軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アハルトヘルンの在処

「二千年前に数度見たきりだけど、この魔剣はシン・レグリアのものだよね?」

レイの問いに、俺はうなずいた。

「間違いあるまい」

「じゃ、そのシン・レグリアっていう魔族が統一派を創立した人で、ミサのお父さんだってことかしら?」

サーシャが考えるような表情をしながら言った。

「……父は皇族で、ディルヘイドのどこかを統治する魔族だって……」

ミサが呟く。

彼女はこれまでそう教えられてきた。

「嘘をついた可能性はある。二千年前の魔族たちは転生した俺の前に姿を現すわけにはいかなかったからな。本当のことを口にしていれば、回り回って俺に知られる可能性があった。ディルヘイドのどこかを統治する魔皇だと言っておけば、お前に会えない口実を作れる」

「それじゃ、アノス様の側近だった人が、あたしの……?」

「まだわからぬ」

「だけど、ミサのお父さんが贈ってくれた魔剣は、そのシンなんとかって人の剣だったわけでしょ? それに統一派のトップだったってことは、ミサのためじゃないの?」

サーシャが疑問を呈する。

ミサは混血だ。娘のために、娘が少しでもより良い社会で暮らせるようにと、姿を現せずとも、統一派を結成した、と考えるのは自然だろう。

「残りの半分は、詛王が持ってた」

ミーシャが言った。

「あ……そうよね……。それだとシンって人が詛王の配下で、ミサを殺そうとしたってことに――」

途中まで口にして、サーシャはしまったというように口を噤む。

「でも、奪われたって可能性もあるぞ」

そうエレオノールが指摘する。

「ほら、シンはアハルトヘルンから動けないんだよね? 四邪王族と戦っていて、それで動きを封じられているってことも考えられるぞ。それで詛王に半分の魔剣を奪われちゃって、今回利用されたっていうのはどーだ?」

「矛盾はない」

ミーシャが呟く。

「矛盾はないけど、信じがたいよね」

レイがそう口にした。

「ふむ。俺も同意見だな」

「えーと、なにが信じられないんだ?」

「二千年前、魔族最強の剣士とまで言われたシン・レグリアが、敵に魔剣を奪われる姿はちょっと想像がつかなくてね。ましてや、自分の娘を危険に曝すような大事な剣をね」

レイの言葉に、サーシャが反論した。

「でも、四邪王族って魔王に次ぐ勢力を持ってたんでしょ。今の状況からして、共闘してるでしょうから、いくらアノスの側近でも魔剣一本ぐらい奪われたって不思議はないんじゃない?」

