軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王軍再始動

73話

ようやく体調が戻った俺は、第三師団に合流する兵士の一部を連れて魔都リューンハイトへ帰還する。

別に故郷でもないのに、城門を見ると懐かしい気分になるから不思議だ。

俺もここに結構愛着が湧いてきたらしい。

城門前では、礼装のアイリアが俺たちを出迎えてくれた。魔王軍の各隊の代表、それにリューンハイト衛兵隊もいる。

形状は種族それぞれだが、全員が黒い喪章をつけていた。

胸に黒いコサージュをつけたアイリアが、彼らを代表して俺に敬礼する。

「お帰りなさいませ、ヴァイト殿」

「出迎え感謝する」

アイリアは魔王軍の同盟者なので、魔王フリーデンリヒターの訃報は届いている。

だが彼女は余計なことは何も言わず、穏やかな表情でこう言う。

「御無事なお姿を見られて、心から安堵しました」

「ありがとう。心配をかけたな」

アイリアには心配をかけただけでなく、これから色々と苦労もさせることになりそうだ。

だが魔王崩御のことは、他の人間にはまだ内緒だ。ここでは何も言えない。

衛兵隊員たちはまだ詳細を知らないはずだが、彼らも「重要人物が亡くなった」ということは知っているようだった。

俺は彼らに答礼し、城門をくぐる。

アイリアが一緒に並んで歩きながら、俺の横顔を見てこんなことを言った。

「また少し、男前になられましたね」

「やつれてるだけだよ」

早く元気になって、先王様と新魔王のために頑張らないとな。

久しぶりの執務室は、俺が出立する前と何も変わっていなかった。

掃除は屋敷のメイドたちがしてくれていたらしい。緑茶を煎れて、ほっと一息つく。

新しくやってきた兵たちの受け入れでメレーネ先輩は大忙しのようだが、細かいことは先輩に任せておこう。

なんせ先輩は師団長ですから。

さて、俺は俺の仕事をするか。

ここで俺は改めて、ミラルディア南部の地図を眺めることにする。

現在、北西のベルネハイネンと北東のトゥバーンは安定した状態だ。人馬隊と吸血鬼隊、それに骸骨兵が守っている。

北部からの敵の侵攻は当面なさそうなので、今のうちに南部に味方を増やしておきたいところだな。

するとアイリアが俺に説明してくれた。

「ミラルディア南部には大きく分けて、ふたつの交易ルートがあります」

彼女の指先がミラルディアの南端にある都市・ベルーザを指さした。

「ひとつめは南西ルート。港町ベルーザから北上し、リューンハイト、そしてベルネハイネンへと続きます」

彼女の指が、地図に記された交易路を上へとなぞる。

「これは私たちの祖先が歩んだ道のりと同じですね。私たちの祖先はベルーザに拠点を作って北上し、ベルネハイネンで王国を建設しました」

なるほど。そういえばアラムが、南部の人間は海を渡ってきたと言っていたな。

「もうひとつは南東ルートです。南東部の港町ロッツォから北上し、シャルディール、そしてトゥバーンなどへと続くルートです。こちらはひたすら北上を続けましたが……」

アイリアが声のトーンを落とす。

「そのために北部から南下してきた移民と衝突することになり、これがやがてミラルディア統一戦争の火種になるのです」

ああ、それでシャルディールは北部と険悪なんだな。

アイリアは苦笑しながら、こう続ける。

「ヴァイト殿には、人間のこういった何世代にも渡る因縁は理解しづらいかもしれませんね」

大丈夫。俺も前世は人間だったから。

アイリアは南西の港町ベルーザを指さすと、こんなことを口にした。

「ベルーザは別名を『海賊都市』といいます。ミラルディア同盟の一員という意識は希薄なようですが、南部では最大の街ですよ」

「ほう、どれぐらいの規模だ?」

人口が多ければ、より多くの兵や資源を集められる。

するとアイリアはにっこり笑った。

「市民の人口は二千人ほどです」

「少ないじゃないか……。ん、市民?」

市民以外が多いということなのだろうか。

アイリアはますます楽しげな表情で、俺に言った。

「はい、市民だけなら二千人しかいません」

「それ以外は?」

「一万人以上いるでしょうね」

そんなに?

