軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ややこしい兄弟たち

227話

俺はまた、ロルムンド領へと戻ってきた。

エレオラの城に必要な物資などをいったん置き、クラウヘンから借りたミラルディアの文官たちを数名ここに駐在させる。彼らは評議会への連絡員だ。

それから俺は人狼隊とリュッコを連れて、帝都へと向かった。

「おい、さみーよ。なんだこれシャレになんねーよ」

馬車の中でリュッコがガタガタ震えている。

俺は少し考え、こう説明した。

「大きな生き物のほうが寒さに強いんだ。身長が二倍になると、体表面は四倍にしかならないが、体積は八倍になるからな」

要するに大鍋が冷めにくいのと同じ理屈だ。

「そんな理屈聞いてねーんだよ! でもそれ勉強になるな……さすがヴァイト、兄弟子だぜ」

ガタガタ震えながらメモを取るリュッコ。

俺は近くの街で買った子供用のコートをリュッコに着せてやりながら、今後のことを説明する。

「とりあえず政治や外交のことは俺がやるから、お前には魔撃銃をはじめとする魔法技術のことを頼みたい」

「おう、任せときな」

「それと、もうひとつある」

「なんだ?」

もこもこのフードをかぶったリュッコが首を傾げたので、俺は彼にもうひとつの任務を与えた。

「この土地の伝承や歴史を調べて、ミラルディアに持ち帰るんだ」

「いいけど、それって何のためだ?」

「ミラルディアの歴史は元老院が隠蔽してしまったものが多い。いろいろ抜けてるんだ」

俺がずっと気になっていることについても、何もわからなかった。

俺が気になっていること。

ひとつは「勇者と魔王」、そしてもうひとつが「転生者」だ。

ロルムンドには古い文献が残っているはずだから、これらについて調べたい。

「例えばドラウライト」

「ああ、北部の街だろ」

ミラルディア北部にある山岳都市ドラウライト。

リュッコも名前は知っているようだ。

俺はそれについても、気になっている点を教える。

「実はそのドラウライト、こっちでは勇者の名前として知られている」

奴隷剣士ドラウライト、あるいは反逆の勇者ドラウライト。

ミラルディアへの奴隷の大脱走を導いたのが、ドラウライトという人物らしい。

彼が奴隷たちを大量に脱走させたせいで、ロルムンド元老院は大きく衰退し、やがて共和制は滅んだ。

おかげでロルムンド帝国が誕生できたともいえる。

一方で彼は逃亡奴隷でもある。身分の秩序を乱した大悪人だ。

だからロルムンド帝国にとっては評価が難しい人物で、あまり文献には残っていない。

俺の説明にリュッコはふむふむとうなずき、懐から野菜スティックの小箱を取り出す。

「お前も一服やるか?」

「ああ」

干しゴボウのスティックを一本もらう。

リュッコは干しニンジンのスティックをポリポリ食べながら、遠い目をした。

「確かに勇者のことは警戒しとかなきゃいけねえ……。先王様みたいなことが、うちの師匠にあっちゃいけねえんだ」

「ああ、師匠も無敵じゃない。勇者クラスの巨大な魔力質量と戦えば、おそらく無事では済まないだろう」

そう、そのことも心配している。

それとリュッコには秘密だが、俺は先王様の転生先も追っていた。

転生しているかどうかはわからないが、一度転生しているのだからもう一度転生していてもおかしくはない。

もっともこれは希望的推測なので、可能性が限りなく低いこともわかっている。

わかってはいるんだけどな。

「そういう訳で、カイトの任務を引き継いでくれ。めぼしい情報はあいつが調査してくれてる」

「おう、それなら楽勝だ。てことは、オレの魔法の出番だな?」

リュッコは傍らのリュックサックを引き寄せる。

彼がリュックを開くと、そこに見えたのは巨大な空間だった。

あれが『リュッコのリュック』だ。ミラルディア語ではリュックとは発音しないから、俺が心の中で勝手にそう呼んでいるだけだが。

彼は転移術師で、空間を歪めることができる。

ただし自分の周囲の空間だけだ。

数学を使って座標計算しているのではなく、兎人の本能でやっているだけらしい。

兎人は警戒心が強くて、自分の周囲に気を配っているからな。

リュッコはリュックから真新しい大根を一本取り出すと、シャクシャクかじり始めた。

「ロルムンドのめぼしいブツは、全部オレが回収してやるよ」

「ほどほどに頼む」

外交問題にならない程度にお願いします。

しかしああいうアイテムインベントリみたいな魔法は、ちょっと羨ましいな。

少し手間をかければ重量も減らせるみたいだし、俺なら……。

と思ったが、人狼の魔術師が持ち歩きたいものって着替えぐらいだな。

あまり有効活用できそうになかった。

道中、不審な連中が街道に見え隠れしていたものの、事を荒立てたくないので見逃してやる。

ボリシェヴィキ公あたりの密偵だと思うが、だとすれば捕まえたりすると厄介だ。

人狼隊からも連中を追跡させていたが、帝都に近づく頃には連中の姿が見えなくなっていた。

