軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

命、生まれるとき

俺はその場に魔法陣を描く。

盟約に基づき、所有するその人型魔法に呼びかければ、俺とエレオノールの間の魔法線が色濃く光を放つ。

俺の魔力がエレオノールへ流れていくと、彼女は驚いたように声を上げた。

「こっ、こらっ。いきなりどうするんだ? さっきの説明じゃ、ボクはまださっぱりわからないぞ?」

「論より証拠だ。身を委ねよ」

「……もう……強引だぞ……」

彼女が小さな声でそう口にし、俺が描く術式に身を委ねる。

魔法文字が少女の周囲に漂い、そこから聖水が溢れ出す。

体が聖なる水の球に覆われ、ふわりと浮く。< 根源母胎(エレオノール) >の魔法が発動した。

墓地の一角が照らされ、そこに淡い光が現れる。

「んー? 偽物の棺を作るなら、< 創造建築(アイビス) >の方がよくなあい? < 根源母胎(エレオノール) >の魔法じゃ、ガラスの棺にならないぞ」

エレオノールが不思議そうに言った。

「ガラスの棺は、この芽宮神都フォースロナルリーフが与えた形にすぎぬ。あれの本質は、これだ」

墓地に淡い光の球――疑似根源が完成する。

すると、地面が黄色に輝き、聖水球を照らし出す。

地中から黄色に輝く炎が浮かび上がってきては、光の球の中へ入ってきた。

『……体を持たない魂魄なのっ……』

黄色の炎を指さし、エンネスオーネが言う。

興奮したように、頭の羽をパタパタと動いていた。

「< 根源母胎(エレオノール) >にて生み出した疑似根源を、魔力のない器と認識したというわけだ」

「んー?」

まるで意味がわからないといった風に、エレオノールは首を捻った。

「……えーと、それって、どういうことなんだ……?」

「心ない人形を屋敷から出すには、体を持たない魂魄がいる。体を持たない魂魄を墓地から移動させるには、魔力のない器が必要だ。そして、魔力のない器を店で買うには、心ない人形が必要となる」

エレオノールがこくりとうなずく。

「そこまではわかるぞ。箱を開けるための鍵は、箱の中にあるみたいな感じだよね?」

「そうだ。お前が言った通り、ここにある物だけを使っていてはどうにもならぬ。エンネスオーネが生まれることができぬのは、この芽宮神都フォースロナルリーフにて定められた秩序というわけだ」

「……あー、えーと……エンネちゃんを生むためには、この神都にはない、誰かの助けが必要だったってことなのかな……?」

俺はうなずく。

「彼女を正しく生むために必要な三つのものは、< 根源母胎(エレオノール) >にて生み落とせる疑似根源だ。人の根源はそもそも、形骸と心、魔力を持つ」

「あー、そっか。ボクが一人で< 聖域(アスク) >の魔法を使うときには、心だけを生む疑似根源を生み出しているから」

「このフォースロナルリーフで言えば、すなわちそれが、あの黄色の炎、体を持たない魂魄に当たる」

理解したように、エレオノールは「うんうん」とうなずき、ピッと人差し指を立てた。

「じゃ、地底で天柱支剣を支えるときの材料にした疑似根源、形骸だけのやつが魔力のない器だ。それで、魔力だけの疑似根源が心ない人形かな?」

心ない人形、魔力のない器、体を持たない魂魄。

この三つの名は、それぞれ半端な根源、すなわち疑似根源を指していたのだろう。

「サーシャが思い出した記憶によれば、エンネスオーネ同様、お前はミリティアの手によって創り変えられた。エンネスオーネの見せる夢が、お前とゼシアにだけ届くのも、ミリティアからのメッセージだろう」

「……ボクが、エンネちゃんを生むのに必要だからってことかな……?」

俺はうなずく。

エレオノールがいなければ、エンネスオーネを生むことができない。

ゆえに彼女がここへ来るように仕向けられていた、と考えれば納得もいく。

「そして、< 根源母胎(エレオノール) >の魔法自体が、エンネスオーネを生むヒントになっている」

「えーと……つまり」

エレオノールが俯き、考え込む。

「…………つまり? どういうことなのかな……?」

思いつかないといった様子で、彼女は更に深く考え込む。

「お前が普段、魔力、心、形骸、そのどれか一つ、あるいは二つのみを有する疑似根源しか複製していないのはなぜだ?」

「……だって、三つ揃った複製根源を作っちゃったら、意識が生じる命になるから――」

はっと気がついたようにエレオノールは顔を上げた。

「心ない人形と、魔力のない器、体を持たない魂魄の三つを合わせたら、一つの根源になるってことだ……!?」

「疑似根源を組み合わせ、命を生む。地上ではありえぬ話だが、この芽宮神都はエンネスオーネの秩序が具現化した場所だ。まだ生まれてはいないエンネスオーネが存在できる神域。ならば、心ない人形も、魔力のない器も、体を持たない魂魄も、厳密にはまだ生まれてはいない。それらを一つに合わせることにより、根源が生まれると考えればよい」

ゼシアがキラキラと目を輝かせ、ピッと手をあげた。

「……三つ、合わせれば……エンネ、生まれますか……?」

「心ない人形、魔力のない器、体を持たない魂魄。この神都に無数にあるそれらが、どれも見分けがつかぬとウェンゼルは言っていたが、なんのことはない。どれもが本物なのだろう。これらをすべて一つにし、完全な根源に変えてやれば、エンネスオーネが生まれるはずだ」

