軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

塩の隊商(前編)

75話

俺はアイリアから、海賊都市と名高いベルーザの情報を集められるだけ集めた。

その上で、交渉に必要な材料と人員を整える。

その結果、連れていくメンバーが決まった。

「呼ばれると思っていましたよ」

交易商のマオが、隊商の準備をしながらぼやいている。

「塩の仕入れは、ベルーザじゃなくてロッツォでやっているんですけどね」

「でも岩塩は売りに行ってるんだろ?」

俺が言うと、マオは溜息をついた。

「その通りです。あそこの太守はお得意様ですよ」

旅に必要な細々としたものは、全部彼の商会が整えてくれる。楽なものだ。

俺たちは表向き、岩塩を売りに来た交易商ということにして、ベルーザの太守に会う予定なのだ。

マオが俺をじっと見ている。

「どうした?」

「道中のことは責任持ちますけど、旅費のほうはお願いしますよ?」

「わかっている。お前のとこの人員の分も、ちゃんと出すから。それと道中の警護は任せろ」

人狼のボディガードつきだぞ。良かったな。

そしてマオの横でおろおろしているのが、元・偽聖女様ことラシィだ。

「あの、私も行くんですか?」

「ああ、ラシィの幻術は何かと役立つからな。ついてきてくれ」

ラシィの幻術は広範囲に精密な虚像を展開できるので、魔術慣れしていない人間なら簡単に騙せる。

いざとなれば逃げたり恫喝したりと活用の幅は広いので、用心のためについてきてもらう予定だ。

それにこいつは元老院の職員だった人物だ。魔王軍が元老院関係者を取り込んでいるという事実は、交渉材料として使える。

ただし。

「いいか、単独行動は絶対にするなよ? それと交渉の席では俺が許可するまで黙ってろ」

「は、はい」

コクコクとうなずくラシィ。

「私も自分のこと信用してませんから、絶対にヴァイトさんから離れません! あと黙ってます!」

「そうだ、それでいい。なんかあったら守るから」

「はい!」

能力は抜群なんだが、ちょっと危なっかしいんだよな……。

そして最後が、面倒臭い兄弟子だ。

「なにこれ岩塩? 塩の産地に塩を売りに行くなんて、なかなか面白いね。ふむ、味が違うのかい? どれ味見を」

「パーカーさん、味がわかるんですか?」

「舌がないのにわかるはずがないよね! てへペロ! おっと、だから舌がないんだって! ハッハッハ!」

うぜえ。

ひたすらうぜえ。

見ての通り、武力では全く頼りにならない連中ばかりなので、俺は人狼隊からも二個分隊八人を連れていくことにした。

特筆すべきはガーニー兄弟とモンザだ。

ガーニー兄弟は変身しなくても、かなり腕っ節が強い。人狼に変身するとまずい場面でも、一人前の兵士としての活躍が期待できる。

モンザのほうは、諜報員としての腕前に期待している。暗殺や尾行などを警戒するなら、彼女が一番頼りになる。

「なあ兄ちゃん、ベルーザって海があるらしいぞ」

「そうか。海はでっかい湖みたいなもんで、塩辛いんだ」

「すげえ、兄ちゃんなんでも知ってるな!」

「ああ、だが波がどんどん押し寄せてくるらしいから、ちょっとおっかないな」

「なにそれやべえ。じゃあベルーザって水の中にあるのか」

「いや、そういう訳じゃ……なあヴァイト、ベルーザって水浸しなのか!?」

おいバカ兄弟。

波は引くから心配するな。

本当は交渉に長けた魔族を連れて行きたかったのだが、そういうタイプは各都市の内政に忙しい。

「交渉事なら僕に任せといてくれよ! こう見えても、二枚舌の雄弁家だよ! だから舌はないんだってば!」

馴れ馴れしく肩に寄りかかってくるパーカーを捕まえると、俺は彼を手近な空き箱へ連れて行き、背中をぐいぐい押す。

「おいおい、何をするんだい弟よ」

「バラバラにしたら、箱に入るんじゃないかと思ってな。その方がお互い楽だと思うんだ」

「待ってくれ、僕を箱入り兄貴にするつもりかい!?」

「大事な兄弟子殿を俺だけのものにしておきたいんだ。おい誰か、釘と金槌」

