軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣術教練は準備運動から

闘技場。

一回生二組の生徒たちがそこに集まり、各々の剣を手にして、整列している。

「さて、シン先生。まずはなにから? なにはともあれ、殺すかね?」

エールドメードが愉快そうに尋ねる。

「いえ。剣の道にも順序というものがあります。まずは軽く準備運動を。また全員の太刀筋や身体能力を把握しておこうと思いますので、打ち合い稽古をしてもらいましょうか」

「いいではないか。オマエら、適当に二人一組を作って打ち合うがいい。折りをみて、オレとシン先生が声をかける」

カツンッ、とエールドメードが杖で石畳を叩き、ニヤッと笑う。

「始めたまえ」

二組の生徒たちはそれぞれ、同じ班の魔族や、仲の良い相手に声を掛け合い、稽古の組を作り始める。

「七人だから、一人余るわよね?」

サーシャが言うと、レイが爽やかに微笑んだ。

「二人同時に相手しようか?」

「レイはアノシュの相手をしなさいよ。あんな馬鹿力とまともに打ち合える人なんて他にいないわ」

俺はざっと闘技場を見回した。

「構わぬ。適当に相手を見繕ってくる」

「はぁっ!? な、なに言ってるの? あなたとまともに打ち合い稽古なんてできる生徒が、他にいるわけないでしょっ!」

「なに、六歳の体だからな。力に関しては並だ」

そう口にし、稽古相手を探すために歩き出した。

「……並……? ほんとに……?」

呟いたサーシャの隣で、ミーシャがふるふると首を横に振っていた。

「おい、アノシュ。あぶれてるのか? 一緒にやろうぜ」

黒服の生徒が一人、俺に声をかけてくる。

確か、こいつは、いつぞや八八八裂きにしてやった生徒だな。

「いいだろう」

「よしっ。俺はラモン。ラモン・アイバーだ」

「よろしく頼む」

俺は魔法陣を描き、その中心に手を入れる。

引き抜いたのは、子供用サイズの鉄の剣だ。

「へえ。収納魔法は使えるんだな。小せえのに、大したもんじゃねえか」

「なに、それほどでもない」

「なあ。ちょっと離れたところに行かないか?」

「ここでも構わぬが?」

「広いところの方が稽古しやすいだろ」

気のせいか、ラモンの笑みにはどこかいやらしさが見てとれる。

転入生を相手に、なにを考えているのやら?

「いいだろう」

俺はラモンと二人で闘技場の端の方へ移動する。

サーシャたちが、心配そうにこちらへ視線を向けているのがわかった。

無論、俺の身の安全を心配しているわけではないだろうがな。

「そういえば、稽古の前に聞いておきたいんだけどさ」

腰に提げた魔剣を抜きながら、ラモンが言う。

「アノシュが黒服なのは、皇族だからか?」

俺の制服はかつてのものと違い、黒服だ。

理由はアノスのときとは別物にした方が正体に勘づかれにくいだろうというだけのことだが、同じ理由で俺の魔力は皇族のものに見えるように魔法で改竄してある。

レイやエレオノールぐらい根源を見抜く魔眼に長けていれば気がつくだろうが、そんな者は二千年前にも珍しい。

「今のディルヘイドで皇族と口にしても仕方がないが、一応はそうだ」

すると、ラモンは俺に近づき、小声で訊いてきた。

「ここだけの話だけどよ。どう思う?」

「質問の意図が見えぬが?」

「いや、別に不満があるってわけじゃねえよ。そういうわけじゃねえんだが、皇族として、今のディルヘイドをどう思ってんのかなーって、純粋な感想を聞きたくてよ」

なるほど。

まあ、学院の中で愚痴を言い合いたいだけなら、捨ておいても構わぬが、そうとも限らないからな。

皇族派は俺の命によって、解体された。

しかし、あくまで表向きだ。

組織としての皇族派を許さずとも、そこにいた者たちの想いまで、すぐに変えられるわけではない。

「あいにくと俺は六歳でな。世間のことはよく知らぬ」

そう口にすると、ラモンがニヤリと下卑た笑みを見せた。

「お前には特別に教えてやるがよ。今の世の中は狂っちまってる。俺たち皇族っていうのは、もっと尊い存在じゃなきゃいけねえんだ。それが、平等だの、公平だの、くだらない法律が作られやがった」

