軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

氷壁の帝国へ

外伝17話

魔王軍の軍属技師リュッコは、兎人らしくニンジンをかじりながら首を傾げた。

「で、本当にお前がロムムンドに行くのかよ?」

「うん。ロルムンドにね」

さりげなく訂正するフリーデだが、リュッコは気づいていない様子だった。

彼は小型の魔撃銃を手際よく分解すると、ちょこちょこと細工をしてからまた組み立て直す。

「ほれ、これでお望み通りの出力だ。撃ってみな」

「ありがとう、リュッコさん」

フリーデは拳銃型の魔撃銃を両手で構えると、ドニエスク球技場横の空き地に立てた標的を狙った。

「うりゃ!」

引き金を絞った瞬間、目も眩むような光の奔流が走った。

「うわうわうわ!?」

悲鳴に破壊音が被さり、軽い震動がそれに続く。

おそるおそる目を開けた二人の前には、試写用の標的だったものが散らばっていた。木が焦げる匂いが漂う。

「おいおい、重装歩兵用の大盾がバランバランになってんじゃねーか。鉄板で補強してあるのに一撃でコレかよ。おい、何枚貫通した?」

リュッコが呆れたように言うと、標的にわらわら集まってきた犬人技師たちが元気よく返事をする。

「はい、四枚貫通してまーす!」

「五枚目も割れてます!」

「六枚目に傷入ってます!」

「一枚目と二枚目はバラバラでよくわかりません!」

別の犬人技師がゴーグルを外しながら駆け寄ってきて、そこに表示されていた文字を示した。

「計測結果出ました! ねえリュッコさん、これ見て! すごい!」

それをちらりと見たリュッコが、小さく溜息をつく。

「今の一撃、七・四カイトもあんのかよ。破壊術師が数人集まって全魔力を込めて攻撃したのと同じだから、そりゃ大盾なんかまとめて木っ端微塵になるよなあ」

「やっぱりこれ、ちょっとやりすぎかな……?」

フリーデが尋ねると、リュッコは器用に肩をすくめてみせる。

「戦場で密集陣形にぶちこむのならともかく、普通の撃ち合いでこんな威力はいらねえよ。ちょいと貸してみろ」

リュッコは魔撃銃を受け取ると、工具を取り出していじり始めた。

「出力の上限をこうやって決めて……あ、超過分はどこに逃がせばいいんだ……。しょうがねえ。こっちに流して、ここの容量を増やして……」

てきぱきと部品を交換して、リュッコは魔撃銃をフリーデに返した。

「よっしゃ、これでいい。普段の出力は最小にしとけ。それで〇・二カイト、つまり魔王軍制式魔撃銃の出力になる」

犬人の技師たちが、尻尾を振りながら口を挟む。

「それでも人間ぐらいなら一発で死んじゃうから、気をつけてね」

「有効射程内だと、鎧を着てても頭とか腕とか吹っ飛んじゃうよ」

「ひええ」

フリーデは受け取った魔撃銃をまじまじと見つめて、ぶるっと震えた。

リュッコは工具を片づけると、野菜スティックをぽりぽりかじり始める。

「お前の魔力はヴァイトのヤツほどじゃねえけど、メチャクチャ高いからな。この魔撃拳銃も、武器というよりはお前の体に魔力を貯め込み過ぎないための逃し弁みたいなもんだ」

