軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

協議

「賛成二、反対一。よって議決は成立しません。元首レブラハルドの発議に対して、各学院代表者は協議を行ってください」

オットルルーが事務的に述べた。

「ふむ。てっきり、お前は賛成するものと思ったがな」

聖王はこちらに視線を向ける。

だが、口を開いたのは彼ではなく、オットルルーだった。

「元首アノス。法廷会議中、参考人に発言権はありません。質問があったときのみ、回答を行ってください」

「それはそれは、ずいぶんと肩身の狭いことだな」

まあ、賛否も分かれたことだ。

どんな協議をするのか、もうしばらく様子を見るのも悪くはあるまい。

「それじゃ、あたしが、代わりに聞こうかい。自分で発議しておきながら、反対なんてのはどういう了見だい?」

ぶっきらぼうに、ベラミーは聖王レブラハルドに問い質す。

「発議はこれまでの議例に則ったにすぎない」

さらりと彼は答え、説明を始めた。

「聖上六学院が滅ぼされたことは一度もないが、近いケースでは同盟する中層世界が侵略を受けたというのが、四〇〇年前にあった。首謀者の可能性を有す元首がパブロヘタラにいたため、彼らを聖上六学院の監視対象とするという発議がなされた」

「早い内に、そっちのお嬢ちゃんの仕業だったってわかったやつかい」

ベラミーがコーストリアに視線を向ける。

災淵世界イーヴェゼイノはつい最近までパブロヘタラに敵対していた。小競り合いはいくらでもあるだろう。

「今回はそれ以上の被害、聖上六学院の一角が滅亡した。監視より上の措置は、支配下においての徹底的な内情調査、と銀水学院の法に定められている。であれば、今回行うべき発議の内容としては適切だと思うね」

「発議の内容に文句はつけてないよ。適切だと思ったんなら、なんで反対してるんだい?」

ベラミーの言葉を丁重に受けとめ、聖王レブラハルドは口を開く。

「元首アノスに個人的な恨みを抱く災淵世界のお嬢さん」

ゆっくりと聖王はコーストリアを見る。

「魔剣造りのことが気になって仕方がない鍛冶世界の元首」

次いで、レブラハルドは名工の魔女ベラミーに視線を移す。

「ろくな協議もなしに決議を出されては、公平ではないね。首謀者が見つかるまでの間、同盟する一世界を、我々が支配下におくだけだから問題はない。犯人捜しも捗るだろうというその考えに、正義はない。怠慢はいけないね、お二方」

コーストリアは無視するようにそっぽを向き、ベラミーは面倒臭そうな表情を浮かべた。

「まったく、いつからそんなに回りくどい男になったんだろうねぇ」

ため息交じりに、彼女は言った。

「言いたいことはわかるよ? だけど、支配下におくって言っても、なにも乗っ取ろうってわけじゃないんだ。あんただって結局は賛成なんだろう?」

「正しい結果を求めるためには、十分な過程が必要だと思うね。少なくとも、支配下におかれる世界にも納得が必要だ。あなたが作られる聖剣と同じだよ。十分に鍛えられていない剣は、たとえ斬れ味は同じでも折れやすい」

「はいはい、わかったよ。降参だ。真面目にやればいいんだろう」

ベラミーは机に乗せた足を下ろす。

レブラハルドは次に、イーヴェゼイノの机に視線を向けた。

「コーストリア。彼を恨むのはそなたの勝手だ。しかし、ここは六学院法廷会議の場。イーヴェゼイノの代表として、私情を挟まない見解を求めたいが、理解してもらえるね?」

「< 極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア) >」

質問には応じず、コーストリアは言った。

「現存する術者は極少数って、他に何人?」

「術者を把握するのが困難、といった意味で極少数だということだよ。推定でよければ、大魔王はその一人だろうね。他の魔王のうち何人かも術者の可能性が高い」

アーツェノンの滅びの獅子たちについて触れぬのは、口にするまでもないからか?

