ!!」

渾身の力で、レイがそれを切り落とす。

瞬間、彼は目を見張る。

目の前に二撃目の< 断罪刃弾(ゲゼルデ) >が迫っていた。このタイミングでは、避けようもない。

「レイッ!」

レイの視線に映ったのは、バルツァロンドが放った鏃のない矢だ。レイの体はそれに突き飛ばされる形で、< 断罪刃弾(ゲゼルデ) >をかろうじてかわす。

間髪入れず、エルミデが突っ込んできた。

左腕と、先のない右腕、その両方に赤い魔力が集中している。

「< 断罪刃弾(ゲゼルデ) >」

「――< 天牙刃断(てんがはだん) >!」

霊神人剣が秘奥にて迎え撃つ。

二本の< 断罪刃弾(ゲゼルデ) >と、無数の刃が鬩ぎあい、魔力場が荒れ狂う。レイの体が弾け飛んだ。

彼は体勢を立て直し、エルミデに視線を向けた。

「一気に消滅させないと、だめそうだね」

<天牙刃断>によって絡繰神の左腕と右足は切断された。だが、それもあっという間に復元してしまった。

「そうじゃなかったら、アレを一度バラバラにして、フレアドールの 聖覇狩道(モーテス) で一つずつ捕獲してもらうか」

レイの背後でバルツァロンドは弓を構える。

「問題ありはしない」

バルツァロンドは笑みを覗かせる。

隠者エルミデの背後から、十字の砲弾が押し迫った。

咄嗟に反転し、奴は魔法障壁を張り巡らせる。

だが、その砲弾は無数であり、集中砲火を受けた魔法障壁に一瞬で亀裂が入る。

直後、虹の光線が直進し、エルミデを貫いた。

「こちらの援軍が間に合った」

バルツァロンドが言う。

雲間をくぐり抜け、雲海迷宮にやってきたのは聖船エルトフェウス。甲板にいるのは聖剣世界ハイフォリアが主神、祝聖天主エイフェ、そして聖王レブラハルドだ。

「待たせたね、隠者エルミデ。我々、パブロヘタラが相手をしよう」

レブラハルドがそう言葉を飛ばす。

祝聖天主エイフェ、聖王レブラハルド以外にも、強い魔力が見える。

鍛冶世界元首ベラミーと傀儡世界軍師レコルだ。

ベラミーは絵画世界に空いた穴を塞ぎに向かっている。

レコルはいかなる魔法か、姿を隠し、エルミデを観察しているようだ。

機を窺っているのだろう。

「いいや。相手にはならんよ、ハイフォリアの聖王」

焦ることなく、エルミデはそう口にした。

あたかも、予定通りであるかのように。

「我は待っていたのだ。パブロヘタラの聖上六学院、その元首を一網打尽にするために」

瞬間、雲海迷宮の雲という雲が弾け飛ぶ。

眩い光とともに、爆発したのは聖船エルトフェウスの後部だ。船体には巨大な大穴が空き、浮力を失い落下していく。

「これは……」

バルツァロンドが目を見開く。

「< 銀界魔弾(ゾネイド) >……!」

奥歯を噛み、レブラハルドが魔眼を凝らす。

どこから弾丸が飛んできたのか、まるでわからなかったのだ。

だが、確かにそれは絵画世界アプトミステを撃ち抜き、聖船エルトフェウスに着弾した。

「恐れることはなき」

祝聖天主エイフェが翼を広げ、虹の光を放った。

それは聖船を包み込み、かろうじて船体の崩壊を食い止める。

「恐れるべきだったな、ハイフォリアの天主よ」

隠者エルミデが言う。

次の瞬間、聖船エルトフェウスを包む虹の光が撃ち抜かれた。

しかし、船は無事だ。

持ちこたえたわけではない。< 銀界魔弾(ゾネイド) >の狙いはエルトフェウスではなく、銀泡そのもの。

今度は絵画世界アプトミステの大地に大穴が空いていた。

そこから亀裂が入り、次第に大地の傷は広がっていく。

これで三射目だ。

いかにアプトミステが深層世界でも、これ以上は耐えられまい。

エイフェがその手から、神聖なる虹の光を放つ。

それは大地を祝福し、徐々に穴を埋めていく。