「魔力貯め過ぎると戦神になっちゃうんでしょ? 大丈夫、気をつけるから」

フリーデは魔撃銃をもう一度見つめた後、それをホルスターに納める。

「よし、じゃあ仕上げの試射だよね?」

「その通りだ。やってみな」

「うん」

犬人たちが運んできた新しい大盾を見ながら、フリーデはクイックドロウの態勢になった。

息を整え、フリーデは魔撃拳銃のグリップに触れる。

「いくよ!」

魔撃銃の試射も無事に終わり、フリーデは犬人たちに囲まれながら昼食を摂る。犬人たちが持参したのは鴨ローストのサンドイッチだ。

そしてリュッコがストトトトと地面をストンピングしている。

「だから何でお前ら、肉を挟むんだよ!?」

「えー、肉おいしいよ?」

「オレは野菜の方が好きだって何度言わせんだよ!」

フリーデは違うサンドイッチも見つけて、リュッコに手渡す。

「野菜サンドあったよ、ほら」

「お、なんだ。ちゃんと用意してんじゃねえか。いやまあ、肉が食えねえ訳じゃねえけどよ。やっぱ野菜だろ、野菜」

いそいそとフリーデの横に座り込み、両手でサンドイッチをしっかりつかんでムシャムシャ食べるリュッコ。

二人の話題は自然と、ロルムンド留学の件になる。

「あっちに行ったら、皇帝のエレオラには気をつけろよ。策士だからな。妙なところが抜けてるけどな」

「ふーん」

「それとあいつ、魔術師としても技術者としてもなかなかのもんだ。まあオレほどじゃねーけどな」

「なんか……あんまり凄くなさそうなんだけど」

ふふっとフリーデが笑うと、リュッコは食べかけのサンドイッチを手にしたまま鼻をフスフスと鳴らした。

「凄いヤツなんだからな! まあヴァイトほどじゃねーけどな」

「うーん……」

エレオラという人物がわかったような、余計にわからなくなったような、そんな気分になるフリーデだった。

それからしばらくして、フリーデたち三人はロルムンドへの使節団に参加することになった。

魔術師や研究者、それに学生たちが、北端の都市クラウヘンへと集まってくる。

フリーデたちも開拓都市ドニエスクを後にして、護衛の人狼隊と共に採掘都市クラウヘンへと向かう。

第一回目ということもあり、今回は使節団長に魔王軍の技術総監であるクルツェが選ばれた。シリンの伯父であり、ヴァイトの古くからの同僚でもある。

「我々の使命は、ロルムンドとの外交を円滑にすることです」

竜人族特有の落ち着いた口調で、クルツェが出発前の訓辞を始める。

「ですが我々は外交官ではありませんし、外交官のような専門知識はありません。我々は技術者や研究者として正しく行動していれば、それで十分なのです。つまり……」

コホンと咳払いをするクルツェ。

「ロルムンドの最先端の学問に早く触れたいものですな、諸君」

皆が一様にニヤリと笑い、小さくうなずいた。

神聖ロルムンド帝国。

国土面積はミラルディア連邦と同じぐらいだと考えられているが、人口は遙かに多い。そのほぼ全てが人間だ。

「山深く冷涼なロルムンドでは、耕作に適した土地が少ない。そのため過去には農地を求め、ミラルディアへの侵攻を画策したこともあった」

クルツェ技術総監の言葉を聞きながら、フリーデは自分の記憶を確かめる。

歴史はあまり得意ではないが、どうやら記憶はだいたい合っていたようだ。

クルツェ技術総監はロルムンドの街道を走る馬車の中で、フリーデたちに語り続ける。

「君の父上であるヴァイト殿は、この侵攻を阻止した。侵略軍の指揮官エレオラ皇女にリューンハイト防衛戦で勝利し、彼女を捕虜にしたのだよ」

「それってつまり、今の皇帝陛下ですよね?」

「そうだよ」

クルツェがうなずいたので、フリーデは改めて溜息をついた。

「お父さん、手柄立て過ぎじゃない……?」

それを聞いたクルツェが、ククッと笑う。

「たった一人を除いて、誰もがそう思っている」

「誰ですか?」

「ヴァイト殿本人だよ。困ったものだ」

クルツェは窓の外を眺めながら、こう続ける。

「ヴァイト殿はその後、エレオラ皇女を親ミラルディアの傀儡にした。彼はロルムンドの宮廷で派手に暴れて、最終的にはエレオラ皇女を帝位に就けたのだ」

「伯父上、『派手に』とは?」

この辺りは授業でもあまり深く学んでいないので、優等生のシリンが質問してきた。

クルツェは眼鏡のレンズを拭きながら、軽く首を傾げる。

「私も報告書で読んだだけなので、ごく簡単なことしか知らない。ただこちらでは、ヴァイト殿は『決闘卿』だの『紅雪将軍』だの呼ばれているそうだよ」

「お父さん、いくつあだ名を持ってるの……?」

フリーデが呆れる。

クルツェは皇帝バハーゾフ四世の崩御、皇弟ドニエスク家の反乱、そして異端者ボリシェヴィキ公の陰謀などを簡単に説明した。初等科の授業でも習った内容だ。

それから彼は最後に、こう締めくくる。

「詳しい話はロルムンドの人間たちに聞いた方が正確だろう」

フリーデは思わず呟いた。

「そうします。でも、なんか色々ありそうで嫌だなあ……」

馬車の列はゴトゴト揺れながら、フリーデたちを乗せて帝都へと向かう。

かつて帝都シュヴェーリンと呼ばれていたそこは、今は帝都オリガニアと名を改めていた。