他の聖上六学院にも使える者がいてもおかしくはなさそうだ。

「わかってることはそれだけ?」

聖王がオットルルーに顔を向ける。

「起源魔法< 極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア) >は、どの小世界の魔法律を利用したものか不明ですが、深層世界と推定されます。パブロヘタラの記録によれば、最初に行使したのは第一魔王、壊滅の暴君アムル。よって彼が開発者と推定されます。魔王か、それに近しい者が使い手である可能性が高く、合計で一〇に満たない数とオットルルーは考えています」

「姿を消した第一魔王の魔法ねぇ」

考え込むようにして、ベラミーが腕を組む。

「案外、戻ってきたんじゃないのかい?」

「壊滅の暴君が?」

レブラハルドの言葉に、ベラミーはうなずいた。

「大魔王に一番近いと言われた彼が、滅ぶとは思えなくてねぇ。あの壊滅の暴君なら、フォールフォーラルを滅ぼしても不思議はないよ」

「今になってなぜ、どうしてパブロヘタラを狙ったのか、という疑問は残るね」

「そんなことを考えたらきりがないだろ。どのみちわかりゃしないよ。問題は、僅かなりとも、彼の可能性があるということじゃないのかい?」

レブラハルドは手を組み、視線を机に落とす。

すると、コーストリアが冷たく言った。

「だとしたら、その人が暴虐の魔王を名乗っているのも偶然とは思えない」

こいつの考えはわかりやすいな。

発議を通して、ミリティア世界を聖上六学院の支配下におきたいと言わんばかりだ。

その後、なにをするつもりなのか?

「証拠はなにもないようだがな」

「黙ってて」

言われた通り無言で笑ってみせれば、彼女は苛立ったように舌打ちした。

「わからないねぇ、コーストリア。アノスが壊滅の暴君だったり、その配下だったとしようじゃないか。わざわざそんな怪しい二つ名を名乗るもんかね?」

ベラミーが言うと、コーストリアはすぐに反論した。

「そう思わせるのが目的だったら?」

「どのみちあんたみたいに疑う奴がいるんだから逆効果だよ。大人しくしてりゃ、ここに呼び出されることもなかったんだからね。< 極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア) >だって、このタイミングでわざわざ撃つのは阿呆のすることさ」

「結果としてどうなった?」

「まだなにも決まっちゃいないよ」

「少なくとも、パブロヘタラはアノスから目を離せなくなった」

一瞬、ベラミーは押し黙る。

「まあ、そりゃそうだがね」

ふむ。難癖をつけるのが上手い女だな。

それとも、本気でそう考えているのか?

「魔王を自称すること。泡沫世界の住人でありながら、銀海を渡れること。不適合者であること。主神を所有物に変えること。なにからなにまで、その人は私たちの世界の常識とは違う」

「ちらっと耳には入ってきたが、にわかにゃ信じがたいね。調べ違いってことはないのかい?」

ベラミーはオットルルーに問う。

「いいえ」

彼女はきっぱりと否定し、説明を始めた。

「オットルルーは確認しました。コーストリアの発言は事実に基づいています。元首アノスの治めるミリティア世界は、パブロヘタラのどの小世界とも異なる進化の過程を辿っています」

すぐにまたコーストリアが口を開く。

「その人は、王虎メイティレンをバランディアスから奪い取った。大量の火露を抱えていたバランディアスは、主神を失い、泡沫世界と化した。そうやって、パブロヘタラを内部から壊すつもりかもしれない」

