軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

288話

俺たちはイズシたちの集落に戻ったが、各集落の世話役を集めた猫人族との交渉は難航した。

「アソン様の秘宝は、猫人族の存在意義そのものですからな~」

緊張感のない声だが真剣な表情で黒い猫人が言うと、三毛の猫人がうなずく。

「そうなの。あの秘宝を守ることが、私たちの使命ですもの。アソン様が人間だったとはいえ、今の人間たちに引き渡せないわ」

まあそうだよな。

それにもうひとつ、もっと切実な理由がある。

イズシはそれを単刀直入にズバリと言った。

「アソン様の秘宝がなくなっちゃうと、ボクたちの生活が困っちゃうしねえ。ワの人たちは、ボクたちの生活の面倒みてくれる?」

「どうだろうな……」

絶対ないと思うが、俺は曖昧な返答でお茶を濁す。

仕方ないので、俺は要求をトーンダウンさせることにする。

「あの秘宝、いつ爆発してもおかしくない状態だ。今ミラルディアから優秀な魔術師たちを呼び集めているから、とりあえず調査だけでもさせてくれないか?」

「まあ、それぐらいなら……」

猫人たちは顔を見合わせる。

ここに秘宝を置いた後、アソンは魔法道具専門の魔術師を探しに旅立ったはずだ。しかし彼は戻ってこなかった。

だから猫人たちも、この秘宝に調査の必要があることはわかっている。

わかってはいるのだが、彼らには抵抗感が強いようだ。

「せっかく今まで、人間たちともうまく折り合いをつけて暮らしてきたのになあ」

茶虎の猫人が未練たらたらの口調で言うと、一同もうんうんとうなずいた。

「このままずーっと、今の生活が続けられると思ってたよねえ」

「できればそれがいいよねえ」

働かなくていいもんな。

俺だって立場が同じなら、同じ気持ちになるだろう。

イズシが俺の顔をチラリと見る。

「もう千年ぐらいずっと危険はなかったんだから、あと千年ぐらいはどうにかならない? 千年が無理なら百年でもいいよ。ボクが死んだ後はどっちでもいいし」

正直な意見ありがとう。そこまで素直に言えるのは、むしろ尊敬に値する。

ただもちろん、「千年間無事だったから、あと千年間」というのは無理だ。

そういう心理になるのはわかるが、あれはもって十年というところだろう。

「俺は何も、猫人族から秘宝や生活を奪おうというのではない。ただ魔術師として、あれはもう危険な状態だと言っているのだ」

猫人たちには魔術師はいない。昔は結構いたらしいが、もう必要ないのでみんな魔術を学ぶのをやめてしまった。

だから今、この危機感を理解できる猫人は一人もいない。

案の定、みんな渋い顔をしている。

「うーん……なんとかならんかな~」

「そうだよねえ、働きたくないよねえ」

イズシが素直すぎる意見を言い、みんなそれに真顔でうなずいている。

気持ちはすごくわかるが、こんな正直な人たちを死なせたくない。

どうやって説得しようかと迷っていると、泥だらけの猫人が集会所に駆け込んできた。

「たたた大変だ! オハジさん、俺たちの集落が一大事だよ!」

「おや、チクナじゃないか? どうかしたの?」

黒い猫人が慌てて振り向くと、泥だらけの猫人が叫ぶ。

「怪物が集落を襲ってるんだ!」

なんだと?

