軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

交易都市シャルディール救援作戦(後編)

57話

俺はジェリク隊とウォッド隊に警護されながら、街道から少し離れた丘で戦況をじっと見守っていた。

騎兵三百は、よく見ると確かに重騎兵だ。馬にまで鎧を着せている。

一方、歩兵五百の方は軽装だ。高価なチェインメイルを着ているが、確認できる武器は弓と短槍、それに剣。

「どうも変だな」

俺が呟くと、ジェリクも首を傾げた。

「おかしいぜ、大将。こいつら、まるで『たっぷり金をかけてますよ』と言いたげな格好だ」

「お前もそう思うか」

数としてはシャルディールを攻略できなくもないが、高価な重騎兵をどこで使うつもりなのかが今ひとつわからない。

歩兵もチェインメイルを着てるのはいいが、攻城戦で最も脅威となる弓矢に対しては値段ほどの効果は期待できないような気がする。

戦場慣れしているウォッド爺さんが、のんびりと呟く。

「ちょっとシャルディールをビビらせに来た、というところかのう。よくおるんじゃ、軍勢をちらつかせて交渉したがる輩が」

「なるほどな、しかし贅沢に鉄を……おい大将、あれ!」

ジェリクが俺の肩をつかんだ。

言われるがままに見ると、歩兵が馬車を囲んで行軍している。

分厚い板と鉄板でできたそれは、たぶん護送車だ。

「アラムを拘束することも、視野に入れてるってことか」

本気かただのアピールかはわからないが、こいつらの目的はわかった。

俺は竜玉……つまり信号弾を準備させた。

「連中が湖を迂回する道に入ったら、一気にやるぞ」

「了解、大将」

南下してきたミラルディア軍は、シャルディールの北にある湖につきあたる。

そしてその湖岸に沿って、西回りに進み始めた。

東回りだと兵士はシャルディールに右側面を曝すことになるが、西回りだと左側面を向けることになる。

重騎兵の盾が最大の効果を発揮する角度だ。どうやら警戒はしているらしい。

そのとき、ミラルディア軍の動きが鈍くなった。

シャルディールの城門を包囲している魔王軍に気づいたようだ。

「今だ!」

「おう、大将!」

ジェリクが信号弾を打ち上げる。

攻撃開始の合図だ。

その瞬間、西門に布陣していた蒼鱗騎士団が一斉に方向転換した。

まるでひとつの生き物のように、竜にまたがった竜人たちが隊列を組む。恐ろしい練度だ。

これにミラルディア軍は素早く対応した。さすがにプロは違う。

重騎兵たちが隊列を組み直そうとする。

だが彼らの左側は湖だ。広がることができない。

仕方なく、右側に大きく散開することにしたようだ。横一列に並んで、騎兵槍で突撃する気だろう。

しかし蒼鱗騎士団は、その猶予を与えなかった。

まだ隊列を変更し終わっていない重騎兵隊に、軽快な動きで斬り込んでいく。

二本足の騎竜は突進力に劣るものの、小回りでは軍馬を圧倒的にしのぐ。

しかもその牙や体臭が、騎馬たちに恐怖を呼び起こすのだ。これは馬に鎧を着せたところで無駄だ。

「おお……」

「すげえな」

人狼たちがうなったのもわかる。

戦いは一方的だった。

示威のために長大な騎兵槍を掲げていた重騎兵隊は、隊列を組む前に乱戦状態に突入。

慌てて剣を抜くが、今度は騎馬が恐慌状態になってうまく戦えない。

おまけにバルツェ副官は、重騎兵隊を湖の方に追い込む形で部隊を動かしていた。

騎乗している分、騎兵は多少の水深には耐えられる。だが重騎兵が落馬すれば確実に溺死だ。水には入りたくない。

しかも頼りの騎馬がパニック寸前だ。

このとき、重騎兵隊の統率が完全に乱れた。

とにかくいったん距離を取ろうと、水の中に馬を進める者。

反転して戦う覚悟を決めた者。

シャルディール側に脱出しようとした者。

