軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

銀水序列戦

翌日――

煙突から煙を吐き出し、黒穹を走る魔王列車からは、全貌が把握できないほど巨大な城が見えていた。

より正確に言えば、それは城ではない。

岩や石、硬い土の塊だ。

城の形をした岩石の小世界。

それが、銀水序列戦の舞台、第二バランディアスだった。

魔王列車はゆっくりと降下を続け、門にあたる部分から第二バランディアスの内部へ入った。

やがて見えてきたのは、広大な地下空間だった。

ミリティア世界で言えば、地底と似ている。なにかしらの秩序が働いているのか、光源はあるが薄暗い。

木々や湖、草花など、緑は少なく、岩と石だらけの世界だ。

ひどく殺風景で、なるほど芸術文化に乏しいというのもうなずける。

その堅い大地には、外敵に備えるが如く、多くの城砦都市が構築されていた。

『元首アノス。魔王学院はこちらへ』

オットルルーの< 思念通信(リークス) >とともに、大地から俺たちを誘導するような光が発せられた。

エールドメードの指示のもと、魔王列車はそこへ向かって高度を下げていき、大地に車輪をついた。

「少々お待ち下さい」

地面に描かれた巨大な魔法陣の上に、オットルルーが立っている。彼女は大きなねじ巻きを、その魔法陣のねじ穴に差し込み、両手で回した。

「< 銀海鯨(ギジラ) >」

ねじが三回巻かれる。

すると、扉が開くように、魔法陣の一部が開き、そこから銀水が溢れた。

魔法陣いっぱいに銀の湖ができると、水面にぬっと巨大なクジラの口が現れた。

体表は青く、初めて見る種類だ。

「ふむ。なんだこれは?」

魔王列車の窓から顔を出し、オットルルーへ俺は問う。

「銀海クジラと呼ばれています。銀海を泳ぐ数少ない魔法生物です」

クジラの体勢が傾いていき、ざぶんっと銀水に沈み込む。背中の穴から潮を吹くように青々とした蛍のような光が噴出された。

火露である。

「こちらが銀水序列戦用の火露です」

すべての火露を吐き出すと、銀海クジラは湖から勢いよく飛び出し、第二バランディアスの空を漂うように泳ぎ始めた。

オットルルーがまたねじを巻けば、銀水は穴に吸い込まれるように消えていき、最後には魔法陣も消えた。

「火露は自由な方法で管理していただいてけっこうです。ただし、船の中にあるものだけを、その陣営が保有する火露とみなします。また船外に出された火露は三分で銀海クジラが回収します。一緒に食べられないように気をつけてください」