「市民以外ってのは、何者なんだ」

「市民ですね」

「意味がわからないぞ」

するとアイリアは笑顔で俺に謝った。

「混乱させてすみません。要するに彼らは不法移民です」

「不法移民か……」

偏見かもしれないが、少し厄介な連中だったら困るな。

「そんなに不法移民がいて、その街は大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫ですよ。確かに不法移民ですけど、何代も前から定住していますからね」

うーん……なんだかますます不安になってくるんだが。

なんだかよくわからないが、それだけの人口がいるのなら無視はできない。距離はかなり遠いが、リューンハイトの南隣でもある。

「よし、すぐに交渉にとりかかろう。アイリア殿、交渉を取り持ってくれないか?」

「はい、喜んで」

まだ笑ってるよ、この人。

俺を驚かせられたのが、よっぽど嬉しいらしい。

「とりあえず、もう少し詳しい話を聞かせてもらうぞ。その不法移民ってのは……」

俺がそう言ったとき、執務室に人狼隊のニーベルト、つまりガーニー弟が駆け込んできた。

「ヴァイト、南門に変なヤツが来てる! ありゃ何だ!?」

「何だって、まだ説明も受けてないのに俺にわかるか」

俺が言い返すと、ガーニー弟は慌てて説明した。

「が、骸骨なんだ」

「骸骨兵じゃないのか?」

するとガーニー弟は慌てて首を横に振った。

「いや違う。しゃべってる。今は兄ちゃんが応対してるけど、なんか凄い勢いで話を……」

「どんな話だ?」

「ど、どうでもいい話を」

あ、わかった。

あいつだ。

俺は溜息をついて、手をひらひら振る。

「誰だかわかった……すぐ行く」

ガーニー弟は俺の顔を不思議そうに見ていたが、ハッと我に返ってうなずいた。

「あ、ああ。じゃあ俺、兄ちゃんを助けに行くからな。すぐ来てくれよ!」

俺はゆっくり立ち上がると、のろのろと歩き出した。

あいつと会いたくない……。

俺が重い足取りで南門に向かうと、人狼隊が集まっていた。

そして聞き覚えのある声も、はっきりと聞き取れる。

「君たちは変身前と変身後でも、一口は一口なのかい? じゃあ友達のお菓子を一口もらうときは、人狼になってからの方が得なんだね!」

「お、おう……言われてみれば、確かにそうだな?」

人混みの向こうで、ガーニー兄が困ったような声をあげている。

すぐさま軽薄な男の声が被さった。

「なかなか素直な反応だね! お兄さん嬉しいよ! おっと、君のほうがお兄さんなんだっけ? じゃあ僕は弟だね」

「え? なんでそうなる?」

「なんだ、妹のほうがいいのかな? 困ったね、こう見えても僕は男なんだ。ほら、肌の張りが違うだろう?」

「肌って……」

「おっと、一皮剥けたのを忘れていたよ。どうだいこの美白っぷり!」

「お、おお……うん、白いな」

なんで真面目に相手してるんだ、あいつは。

俺は人狼隊の連中をかき分けて、軽薄な声のするほうへと急ぐ。

いた。やっぱりこいつだ。

羽根飾りのついたおしゃれな帽子に、上品なスーツ。立ち姿も堂々としている。

そして帽子の下にあるのは白い髑髏だ。

「おい、パーカー」

俺が声をかけた瞬間、バネが弾けるような勢いでそいつが振り向いた。

「やあ、ヴァイト! 愛しの弟よ!」

「誰が弟だ!」

周囲がざわめいている。

「あの骸骨、隊長のお兄さんだってよ」

「あんまり似てないな……」

「ていうか、なんで骸骨なんだ」

お前たち、間抜けな会話をしてるんじゃない。

「兄弟の訳があるか。こいつは『迷宮』のパーカー。俺の兄弟子で、元々は人間の死霊術師だ。一応、魔王軍の将でもある」

いきなり疲れた。

パーカーは楽しげにカパカパと髑髏の顎を鳴らして笑う。

「そう! 僕はパーカー! パッカパッカパーカーさ!」

「鬱陶しいからやめろ」

するとパーカーはいきなり落ち込んで、地面にぐるぐると指で渦巻きを描き始めた。

「久しぶりの兄に対して、それはちょっと冷たいんじゃないかな……?」

「だからただの兄弟子で、俺とあんたは他人だろうが!」

本当に鬱陶しい。

だいたいこいつ、今までどこで何してたんだ。