ゼシアはばっとエンネスオーネを振り返り、彼女にぎゅっと抱きついた。

「……やり……ました……! エンネ、もうすぐ……です……っ!」

戸惑ったように、エンネスオーネは頭の翼をぱたぱたとはためかせる。

しかし、彼女はすぐに笑顔を浮かべた。

『……早く、会いたいな……ゼシアお姉ちゃんたちに……早く……』

「……任せる……です……!」

ゼシアがエンネスオーネの両手を握り、意気込んだ顔を向けた。

「あ、だけど、それでもう間違いないのかな? 他の可能性って考えられない?」

エレオノールが俺に尋ねる。

「無論、答え合わせをせぬことにはな。行くぞ。魂魄を持て」

「了解だぞっ」

エレオノールが聖水球の中からぴょんっと出てくる。その体に< 創造建築(アイビス) >でいつもの服を着せてやった。

彼女が手を伸ばせば、黄色い炎が収められた光の球がふわふわとそこへ飛んでくる。

エレオノールは疑似根源を大事そうに胸に抱えた。

「次は……どこ……ですか……?」

ゼシアが俺の顔を見上げる。

「屋根のない屋敷へ向かう」

「……了解……です……!」

彼女はエンネスオーネと手をつなぎ、先を急ぐように走り出す。

俺とエレオノールはすぐその後を追う。

そうして、再び屋根のない屋敷に戻ってきた。

俺は張り紙のある扉の前に立ち、それを開ける。

中に番神はおらず、先程と同じく中央の椅子に人形が座っていた。

「エレオノール」

「えーと、疑似根源から出してみるぞ……」

エレオノールが光の球に魔力を込める。

扉が開くように疑似根源の一部が欠けると、黄色の炎が中からふっと現れた。

体を持たない魂魄は、ふわふわと室内へ入り、宙を漂いながら、ゆっくり椅子に座る人形のもとへ飛んでいく。

「ふむ。読み通りか。人形も魂魄も無事のようだ」

俺たちが室内へ足を踏み入れれば、たちまち溶け出した心ない人形も、魂魄の侵入には影響を及ぼさなかった。

墓地を出ることのできないその黄色い炎も、この部屋では消えるといったことはなさそうだ。

やがて、体を持たない魂魄は人形のもとへと辿り着き、その胸の中にすうっと吸い込まれていった。

「…………」

魂魄を宿した人形の瞳に、黄色い光が宿る。

ギ、ギと音を立てながら、それはぎこちなく椅子から立ち上がった。

一歩、一歩、人形はこちらへ歩いてきて、部屋の外へ出た。

「……オミセ……ヘ……」

片言で無機質な言葉が、人形の口から発せられた。

「ゼシアに……お任せ……です……!」

『エンネスオーネも、手伝うよ……』

ゼシアが人形の両肩を持ち、エンネスオーネが両足を持つ。

二人はそのまま、ぴょこぴょこと軽い足取りで「んしょ」『んしょ』と声を発しながら、人形を運び出していく。

「えーと……その運び方は、どうなのかな……?」

不安そうにエレオノールが、二人の子供を見守っている。

「まあ、運べるのならば、問題あるまい」

俺たちは屋根のない屋敷を後にする。

続いてやってきたのは、扉のない店だ。

「……オロシテ……」

魂魄を宿した人形がそう声を発すると、ゼシアとエンネスオーネは、「よいしょ」と声を揃え、地面に下ろす。

人形はぎこちなく歩み出て、屋敷の外壁に手を触れた。

すると、壁が扉のように自動的に開く。人形はまっすぐ中央にあるガラスの棺へ移動していく。

そうして、膝を抱えてうずくまるような姿勢で、その中に納まった。

途端に、ガラスの棺が目映い光に包まれる。

「わーおっ。なんかすごいぞっ」

ガラスの棺が光と化し、人形の体を覆うように包み込む。

ぐにゃりと人形の輪郭が歪み、その形を変えていく。

丸く、丸く――

それは、光輝く小さな卵へと姿を変えた。

「卵だぞ?」

「……生まれ……ますか……?」

エレオノールとゼシアが、揃って疑問を浮かべる。

エンネスオーネは真剣な表情でじっとそれを見つめた。

すると、コツコツ、と音が鳴り響く。

その卵にヒビが入り始めた。

次の瞬間、卵が割れれば、そこに小さな鳥のヒナがいた。

「……可愛い……です……!」

ゼシアとエンネスオーネが駆けよっていき、鳥のヒナの前でしゃがみ込む。

『……なんの鳥……?』

「ふむ。コウノトリのようだな。残りの人形や魂魄をすべてこの鳥にしてやれば、エンネスオーネという秩序の赤ん坊を運んでくるといったところか?」

俺の背中から、エレオノールが顔を出す。

「んー、でも、屋根のない屋敷も、扉のないお店も、墓標のない墓地も沢山ありそうだし、けっこう時間かかりそうだ――」

ガ・ガ・ガ・ガガガラアアァァァンッと、けたたましい音が遠くから鳴り響き、彼女の声をかき消した。

驚いたようにエレオノールが振り返る。

神都の奥に位置する巨大な建物――生誕神ウェンゼルがいるその宮殿が、見るも無残に崩れ落ちていた。