軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

破壊の空

爆発音が響き渡り、ぎちぎちと歯車の回転する音が鳴る。

魔法砲撃を撃ち合いながら、飛空城艦ゼリドヘヴヌスと魔王列車ベルテクスフェンブレムが、空を疾走していた。

爆炎纏う大砲、< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >を被弾しながらも魔王列車は、ゼリドヘヴヌスに真正面から突っ込んでいく。

互いに正面衝突する勢いで、みるみる両者の距離がゼロに近づく。

『ゼリドヘヴヌス、連射限界。次弾装填まで六秒と予測』

ミーシャの声が響く。

『全砲塔、照準よしっ』

『まだだ。引きつけたまえ』

エールドメードが砲塔室へ指示を出す。

『進路変更。行き先は、ゼリドヘヴヌスのど真ん中だ』

『ぶ、ぶつかりますよっ?』

『カカカ』

構わず、エールドメードは杖で舵を切り、進路をゼリドヘヴヌスへ向けた。

『ぶつかるなら儲けものではないか。あの創術家が、そんな下手な操船をすると思うかね』

機関室の生徒たちが目を見張る。

ゼリドヘヴヌスにあわや接触というその瞬間、かくんとその軌道が変わり、飛空城艦は魔王列車をかわした。

『撃ちたまえ』

『今度こそっ。いっくよぉぉぉーっ!』

砲塔室から、ファンユニオンの声が響く。

『『『< 古木斬轢車輪(ボロス・ヘテウス) >!!!』』』

すれ違い様にゼリドヘヴヌスへめがけ、古びた車輪が次々と発射される。< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >の次弾装填まで残り一秒。撃ち落とす弾はない。

至近距離で放たれたその歯車に対して、ゼリドヘヴヌスはただ加速した。

風を切り、大空を駈け、その翼は砲撃以上の速度で飛んでいく。

『うっそっ、魔法砲撃より速いなんて、どうなってるのっ?』

砲塔室でエレンが、信じられないというように叫んだ。

なおも誘導する< 古木斬轢車輪(ボロス・ヘテウス) >を巧みにかわしながら、ゼリドヘヴヌスは旋回して、あっという間に魔王列車の後ろを取った。

『カカカッ、食らいついたではないか!』

魔王列車の全車両からもくもくと煙が立ち上る。

『< 彼辺此辺煙列車(ポッシュポッシュ) >ッ!!』

さっと煙が消え去ると、魔王列車の最後尾は先頭車両に変わっていた。

ゼリドヘヴヌスとの空戦に入る前、< 彼辺此辺煙列車(ポッシュポッシュ) >による煙の幻影により、魔王列車は前後が逆に見せかけられていた。

つまり、先程までずっと後ろ向きに走っていたのだ。

『車輪を第五歯車へ連結。全速前進』

『了解っ! 第五歯車へ連結、全速前進っ!』

エールドメードの指示にて、素早くギアが後進から前進に切り替わる。

列車の特性上、ベルテクスフェンブレムは前進も後進も同じ速度が出せる。

だが、機関室と煙突が先頭車両にある分、操縦性は前進の方が優れており、煙による結界は前方が最も厚く、背後が最も薄い。

まさか今の今まで薄い後列から突っ込んできていると思わなかったファリスは、最後尾を狙ったのだが、それこそエールドメードの打った博打だった。

『カーカッカッカッ! 突撃、突撃、突撃だぁぁぁっ!!』

魔王列車に振り切られないように、ゼリドヘヴヌスは全速で追いかけていた。

しかし、列車が途端に急停止し、更には逆向きに走り出したことで、両者が先程以上の全速でみるみる接近する。

急停止も間に合うまい。

この速度では、さすがに回避は至難だ。

『ちょ、ちょっと! 本気で当てる気っ!? さすがにゼリドヘヴヌスの城壁に当たったら、無事じゃすまないわよっ!』

『構わん、構わん、構わんぞっ! そうでもしなければ、あの馬鹿っ速い船を捉えられるわけがないではないかっ! 魔王の魔法を信じたまえ!』

サーシャの警告を、エールドメードが一蹴する。

『さすがにしんどくなってきたけど、がんばるぞっ!』

< 聖域白煙結界(テオボロス・イジェリア) >の光が増し、結界が多重に重ねられた。

けたたましい轟音とともに< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >の集中砲火が浴びせられるが、前方にのみ集中された結界がそれを防ぐ。

