軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

虜囚の皇帝

250話

街の中は見渡す限り、骸骨兵だらけだ。

市民の多くは家の中に閉じこもるか、輝陽教の神殿に避難しているようだった。

たまに薪やトンカチを振り回して半狂乱で戦っている市民がいるが、骸骨兵たちはやる気なさげに盾でカンカン弾いている。骸骨兵側は一切反撃していない。

ちょっと心配していたけど、あの様子なら大丈夫そうだな。

俺たちは狙撃を警戒し、民家の屋根を伝って走っていく。

敵は狙撃兵といっても、しょせんはクロスボウや単発式魔撃銃。広い範囲を射程に収めている訳ではない。

基本的に主要な道路を押さえるように配置されているはずだから、それを無視して屋根を走っていく。

とはいえ、たまに狙撃は受ける。

「わっ!?」

俺と一緒に走っていたモンザの近くの空間を、魔撃銃の光弾が引き裂いていった。

かすりもしていないが、狙われたのはモンザで間違いない。

光弾は尾を曳くので、どこから飛んできたかは一目瞭然だ。

T字路の角、石造りの三階建。そこの三階の部屋から撃ってきた。

魔撃銃の射程を考えると、絶好の狙撃ポイントだ。真下の通路を通る敵を撃ちまくれる。

「あは、いいねえ」

モンザは近くの屋根の陰に滑り込むと、即座に狙撃用の魔撃銃を構えた。

繊細な造りの銃身をそっと抱き抱え、窓に動く影めがけて発射する。

「ぐっ!?」

ほとんど照準に時間を費やさなかったにも関わらず、命中したようだ。

狙撃兵のいた窓が静かになる。

「おい、応戦しなくてもよかったんだぞ」

「やー……つい、ね……」

頭を掻くモンザ。まあいいか。

狙撃兵なんか無視するつもりだったが、幼なじみを狙われたことで俺も少しいらついていたところだ。

ちょうどいい、調べたいことを調べておこう。

「モンザ隊、あの部屋を制圧するぞ。他の隊は周囲を警戒しろ」

魔撃銃は射程が短いから、敵の狙撃手同士がお互いをカバーする戦い方は難しい。

でも一応、それも警戒しておく。

俺とモンザ隊は屋根に伏せ、大通りを飛び越えて目標の建物の屋上に着地する。

後は簡単だ。

俺たちは屋上から飛び降り、三階の窓を突き破って室内に突入する。

動いている敵はいない。どうやら敵は観測手や護衛は置かず、単独だったようだ。

室内には男が一人倒れていた。平服を着ている。

一見すると市民だが、市民が魔撃銃なんて最先端の軍事兵器を持っているはずがない。

俺は自分専用の魔撃銃「襲牙」を構えていたが、無駄骨だったらしいので軽く溜息をついた。

「指揮官になると、自分で魔撃銃を撃つ機会がないな……」

「隊長、冬にガトリングどかどか撃ってたよね?」

すかさずモンザに指摘されるが、あのときは必死で細かいことを覚えてないんだ。

魔撃銃は純粋魔力を発射する武器だから、魔力操作のコツを練習するちょうどいい機会なんだが……。

まあいい、敵が撃ってくるのを吸収して練習しよう。

「さて、こいつの魔撃銃は、どこの誰が持っていたものかな?」

俺は死体から魔撃銃を拝借する。

魔撃銃は恐ろしく高価だから、帝室所有のものには刻印と通し番号が打たれている。

「この刻印、近衛魔撃連隊の銃だな」

「あれ、じゃあ敵はアシュレイ皇帝?」

モンザが首を傾げるが、俺はそれを否定した。

「可能性からいえば、ボリシェヴィキ公が近衛連隊の武器庫から盗み出したと考えるほうが現実的だろうな。あそこには予備がたくさんある」

それに彼には、ディリエ皇女という強力な仲間がいる。

近衛兵に守られている彼女なら、近衛兵の武器庫ぐらいどうにでもできるだろう。

「魔撃銃は購入すれば必ずアシがつく。ドニエスク側にも購入記録が見つからなかったから、おかしいと思っていたんだが……」

確かに計画直前に現地調達すれば、記録からはバレないな。

なかなか大胆にして繊細なプランだ。

「この調子だと、宮殿や帝室関連の施設はボリシェヴィキ公の手に落ちているとみていいだろう」