なにをしようとも不満を持つ者は一定数いるものだ。

もっとも、思うだけならば、それは自由だ。

他に害を与えぬのならな。

「ふむ。そういえば、皇族には特権があったと聞いたが?」

探りを入れるように、俺は言った。

「ああ、そうだ。本来は、本当はだぞ。俺たちが支配するんだよ。このディルヘイドで、一番偉いのは俺たち、皇族じゃなきゃならない。ここだけの話だがな。あの暴虐の魔王は、どうも統一派が仕立て上げたものらしくてな」

さも本当のことのようにラモンが、そんなことを口にした。

やれやれ。六歳の子供になにを吹き込むつもりだ?

ただの愚痴、というわけではなさそうだな。

「ラモンは、暴虐の魔王が偽者だというのか?」

「ば、馬鹿っ、声が大きいって」

ずいぶん距離が離れているにもかかわらず、ラモンはビクビクしたようにシンやエールドメードの様子を窺っている。

二人がこちらを気にしていないことを確認すると、ふう、と安堵したように息を吐いた。

「お前は子供だから、わかんなかったかもしれないがな。よーく考えてみろよ? 都合がよすぎるとは思わねえか? 魔王再臨の式典に合わせるように、たまたま勇者カノン、魔王の右腕シン、母なる大精霊レノ、偽の魔王アヴォス・ディルヘヴィアが集まるなんてよ。どう考えても、仕組まれたものとしか思えないってわけだ」

本気で言っているのか、それとも、俺を勧誘するための方便なのか。

どちらにせよ、まともな結論には行きつきそうもないな。

「俺はどうもその手の話には疎くてな。統一派が悪者ということか?」

子供らしくそう言ってやると、ラモンは嬉しそうに食いついてきた。

「ああ、そうだ。本物の暴虐の魔王は、たぶん転生なんかしない。二千年前にとっくに死んじまったんだよ。それをいいことに、統一派の奴らが転生した魔王をでっちあげた。それが、アノスっていう男だ」

「ほう。興味深い話だな」

俺が好意的だと思ったか、ラモンが饒舌に話を続けた。

「俺たち皇族派は、歪められたこのディルヘイドの歴史を正さなきゃならない。現魔王に逆らってもな。それが俺たち尊き血を引くものに課せられた使命なんだ。今は亡き本物の暴虐の魔王のためにも、この魔族の国を取り返さなきゃならない」

俺が子供だからと油断しているのか、ペラペラと内情を話すものだな。

それとも、まだ裏になにかがあることを匂わせていないつもりか?