彼女は事務的に説明する。

「貨物室に入れろ」

俺が言うと、砲塔室にいるファンユニオンの少女たちが言った。

「歯車砲照準っ!」

「照準よしっ!」

歯車がセットされた砲塔が火露の光へ向けられる。

「< 吸収引力歯車(ネオス) >発射!」

鎖つきの歯車が砲塔から発射された。

それは引力を放ち、磁石のように火露の光をピタッとくっつける。

「回収、回収ぅっ!」

鎖が引かれれば< 吸収引力歯車(ネオス) >は砲塔に戻っていき、くっついていた火露の光が貨物室へ格納された。

ファンユニオンの少女たちは、次々と< 吸収引力歯車(ネオス) >を放ち、そこにあった火露をすべて回収していく。

第一、第二、第三貨物室のすべてが火露の光で満たされる。

「攻性魔力を確認。魔法砲弾と推定」

ミーシャが言った瞬間、ダァンッと砲撃音が鳴り響いた。

次々と魔王列車の周囲に砲弾が打ち込まれ、地面が派手に爆発する。

「……きゃあぁぁっ……!!」

「っんだよっ! まだ始まってないんじゃないのかっ……!?」

「汚い真似すんじゃねえっ!!」

地面が激しく揺れ、生徒たちが抗議の声を上げた。

『わははははははははははは!』

カルティナスの笑い声がこの場に響き渡る。< 思念通信(リークス) >だ。

「上空から、飛空城艦接近。数二五」

空に魔眼を向ければ、ゼリドヘヴヌスを中心として、合計二五の飛空城艦がこちらへ飛んでくるのが見えた。

『ただの挨拶で、ずいぶんと騒ぎおるのう。当たりもせん砲撃など空砲と同じじゃ。なにをそんなにビビッておる? 腰抜けどもめが』

挑発するようにカルティナスが言う。

虎城学院の飛空城艦は、上空に布陣を敷くようにそこで静止した。

『ま、その戦力では無理もないがの。そんなトロそうなみすぼらしい船一隻で、我がバランディアス城艦部隊とやり合うつもりとは、哀れすぎて涙が出てくるわい』

「ほう。節穴とはいえ涙ぐらいは流せるものだな」

滑らかだった奴の口が、ぴたりと止まった。

怒りに震えている姿が目に浮かぶようだ。

『もう一度言うてみい』

「節穴なのはお前の 魔眼(め) だけではなく、王虎メイティレンもそうだ。お前たちは、誰を敵に回したのかまるでわかっておらぬ」

< 遠隔透視(リムネト) >を送り、カルティナスに俺の姿を見せてやる。

「バランディアスの城艦部隊など、この魔王列車一隻で十分だ。御託はいいから、とっととかかってくるがよい」

玉座に座り、頬杖をつきながら、俺は言った。

「全艦まとめて、叩き落としてやる」

『大口を叩きおって。身の程知らずが!』

俺の目の前の魔法水晶に、奴が送ってきた< 遠隔透視(リムネト) >が映し出される。

怒髪天を衝くと言わんばかりに、奴は髪を逆立てていた。

『大人しくしておれば、手加減してやろうと思ったが、どうやらその必要はないようだなっ! その貧相な船を、我が城でぶっ潰してやるわい。オットルルーッ! 合図を出せっ!』

オットルルーは第二バランディアスの空に舞い上がり、双方の学院へ< 思念通信(リークス) >を飛ばした。

「只今より、ミリティア世界、魔王学院と銀城世界バランディアス、虎城学院による銀水序列戦を開始します。舞台となる第二バランディアスの損傷は、これを不問とします。パブロヘタラの理念に従い、銀海の秩序に従うならば、我らは深き底へと到達せん」

上空に魔法陣が描かれ、そこにオットルルーはねじ巻きを差し込む。

両手でねじを巻くと、そこから紺碧の水が溢れ出した。波打つ水は薄いカーテンのように、広大な範囲を覆っていく。

流れ弾を防ぐための結界だろう。ある程度の火力であれば、波の結界に阻まれ、第二バランディアスを傷つけることはない。

「缶焚き、火夫、全力で石炭をぶち込みたまえ。進路は敵飛空部隊のど真ん中、全速前進」

「りょ、了解っ!」

「全速前進!」

エールドメードの指示のもと、機関室は進路を定め、車輪を高速で回した。

「いきなりど真ん中に突っ込むって、いくらなんでもハチの巣じゃないっ?」

砲塔室からサーシャが言う。

「カカカ、ありえん、ありえん、ありえんぞっ。泡沫世界の不適合者どもと侮っているあの俗物が、いきなり集中砲火で戦いを終わらせると思うかね? じわじわといたぶり、真綿で首を絞めるように殺そうとするに決まっている」