俺は人狼隊を宮殿の東塔に集めるつもりだったが、魔撃銃を持った連中がうろうろしているとなると話は別だ。

俺は人狼隊をいったん集め、エレオラ邸に立てこもらせることにした。あそこはパーカーの骸骨兵が警備しているから、そうそう簡単に手出しはできないはずだ。

ただもちろん、異論は出る。

「いくら魔撃銃が効かないからって、隊長一人で行かせる訳にはいきませんよ!?」

「他の武器をくらったら、ヴァイトくんだって怪我するんだからね!」

「わかってる。護衛にモンザ隊とハマーム隊を連れていく。東塔周辺に展開して、待ち伏せを警戒してくれ」

塔に乗り込むのは俺一人でいい。

俺には魔撃銃は通用しないし、「矢避け」の術も使える。塔の中は狭いから、人狼が大勢入っても戦えない。

俺はそう言って強引に皆を説得すると、宮殿の東塔へと向かった。

宮殿の敷地は広い庭園を鉄柵で囲っていて、骸骨兵たちはその中にまで入り込んでいる。

宮殿の建物の中ではひきつった顔の近衛兵たちが槍や魔撃銃を構えているが、どうやら応戦するだけの余力はなさそうだ。

あの近衛兵が本物かどうかは俺にはわからないが、少なくとも人狼の格好で乗り込む以上は歓迎されないだろうな。

とはいえ、ここで変身を解くのも怖い。ボリシェヴィキ公がどんな罠を仕掛けているか、わかったもんじゃない。

俺たちは警備の隙をついて……つまり近衛兵を何人か気絶させて、こっそりと庭園に忍び込んだ。

噴水の向こうに、東塔が見える。

「皇帝がいたら身柄を保護してエレオラ邸に逃げ込もう。ハマーム隊、退路の確保を頼む」

「了解しました、副官」

「モンザ隊は俺の命令があれば、俺に接近してくる全ての人間を排除しろ。相手が武装していた場合、殺傷を許可する」

「あは、やったあ!」

本当に嬉しそうで何よりです。

「じゃあ俺はちょっと行ってくる」

塔は五階建てで、中身はほとんどが時計回りの螺旋階段のはずだ。

登る側は常に右側面から攻撃を受けるので、剣を振るいにくく盾も使えない。人狼には関係ないが、階段で戦うのは鬱陶しいな。

とりあえず飛ぶか。

俺は強化魔法で脚力を強化し、夜陰に乗じて一気に駆け込む。

そして石畳をまっぷたつに割って、思いっきりジャンプした。

待ち伏せを警戒して早めに飛んだので、俺は塔の二階の壁に命中した。塔の外壁は敵兵が登ることを防ぐため、出っ張りがほとんどない。

しかし人狼の爪は石の継ぎ目にしっかり食い込み、十分な手掛かりを与えてくれる。忍者になった気分だ。

ひょいひょいひょいと登って、五階の窓の鉄格子を蹴破る。

蹴破る瞬間だけ「消音」の魔法を使ったので、鉄格子は音もなく壊れた。

塔の最上階の部屋は、上に続く階段がないせいか割と広かった。

「なっ!?」

皇帝アシュレイがイスに座って難しい顔をしていたが、俺は彼が警戒しないよう、即座に変身を解く。

「ヴァイト殿?」

だから声出さないでってば。

俺はアシュレイ帝の前に膝をつき、恭順の礼をとって敵意がないことを示した。人狼に変身してたせいで上半身裸だけど、緊急時なので大目に見てもらおう。

「陛下、お助けに参りました」

「ヴァイト殿、あなたはエレオラ殿と共に北部の反乱鎮圧で留守のはずでは? それに今の姿はいったい?」

「詳しい話は後です」

俺がそう言った瞬間、部屋のドアが開いて巡礼姿の男が入ってきた。

「何事ですか、陛下……あっ!?」

そいつが抜き身の剣を手にしていたので、俺は人狼に変身して蹴り飛ばした。ドアに叩きつけられ、男が失神する。

「上で物音がしたぞ!」

「まさか陛下が!?」

階段の下から声が聞こえてくる。

こりゃ結構いるな。

俺は急いでドアを閉め、内側から鍵をかけた。

「陛下、ひとまず安全な場所に御案内いたします」

俺が人狼の手を差し出すと、アシュレイ帝は若干怯えつつも小さくうなずく。

「……あなたにお任せします」

「では失礼」

俺は皇帝をお姫様だっこで抱えると、窓の外へ身を躍らせた。