軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生者として(後編)

284話

俺はパーカーをとりあえず追い出し、トキタカと二人になる。

「多聞院は、この大鳥居を今後どうなさるおつもりですか?」

「残念ですが、我々は魔法装置の修復技術を持っていません。平面の魔術紋の書き直しぐらいなら簡単ですが、こうも複雑ですと……」

トキタカは残念そうに巨岩を見上げている。

古王朝時代でも、この立体魔術紋はオーパーツだったに違いない。

魔術紋は回路であると同時に、プログラムでもある。ハードウェアとソフトウェア両面の性質を兼ね備えているだけに、ひどく複雑だ。

それを三次元で立体的に構築するとなれば、もう人間の処理能力を完全に超えている。

いやでも、ゴモヴィロア一門が総出で取りかかれば、案外何とかなるかもしれない。みんな一騎当千の練達ばかりだ。

人間にはない能力を持っている連中ばかりだし、パーカーの言う通り、もしかすると直せるかもしれない。

だがこの装置がもし本当に過去に干渉できるとしたら、恐ろしいことになる。

極端な話、俺や先王様がワに生まれてくるように書き換えられたらどうなるだろうか。

俺がミラルディアやロルムンドで積み重ねてきた苦労が全部消えてしまう。

そもそもミラルディアの国父となった英雄ドラウライト自身が転生者である可能性が高いのだから、ミラルディアそのものが成立していない可能性がある。

アイリアが……あとついでにガーシュやフォルネたちも、生まれてこない可能性が高い。

それだけではない。ゴモヴィロア門下の個性豊かな面々や、魔王軍の頼もしい連中とも出会えないままだ。先王様と出会えるかどうかも怪しい。

俺が「人狼のヴァイト」として今まで積み重ねてきたもの全てが、消えてしまうことになる。

そこまで考えたとき、俺は二度目の人生に意外と愛着が湧いていることに気がついた。

前世だったら、過去をどういじくられても別に構わなかった。

でも今は違う。

どうやら俺は自分が思っていた以上に、転生後の人生を気に入っているらしい。

だから俺は顔を上げて、トキタカに告げる。

「少し考えたいことができました。少し一人にさせてください」

「わかりました。せっかくですから、ここで自由にお過ごしください」

ここがワの最重要機密区画であるにも関わらず、トキタカは気さくにそう言う。そして石段を下りていった。

大鳥居の前で一人になった俺は、巨岩と大鳥居を交互に見上げた。

俺と俺の知る世界のためにも、これはもう起動させないほうがいい。魔族もミラルディアもロルムンドも、やっと良い方向に向かい始めたところだ。

今さら過去を書き換えられても困る。

だがそれは、今後もう二度と転生者が現れないということも意味している。

つまり俺は転生者としては、この異世界に永遠に一人ぼっちになってしまったのだ。

先王様と交わしたような会話は、もう二度とできない。

『魔王様、本当にいつの時代の方なんですか?』

『それは問うなと言ったはずだぞ、ヴァイトよ』

『わかりました。……ところで魔王様は、東京に行かれたことはありますか?』

『うむ、よく行ったものだ。懐かしいな』

『なるほど。東京という地名をご存じということは、転生なさったのは明治維新より後ですね』

『そうやって外堀を埋めていくのはよさぬか』

仕事の合間の他愛もない会話が、やけに遠く思い出される。

俺は仕事にかこつけて、先王様の面影を追って大陸の端まで来た一面もある。転生者の秘密が隠されているこの地に、先王様の手がかりがないかと少し期待していた。

しかしここに残っているのは、壊れたオーパーツだけだ。

そしてこれを修復しないと決めた以上、もう先王様の魂を追うこともできない。

本当に、一人になってしまった。

じんわりと孤独感が押し寄せてくる。

俺はこの世界に現存する唯一の転生者として、これからも生きていくしかない。

ここには他の転生者もいないし、俺を転生させた超越者……つまり神様もいなかった。俺が転生したのは、あくまでも人為的な装置の仕業だ。

せめて神様でもいてくれたら、いろいろ話が聞けたんだけどな。

実はここに来るまで、俺は「ひょっとしたら俺の転生には何か重大な意味があるのではないか」と半分期待、半分びくびくしていた。

こう、「お前は邪悪な存在を倒すために転生させたのだ」とか、「お前の前世の味気なさを憐れんで新しい人生を用意したよ」とか、そういう類のものだ。

でも、そんなものもなかった。

これといって使命もないし、別に前世の補償という訳でもない。俺はタイミングよく、このポンコツマシーンに吸い寄せられただけらしい。

俺の転生には、特に意味なんてなかった。

「となると、だ」

俺は独り言をつぶやいて、巨岩の表面を撫でる。ひんやりして気持ちいい。

俺はどうやら、これからも好きなように生きていいらしい。

前世についてはもう孤立無援に近い状態だが、その代わり前世についてのしがらみも一切ない。

「結局、俺は俺のままか」

魔王の副官として、これからも今まで通りにやっていくしかないようだ。

そう考えると気楽でもある。

ただますます俺の立場は複雑になってしまった。

ワの国についてはとりあえず転生させてもらった借りもあるし、なるべく協力しようと思う。あのまま死んでたら、こんな楽しい毎日は味わえなかった。

それに他の転生者の多くはワの発展に尽力したのだから、俺も可能な範囲で手伝おう。そうでないと前の人たちに悪い。

ああしかし、先王様にもう会えそうにないのが寂しいな。

ほんと、勝手に死なないでくださいよ。

あなたは俺の理想の上司であり、人生の先輩であり、後はまあ……その、理想の……父親……というか、なんというか。

もうちょっとでいいから、一緒に色々やってみたかったなあ。

俺はしばらく巨岩を撫でていたが、ゆっくり立ち上がった。

さて、感慨に耽る時間もそろそろ終わりだ。やるべきことは山のようにあるし、やりたいこともそれなりにある。

俺は大鳥居にぺこりと一礼して、心の中で先王様に告げる。

俺はこれからも魔王の副官として、地味にこの世界のお役に立ってみせます。安心してください。

だからどうか。

どこかでまた転生して、今度こそ平和な人生を送ってくださいね。

そしてまたいつか、きっと会いましょう。

俺はマントを翻すと、どうせ近くで俺の様子をうかがっているであろうトキタカに告げる。

「そろそろ参りましょう。なすべきことはまだまだありますから」

俺はもう後ろは振り向かなかった。