軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人狼猟兵

231話

俺はザナワー大司祭に礼を言うと、トゥラーヤ枢機卿への紹介状を持って一度エレオラ邸に戻った。

ウィロン大書院へは片道で半日かかるし、事前に面会予約を取っておく必要もある。今日はもう店じまいだ。

そして帰った俺は、異様な光景を目の当たりにする。

「よっしゃ、あのアホ兄弟の魔撃銃ならこんなもんだろ。ジェリク、お前の銃はどうする?」

「威力より堅牢性と整備性だな。いつでも必ずきちんと作動するように頼むぜ」

「おう、いい心がけだ」

兎人のリュッコが机に仁王立ちになり、製図用の紙に凄い勢いで図面を引いている。助手はジェリクだ。

「お前たち、何してるんだ?」

俺が訊ねると、リュッコが得意げに鼻をひくつかせた。

「おう、魔撃銃の現地改修をしとこうと思ってな。実戦で不満点がいろいろ出てるから、そいつを片づけちまおう」

するとジェリクが説明する。

「みんなからは『変身したとき撃ちにくい』って意見が多かった。それと『片手撃ちがしたい』ってのも多いんだよ」

「そりゃどういう理由だ?」

俺が首を傾げると、ジェリクが肩をすくめる。

「変身して木の枝からぶら下がりながら、片手で撃ちたいのさ。飛び道具以外警戒しなくていいし、敵がよく見える」

「なるほど」

俺はあくまでも身分を偽装するために魔撃銃を配備したのだが、意外とみんな気に入ってくれたようだ。

「で、後は細かい希望がいろいろ出ててな。見ろよこいつ」

そう言うとリュッコは「アホ兄弟用」と書かれた図面を見せてくれた。

「あいつら狙いが雑だし、力任せに突進するんだろ? だから当てやすくするために絞りを甘くして、至近距離に特化してやった」

ショットガン的な改造か。

確かにガーニー兄弟にはお似合いだ。

でもその「爆炎丸&轟炎丸」って、もしかして魔撃銃の名前か?

俺は少し不安になって設計図を次々に確認したが、みんな本当に好き勝手な要望と名称を出している。

モンザは狙撃仕様の「夜露」。射程と精度を向上させたぶん、かなり繊細な武器になってしまった。

ファーンお姉ちゃんは威力重視の「暴れ菊」。一発しか撃てないが対物ライフルとして使える。

ハマームは銃身を切り詰めて小型化し、マントの下に隠せるようにした「虎爪」だ。

だからなんでみんな、勝手に愛称つけてるの?

俺は軽く溜息をつく。

「そんなに勝手に改造したら、互換性や整備性が落ちると思うんだが……」

「大丈夫、俺が責任持って面倒見てやるよ。整備と応急修理はジェリク隊にも教えとくしな。どうだジェリク、この『俺の大将』は」

おい待て。

なんだその名称。

だがリュッコは耳を掻いて、得意げな表情を浮かべている。

「こいつなら百年先でも問題なく動くぞ?」

「そいつは嬉しいぜ。歴史に残るといいな!」

銃の名前は歴史に残さないでください。

リュッコの職人魂が燃えているので止めにくいが、指揮官としては武器の管理の手間が増えるから、素直に喜べないな……。

翌日からリュッコは人狼隊と魔撃大隊の一部を引っ張り込んで、エレオラ派の駐屯地で魔撃銃の大改造を始めた。

「おっしゃ、一挺あがり!」

ラーメンみたいに言うな。

ずらりと並べられた魔撃銃を眺めながら、俺はぼんやりと物思いに耽る。

人狼は魔王軍の特殊部隊だ。人数は少ないし正規戦にはあまり向いていないが、少数での特殊な任務を得意としている。

だとすれば、規格化を押し進めるより各自の好きなように装備をいじらせてやったほうがいいのだろうか。

俺はミリタリーマニアでもなければ戦史研究家でもないので、さっぱりわからん。

ああでも、「猟兵」という概念があったな。

ずらりと並んで銃をぶっ放す戦列歩兵と異なり、分散して戦うことができる歩兵。要するに現代風の歩兵だ。

魔撃銃はまだ十分な散兵戦術ができるほどの性能はないが、人狼の強さで補えば十分にいけるだろう。

分隊長たちからの報告でも、みんなが無意識に散兵戦術を採用していることがわかっている。だいたい二人一組、あるいは四人一組で散開して戦っているようだ。

「……人狼猟兵か」

意図した訳ではないが、響きが猛烈にかっこいいな。俺の中の少年時代がうずいている。

各隊員用にカスタマイズされた魔撃銃を使って、彼らの得意な戦い方を追求してみるか。その結果を見て、正式に採用しよう。

いいな、人狼猟兵。

もっとも今のところ、戦乱の予兆はない。ボリシェヴィキ公が不穏といえば不穏だが、挙兵する動きなどは全く見られない。

当たり前だ。

今のボリシェヴィキ公は北ロルムンドでは裏切り者扱いで、同盟者がいない。

そしてボリシェヴィキ家の兵力は六千。しかも長槍隊だけだ。エレオラ軍だけで軽くひねり潰せる。

俺はそのことについて、エレオラと相談していた。

「ボリシェヴィキ公がどこまで野心を膨らませているかはわからないが、軍事的な方法ではどうしようもないだろう。そのぶん、政治工作を仕掛けてくる可能性はある」

俺の言葉にエレオラもうなずく。

「同意見だ。貴殿の話を聞いた限りだと、彼はアシュレイ皇子に水面下で接近しているようだな。可能な限り監視しておく」

そう言った後、エレオラはふと苦笑した。

「それにしても、ザナワー大司祭とはよほど話が合ったようだな。あの御仁が初対面で紹介状を書いてくれるなど、滅多にないことだよ」

俺は先日のやりとりを思い出し、少し恥ずかしくなる。

「ああいう学者肌の人物とは話が合いやすいだけだ。俺も貴殿も一応、真理の探究者だろう?」

「確かにそうだな」

ザナワー大司祭からもらった紹介状は、さっそく有効活用させてもらう予定だ。

トゥラーヤ枢機卿との面会は数日後。

ロルムンド輝陽教の最高幹部ともなると、各地で説教や儀式などにひっぱりだこで、ゆっくり話す時間がなかなか取れない。紹介状がなければ、おそらく半年は待たされただろう。

