軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地底うごめく陰謀

地上の激しい震動が、地中に伝わり、パラパラと土埃の雨を降らせる。

上ではエミリアたちが、今まさに竜との死闘を繰り広げている。

俺とミーシャ、サーシャがいるのは、その真下。地中に構築された不自然に広い空洞だ。

その一点に 魔眼(め) を向けて、軽く言葉を投げかけた。

「それで? そろそろ姿を現したらどうだ? 竜域と地中の暗がりを利用して、隠蔽魔法の効果を高めるとは、なかなかどうしてうまくやったものだが――」

< 成長(クルスト) >の魔法で、一六歳相当にまで成長すると、ゆるりと足を踏み出し、目の前の空間に腕を伸ばす。

ぐっと手を握り締めれば、手応えがあった。

「――そろそろ 魔眼(め) も慣れてきた」

つかんだものを持ち上げて、そのまま思いきり地盤に叩きつける。

ドゴォォッと激しい音が響き、そいつの姿を隠していた魔法の効果が解除される。

目の前に姿を現したのは、法衣を纏い、その上に真白な鎧を身につけた男だ。聖者ガゼルが身につけていたものと殆ど同じか。竜人だろう。

「ふむ。こそこそと地中に潜みながら、エミリアの< 竜縛結界封(デ・ジェリアス) >に干渉していたな。竜を放ったのも貴様らの仕業か?」

「< 憑依召喚(アゼプト) >・< 力竜(デイロ) >ッ!」

竜人は倒れたままの姿勢でそう叫んだ。

彼の体に光が宿り、魔力が跳ね上がった。

「<全能なる煌輝>エクエスの御心のままに」

キィィィンッとその竜人の口から竜鳴が響く。

俺は手を放し、そいつの顔面を思いきり踏みつけた。

「がはっ……!!」

「なるほど、憑依召喚か。そういえば、竜の中には、周囲の環境に溶け込むように隠れるのが得意な個体もいたな。その身に竜の力を宿していたというわけだ」

竜人は素早く剣を抜き放ち、竜の力で俺の体に斬りかかる。

更に足に力を入れ踏み込んでやれば、頭を地盤にめり込ませた。

「ごっ……」

「答えろ。誰の命で、なにをしようとしている?」

「……我らは、崇高なる神の戦士っ! たとえこの命奪われようとも、貴様に教えることはなにもないっ!」

竜人がそう口にした瞬間、俺が描いた魔法陣から現れた黒い糸がその首に絡みつき、禍々しい首輪がかけられた。

「ならば、祈れ。その信仰がどこまでもつか、存分に試してみよ」

< 羈束首輪夢現(ネドネリアズ) >。

その夢が見せるのは、神なき世界で幾度となく俺に殺される光景だ。

祈っても願っても、神は現れず、ただひたすらに殺され、滅び続ける。

ありとあらゆる苦痛がそいつを責め立て、数千数万という死が一秒の間に通り過ぎる。

そうして、ようやく奴は夢から覚めた。

憔悴しきった表情で竜人は俺を見る。

「まだ祈りたりないか?」

「……あ……う…………」

「話せば、楽にしてやろう」

虚ろな瞳で、唇を震わせ、竜人は言った。

「……我らは……ジオルダルの聖騎士団……。アヒデ枢機卿より、神託を告げられた……。ガイラディーテの民を、聖別せよ、と……」

やはり、あの男の仕業か。

「アヒデはどこにいる?」

「……エーベラストアンゼッタに……」

「聖別というのは?」

「神の使いである竜の胎内より、神のもとへ赴き、聖なる姿で蘇ること。我らと同じく竜人となり、神に仕える聖なる民となる」