どうも嫌な感じだ。

そして俺たちは帝都に到着する。

「弟弟子が来るっていうから、とても楽しみにしていたのに!」

パーカーがわざとらしく嘆いている。

「よりにもよって君なのかい、リュッコ!」

「うるせえこの鶏ガラ野郎! あいかわらず痩せてんな、飯食ってるか!?」

「ダメだよ、食事も喉を通らないんだ!」

「喉がないからな!」

ゲラゲラ笑うリュッコを抱き上げ、高い高いしているパーカー。

ゴモヴィロア門下生は問題児だらけだが、特にひどいのがそろってしまった。俺も含めてだが。

まあここならメレーネ先輩に叱られる心配もないので、存分にくだらないコントをやってもらおう。

するとパーカーがリュッコを抱っこしたまま、俺のほうを振り向いた。

「そうそう、大事なことを伝えないと。ボリシェヴィキ公が君に会いたいそうだよ」

「俺に?」

これはまた唐突だな。

パーカーは意味ありげな口調で続ける。

「そう、君にだ。エレオラじゃない」

「ふむ?」

どうやらボリシェヴィキ公、この地味な副官に興味を持ったようだ。

パーカーがこう説明してくれる。

「君は今回の主戦場にはいなかったけど、エレオラ勝利のために不可欠の存在だったからね。特にウォーロイとリューニエの身柄を確保して、ミラルディアに送っている。危険な存在だと思われたんだろう」

「これだけ好き放題やれば無理もないか。よし、会おう」

こちらも彼の真意を知りたいと思っていたところだ。

それにボリシェヴィキ家には、俺もちょっと用事がある。

エレオラに軽く挨拶を済ませた後、俺は帝都にあるボリシェヴィキ邸に赴く。

屋敷のホールに一人の青年が立っていた。屋敷の主がこんな場所にいるはずはないから、ボリシェヴィキ公ではないだろう。

身なりを見た感じ、使用人や家臣ではない。身分が高そうだ。

それに体格と姿勢がいい。現役の軍人っぽいな。

となると……そうか、彼か。

ボリシェヴィキ公の弟、ジョヴツィヤだな。舌を噛みそうな名前なので、覚えるのに苦労した。

俺が近づくと、青年は敵意のこもったまなざしで俺を見つめてきた。

「ようこそ、ボリシェヴィキ邸へ。貴殿がヴァイト卿か」

「その通りだが、貴殿は?」

名前をちゃんと覚えているかどうか不安だし、ここは彼にも名乗ってもらおう。

すると彼は胸を張り、こう名乗る。

「ボリシェヴィキ公の弟にして先代の三男、ジョヴツィヤ・ウォーベルン・ボリシェヴィキだ」

「ヴァイト・グルン・フリーデンリヒターだ」

俺も名乗り返し、軽く会釈する。

だがジョヴツィヤの敵対的な視線はおさまらない。

「我が従兄にして盟友のウォーロイを国外追放した真意、お聞かせ願いたい」

するとホールにいた家令や従僕たちが慌てる。

「ジョヴツィヤ様、お客様に失礼ですぞ」

「若様、ボリシェヴィキ公に叱られますよ」

ジョヴツィヤ視点では、ウォーロイは国外追放されてしまっている。もう会えないし、現在の安否もわからない。

俺がウォーロイの敵ならそもそも国内で彼を処刑しているのだが、ジョヴツィヤはウォーロイのことが心配でしょうがないようだ。

確かに国外追放して、あっちで謀殺すれば波風も立たないしな。

心配したくなる気持ちはわかる。

いい友人を持ったな、ウォーロイ殿。

俺は微笑みながら、ジョヴツィヤにずいっと近寄った。お互いに剣が抜けないほどの距離だ。壁際にいた彼は追いつめられる形になる。

すかさず俺は彼の胸ぐらをつかんだ。

彼が一瞬動揺した隙に、俺は自分の懐から一通の手紙を取り出した。

「私は何も答える気はない」

その代わり、これをあげよう。

封書の「自虐好きの悪友へ」という走り書きを見た瞬間、ジョヴツィヤはハッとした表情になる。

これはウォーロイがジョヴツィヤに宛てた手紙だ。他にも何人かの友人たちに手紙を書いている。

『皆、心配しているだろうからな。これを渡せば安心してくれるはずだ。ついでに貴殿に協力するよう頼んである』

俺はウォーロイの笑顔を思い出す。

ジョヴツィヤは封蝋の刻印を見て、何かを確信したようだ。表情は真剣なままだが、俺に対する視線から敵意が消えた。

「……承知した」

使用人たちに見つからないよう、俺は彼の胸ぐらをつかんだまま、手紙を彼の懐に滑り込ませた。

この手紙が本物であることは見る人が見ればわかるらしいし、これで大丈夫だろう。

俺は彼に微笑みながら、彼の上着の襟元を直してやる。

「失礼した。いずれまたお会いしよう」

俺の言葉にジョヴツィヤはうなずき、無言のまま一礼すると足早に去っていった。

友人からの手紙を早く読みたくて仕方ないらしい。

俺は使用人たちのほうを見て、曖昧な笑みを浮かべる。

「ボリシェヴィキ公はどちらにおいでかな?」

「あ、はい。どうぞこちらに」

俺とジョヴツィヤのやりとりをハラハラしながら見守っていた使用人たちは、ホッとした様子で俺を二階へと案内してくれた。

さて、ジョヴツィヤのお兄さんはどんな人かな?