「よくわかった。つまり、その暴虐の魔王が悪者というわけだ」

短絡的な結論を口にすると、狙い通りといった風にラモンが口元を歪める。

「そういうことだ。お前とは仲良くやれそうじゃねえか、アノシュ」

ラモンが手を差し出す。

俺は握手で応じ、更に踏み込んだ質問をした。

「できれば、紹介してもらいたいものだな」

ラモンの顔色が変わる。

「……なんの話だ?」

「皇族派という名のレジスタンスがいると耳にしたことがある。詳しいことは知らぬが、レジスタンスは正義の味方なのだろう?」

ラモンが考え込むような表情を浮かべる。

「……馬鹿言うなよ。皇族派ってのはもう解体されちまった。まあ、俺は元皇族派だからな、さっきは昔の癖でついうっかり口を滑らせただけだ」

なるほど。

そうやって、現魔王に反抗する者に探りを入れているわけか。

「それにな、アノシュ。正義の味方っていうのは、そう簡単に正体を明かさないもんだぜ」

満更でもないといった風に、ラモンは言う。

「まあ、でも、アノシュと仲良くなれたら、俺のダチに紹介してやるよ」

思わせぶりにラモンは笑う。

どれだけの規模かはわからぬが、後ろにレジスタンスがついているのは間違いなさそうだな。

この調子で気長につき合っていけば、紹介してもらえそうな気もするが、少々まどろっこしくはある。

価値を示すか。

レジスタンスならば、魔王軍に対抗できる戦力が、喉から手が出るほど欲しいはずだ。

魔王学院の生徒とはいえ、子供に声をかけるぐらいなのだから、人材不足は明らかだろう。

「俺は役に立つぞ」

「ははっ、生意気言うなよ、子供のくせに」

鉄の剣をゆるりと構え、俺は言う。

「見せてやろう」

子供扱いとばかりに、ラモンはまた笑った。

「いいぜ。剣はどのぐらいやれるんだ?」

「あいにくとさほどではない。得意分野は魔法だ」

「ははっ、だと思ったよ。まあ、天才少年っつっても、そんな小さい体じゃ、筋肉に込められる魔力の量も知れてるしな」

ラモンは間合いを取るように俺から離れると、魔剣を正眼に構え、言った。

「いいぜ。手加減してやるよ。まずは俺が上段から剣を打ち込むから、それを防いでみな。それができたら、少しは認めてやる」

「ふむ。いいだろう。存分に挑め」

「おーおー。子供のくせに、どこでそんな一丁前の言葉を覚えてくるんだか。だけど、言葉だけじゃ、正義の味方にはなれないんだぜ?」

ラモンはゆっくりと魔剣を振り上げた。

そのまま一歩、俺に向かって踏み込む。

「んじゃま、行くぞぉっ!! うまく防御しねえと、怪我するぜぇっ!!」

彼は走った。

その瞬間、まるで視界がスローモーションになかったかの如く、ラモンの一挙手一投足が、鮮明に見えた。

それは決して比喩ではない。遅いのだ。この上なく遅い。

いつになれば、この身に剣が届くのかと思うほど、ラモンの攻撃は遅すぎた。

「おらあぁっ!!」

予告通り、奴は上段から魔剣を振り下ろす。

「ふむ。うまく防御するというのは――」

俺は難なく、その一振りを、手にした鉄の剣で受けとめる。

ガギィィンッと魔剣と鉄の剣が衝突した瞬間――

「ぐっっっはああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

攻撃したラモンが、魔力が込められた俺の防御に耐えきれず、遙か後方へ吹き飛び、闘技場の壁に深くめり込んだ。

「――こういう感じか?」

奴の魔力が消滅する。

即死だった。

途端に、闘技場にいた生徒たちがざわつき始めた。

「……え……今、吹っ飛んだのって……ラモン君、だよね……?」

「あれ、アノシュ君がやったの……?」

「……う、ううん……アノシュ君はラモン君の剣を受けとめただけで……」

「なんで攻撃した方が、ボールみたいに弾き飛ばされてるんだ……?」

「……ああ、子供のくせに、どういう剣技なんだよ? 防御しただけであれじゃ、剣を振ったら、どうなっちまうんだっ……!?」

「ていうか、ねえ……ラモン君、死んでない……? 魔力が全然感じられないんだけど……」

生徒たちがそんな感想を漏らした瞬間、ラモンがはっとしたように目を開いた。

< 蘇生(インガル) >で、蘇らせたのだ。

「……ええぇぇぇっ!? 生き返ったんだけどっ!?」

「あれ、確か、< 蘇生(インガル) >だよな……? アノス様が入学試験のときに使ったっていう……」

「……今のはアノシュが使ったのか? エールドメード先生じゃないよな? あいつ、まだ六歳だろっ!?」

「……六歳でアノス様と同じ魔法を……。ほんとに天才なのかよ……」

ゆるりと足を踏み出し、俺はラモンの前まで歩いていく。

「子供だからといって、防御が不得手と思ったか」

呆然と俺を見つめ、ラモンは息を飲んだ。

「………………お、お前……何者だ……?」

フッと俺は笑い、こう返した。

「アノシュ・ポルティコーロ。正義の味方に憧れる、ただの天才少年だ」