あっという間に魔王列車はゼリドヘヴヌスの魔法城壁に迫っていき、今にも衝突しようかというその瞬間――今度は煙突から立ち上っていた白煙が消えた。

< 聖域白煙結界(テオボロス・イジェリア) >がゆっくりと消滅していく。機関室では、投炭していた生徒の一人、 缶焚(かまた) きが力を使い果たしたかのように倒れていた。

< 古木斬轢車輪(ボロス・ヘテウス) >、第五歯車速度、< 聖域白煙結界(テオボロス・イジェリア) >、そのいずれも魔王列車の動力となる火室の燃焼が不可欠だ。

訓練以上の投炭速度を出していた彼らに、とうとう限界がやってきたのだ。

『――カカカカッ、大外れではないかっ!!』

博打の失敗を嬉しそうにエールドメードは嘆く。

< 聖域白煙結界(テオボロス・イジェリア) >が消えかけたこの状況でゼリドヘヴヌスの< 堅牢結界城壁(バディレイヒア) >に突っ込めばひとたまりもないだろう。

『相変わらず、デカルコマニーが好きですね、熾死王。あなたの戦いにはシュルレアリスムの美学があります』

ファリスの< 思念通信(リークス) >が届くと同時、ゼリドヘヴヌスの魔法城壁に魔王列車が衝突する。

バチィッと防壁と防壁が触れた途端、消えかけていた< 聖域白煙結界(テオボロス・イジェリア) >が完全に消滅する。

瞬間、ファリスは自らの船の魔法城壁をあえて消した。

『私の趣味ではありませんが、それもまた趣深きかな』

城壁を消した分生じた僅かなスペースを使い、ゼリドヘヴヌスは魔王列車の衝突を華麗に避けた。

そうして、長い車両とすれ違う瞬間、僅か二度だけ< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >を発砲する。

『連結部二箇所被弾。第一、第二、第三貨物室、落下』

ミーシャの声が響く。

火露を収納している貨物室がすべて、魔王列車から切り離されて、落ちていく。

あれを奪われれば、銀水序列戦は敗北だ。

ゼリドヘヴヌスは素早く旋回し、貨物室へ向かった。

『< 吸収引力歯車(ネオス) >を撃ちたまえ』

『了解っ!!』

『< 吸収引力歯車(ネオス) >発射っ!! 回収回収っ!』

砲塔から、< 吸収引力歯車(ネオス) >が次々と発射される。

落下する貨物室を回収しようとしたその歯車は、しかし、ゼリドヘヴヌスが発射した< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >にて爆散した。

今の魔王列車の速度では、ファリスが駆るゼリドヘヴヌスの速度には到底及ばぬ。

みるみる貨物室に迫った飛空城艦は、そこに魔法陣を描く。

城壁を展開され、貨物室がその内側へ取り込まれる――

「< 覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ) >」

ドゴオオオォォォンッとけたたましい音が鳴り響き、< 堅牢結界城壁(バディレイヒア) >に風穴が空いた。

俺はそこに< 森羅万掌(イ・グネアス) >の手を伸ばして、貨物室三つを引き寄せる。

「くはは。惜しかったな、ファリス」

貨物室を< 飛行(フレス) >にて飛ばせば、やってきた魔王列車がそれと連結した。

「お前たちの主神はこの様だ」

王虎メイティレンの首を見せ、ゼリドヘヴヌス内部で飛び交う< 思念通信(リークス) >を傍受する。

反魔法にて防げただろうが、ファリスはそれを阻止しなかった。

主神がこの手にある以上、従うしかあるまい。すでに勝敗は決したも同然だ。

『…………ぁ……』

『…………な…………』

息を飲む音と茫然自失とした声が聞こえた。

『…………なんということだ…………』

『……メイティレン様が、あのような無残な御姿に……』

『…………なんの悪夢だというのだ……? 信じられぬ……この第二バランディアス、我ら城魔族の世界にて、こうも容易く<因果の長城>が落ちるなど……』

『あの小娘、なにをした……? 神族……のようだが……?』

『まさか……主神ではない神が、主神を倒したというのか? なにを司る神だ? そんな秩序が存在するわけが……』

『ザイモン殿もやられたようだ……包囲網は崩され、飛空城艦カムラヒはすべてが沈黙した……』

『……ザイモン殿を一騎打ちで破る剣士。あの霊神人剣エヴァンスマナの使い手。主神の秩序を封じる得体の知れぬ神族。元首だけではなく、その配下まで化け物揃いだと……?』