エレオラは紹介状の表書きを見て、ふと首を傾げる。

「ザナワー大司祭なら貴殿とは話が合うと思っていたが、そのトゥラーヤ枢機卿というのは知らぬ人物だ。教典庁といえば閑職だしな」

「そうなのか」

「古い教典の管理をしている部署で、口の悪い者たちは『古本屋』だの『虫干し係』だのと呼んでいるそうだよ」

大丈夫か、おい。

俺の不安そうな顔を見て、エレオラはなるべく明るい笑顔を浮かべてくれる。

「心配するな。八人いる枢機卿の中から、ザナワー大司祭がわざわざ選んだ人物だ。一番良い人選なのだろう」

「そう期待しておくよ」

コネ作りだから、できるだけ偉い人がよかったんだけどな……。

そして数日が過ぎ、俺はトゥラーヤ枢機卿を訪問するために帝都を出発する。

明後日が面会予定日だ。一日あればウィロン大書院に着くが、念のためにもう一日早く出る。

「猟兵分隊、整列!」

俺はエレオラ邸の中庭で、人狼隊に号令をかけた。

四人ずつの縦隊が五列、俺の前に整列する。

「すまねーな、まだこんだけしかできてなくて」

リュッコが前掛けにバンダナという出で立ちで、俺を見上げている。

さすがのリュッコでも、魔撃銃の大幅な改造には時間がかかる。一週間足らずで二十挺仕上げてくれたのだから、でたらめなスピードだ。

優秀な助手たちがついていたとはいえ、やっぱりこいつ天才だな……。

だから俺は彼に笑顔を向ける。

「いや、これだけいれば心強い。ありがとうな、リュッコ」

「べっ、別にてめえのためじゃねーし! 職人の意地だからな!」

なんでそんなわかりやすいツンデレみたいになってるんだ。

幸い、モンザ隊とハマーム隊の魔撃銃改良が終わっているので、俺の護衛は十分だ。ファーン隊とジェリク隊、それとスクージ隊も終わっている。

「ヴァイト兄ちゃん、見てよオレの銃! 弟たちのもスゴいんだから!」

「わかった、わかったから」

スクージ隊は四人兄弟の分隊で、全員が十代半ばの少年兵だ。

危なっかしいし、人狼の子供は里の宝だから、俺はなるべく彼らを前線に出さないようにしている。

「なあリュッコ、なんでこいつらの魔撃銃から先に改造したんだ」

俺がそっと苦情をささやくと、リュッコは頭を掻いた。

「お前な。武器の改造って聞いて、あのクソガキどもがおとなしくしてると思ったのか?」

「その様子だと、だいぶせっつかれたのか」

リュッコは溜息混じりにうなずいた。

「ああ。人狼四人が変身して『改造してよ! 俺の銃早く改造してよ!』って叫ぶんだぞ? 食われるかと思った」

「そいつは……申し訳ない」

後でよく言い聞かせておきます。

するとリュッコはもう一度溜息をついて、器用に肩をすくめてみせた。

「しょうがねえさ。男の子ってのは、そういうもんだろ?」

まあな。

俺も自分の魔撃銃をスリングで肩にかけ、出発の用意をする。

リュッコは真っ先に俺の銃を改造してくれたので、俺の銃には謎の切り替えレバーがついている。

星印が一個と、三個。どちらかを選べるようになっていた。

切り替えると何が起きるか、見た瞬間にだいたい予想できた。

その後でリュッコの説明を聞いたら、予想通りだった。

「さて、この『襲牙』を使わずに済むといいんだが」

「なんだよ、お前もしっかり愛称つけてんじゃねえか」

「うるさいな」

「それになんだよ、その変な名前」

「大きなお世話だ」

前世でネトゲしてた頃のキャラネームだよ。

あのときはみんな俺のこと、「シュガーさん」って呼んでたけどな……。

リュッコは俺の周りをぴょんぴょん跳ねながら、執拗に絡んでくる。

「もっとこう、『バリバリドッカン丸』とか、『ズバババビギューン号』とか、イカした名前にしろよ」

「絶対に断る」

俺は未だにこの世界の色んなセンスについていけてない。

そこにパーカーが旅装で現れた。狐狩りに出かける貴族みたいな格好だ。

「遅れてごめん。魔撃銃を新調してもらったから、僕も火力として期待していいよ」

「おう、オレ特製の『ズドムボッコ銃』ならパーカーの魔力にも耐えられるはずさ」

リュッコがさりげなく自分の考案した名前を押しつけてくるが、パーカーは笑顔のまま馬にまたがった。

「ありがとう、僕専用の『悔恨』は一撃必殺だよ。本職の魔術師だからね」

「おい、『ズドムボッコ銃』にしとけって!」

「あっみてみて! 肋骨の中に隠せそうだよ! ほら!」

またかみ合わないコントが始まったぞ。

さっさと出発してしまおう。