「それは、そうかもしれないけど……」

魔王列車は上昇し、布陣を敷く城艦部隊へ向かっていく。

「魔王の魔法。全力の結界で守りたまえ。オレたちを侮っている奴らの布陣に、風穴を空け、目を覚ましてやろうではないか」

「了解だぞっ!」

魔王列車はみるみる加速し、城艦部隊に迫っていく。

「魔王聖歌隊。射程に入り次第、目の前の城を撃て。ただし、列車任せの豆鉄砲だ」

「「「了解っ!」」」

エレンたちの声が響く。

「第一砲塔から第九砲塔まで照準」

「全砲塔照準よしっ!」

「いっくよぉぉっ!」

飛空城艦を射程に捉え、砲塔が魔法陣を描く。

「「「< 断裂欠損歯車(アビス) >ッッッ!!」」」

魔王列車の砲塔から、無数の欠けた歯車が発射される。

それは、目の前の飛空城艦に直撃するも、いとも容易く外壁に弾かれた。

『わーはははははっ、なんだその豆鉄砲はっ! 城壁を展開するまでもないわっ! 本当の大砲というものを教えてやろう』

『不動王、魔法通信がつながったままですが? 秘匿通信に切り替えましょう』

ザイモンの声が響く。

通信がつながっているため、こちらにまで筒抜けだ。

『構わん構わん。聞かせているのじゃ。手の内を曝して勝つ。これが強者の余裕というものよ』

『……わかりました。昨日のお話では、ファリスに指揮を取らせるということでしたが?』

『ああ、気が変わったわい。こんな豆鉄砲しか撃てん連中の弱点などつく必要もないわ。朕が戦というものをあの盆暗どもに見せてやろうぞ』

『窮鼠猫を噛むという言葉が。油断は禁物かと』

『貴様は蟻を踏み潰すのに、わざわざ城剣を抜くのか?』

『……では、せめてカムラヒ四隻とゼリドヘヴヌスを下がらせましょう。こちらの戦力が上とはいえ、万が一、火露を奪われれば敗北です』

『貴様も慎重な男よのぉ、ザイモン。まあ、いいわい。ゼリドヘヴヌス、カムラヒ四隻は後退じゃ。エテン二〇隻微速前進、奴らを堂々と迎え撃て』

飛空城艦五隻が後ろへ後退していく。

ザイモンとカルティナスの通信から察するに、あの中のどれかに火露が積載されているのだろう。

『エテン四番艦、砲門開け。本物の大砲というものを見せてやるわい』

前列の飛空城艦が砲門を開く。

構わず、魔王列車は直進した。

『撃ていっ!!!』

けたたましい音とともに、魔法砲撃が放たれた。

次々と着弾する砲弾が、火花を散らせ、激しく燃え上がる。

あっという間に車体は爆炎に包まれた。

『撃ち方やめいっ! わはは、どうだ? まだ飛んでいられ――』

カルティナスが言葉を失う。

爆炎を斬り裂くように、煙状の結界を纏った魔王列車が一直線に突っ込んできたのだ。

コウノトリの羽根が無数に舞っていた。

< 根源降誕母胎(エンネスオーネ・エレオノール) >。

それにより魔力を際限なく上昇させたエレオノールが、魔王列車の機構を利用し、秩序と魔法の結界を張っていた。

『て、敵機健在っ! 無傷ですっ!!』

『城壁展開間に合いませんっ!』

『回避ーっ!』

さすがに判断が早い。

最前列のエテン四番艦は突っ込んできた魔王列車より強力な結界を張るのが間に合わないと悟るや否や、すぐさま上昇した。

しかし――

『て、敵機進路変更っ! 接触しますっ!』

『読まれていただとっ!? 馬鹿な、あの程度の結界では、あちらもただでは済まんぞっ!』

魔王列車はまっすぐ飛空城艦エテン四番艦の城門へと突き進む

「カーカッカッカッ!! さあ、さあさあさあっ! 度肝を抜いてやりたまえ」

「< 聖域白煙結界(テオボロス・イジェリア) >」

煙突から噴射された白煙が、車体にまとわりつくように結界と化す。

かつて<運命の歯車>であった魔王列車ベルテクスフェンブレムの秩序結界に、< 根源降誕母胎(エンネスオーネ・エレオノール) >の魔力が加えられ、滅びの魔法さえも遮断する防壁と化した。

即席で張られたあちらの魔法障壁をいとも容易く弾き飛ばし、暴走する列車の如く城へ突っ込んでいく。

めき、と先頭車両が飛空城艦の門にめり込む。

次の瞬間、ドゴオオオォォォォとけたたましい音を立てて、魔王列車は飛空城艦の門を突破し、そのまま壁という壁を貫き、一直線に外まで貫通した。

コウノトリの羽根が無数に舞う。

結界室でエレオノールが人差し指を立て、笑顔を見せた。

「魔王の結界で、ぶち抜いちゃうぞっ」