隣の集落から駆けつけた猫人の話によると、不気味な姿の怪物が集落の食料庫を襲撃したという。

「虎みたいだけど、羽があったんだ。それにしっぽが蛇で……」

「ヌエか」

猫人たちが険しい顔をしている。

どうやらこちらでも、キメラ型のモンスターは「鵺」で伝わっているらしい。

幸い、猫人たちに死傷者は出ていないようだ。ヌエは食料を喰い散らかすと、どこかに去っていったという。

俺はただちに自分の任務を思い出した。

「家畜の盗難事件と関係ありそうだな。ジェリク隊、戦闘準備!」

「おう、大将! といっても、俺とゲオルしかいないぜ?」

「そうだった」

残りの二人は急使として都に戻したんだった。

そのうち戻ってくるだろうが、今は俺と二人の仲間でなんとかするしかない。

ただちに俺たちは変身すると、荒野を駆け抜けて隣の集落に到着した。

隣の集落の荒らされた食料庫でヌエの匂いを拾い、がんばって覚える。

実は俺、人間以外の匂いについては、他の人狼ほど敏感じゃない。脳にインストールされているOSが人間だからだろう。

「確かに虎っぽいが、よくわからん。ジェリク、ゲオル、頼んだ」

「任せときな、大将」

「これなら覚えましたよ、隊長」

頼りにしてます。

俺たち、というかジェリクたちが臭跡をたどっていくと、その先は秘宝のある森だった。

「厄介な場所に逃げ込まれましたね」

ゲオルが渋い顔をする。虎がベースになっている魔物の場合、森は絶好の狩り場だ。

こちらも森は得意とする場所だが、土地勘がないぶん不利になる。

だが俺は笑ってゲオルの肩を叩いた。

「目撃されているヌエは一匹だ。こっちは三人いる。負けやしないさ」

「それにその一人は、人狼最強の英雄ときたもんだ。なあ大将?」

ジェリクがウィンクしたが、あまり期待されると胸がドキドキしてくるのでやめてほしい。

信頼されるのって嬉しい反面、結構な重荷なんだよな。

ともあれ変身した俺たちは森に踏み込み、慎重に進むことにする。

その頃には猫人たちの間でも情報が伝わっていて、あちこちの集落から武装した猫人たちが集まってきていた。

「山狩りだ!」

「いやでも森だよね?」

「森狩りだ!」

「なんか迫力が出ないなー」

大きな鎌や鉈を担いでニャーニャー言っている猫人たちだが、どうやら武力という点でも全くアテにならなさそうだ。

小柄なのは仕方ないとしても、鎌を持つ手つきひとつとっても、武芸を嗜んでいる者のそれではない。

他種族のいない場所でのんびり暮らしていたせいで、戦う力もすっかり衰えている様子だった。

まあもともと、猫人が百人集まっても人狼一人に勝てるかどうか怪しい。ここは俺たちで何とかしよう。

「ジェリクとゲオルは組になって行動しろ。ヤツを追い立ててくれ。俺が仕留める」

「また大将、一番危ない役目かよ?」

「そうすりゃ誰も死なずに済みそうだろ?」

一番強いからこそ、一番危険な場所で戦う。それが強い魔族の常識だ。

俺はジェリクたちと分かれて、単身で森の奥へと潜り込む。

魔法で知覚を強化しているので、今の俺ならヌエの匂いもはっきりとわかった。森の暗闇に、ヤツの獣臭い匂いが帯のように続いている。

匂いが濃くなってきた。近づいてきたせいもあるが、ヌエが動きを止めているようだ。同じ場所に長く留まれば、匂いはそれだけ明確に残る。

俺は風下で待ち伏せに使えそうな岩場を探し、そこに身を潜めることにした。

ジェリクたちは風上から、わざと匂いを振りまきながらヌエに接近していく。人狼の匂いは猛獣の匂いだから、ヌエも警戒するだろう。

俺は風下にいるので、双方の匂いがログのように流れてくる。

よし、ヌエが反転した。こっちに来るぞ。

俺は戦闘用の強化魔法を準備した。効果時間が短いから、なるべく直前に使いたいのだ。

俺が準備を整えるとほぼ同時に、暗闇からヌッと巨体が姿を現した。

でかい。

虎のサイズじゃない。

確かに外見は虎に近いが、これはもう象のサイズだ。

そして闇よりも深い、漆黒の翼。シュルシュルという蛇の威嚇音のようなものまで聞こえてくる。

次の瞬間、そいつは俺めがけて猛然と襲いかかってきた。

待ち伏せに気づかれてしまったようだ。やっぱり俺は、人狼の狩人としては二流のようだ。

「来い!」

そんな自分を奮い立たせるため、俺は叫ぶ。

魔力の総量で見れば勇者とは比較にならないし、サイズだって島蛸よりは小さい。倒せるはずだ。

「ウオオオオォ!」

魔の咆哮「ソウルシェイカー」を放ち、周囲に満ちる濃密な魔力を全てこちら側に引き寄せる。

さすがのヌエも、ソウルシェイカーには相当驚いたようだ。見上げるほどの巨躯が一瞬、硬直した。

だがさすがに、失神させるほどではなかったようだ。

なら直接叩き潰すまでだ。

「来ないのなら、こちらから行くぞ!」

吼えながら俺は突進した。