「三分かかる。それまで撃たせてはだめ」

エイフェがそう口にした頃には、レブラハルドがすでに甲板から飛び立ち、絡繰神へ突っ込んでいた。

「わかっているよ」

「< 断罪刃弾(ゲゼルデ) >」

隠者エルミデが赤い斬撃を降り下ろす――だが、寸前で軌道が歪められた。バルツァロンドの放った矢が、僅かにエルミデの腕を押し、狙いをズラしたのだ。

それを信じていたか、迷いなく直進したレブラハルドが、絡繰神の胸めがけ、祝聖礼剣を突き刺した。

だが――

「我を止めたところで、事態は変わらんよ。ここからでは、< 銀界魔弾(ゾネイド) >を止める手段はない」

カッと眩い光が走り、大地が震えた。

四射目の< 銀界魔弾(ゾネイド) >に、けれども絵画世界アプトミステは健在だった。

大穴の前にはレイがいる。

「――< 廻天虹刃(かいてんこうは) >」

< 銀界魔弾(ゾネイド) >は目に見えない。だが、絵画世界アプトミステを破壊するなら、狙いは最も損傷の大きいその大穴である可能性は高い。

レイは相手が狙ってくるだろうその場所に位置取り、< 銀界魔弾(ゾネイド) >の着弾を肌で感じて、斬り裂いたのだ。

霊神人剣秘奥が 伍(ご) 、< 廻天虹刃(かいてんこうは) >は、切断した攻撃の魔力を、 虹刃(こうは) に変換する。

だが、< 銀界魔弾(ゾネイド) >の威力は凄まじく、 虹刃(こうは) はみるみる増えていく。

あっという間にそれは三三本に達した。

虹刃(こうは) に変換しきれなかった< 銀界魔弾(ゾネイド) >が荒れ狂うように爆発する。

それをレイはエヴァンスマナの力で、どうにか抑え込もうとする。

「ぐっ……!!」

鮮血が散った。

完全には抑えきれなかった爆発の余波が、レイを飲み込んだのだ。

だが、痛みは意に介さず、彼はエヴァンスマナをぐっと握りしめる。

まだ終わりではないのだ。

「霊神人剣、秘奥が伍――」

「遅い」

レブラハルド、バルツァロンドを相手取りながら、エルミデが言った。

< 廻天虹刃(かいてんこうは) >よりも先に、五射目の< 銀界魔弾(ゾネイド) >がレイに着弾した。

世界を貫く弾丸が、魔力の大爆発を巻き起こす。

霊神人剣から青白き光が溢れ出し、それを包み込むようにして受け止める。

一瞬の拮抗。だが、防ぎきることはできず、光から漏れ出た< 銀界魔弾(ゾネイド) >の爆炎が大穴に降り注ぐ。エイフェの祝福が弾け飛んだ。

大地の穴が再び広がり始めた。

「まだ、だ……!」

「無駄な抵抗にすぎんよ。貴様らでは」

なおも、< 銀界魔弾(ゾネイド) >の威力は生きている。

レイが力をふり絞り、五射目の< 銀界魔弾(ゾネイド) >をどうにか< 廻天虹刃(かいてんこうは) >にて斬り裂こうとしたその瞬間、駄目押しとばかりに六射目の< 銀界魔弾(ゾネイド) >が放たれた。

眩い光が絵画世界アプトミステを包み込む。

霊神人剣がレイの手から離れ、エルトフェウスの船体に突き刺さる。

レブラハルドも、バルツァロンドも、フレアドールも、エイフェも、険しい表情を隠すことができなかった。

だが、健在である。

絵画世界アプトミステは損傷していない。

爆心地にいたはずのレイも瀕死の重症ながら、かろうじて息がある。

五射目、六射目の< 銀界魔弾(ゾネイド) >は不発だった。否、爆発の途中で不発になったのだ。

いったいなぜ、その疑問が彼らの頭をよぎったであろう瞬間、歌が聞こえた。

「あれは……」

レブラハルドが呟く。

絵画世界アプトミステの空に、魔王列車の姿があった。その屋根に二人の少女が立っている。

吟遊世界ウィスプウェンズが元首、吟遊宗主シータとリンファであった。