『ミリティア世界の魔王学院、こやつらいったい何者だ……? 甘く見たわけではないが、いくらなんでも不適合者にしては強すぎるっ……』

『……伊達に魔王を名乗っていないとは思ったが、まさかここまでとは……』

城魔族たちは、まざまざと突きつけられた結果に、戦々恐々とした。

最早、奴らの船はゼリドヘヴヌス一隻のみだ。

『敵わぬものですね、陛下。バランディアスの総力をもってしても、あなたには』

「いいや、遊びの決着がついたにすぎぬ。まだ終わりではない」

俺は魔王列車のもとまで上昇し、今なお悠然と空を飛ぶゼリドヘヴヌスを見下ろす。

「ファリス。お前とゼリドヘヴヌスが残っている。城魔族たちが戦場に見た希望の翼。その両翼、へし折ってやらねば、バランディアスは 悪夢(ゆめ) から覚めぬ」

勝敗はとうに決している。

それでも俺は、ファリスへ告げた。

「最後の勝負だ。その翼をもって、我が魔王列車のもとまで飛んでみせよ。それができたなら、この銀水序列戦の勝利はくれてやる」

あえてバランディアスに勝ちの目を作る。

奴らに完膚無きまでの敗北を与えるために。

『列車に翼が届かなければ?』

「我がもとへと戻り、絵を描け。あの日、約束した平和の絵を」

一瞬の沈黙――

ゼリドヘヴヌスを巨大な立体魔法陣が覆った。

ファリスの魔力が、城魔族たちの魔力が、飛空城艦から溢れ出す。

『その勝負、受けて立ちましょう。しかし、たとえ負けても絵は描けません』

はっきりとファリスは断言した。

『私は筆を折ったのです。決して……もう決して、絵を描くことはないでしょう。その代わりに、誓ったのです。バランディアスの翼になると。陛下、あなたのようになることはできずとも、いつの日か現れるその光のもとへ運ぶ翼にはなれる』

ゆっくりとゼリドヘヴヌスは上昇を始める。

これまでにないほどの魔力を纏いながら。

『私の筆は折れた。だからこそ、この翼は決して折れはしません。この世界が、バランディアスが光へと届くそのときまで』

「気高き挺身、見事な覚悟だ、ファリス。世界のために我が身を捨てようとはな。勝手気ままに絵を描いていたお前が、一端の戦士になったか。だがな――」

なぜ彼が筆を折らねばならなかったのか。

それが生半可な覚悟ではないことは、よくわかっている。

戦士になろうとした決意に、嘘などあろうはずもない。

ゆえに、俺は言った。

「決して褒めてはやらぬ」

この身を恐れもせず、まっすぐ飛んでくる飛空城艦を見据えた。

「サーシャ」

「ようやく出番? 待ちくたびれたわ」

魔王列車から出たサーシャが、< 飛行(フレス) >を使って空を飛ぶ。

「あれを使え」

サーシャは<破滅の魔眼>を浮かべ、その両眼を右手で覆う。さっと手を振り下ろせば、彼女の瞳は、滅びへと 誘(いざな) う闇の日輪の形をしていた。

<終滅の神眼>である。

「< 破壊神降臨(アベルニユー) >」

魔王列車が更に上空へと舞い上がり、それを中心にして、闇の日輪が姿を現す。

かつてミリティア世界にて、破壊神の 神眼(め) に映るすべてを灼き滅ぼした<破滅の太陽>サージエルドナーヴェが、第二バランディアスに顕現した。

魔王列車はその日輪の内部に飲み込まれていった。

これで<破滅の太陽>を破らぬ限り、ゼリドヘヴヌスの翼は届かぬ。

「破壊神の力、見せてあげるわ」

オットルルーの結界を容易く灼き滅ぼし、更に上空へ昇った<破滅の太陽>は、バランディアスを黒き光にて照らし出す。

夥しい魔力がそこに集い、黒陽が照射された。

その滅びの光は、空を目指すゼリドヘヴヌスに降り注ぐ。

< 想司総愛(ラー・センシア) >を秩序に変えた現在のミリティア世界では、神の権能に愛が伴う。

二千年前よりも遙かに強く、その黒陽はゼリドヘヴヌスの翼を燃やしていく。

『艶やかな太陽、二千年のときを越え、陛下はあの禍々しき太陽を、平和の象徴に変えられたのですね』

翼を燃やしながらも、ゼリドヘヴヌスの上昇は止まらない。

『ですが、私もこのバランディアスで戦ってきたのです。ゼリドヘヴヌスは、決して揺るがすことのできない不動の銀城。この翼は決して堕ちず、最後まで戦場を飛び続ける、バランディアスの勝利の象徴です』