つまり、人間を竜に食わせるということか。

「侵略者め」

ぐしゃり、と足を踏み抜き、俺は竜人の頭蓋を潰した。

未だ隠れてこちらの様子を窺っている者どもに、ゆるりと視線を飛ばしてやる。

「この地上に争いの種を持ちこむことは許さぬ。三秒時間をくれてやろう。今すぐ兵を退くがいい。でなければ、貴様らの神諸共、ジオルダルは滅ぶことになろう」

一瞬の静寂。

次の瞬間、保護色のように地盤と同化し隠れていた竜人たちの姿が、すうっと浮かび上がる。

誰もが法衣を纏い、その上に純白の鎧を身につけている。

「「「< 憑依召喚(アゼプト) >・< 力竜(デイロ) >」」」

その声とともに、奴らの魔力が膨れあがる。

戦闘用の別の竜を召喚し、その身に憑依させたのだろう。

「ガイラディーテを神の国に。これは神託であるっ!」

一人がそう声を上げれば、全員がそれに続く。

「「「<全能なる煌輝>の御心のままにっ!!!」」」

「ガイラディーテのすべての民は、神によって救済されるっ!」

「「「神を信じ、救いを受けよっ!!」」」

竜人の兵たちは大きく口を開く。

そこから、竜と同じく高熱のブレスを吐き出した。

視界が炎に埋め尽くされた次の瞬間、それがぱっと消え去った。

隣にいたサーシャが<破滅の魔眼>で睨みつけたのだ。

「神を信じる前に、その目で現実を見つめてみよ」

一歩俺は前へ出る。

ミーシャが<創造の魔眼>で竜人たちを睨む。

奴らは次々と雪の結晶へと姿を変えていく。

「……ひ、怯むなっ! 神を信じよっ! 突撃ぃぃっ……!!」

「貴様らには見えぬか。今この上で、ようやく居場所を見つけ、必死に戦っている者たちの想いが。彼女らは救いを求めなかった。彼女らは助けを請わなかった。その目で現実をしかと見つめ、その手で理不尽に抗っている」

黒き雷が俺の周囲に集う。

起源魔法< 魔黒雷帝(ジラスド) >。

「ぐあっ……ぎゃああああああああああああああぁぁぁっ……!!」

「……馬鹿なっ……!! 竜の護りを貫くほどの魔法だとぉぉっ……!?」

「神も喚ばずに、なぜこんな力がぁぁっ……ぐあああああああぁぁぁっ!!」

漆黒の稲妻が唸りを上げて膨れあがり、周囲の竜人たちを撃ち抜いては消し炭に変えた。

「今まさに救われようとしている者の意志をくじき、なにが神か。なにが救済だ、愚か者め。何者にも彼女らは決して救えぬ。自ら勝ち取らねばならぬということを、彼女らはその身を持って知っているのだからな」

「それが誤りであることを、神は教えてくださるだろうっ!!」

生き残った竜人たちが雄叫びを上げ、剣を抜いて突撃してくる。

「誤り? 神が教えてくれる? くくく、くははは」

四方八方から襲いかかった竜人の剣が、俺の体を刺す。

そのすべてが、へし折れた。

「くっ……なんだ、こいつはっ! 化け物かっ!!」

「こんな、馬鹿なぁ……! 竜の力でもってしても、剣が通らぬだと……!」

「人の心もわからぬ神が、なにを教えるというのだ。彼女らが絶望の淵にいたとき、なにもしなかった神が、今更のこのことやってきて救いだと? 笑わせるな、ペテン師どもが」

周囲の竜人たちに魔法陣を描き、一人ずつ< 獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ) >に飲み込んだ。