「四邪王族とは僕も戦ったことがあるけどね。彼らが四人束になってかかっていっても、シン・レグリアに勝てる気はしないよ」

「はぁっ!?」

サーシャが驚いたように声を上げる。

「だって、四邪王族って、それだけ強いからそんな風に呼ばれてるんでしょ? それなのに四人まとめて束になっても勝てないってどういうことよ?」

「俺の側近が、俺の配下以外の魔族に劣ると思ったか」

呆然と口を開け、サーシャは目を丸くしていた。

「……もうその人が四邪王族になればいいじゃない」

「まあ、野心のない男だったな。強さを崇拝し、剣に生を捧げていた。レイと気が合うだろう」

こいつと同じね、といった風な表情でサーシャはレイを見る。

彼は涼しげに微笑むばかりだ。

「……それじゃ、どういうことなんでしょう……?」

ミサが不安そうに言う。

「シンが俺に敵対するとも思えぬ。万が一、あいつが魔剣を奪われるようなことがあるのだとすれば、可能性は二つ。一つは、四邪王族よりも強い敵が相手だったということ」

「神族?」

と、ミーシャが言った。

「熾死王の体がノウスガリアに乗っ取られている。今回、四邪王族が同時に襲撃を仕掛けてきたのも、奴の手引きだとすれば不思議はあるまい」

四邪王族の手下三人が、わざわざ俺の配下に神の子がいると匂わせた発言をしたのも、共闘していたのなら納得がいく。

むしろ、そうでなければ、ジークの知恵比べが成立しないからな。

「もう一つは?」

「シンは転生した後、まだかつての力を完全に取り戻していないのかもしれぬ」

だとすれば、魔剣を奪われたのも一応は納得がいく。

しかし、シンは馬鹿ではない。まだ自分に力が足りないとわかっていれば、相応の行動をとるはずだからな。

シンにも予想できぬなにかがあったと考えるのが妥当か。

「一つ、伝えておく」

この場にいる全員へ向けて、俺は言った。

「熾死王の参謀が言うには、俺の配下に神の子がいるそうだ」

エレオノール、ミーシャ、サーシャが心当たりがあるような表情を浮かべる。

「緋碑王の配下は、この子が神の思惑で作られた器だって」

エレオノールはゼシアを守るように抱きよせる。

彼女が困っているように思えたからか、ゼシアはよしよしとエレオノールの頭を撫でていた。

「冥王の配下は、神族が< 分離融合転生(ディノ・ジクセス) >に干渉して、ミーシャを生んだって。それに――」

サーシャが浮かない表情を浮かべる。

代わりにミーシャが言った。

「……デルゾゲードを創造魔法で創れた……」

「あれは、創造の魔眼だ。頭に思い浮かべたものを見ただけでそこに創出する。 魔眼(め) に焼きつけたものなら、複製することも容易い」

ミーシャは無表情でじっと俺を見つめる。

心なしか、不安の色が滲んでいる。

「心配するな。それだけで神の子とは限らぬ。俺とて神を滅ぼしたことがある。ならば、創造魔法に長けたお前が、神の力を持つ城を創れたところで問題はあるまい」

ぱちぱちとミーシャは瞬きをした。

「それに、あのデルゾゲードはまだまだ破壊神の力が弱いな。紛い物の神だ。もっと深く深淵を覗き、そして一から秩序を創造することだ」

「……なんで魔法の講義になってるのよ……」

サーシャがぼやくが、ミーシャは安心したように笑った。

「がんばる」

とはいえ、力だけで言えば、今は一番ミーシャが神の子に近い。

しばらくは目を離せぬな。

「それと二千年前、ノウスガリアは大精霊レノを神の子を産む母胎として狙っていた」

「え……?」

ミサが目を丸くして、呆然と俺を見つめた。

自分も神の子の可能性があるということに驚いたのだろう。

「無論、すべて嘘かもしれぬ。俺の目をお前たちに向けさせ、どこか別の場所で、まったく違う何者かを、神の子として目覚めさせる腹づもりということも考えられる」

最終的に、あの知恵比べで断定できたのは、奴らがメルヘイスを殺したかったということぐらいだしな。

ある程度、情報は得られたが、まだわからぬことばかりだ。

「では、いかがいたしましょうか?」

メルヘイスの問いに、俺は答えた。

「アハルトヘルンへ出向く。大精霊レノもそこにいるはずだ。ミサが神の子かどうかは、彼女に確かめるのが手っ取り早い」

シンから報せもあったことだ。

行かないわけにもいくまい。

「……そうすると、ちょっと厄介そうだよね」

レイが言う。

ミーシャが小首をかしげた。

「どうして?」

「まず大精霊の森は見つけるのが大変なんだ」

「でも、どうせアノスは行ったことあるんでしょ。< 転移(ガトム) >で行けばいいんじゃないの?」

サーシャが俺に視線を向ける。

「アハルトヘルンは場所ではなく、精霊でな」

「精霊? 森なのに?」

「大精霊が棲む不思議な森、という噂と伝承で作られたのが大精霊の森アハルトヘルンだ。あの森は生きていて、常に移動をしている。魔力もないため魔眼でも見えず、肉眼にさえそうそう映らぬ」

「移動している森が肉眼に見えないって、どうしてよ?」

「今言った通り、アハルトヘルンは不思議な森という伝承で作られた、文字通りの不思議な森だ。霧と共に現れ、霧と共にいずこかへ消える。森の中へ入るには条件があるが、それがその時々の噂によって変わる。俺が最後に入ったときの噂は、朧月の出た真夜中、聖明湖の畔に霧が漂う。水色の飴をそこに放れば、悪戯好きの妖精が現れ、森の中へ案内してくれるといったものだ」

「わおっ。メルヘンだ」

エレオノールが嬉しそうに言った。

「でも、それは二千年前の噂なんだ?」

「ああ、今は変わっているだろう」

「まず噂から探すってこと? 面倒臭いわね……」

サーシャがため息をつく。

「< 四界牆壁(ベノ・イエヴン) >はどうやって作った?」

ミーシャが尋ねる。

「大精霊レノの力を借り、直接、アハルトヘルンの内部に作った。森を見つけても、中に入れぬようにな」

それ以外にも、精霊の住処というものは噂や伝承から出来ている。レノの力を借りて、その内側に壁を作ることで、世界を分けたのだ。

「アハルトヘルンを探すのも一苦労だけど、ノウスガリアから目を離すわけにもいかないよね?」

レイがそう指摘する。

続けて、メルヘイスが言った。

「ミサ様、ゼシア様、ミーシャ様、サーシャ様と我が君が別行動をするのも望ましくありません。万が一、どなたかが神の子だった場合、狙われる可能性がございます」

「僕とエレオノールがここに残るとしても、アノスほどの魔眼はないからね。ノウスガリアを完全に見張ることは難しいんじゃないかな。いくらアノスでも、アハルトヘルンからデルゾゲードを見たんじゃ、完全にすべてを把握できないよね?」

「その通りだ」

遠ければ遠いほど魔眼の精度は落ちる。

その分だけ、ノウスガリアにつけいる隙を与えてしまうだろう。

「あるいは我が君の配下に神の子がいるという可能性を示したのは、別行動をとりにくくするためかもしれませぬ」

「アハルトヘルンにいるシンを落とすことが真の狙いだと?」

「可能性はございます」

ふむ。まあ、動きをとりにくくなったのは確かだがな。

「えーと、じゃ、どうするのかな? ボクとカノンでアハルトヘルンに行ってくるのが一番だってこと?」

「いや」

レイとエレオノールなら、戦力にはなるだろうが、シンが苦戦している状況だとすれば、楽観はできぬ。

「全員で行くしかあるまい」

「でも、そうしたら、ノウスガリアは誰が見張るのよ?」

サーシャが問う。

俺はニヤリと笑ってみせた。

「全員でと言ったはずだ。どうせだからな。あいつにアハルトヘルンまで案内してもらおう」

サーシャだけでなく、その場にいた全員が疑問の視線を向けてきた。

「どうやってよ?」

「なに、簡単だ。神は人との約束を守る。ノウスガリアは魔王学院の教師になると約束しているのだからな。業務命令には逆らえまい」

あ、と気がついたようにサーシャが声を上げた。

「次の授業は、アハルトヘルンへの遠征試験だ」