軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法砲台

火山要塞デネヴ。戦艦内。

エレネシアが語る過去に、二人の姉妹は真剣な表情で耳を傾けている。

「第二魔王ムトーには戦いがすべてだった」

悲しげな声がぽとりと落ちた。

彼のことを語るエレネシアは常にそうだった。その表情には憂いをたたえ、その神眼には確固たる決意が覗く。

「それでも、彼は私に根源の半分をくれた」

自らの手をエレネシアはぎゅっと握りしめる。

強く、強く、衝動が押さえられないといったように、握りしめた彼女の拳が震えていた。

「私にはその理由がわからない」

「……それは……」

言葉に迷いながらも、サーシャは言った。

「……ムトーは、お母様を……」

「愛しいと彼は言った」

エレネシアは悲しげに微笑む。

「世界の秩序を愛しい、と」

エレネシアは目を伏せ、しばらく沈黙が続いた。

「……だけど、彼は戦い、勝ち取ることができたはず……こんな結末を迎えずとも、彼の力ならば、魔弾世界のすべてを敵に回しても、この銀泡を無傷で手に入れることも不可能ではない……彼はいつだって、自らの望みを叶えることができたはずだった……」

その言葉に、サーシャは口を噤むしかない。

確かに、エレネシアが語る第二魔王の力ならば、魔弾世界を手に入れることも可能だっただろう。

エレネシアの望みを叶えつつ、自らも戦いに敗れない方法があったはずだ。

「……勝手な人……」

震える唇が、小さく囁いた。

「わたしは……」

うつむくエレネシアに、サーシャが言った。

「ムトーがしたこと……なんとなくわかるわ……」

エレネシアが顔を上げ、じっとサーシャを見つめた。

「でも、わたしがそれを言ったって、なんの意味もない」

「それは……そうかもしれない……」

第二魔王ムトーの口から語ったのでなければ、エレネシアは納得しないだろう。

それができない今、彼女は自らの頭で考え、自らの心で感じ、そして見つけなければならない。

たとえ手に入らずとも、ほんの少しでも納得のいく答えを。

「私は知りたい。愛を抱いた、と――世界の秩序を愛したと彼は言った。けれど、私にはその想いが、どういうものだったのかわからない。彼がどういう風に、この秩序を愛してくれたのか……わからない……」

唇を噛むようにしながら、彼女は言う。

「私は彼を理解したい。いいえ、理解せねばならない」

エレネシアは静かに瞳を閉じて、そしてゆっくりと開いた。

その神眼はこれまでの彼女とはまったく違い、闘志と気迫に溢れていた。

「私は神魔射手オードゥスと戦い、第二魔王ムトーの雪辱を晴らす」

ミーシャが優しく母を見返す。

すぐさま、サーシャが言った。

「それなら、わたしたちも一緒に。三人で力を合わせれば、魔弾世界の主神だろうと必ず勝てるわ」

「確かに、あなたたちの力を借りられれば心強い」

僅かにうつむき、「けれど」とエレネシアは言った。

「それはできない。神魔射手との戦いで使うのは、ムトーの根源の半分、それからそれを補う私の根源だけ。他に誰の手助けもあってはだめ。これは彼の戦いだから。彼と私の」

エレネシアは再び顔を上げる。

「彼はいつも一人で、自分のためにだけ戦っていた。だけど、この根源を私にくれたとき、彼は彼の心を曲げたのだと思う。きっと、そう」

エレネシアは覚悟を込めて言う。

「これ以上は曲げられない。曲げるわけにはいかない。私はまっすぐ、彼のように戦いたい。そうすれば、彼の気持ちがわかるかもしれない。この身に残された彼の根源が応えてくれるかもしれない。彼を……理解できるかもしれない」

罪悪感に駆られたような表情で、エレネシアは心苦しそうに続けた。

「馬鹿なことを、と思うかもしれないけれど……」

「思わないわ」

と、サーシャが言った。

「取り戻せるものがあるなら、ぜんぶ取り戻さなきゃ。ただ敵を倒したって、空しいだけだもの」

僅かにエレネシアは目を丸くする。

それから、薄く微笑んだ。

「あなたは、とても強く育ったのね、アベルニユー」

「あ……ええと……」

照れくさそうにサーシャは目線をそらす。

「わ、わたしの魔王さまが、そういう人なだけ。すごく強くて、だから、負けないように……」

「そう」

暖かく笑い、エレネシアがうなずく。

「でも、神魔射手オードゥスが一対一に応じるとは限らない」

ミーシャが淡々と言った。

「それは……そうよね……」

思案するようにサーシャは口元に手をやる。

魔弾世界では誇りや名誉よりも、勝利が優先されるだろう。これまでの彼らの言動からすれば、規律や効率が尊ばれる世界だ。

一対一で負ける可能性が少しでもあるのなら、より勝利を確実する戦力を用意する。

こちらの都合で、いざ尋常に勝負ということにはならぬ。

「それじゃ、オードゥス以外はわたしたちが相手をするわ」

「いいえ」

サーシャの申し出を、エレネシアは柔らかい口調で断った。

「それは大丈夫なの。私が挑むのは、 主神装填戦(しゅしんそうてんせん) 」

疑問を浮かべる娘たちに、彼女は説明した。

「主神を交代する際に執り行われる魔弾世界の規律の一つ。主神に挑む神族は、主神に勝利することでその立場を取り替える。主神はこの挑戦を拒むことができない」

「……主神を交代するための規律があるのっ? だって、主神って、世界そのものなんでしょ?」

驚いたようにサーシャが声を上げる。

「魔弾世界のすべてが替えの利く消耗品であり、撃つべき弾丸なの。主神ですら、再装填可能な弾丸にすぎない。敵を撃つため、問題を解決するために、最も効果的な弾丸があれば、それに取り替える。そういった秩序にてこの世界は回っている。他ならぬ神魔射手オードゥスが、それを求めているの」

