軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

平和な戦い(実戦)

鍛冶・鑑定屋『太陽の風』。

ディルヘイドとアゼシオンの戦争を止めた後、俺は家に戻り、母さんの作った夕食を食べていた。

レイやミーシャたち、エレオノールも一緒である。

「でも、よかったっ。アゼシオンとディルヘイドが戦争になっちゃって、なのにアノスちゃんたちはガイラディーテに学院交流へ行ってたでしょ。お母さん、もう本当に心配で心配で……もしかしたら、戦争に巻き込まれるんじゃないかって……」

母さんは瞳に涙を浮かべる。

何度も泣き腫らしていたのだろう。その目は赤い。

「ほら。だから、大丈夫だって言っただろ。アノスは俺たちが心配するようなことはしないって」

父さんが言う。

「うん、そうだよね。アノスちゃんは、絶対に帰ってくるって、信じてた……」

ぐすっ、とまた母さんが泣きそうになる。

父さんはしょうがないな、というような顔で笑った。

「そういや、戦争になってからはどこにいたんだ? 勇者学院にはいられなかっただろ。どこかで匿ってもらえたのか? それともお前のことだから、自力で戻ってきちゃったりしたのか? ん?」

ふむ。さすがは父さん、わかっているな。

「さっきまではトーラの森にいた」

「おお、そうか。トーラの森に……ん……?」

父さんが疑問を表情に張りつけ、首を捻った。

「トーラの森っていうと、確かアゼシオンとディルヘイドの国境線があるところだったような……」

「さ、最前線になるって魔法放送で言ってた……」

母さんが恐る恐るといった表情で俺を見た。

「母さん。父さん。冷静に聞いてほしい」

今が頃合いだろう。

俺は静かにそう前置きをした。

「う、ううううううううんっ! お母さんはいつでも冷静よっ!!」

母さんはものすごい勢いで何度もうなずいている。

とても冷静には見えなかった。

「お、おおおおおおおおうっ! 父さんだって、常に沈着冷静だっ!」

父さんに至っては体をぶるぶると震わせており、最早動揺しているのかさえ、よくわからない。

「ふむ。もう少し落ちついてからにするか。それでは現実を受けとめられまい」

「だっ、大丈夫よっ、大丈夫。お母さん、察しはついてるわ」

母さんが覚悟を決めたような表情で言った。

「お母さんね、今はもう、わかってるの」

「なにをだ?」

「アノスちゃんがなんとなく普通の子じゃないって」

そうか。

この短期間で色々あったからな。

さすがに母さんでも気がつくだろう。

「……アノスちゃんが、どうしてディルヘイドに来たがったのか、どうして魔王学院に通いたかったのか。どうして、産まれたばかりで自分の名前を口にしたのか。きっとね、ぜんぶそれは偶然じゃないのよね」

自分に言い聞かせるかのように、母さんは言う。

「だから、大丈夫よ。なんでも言って。覚悟はできてるわ」

母とは強い。

なにもわからぬようでいて、俺のことをどこまでもしっかり見ているものだ。

「では、言おう」

「うん」

「といっても、それほど大事ではない。まず、さっきまでどこでなにをしていたかと言うとだな」

母さんはすべてを受けとめるといった目で俺を見つめる。

この分なら、どんな事実にも怯みはしないだろう。

「戦争を止めてきた」

母さんは卒倒した。

「おっ、おいっ、イザベラッ。大丈夫かっ?」

咄嗟に父さんが支え、意識を失った母さんに必死に呼びかけている。

「あ……うん……あれ? わたし、どうしたのかしら? アノスちゃんが大事なことを言うって、それで……その後……?」

母さんは記憶を失っている。

「でも、悪い夢を見ていた気がするわ。アノスちゃんが戦争に行ってきたなんて……。そんなこと、アノスちゃんはまだ三ヶ月にもなってないんだから、あるわけないのに……」

まるで現実を受けとめきれていない。

先に戦争の話をしたのがまずかったか。

「話を変えよう。母さんも父さんも、しばらくディルヘイドで暮らして、魔族のことを知ったと思う。二千年前の大戦のことも」

母さんが真剣な顔でうなずく。

「俺が転生した暴虐の魔王だ」

母さんは卒倒した。

「おっ、おいっ、またかっ。大丈夫かっ、イザベラッ。おいっ、しっかりしろ。傷は浅いぞっ」

傷はないぞ、父よ。

「……ゆ、夢を見たわ……」

意識を取り戻した母さんが、譫言のように言う。

「アノスちゃんが暴虐の魔王になる夢……。ディルヘイドとアゼシオンの戦争を始めた人……。みんながアノスちゃんを戦犯として裁こうとするの……」

まさか気を失い、記憶を改竄するほど、ショックを受けようとはな。

「どうするのよ、霊神人剣が宿命を断ちきってるわよ?」

サーシャがぼやくように言う。

「僕を見て言われても困るんだけど」

レイが苦笑する。

「だって、勇者って話し合いが得意なんでしょ。言葉の霊神人剣でなんとかしてみたら?」

「真に聖なる者には、霊神人剣は効かなくてね。君こそ<破滅の魔眼>を使ってみたら、どうかな?」

「おあいにくさま。もうとっくに試したわ」

俺の配下たちは、すでに白旗を上げている。

あの戦争で折れなかったレイたちの心を一瞬にして挫くとはな。

これほどの窮地は二千年前でもなかった。

さて、どうしたものか?

