軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フリーデの帰還と長老ヴァイト

外伝27話

俺はミラルディアの使節を狙ったテロを阻止し、黒幕の壊滅に協力してきた。

ロルムンドは魔撃銃が普及しているせいで、敵がどんどん俺を回復させてくれるから楽だった。

任務終了後、帝都に来てくれと執拗にせがむレコーミャ卿に事情を説明し、俺はミラルディア領へと帰還する。

フリーデにバレたら困るんだよ。

ロルムンドとの玄関口になっているクラウヘン市で視察や会談をこなしているうちに、フリーデたちが帰ってきた。

まずは使節団長のクルツェ技術総監から報告を受ける。

「ロルムンドの政情はかなり落ち着いてきたようで、技術開発や組織改変に向ける余力も出てきたようです。今後、かの帝国はますます発展していくと感じました」

「お疲れさまです、クルツェ殿。やはり今後はロルムンドとの関係が非常に重要になってきますね。評議会で検討します」

他にも様々な報告書が提出されており、俺はクラウヘン太守のベルッケンと共にそれらを検討する作業に追われた。

最終的には魔王軍と評議会で政治的、軍事的な評価が行われることになるが、魔王陛下に見せる前にチェックしておくのも副官の仕事だ。

書類をあらかた整理したところで、コンコンとドアがノックされた。

やっぱり来たな……。

「入りなさい」

俺が返事すると、遠慮がちにドアが開く。

予想通り、フリーデだった。

「おと……じゃない、ヴァイト卿!」

「うん」

俺がうなずくと、フリーデは背筋を伸ばして魔王軍式の敬礼をする。

「フリーデ・アインドルフ、ただいま帰参いたしました!」

「お疲れさま」

「それでね、お父さん!」

五秒しかもたなかったか……。

俺は軽く溜息をつき、ベルッケンに頭を下げる。

「しばらく公務を離れてもよろしいでしょうか、ベルッケン殿」

「もちろんですよ。既に書類には全て目を通しましたし、後は書記官に複製を取らせますから、しばらく御休憩ください」

ベルッケン卿が笑顔でそう言ってくれたので、俺はホッとして太守の館の中庭に出る。

「フリーデ、ちょっと背が伸びたか?」

「こんな短い間に伸びる訳ないでしょ……。あ、でも魔撃銃の撃ち方習ってきたよ! 皇帝陛下にも教えてもらった!」

何をやらかしたんだ。

久しぶりに会うフリーデは、ロルムンドでの体験を勢いよくまくしたてた。

どうやらフリーデは、エレオラの姪のミーチャ皇女と親しくなったらしい。

意図した訳ではないが、これは王室外交の始まりになりそうだ。

それはいいのだが。

「あのね、ミーチャってとっても親切でね!」

「ミーチャのお父さんはレコーミャ大公なの! ロルムンドの英雄なんだって!」

「ミーチャの髪、すごく綺麗なんだよ!」

「この香水、ミーチャが似合うよってくれたの!」

ミーチャの話しかしない。

他にもいろいろ学んできたと思うのだが、それは後日聞かせてもらうことにしよう。

話を聞く限り、エレオラの後継者として立派に育っている少女のようだ。

だとすれば、今後もロルムンドは安泰かな?