後続の歩兵側に脱出しようとした者。

戦う覚悟を決めた重騎兵たちの末路は悲惨だった。

「我こそは蒼騎士バルツェ! 武名を汚したくない者は私が相手になろう!」

高らかに名乗りをあげて、バルツェ副官が抜刀する。彼は二刀流の達人だ。

騎乗したまま二本の曲刀を操り、重騎兵たちを斬り捨てる。

軽やかな剣捌きにも関わらず、彼の一撃は恐ろしく重いようだ。重騎兵たちの鎧が刻まれ、叩き潰され、片っ端から落馬していく。

バルツェ副官の周囲だけ、どんどん空馬が増えていた。敵の空白地帯ができている。

普段の穏やかな印象が嘘のような猛将っぷりだ。

だがミラルディア軍も、黙ってやられている訳ではない。

後続の歩兵隊が短槍を構えて、バルツェ副官たちを包囲するように動いてきた。このままだと、湖に追い込まれるのは蒼鱗騎士団のほうだ。

しかしバルツェ副官の采配は、引き際も鮮やかだった。

「反転せよ!」

小回りを最大限に生かして、蒼鱗騎士団はシャルディール側に離脱。包囲される寸前に脱出する。

そして情け容赦なく、今度はシャルディール側に逃げた重騎兵を殲滅にかかった。

これを見て慌てたのが、残った重騎兵隊と歩兵隊だ。

みるみるうちに数を減らしていく友軍を救出するために、隊列を組み直して突撃を開始する。

戦場は湖岸からシャルディールの西城門前へと動きそうだ。俺たちも気づかれないように、後を追うことにしよう。

「移動するぞ」

「おう」

残存する重騎兵は、見たところ百数十騎のようだ。

残りは死傷したり、部隊からはぐれてしまって、今すぐには戦えない。壊滅的な損害だ。

一方、ミラルディアの歩兵五百は無傷なので、敵は歩兵隊を主力にして戦うことにしたらしい。得物が短槍とはいえ、騎兵に対してはちょっと嫌な相手だ。

しかしここで、蹄の音が轟き始めた。

「誇り高き戦士たちよ、我らの祖霊に恥じぬ戦いをみせろ!」

「おおお!」

東門にいた人馬族の五百人が、シャルディールの南側から現れたのだ。矢を射かけながら、敵を求めて突進してくる。

すぐさま蒼鱗騎士団がそれに合流した。

人馬兵たちは馬と違って騎竜を恐れないから、隊列を組むこともできる。合計千騎の軍勢だ。

さすがにこの増援には、歩兵たちも肝を潰したらしい。隊列が乱れ始めた。

二倍の数の騎兵が相手では、もう戦うどころではない。長槍と大盾でガチガチに固めていれば別だが、今の軽装では餌食になるだけだ。

しかも矢まで飛んでくる。

かといって、徒歩では騎馬から逃げ切ることはできない。

このまま殲滅戦になれば、死にものぐるいで抵抗するだろう。

このとき、シャルディールの西門が開いた。

高らかなラッパの音と共に、完全武装した歩兵たちが隊列を組んで出てくる。掲げているのは衛兵隊の軍旗だ。

長槍に大盾、そして密集隊形。スパルタ軍のファランクスのようだ。

数は三百ほどだが、騎兵に対してはかなりの脅威だ。

しかも魔王軍の後背を突く形になる。

「今だ! 同胞を救援しろ!」

人狼の聴覚に、遠くからアラムの声が聞こえてくる。張り切ってるな。

百二十人しかいないはずのシャルディール衛兵隊三百は、ゆっくりと魔王軍に迫り始めた。いいのか、あれ全部出しちゃって。

一方、ミラルディア常備軍の歩兵五百も、再結集した重騎兵に側面を守られる形で隊列を組み直す。

これで形成は魔王軍に不利になった。

「よし、頃合いだな」

俺はジェリクに信号弾を打ち上げるよう命じた。信号弾は伝令より遙かに早いし、確実だ。これはもう手放せないな……。

撤退命令を見た人馬隊と蒼鱗騎士団は、すぐさま戦場を離脱していく。相手の大半は歩兵で、残る騎兵も重装備だから足は遅い。追撃は不可能だ。

砂塵を巻き上げながら、魔王軍はリューンハイトの方角に消えていった。

よし、とりあえずは予定通りだ。

後はアラムに任せよう。