「アノスちゃんの言いたいことはわかってるわ」

なに?

この俺が対処を考えている間に、母さんが先手を――

「新しい子、増えたものね」

母さんの視線がエレオノールを捉えた。

「ん?」

エレオノールがキョロキョロと辺りを見回し、その視線が自分に対するものだと気がついた。

「わおっ。もしかして、ボクのこと?」

にっこりと笑いながら、母さんがうなずく。

まずい、完全に先手を取られた。

「母さん、俺の話がまだ――」

「エレオノールちゃんは、アノスちゃんになんて言ってつれてこられたの?」

母さんが疑惑の目を向けている。

「えーと、色々だぞ」

「色々っ……!?」

母さんの妄想が羽ばたいているように見えた。

「たとえばっ? たとえばなにっ?」

「お前は俺の魔法だって言われたぞ」

「いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、アノスちゃんの口説き文句が洗練されてきちゃったよぉぉっ!!」

母さんが絶叫する。

それとは反対に、父さんがわなわなと震えながら、こちらを見た。

「お、おま……おまおまえ……いつのまにそんな上級者に……!」

母さんはテーブルに身を乗り出し、エレオノールに問い質す。

「ほ、他にはっ!? 他にはどんな話をしたのっ!?」

「えーと、簡単に説明すると、ここにいる全員まとめて幸せにしてやるって言われて、アノス君が本気だっていうのがわかって、それでついていくことにしたんだぞ」

父さんが口をあんぐりと開け、恐る恐る母さんを振り返る。

「全員まとめてってことは……?」

母さんは虚ろな瞳をしながら言った。

「……隠し……子…………!?」

これが、理滅剣――

「こ、子供は何人いるのっ!?」

「え? えーと、ゼシアのこと? 一応、一万人ぐらいだぞ?」

「ええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!?」

「一万だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

父さんと母さんの叫びは、方向性が違った。

「で、でも、一万人なんておかしいよね? アノスちゃんが作ったわけじゃないよね?」

「お、おおおうっ! 一万なんて、一〇回に一回できちまったとしても、一〇万回も……!? そんな経験値はさすがに……」

父さんは固く拳を握り、歯ぎしりした。

「羨ましいなんてもんじゃねえぞ……」

ふむ。さすがに気がついたか。

一万人もの子供となれば、まともには作れぬ。

つまり、魔法による産物だということだ。

「その話は後でしようと思っていたが、言い訳をするつもりはない。俺の責任だ。全員面倒をみるつもりだ」

「……認……知っ……!?」

父さんが隣で呟いた。

「お前……男だな、アノス……」

「自分が犯した過ちの償いぐらいはする」

「……過ち……アノスちゃんが……過ち……まだ三ヶ月にもなってないのに……」

母さんは、よろめくように、頭をふらふらさせている。

「……えっ、エレオノールちゃんはどうしたいのっ? アノスちゃんに責任とって結婚してもらいたいってことだよね?」

「え? 責任? くすくすっ、そんなの別にいらないぞ。たぶん、二人とも勘違いしてると思うけど、ボクたちはそういう関係じゃないんだ。ただアノス君が優しくしてくれただけ」

「……側……室っ……!?」

そんな呟きを漏らしながら、母さんは三度卒倒する。

「おっ、おいっ……!!」

椅子から落ちそうになる母さんを父さんが支えた。

「ったく、困ったもんだ。まあ、戦争やらなんやらで気を張りつめてたからな。今日はこのまま寝かせとくか」

母さんを抱き抱え、父さんはリビングを出ていく。

「手伝おう」

父さんの後を追いかけ、そう言った。

「いや、大丈夫だ。お前も大変だっただろ。ゆっくり休んどけ」

「そうか」

俺が踵を返そうとすると、父さんがもの言いたげな表情を浮かべた。

「どうした、父さん?」

「ああ、いや……。まあ、なんだな。お前が戦争に巻き込まれたんじゃないかって気が気じゃなかったみたいだからな。今日はいつもより、ちょっとおかしなこと言ってたかもしれないが、明日になればまたいつもの母さんに戻るよ」

「そうか」

いつもの母さんだった気もするが。

しかし――

「つまり、父さんはわかってるのか?」

「お前が暴虐の魔王で、戦争を止めてきたって話か?」

俺はうなずく。

「アノス」

父さんはいつになく真剣な表情を浮かべた。

「お前には言ってなかったな。父さん、ずっと黙ってたことがあるんだ」

「なんだ?」

父さんは沈痛そうな表情を浮かべる。

俺を見つめるその目は、どこかこれまでの父さんとは違う。

「……俺も、二千年前の戦士だった……」

なに?

父さんが、転生者……?

だが、こうして正面から向き合っていてもまるで魔力を感じられない。

つまり、これまでも、今も、俺の魔眼ですら深淵を覗かせぬほどの隠蔽魔法を使っていたというのか。

それほどの手練れであれば、俺が知らぬ名ではないだろう。

信じられぬが、レイがカノンだったのだ。

可能性としては、ないわけでもあるまい。

「二千年前の名は?」

父さんは影のある表情で言った。

「 滅殺剣王(めっさつけんおう) ガーデラヒプト」

知らぬ。

「アゼシオンじゃこういうのなんて言うか知ってるか?」

父さんは得意気に言う。

「厨二病だ」

ここまでが理滅剣だったのか。