さすがに本当に箱詰めにするのは勘弁してやるが、いざとなったら検討の余地はありそうだ。

パーカーが空き箱にぐったりともたれかかって、俺を見上げている。

「君、入門した頃よりだいぶ性格が悪くなったね……」

「半分ぐらいはあんたのせいだよ!」

こうして俺は隊商に加わって、リューンハイトを出発した。今回は馬での移動だ。

ここから海辺のベルーザまでは、なだらかな山道を歩くことになる。

「海を渡って上陸した我々の祖先たちは、ベルーザを拠点にして北上を開始しました。しかし御覧の通り、この辺りには畑を作れる場所がありませんでした」

マオが馬の背に揺られながら、そんな話をしてくれる。

「祖先たちはさらに北上し、平野部に出て中継拠点となる街を作りました。それがリューンハイトです」

俺がアイリアから聞いた話と、ほぼ同じだ。

ついでなので、俺は市民感情を確かめておく。

「じゃあベルーザとリューンハイトは、親戚同士みたいな感じか」

「そうですね。祖先が同じだけに文化や価値観が似ていて、割と親しみはあります。交易路が不便なので、ちょっと遠くの親戚ですが……」

それなら交渉も楽かもしれないな。

俺はふと気になって、北部のことも聞いておくことにした。

「南部の人間は海を渡ってきたのなら、北部の人間はどこから来たんだ?」

実はアイリアにも同じ質問をしたのだが、彼女はよく知らない様子だった。

マオは北部にも足を運ぶ交易商人だし、知っているかもしれない。

するとマオは少し困ったような顔をして、こう答える。

「それが……よくわからないのですよ」

「でもお前、北部にもよく行くだろう? 彼らの出自の話題とかはしないのか?」

「するんですけどね。人によって、答えがバラバラなんですよ」

マオは肩をすくめてみせた。

「ある人は『土着の先住民だ』と言いますし、ある人は『北壁山脈の彼方で帝国を築いた偉大な民の末裔だ』と言います。別の人は『神に命じられて世界中からここに集められた』とも」

見事にバラバラだな。

おそらくどれかひとつ、あるいは複数が正解なのだろうが、よくわからないな。

いずれにしても、南部の人間とは異なる祖先を持つ人々らしい。

確かにそれでは話が合わなくてもしょうがない。どっちが正しいとかいう単純な問題ではなく、経験してきたものが違うから考え方も違うのだ。

俺が納得して溜息をつくと、マオが俺の顔を見ている。

「ミラルディアという国の危うさを、おわかりいただけますか?」

「わかる。よくわかった。こんなもん、よく統一する気になったな」

するとマオはちょっとだけ嬉しそうに笑った。

「おかしな人ですね、あなたは」

「何がだ」

「魔族の方には、まずわからないだろうと思っていました。でもヴァイト様は少し違うようですね」

前世は人間だったからな。

人狼に転生して気楽に過ごしてきたのに、まさかここで民族対立じみた問題に直面するとは思わなかったぞ。

これはやはり、南部だけ先に攻略してしまうのが得策だな。南部の都市が北部都市を潜在的な敵とみなしているのなら、交渉の余地はありそうだ。

師匠、いや魔王も人間の王族出身だし、事情を話せばすぐに理解してくれるだろう。

だがこれはマオの懸念通り、普通の魔族には理解できない問題だ。

諸将たちにどう説明するか、考えただけで頭が痛いな……。

マオは俺にこの話をするのが気に入ったのか、続けてこんなことも教えてくれた。

「ミラルディア統一戦争に最後までこだわったのは、北部側だったと聞いています。どうしても南部の都市を支配下に置きたかったのだとか」

「それは南部の伝承か?」

「はい」

じゃあ話半分に聞いておいたほうがいいかもしれないな。

マオの説明によると、南部は「いいじゃん、ほっといてくれよ!」と抵抗したのに、北部が「うるせえ、俺たちと同盟を組め!」としつこかったらしい。

結局北部が勝利したので、南部は強引に同盟を組まされてしまったのだという。迷惑な話だ。

しかし俺は北部の連中が特に悪人だとは思えないので、それが本当なら彼らには何か事情があったような気がする。

それも、南部には言えないような事情が。

でも、なんだろうな……。