なるほど。

誰も彼もが一つの弾丸にすぎない、か。

ゆえに、創造神テルネスを弾丸のように消耗し、エレネシアに取り替えた。

主神ですら替えが利くという考えならば、銀泡と住人を弾丸にするのも当然というわけだ。

「主神装填戦にて神魔射手オードゥスを倒し、主神となる。そして、主神の権限にて、元首を交代し、大提督ジジからムトーの根源を取り戻す。それが私の願い」

エレネシアはまっすぐ二人を見つめ、それから言った。

「だから、あなたたちには< 銀界魔弾(ゾネイド) >を止めてほしい」

ぱちぱちとミーシャが瞬きをする。

気がついたように彼女は言う。

「オードゥスを倒しても、< 銀界魔弾(ゾネイド) >は撃てる?」

「ええ。たとえ、大提督ジジ、神魔射手オードゥスが滅びたとしても、< 銀界魔弾(ゾネイド) >はこの世に存在し続ける。あれは元首の魔法でも、主神の権能でもなく、この世界に構築された魔法砲台から撃たれているの」

二人の表情が険しくなった。

「……誰にでも撃てるってこと?」

サーシャが問う。

エレネシアは静かにうなずいた。

「< 銀界魔弾(ゾネイド) >の砲台そのものを破壊しなければだめ」

そうでなければ、いつ何時、誰の手に渡り、悪用されるやもしれぬ。エレネシアが主神装填戦に勝利したとしても、安心はできまい。

「砲台はどこ?」

ミーシャが尋ねる。

すると、エレネシアはすっと手を伸ばした。

雪月花が舞い、そこにこの火山要塞デネブの地図が創造された。現在位置である四番格納庫と目的地が淡く光っている。

「この基地の動力部。ここが< 銀界魔弾(ゾネイド) >の砲台が隠されている場所の入口。私も魔法砲台そのものは見たことがない」

サーシャが地図の動力部分を見つめる。

「ここ、青くなってるのはなにかしら?」

「ここはマグマ溜り。この第一エレネシアの地底は四割が青いマグマとなっている。青いマグマは豊富な魔力を宿しており、それが< 銀界魔弾(ゾネイド) >発射の魔力源になっていると思われる」

「じゃ、ここが入口ってことは……?」

サーシャがはっとして、ミーシャに視線をやった。

「< 銀界魔弾(ゾネイド) >の砲台はマグマの中?」

「恐らく、そう。魔弾世界の中心近く、そこに< 銀界魔弾(ゾネイド) >の砲台が隠されている」

つまり、青いマグマの海を潜っていかねばならぬということか。

ミーシャとサーシャならば可能だろうが、探すのには骨が折れそうだ。

「案内をしたいが、もう時間がない。まもなく、主神装填戦の時刻。私は行かなければならない」

「え?」

と、サーシャの疑問が口を突いた。

「でも、わたしたちが侵入しているのに主神装填戦が行われるかしら?」

サーシャがそう首をひねる。

「それが魔弾世界の文化であり、欠点でもある。規律に従い、すべては定刻通りに進められる。神魔射手が予定を変更することはない。予定の変更は彼らにとっては能力不足と捉えられる。主神の能力不足は、主神交代の意義を示すことにもなる」

雨さえも時刻通りに降る世界だからな。俺たちには融通の利かぬようにも見えるが、魔弾世界の住人にとってはそれが当たり前のことなのだろう。

ましてや主神は世界そのものとも見られている。主神の予定変更は、世界が揺らいでいることに他ならぬ。

「それに神魔射手は主神装填戦にすぐ決着がつけられると思っている。大提督ジジは侵入者の撃退に、神魔射手の力が必要とは考えていないでしょう」

「……ふーん。舐められたものだわ」

サーシャは好戦的な笑みを覗かせる。

ミーシャは彼女の手をとり、短く言った。

「急ごう」

「あ……うん、そうね」

「お母さん」

ミーシャはその 神眼(め) をまっすぐエレネシアに向けた。

「待ってて。< 銀界魔弾(ゾネイド) >の砲台は、必ずわたしたちが破壊するから」

「ありがとう」

静謐な瞳でエレネシアは二人を見返す。

そうして、手のひらをそっと伸ばした。

ミーシャとサーシャの足元に魔法陣が描かれる。

「最後に一つ。深淵総軍の一番隊隊長ギー・アンバレッドは私の味方。表立っては協力できないけれど、あなたたちの力になってくれるはず」

「わかった」

ミーシャがそう答えると、視界が真っ白に染まる。

「また、お母様が主神になった後に会いましょう」

「ええ。必ず」

二人の体は戦艦の外に転移した。

すぐにミーシャが走り出し、サーシャはその後を追った。

< 銀界魔弾(ゾネイド) >の砲台を破壊するために――