黒陽を真っ向から斬り裂いて、その破壊の空をゼリドヘヴヌスが上昇していく。

まるで、あの日と同じように。

『さあ、参りましょう。恐れることはありません。美しくあれ、とは言いません。どうかこの背に続いてください。泥をすすってでも、私はあなた方に勝利をもたらす』

城壁を灼かれ、翼をボロボロにしながらも、ゼリドヘヴヌスは空を行く。

『あのときと同じです、陛下。私の翼は、その<破滅の太陽>の中へ、必ずや希望を届けるでしょう』

一瞬たりとも怯みもしないファリスに鼓舞されたかのように、配下の城魔族たちが更に強大な魔力を発揮した。

それは、決して落ちぬ不動の城を創り出す魔法――

『< 堅塞固塁不動城(バランディアルタ) >』

ゼリドヘヴヌスが銀の光を纏う。

バランディアスの築城属性最上級魔法が、みるみる内に飛空城艦を創り変えていく。

銀に輝く分厚い城壁、長く広く強い翼、無数の砲門。

その巨大な城は、紛うことなく要塞だった。

ザイモンでは、その身に鎧を纏うのが精一杯。

しかし、ファリスは城魔族たちの魔力を借りているとはいえ、その魔法を城艦全体に使ってのけたのだ。

同志たちの作品を守るため、自らの作品を兵器へと変える決意をした男の――

それは強く、そして悲しい翼だ。

黒陽にさえも傷一つつかず、悠然とゼリドヘヴヌスは空を駆ける。

その光景を彼女は、悲しげに見つめた。

「ミーシャ」

サーシャが呼ぶと、魔王列車の中から声が響いた。

「< 創造神顕現(ミリティア) >」

まっすぐ太陽へ向かう翼へ、雪月花が舞い降りる。

ひらり、ひらり、と無数の雪の花が、空を覆いつくしていく。

<破滅の太陽>の真横に、白銀に輝く満月――<創造の月>アーティエルトノアが出現していた。

動いている。

太陽と月が背中合わせに寄り添うように、サージエルドナーヴェが欠けていく。

バランディアスを闇が覆った。

<破滅の太陽>の皆既日蝕である。

その暗い日輪に、一人の少女の影が映った。

「――あの日、あなたは笑っていたわね」

二千年前を振り返るように、サーシャは言う。

「あんなときだっていうのに、世界が平和になるって笑って、破壊の空を壊されながらも飛んでいた。美しくあれって、馬鹿みたいに飛び込んできて。壊されても壊されても、新しい翼を作って。そんな頑丈なだけの、不格好な船じゃなかった」

閉じた瞳を、サーシャが開く。

<終滅の神眼>が、鮮やかに輝いた。

「あなたは強くなったつもりかもしれないけど、おあにくさま。わたしは笑顔だから負けたのよ。あなたが笑っていたから、その翼は破壊の空を自由に飛べたの」

キッと一睨みすると同時に、<終滅の日蝕>が瞬く。

「だから、壊すわ。わたしが見たかったのはこんな悲しい結末じゃない」

刹那、ミリティア世界を滅ぼさんとした終滅の光が放たれる。

その闇の光は、ゼリドヘヴヌスのみならず、俺やオットルルー、水の結界、そしてバランディアスの大地に降り注いだ。

だが――

この身は一切灼かれることはない。

転生したミリティア世界では、破壊神の秩序もまた進化している。その権能である<破滅の太陽>は、彼女の愛を得た力へと変わったのだ。

滅ぼすべきものだけを滅ぼす終滅の光へと。

俺を灼かず、大地を灼かず、城魔族たちすら灼かずに、その輝きは、ただ飛空城艦ゼリドヘヴヌスのみを灼く。

滅びの対象を限定することにより、その権能は何倍にも高まった――

「< 微笑みは世界(エイン・エイアール) を照らして(・ナヴェルヴァ) >ッッッ!!!」