「災淵世界のあんたがよく言ったもんだねぇ。ついこないだまで、ハイフォリアとドンパチやってたのはどこの誰だい?」

呆れたようにベラミーは言う。

余裕のある態度ながら、その視線は鋭く、コーストリアを突き刺している。

「あんたたちは、ミリティア世界を隠れ蓑に使おうって魂胆じゃないのかい?」

「私情を挟むなというから、そうしただけ。別に私はいいよ」

すました顔でそっぽを向き、コーストリアは頬杖をつく。

「みんな滅びちゃえ。ばーか」

「おやまあ、躾がなってないねぇ。所詮は獣かい」

ベラミーは静かに眼光を光らせる。

「そういう態度が信用ならないって言ってるんだよ」

元々、異なる世界の住人たちだ。利害などそうそう一致しまい。まして、イーヴェゼイノは加盟したばかりだ。これからは味方だと、すんなり受け入れられるわけもないだろう。

聖上六学院の一角が滅びたというのに、序列第一位の魔弾世界エレネシアの元首は姿を見せず、使いの者にただ静観するよう命じるのみ。

おまけに残りの一学院は遅刻という有様だ。

到底、まとまった同盟とは言い難い。

「彼女の言うことも、もっともだとは思うね。一考の価値はある」

一触即発の雰囲気を打ち破るように、聖王レブラハルドが言った。

「あたしゃ、あんたの気が知れないがねぇ。コーストリアの言葉を信じるっていうのかい?」

ベラミーがぼやくように言い、両手を頭の後ろで組む。

「危惧があるなら、払拭しておくべきだ。オットルルー、参考人に質問を」

「承知しました。パブロヘタラ学院条約第七条、法廷会議における証人、参考人、被告人は発言に偽証がないことを誓い、違えた場合は自らの一切を放棄する。ただし、黙秘の権利を有します」

裁定神オットルルーが事務的に言い、魔法陣を描く。

「< 裁定契約(ジゼット) >」

いつもの如く、彼女はそこへねじ巻きを突き刺し、ねじを巻いた。

「一つずつ確認をしよう。そなたとミリティア世界は、パブロヘタラに害を為す気はない、と考えて構わないね?」

迷うことなく< 裁定契約(ジゼット) >に調印し、俺は答えた。

「まだわからぬ」

聖王の視線が僅かに鋭さを増す。

「どういう意味か、詳しく聞きたいね」

「なに、ここへ来てまだ日が浅いのでな。理不尽だという話は見聞きするが、パブロヘタラの理念は銀海の凪だ。それが嘘でなければ、ともに手を携えたい。もっとも」

俺は笑い、彼らに言った。

「多少の荒療治はするかもしれぬがな」

聖王は無言で俺を見据える。

すぐに、彼はこう尋ねた。

「では志を同じくする者として、パブロヘタラに加盟した目的を話してもらえるね?」

親指で軽くコーストリアを指し、回答する。

「俺の母がそいつに狙われてな。追ってきたら、ここに辿り着いた。自衛のためには加盟するのが一番手っ取り早かった」

「< 極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア) >をどの世界で、何年前に、誰に習ったか、教えてもらえるね?」

「約二千年――」

そう口にした瞬間、 魔眼(め) の端に炎がよぎった。

これは、エクエス窯の反応か。

母さんに危険が迫っている。

「二千年……なにかな? それとも、言えない事情が?」

「すまぬな。少々、魔王学院の生徒に厄介ごとがあるようだ。すぐに片付けてこよう」

転移の固定魔法陣を起動するため、魔力を送る。

しかし、反応しなかった。

「元首アノス。法廷会議中の退出は認められていません。強行した場合は、パブロヘタラの法に反した罰として、小世界の火露が一割徴収されます」

「ふむ。気に食わぬ法を一つ見つけたな」

言いながら、俺はコーストリアを見た。

相変わらず瞳を閉じたまま、なに食わぬ顔でそっぽを向いている。

母さんを狙ってくるとすれば、イーヴェゼイノしか考えられぬが、俺が自由に動けなくなるこのタイミングを待っていたか?

「すまないが、法廷会議はパブロヘタラにおける優先事項だ。その代わり、できるだけ早く終わるように協力しよう。素直に答えてくれれば早く済むのだが、理解してもらえるね?」

「我がミリティア世界で俺が開発した。二千年ほど前にな」

不可解といった表情を一瞬見せた後、レブラハルドが手を組み、ベラミーは眉根を寄せた。

二人とも想定外だと言わんばかりだ。

同時に俺は、イージェスにつないだ魔法線を辿り、その視界へと魔眼を向けた――