「「「「ぐあああああああああああああぁぁっ……!!!」」」

漆黒の太陽に飲み込まれ、竜人たちは焼き尽くされていく。

「どうだ? 信仰を捧げるお前たちさえ、神は救ってはくれまい」

「……い、異端者め……我々は神のもとへ行くのだ……死は絶望ではなく、救済なのだ……!」

「ほう。魔王を相手にして、まだそんなところへ行けると思っているのか?」

魔法陣を描き、黒き糸を結ぶ。

奴らに禍々しき首輪をつけていった。

「< 羈束首輪夢現(ネドネリアズ) >」

呪いの夢を見せられ、竜人どもは呆然と立ちつくす。

「お前たちは今この瞬間を永遠に繰り返し、絶望を味わい続ける。心から神への信仰を捨て、俺に許しを請えば、その体は燃え、死を許可されるだろう」

脂汗を垂らし、虚ろな瞳で奴らは虚空を見ている。

「一切の救いも許さぬ。ただ無意味に死ね」

数秒が経過し、ボッと一人の竜人に炎がついた。

「どうした? 早くも一人、信仰を捨てたぞ。なんとも信心深いものだな」

二人、三人と次々に竜人たちは神への信仰を捨て、悪夢の中で俺に許しを請う。

そうして、彼らは燃え尽きていった。

「お・の・れぇぇぇ、この悪魔めがぁぁぁっ……!!!」

< 羈束首輪夢現(ネドネリアズ) >をかけられていない別の竜人が竜の爪にも似た剣を振りかぶり、憤怒の形相を俺に向ける。

その喉元を手刀で貫いた。

「……ごっ、ほ…………」

「否定はせぬ」

< 羈束首輪夢現(ネドネリアズ) >を首にかけた。

「だが、貴様らの所業は、悪魔にも劣る」

目の前の竜人はがくりと膝をつき、燃える。

そうして、神への信仰を捨てて灰になった。

周囲に 魔眼(め) を向ければ、未だ多くの竜人の兵がいる。

ガイラディーテを落とそうとしているだけあって、なかなかの物量だ。

「ミーシャ、サーシャ」

二人はその 魔眼(め) で竜人たちを睨みながら、俺の言葉に耳を傾ける。

「後は任せる。地上に手出しはさせるな」

ミーシャがこくりとうなずく。

二人は背中合わせになり、敵に 魔眼(め) を向けたまま、後ろ手に手をつなぐ。

ミーシャとサーシャは自分の体に半円の魔法陣をそれぞれ描き、それを互いの魔法陣とつなげて一つにした。

その魔法陣の上にもう一つ、同じ魔法陣が重なる。

かつては七魔皇老アイヴィスの力を借りなければ使えなかったネクロンの秘術。

だが、成長した今の二人ならば、その深淵に手が届くだろう。

「「< 分離融合転生(ディノ・ジクセス) >」」

魔力の粒子が煌々と輝き、立ち上る。

二人の体が溶けるように、すうっと交わった。

目映い光の中から、浮かんだのは一人の魔族の姿。

銀の髪の少女がそこにいた。

「化け物どもがぁっ……!! 灰になれぇぇっ!!」

号令とともに、竜人たちが灼熱のブレスを吐き出した。

先程よりも、遙かに勢いは強く、それは地盤を容易く溶かす。

今度はブレスに特化した竜を憑依召喚したのだろう。

「<破滅の――>」

「<創造の――>」

声を揃え、融合したミーシャとサーシャが静かに言う。

「「<――魔眼>」」

それは広範囲の視界と、あらゆる攻撃魔法、防御魔法を消し去る力を有した、体を造り替える魔眼。

吐き出されたブレスは消滅し、一瞬の内になす術もなく、竜人たちは氷の結晶に姿を変えた。

かろうじてその視界の外にいた聖騎士が、呆然と銀髪の少女を見つめる。

「……ま、さか……これは、< 背理(はいり) の魔眼>………………」

竜人どもがわなわなと震える。

「……銀の髪と……あの禍々しき瞳……悪しき伝承の通りの…………」

ミーシャとサーシャの融合した姿に、竜人どもは力の差以上の畏怖を覚えている。

「……おのれ……おのれぇぇぇっ、不適合者っ! なんということをっ!! まつろわぬ神を、蘇らせたか……!?」

「 背理神(はいりしん) ゲヌドゥヌブを復活させるなどっ、我らが国を、地底を滅ぼすつもりかっ!? 地上もただではすまぬぞっ……!!」

ふむ。わからぬことを言う。

融合した二人の魔眼と、同じ魔眼を持っていた神がいたようだが?

「人違い」

「おあいにくさま。わたしたちは神様なんかじゃないわ」

奴らの言う、<背理の魔眼>で睨みつけ、サーシャとミーシャはあっという間に竜人たちを氷の結晶へと変える。

「ぐぅっ……!!」

「……がぁぁっ……!!」

「か、神よっ……! <全能なる煌輝>エクエスよっ……!! 我らに救いを――」

残党を捜すように魔眼を向けながら、銀髪の少女が俺に言う。

「行ってらっしゃい」

「気をつけて」

俺はうなずき、地面に手をかざす。

「可能ならば、そのまつろわぬ神とやらについて聞きだしておけ」

そう言い残し、< 魔震(ディアス) >の魔法で、地盤を割り、地底までの道を作った。

< 飛行(フレス) >でその穴へ飛び込み、地底世界を目指す。

あっという間に、天蓋を抜け、神の都ガエラヘスタの上空に到着した。