そこにロルムンド人狼のヨシュアが、人間の姿で走ってくる。ファーンも一緒だ。

「ほら、しっかり走る! 人間の姿でも戦えるようにしておかないと、いざってときに不覚を取るよ!」

「は、はい、副長殿!」

ぜーはーぜーはー息を切らしながら、ヨシュアが走っていく。

ファーンの鍛え方はハードだから、まだ少年のヨシュアには厳しいかもしれないな。

後で様子を見てこよう。

そんなことを思ってふとフリーデを見ると、彼女は俺をじっと見上げていた。

「あの子、誰?」

「ロルムンドの人狼だよ。うちに留学することになったので、人狼隊に体験入隊させてる」

「……お父さん、もしかしてロルムンドに来た?」

感づかれたか。

俺はどうやってごまかそうか考えたが、娘に嘘はつきたくないな。

「詳細は話せないぞ」

「やっぱり来たんだ……」

あからさまにがっかりされてる。フリーデは不満そうに頬を膨らませた。

「お父さん、ちょっと過保護だよ?」

フリーデにしてみれば、親元を離れて頑張っていたのだから当然の反応だろう。修学旅行に親がついてくるのと同じようなものだ。

誤解は解いておくか。

「心配しなくても、帝都には行ってないからな。あくまでも公務だ」

「お仕事だったの?」

「ああ。評議会の秘密任務だ。これ以上は親子でも話せないから勘弁してくれ」

公私の区別はきっちりつけとかないとな。

フリーデはそれを聞いて、小さくうなずく。

「そっか……。じゃあ仕方ないか」

納得して頂けたようで何よりです。

フリーデは俺を見上げて、にっこり笑う。

「お父さんのお仕事中も、私がんばったよ! ちゃんと交流してきたから」

「そうだな」

報告書を読む限り、近衛練兵場の射撃レーンを吹っ飛ばし、近衛兵相手の組み手で三十人抜きして、他にも山ほど武勇伝を作ってきたようだが、とにかく交流はしてきたようだ。

クルツェ技術総監の報告では「フリーデはロルムンド人に非常に良い印象を与えた」とあるし、まあ大丈夫だろう。

俺はフリーデの頭を撫でて、にっこり笑う。

「よく頑張ったな。さすがはフリーデだ」

「えへへ」

「よし、リューンハイトに帰ろうか。お母さんが待ってるぞ」

「うん!」

こうして俺はフリーデたちと共に、魔都リューンハイトに帰還した。

だが帰還するなり、悲しい知らせが俺を待ち受けていた。

「シュワイド爺さんが亡くなったって!?」

リューンハイト新市街にある人狼通りで、俺は長老の死を知らされる。

うちの里には長老格の人狼が数名いたが、この十年余りで少しずつ老衰で亡くなり、現在は二名にまで減っている。

その二名のうち年長のシュワイドという長老が、俺の留守中に亡くなったらしい。

「あんなに元気だったのに、なんで亡くなったんですか?」

俺は信じられない思いで、残る長老格のラガル爺さんに詰め寄る。

ラガル爺さんは椅子に腰掛けたまま、深くうなだれた。

「暴肉腫だよ、ヴァイト。聞いたことがあるだろう」

「あれですか……」

人狼は変身時に肉体を急激に変化させるので、ごく希にそれが命取りになることがある。

老いた人狼が無理に変身すると、腫瘍を生じることがあるのだ。

ラガル爺さんは溜息をついた。

「鍛錬のために狩りに出ようとしたとき、シュワイドの喉に暴肉腫ができた。それっきりだったよ」

なんてことだ。

ラガル爺さんは俺をじっと見つめて、悲しみをたたえた眼差しでこう言う。

「わしも変身して戦うには老いすぎた。戦えぬ人狼では一族を率いることはできん」

「ではそろそろ、新たな長老を選ぶ時期ですか」

「そうだな……だが、条件がある」

「条件?」

実のところ、長老がどうやって選ばれているのか、俺は知らない。

ラガル爺さんは白いひげを撫でて、静かに続けた。

「長老となる人狼は戦いに長け、経験豊富で皆からも慕われており、そして長命種でなければならん」

「長命種?」

初めて聞く言葉だ。

「長命種というのはな、変身を重ねるたびに少しずつ若さを取り戻していく人狼でな。おかげで他の人狼よりもだいぶ長生きできる」

「あ、ウォッド爺さんとかですね」

「そうだな。あいつは長命種の片鱗を感じるな……」

しかしラガル爺さんは首を横に振った。

「だがダメだ。あいつはわしらと歳が変わらん。後継者としては老いすぎとる。そもそもあいつ、長老やりたがらんだろ」

「まあ、そうですかね」

ウォッド爺さんは面倒見の良いおじいちゃんではあるが、群れの意志決定にはあまり関わりたくないようだ。

個人主義で、集団の統率はガラじゃないんだろう。

「それならファーンとモンザでしょう。二人とも明らかに長命種の傾向がありますよ」

見た目の年齢がぜんぜん変わってないからな。

それに二人とも強いし、戦いの経験は豊富だ。

だがラガル爺さんはまた首を横に振った。

「いかんいかん。長老になったらますます嫁入りが遅れそうだ。それにファーンはまだしも、モンザは長老には向いとらんだろう」

確かに。

「というかお前、わざと避けとるんじゃないか?」

お気づきになられましたか。

俺はじりじりと後退しつつ、卑屈な笑みで首を横に振る。

「俺は嫌ですよ? 魔王軍や評議会の仕事がありますし、これ以上何かを背負うのはちょっと……」

「いやお前、『戦いに長け、経験豊富で皆からも慕われており、そして長命種』という条件に全部当てはまっとるだろ?」

一応当てはまってるかもしれないけど、それでも嫌だ。

ラガル爺さんは椅子から立ち上がると、じわじわ俺を追いつめ始めた。

「これからの人狼は、森の中で狩りをする暮らしではない。街の中で人間と共に生きていくのだ。わしら古い人狼では指導者は務まらん」

「今まで務まってきたじゃないですか」

「お前が魔王軍や人間どもに口を利いてくれたからだろうが。実質的に、今のお前はミラルディア人狼の指導者だ」

ラガル爺さんはそう言い、さらに続ける。

「ロルムンドの人狼たちともつながりがあるお前は、ミラルディアの人狼にとって最も重要な人材だ。現にあのヨシュアとかいう若者を、群れに迎えたではないか」

「あれはボルカ婆さんの策略で、エレオラ帝が失脚したときの備えですよ?」

ボルカ婆さんはロルムンドに居場所がなくなったときに備えて、若手の一部をミラルディアに移住させておくつもりだ。

しかしラガル爺さんは納得しない。

「あちらさんの意図なんぞ何でも構わん。群れを大きく強くできるお前こそが、人狼の長に相応しい」

「勘弁してくださいよ」

俺は早いとこ魔王軍を退役して、魔法と魔物の研究をしたいんだ。

人狼の長老になったらそれがますます遠のいてしまう。

とはいえ、ラガル爺さんの気持ちもわかる。

長老の責任は重い。本当に信頼できる者にしか後を託せない。

人狼たちが街の中で快適で安全な生活ができているのも、俺たち人狼隊が奮闘したからだ。

だから人狼隊の隊長である俺を長老にしたいというのは、ごく自然な成り行きだった。

断りづらいな。

ラガル爺さんはすがるような目で俺を見る。

「わしもあと何年、皆の世話をできるかわからん。頼む、人狼の未来を守ってはくれんか……?」

これを断ったら人間じゃないよな。人狼だけど。

俺は覚悟を決めることにした。

「わ、わかりました。次の世代に託すまで、長老の大任をお預かりいたしましょう」

「まことか?」

「はい、先祖と牙に誓って」

俺が真面目な顔でうなずいた瞬間、ラガル爺さんがぴょんとジャンプした。

「よっしゃ! うまくいったぞ、シュワイド!」

「わはは、やったのう!」

え?

今のシュワイド爺さんの声じゃないか?

俺が振り返ると、クローゼットの中からシュワイド爺さんがごそごそ出てくるところだった。

「シュワイド爺さん、死んだはずじゃ……騙しましたね!?」

「知恵を巡らせ、欺き、不意をつき、そして狩りを成し遂げる。これこそが人狼の生き方じゃよ、新長老ヴァイトや」

やられた。

俺が感覚の鈍い人間形態だったとはいえ、隠れていることを全く悟らせないシュワイド爺さんの体術はやはり尋常ではない。

直接戦闘では若い人狼に勝てないが、狩りでは若手を遙かに凌ぐのが長老たちだ。

どうやらまだまだ、長老たちは元気なようだ。

よかったよかった。

それはそれとしてだ。

「こういう方法は感心しませんな」

「だってお前、普通に頼んでも絶対に引き受けんじゃろ?」

けろりと開き直るシュワイド爺さん。これだから人狼は。

ラガル爺さんも笑っている。

「わしらも先代から長老を任されたとき、似たようなもんだったからな。わしなんか首を縦に振るまで、長老総出でボコボコに殴られ続けたぞ。わはははは」

「おお、ありゃ壮観じゃったのう」

やだ暴力的。

俺は人狼たちのことが好きだけど、こういうノリが微妙についていけないんだよな……。

とはいえ、今後のことを考えると人間たちとの折衝に慣れた者が長老をしたほうがいいのは明らかだ。

しょうがない。今まで待ってもらったと思うことにして、ここは引き受けよう。

「言っておきますけど、魔王軍と評議会の仕事が優先ですからね? それと、人狼だけ依怙贔屓はできません」

長老たちは俺の言葉に大きくうなずく。

「それで構わんぞ。元よりお前にそんなあくどさは期待しとらん」

「お前はお前のやり方で、人狼たちを導いていくがいい。わしらはもう古い人狼じゃ、邪魔はせんよ」

好きにやらせてもらえるのはありがたい。

「俺一人だと長老やりづらいんで、補佐をファーンやジェリクに頼んでいいですか?」

「もちろん。長老の決定に異を唱える者などおるまい」

「わしらは後見役に回るからな。お前が良いと思う方法でやれ」

あ、二人とも実質的に引退する気だ。

ずるいぞ。

こうして俺は地域の自治会長を押しつけられるようなノリで、若輩ながら人狼たちの長老をやることになったのだった。

でも自治会長は一年か二年やればいいけど、こっちは一生やらされるのがしんどいな……。