軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雪砦の攻防(後編)

202話

そのとき、砦の北側から伝令が駆け込んできた。

「北側に敵歩兵! 総数不明ですが、かなりの規模です!」

「攻城兵器は?」

「確認できていません!」

南側には一万以上の兵がいるのに、さらに別働隊を用意していたのか。

こちらの射手がそう多くないと見積もって、火力を分散させて近づく気だな。

伝令の顔がひきつっている。

「現在、第二〇五魔撃大隊が応戦中ですが、弾が足りません!」

あっちは手薄だからな。魔撃兵が一度に撃てる弾数は限られている。魔力切れになったら、彼らはただの役立たずだ。

やむをえん。

「クロスボウ隊、全員北側に回れ! 防壁を乗り越えられた場合に備え、槍隊も五百ほど向かわせろ!」

魔撃兵器と違ってクロスボウは矢が減るから嫌なんだが、そうも言っていられない。

籠城初日で陥落なんてことになったら、エレオラ軍は壊滅だ。

いざとなったら人狼化してでも戦うぞ。

だが最後の切り札を使う前に、もう一枚切り札がある。

俺は南側の指揮を魔撃兵の大隊長たちに任せると、カイトを連れて北側に回った。

さっき伝令を飛ばしたので、人狼隊と共にラシィとパーカーが準備に取り掛かっている。

「準備できてるか!?」

「ばっちりさ」

落ち着き払ったパーカーの簡潔な言葉が、やけに頼もしく聞こえる。

こいつの声が頼もしく思えるときは、だいたい俺に余裕がないときだ。

少し落ち着こう。

俺たちの切り札、魔撃ガトリング砲。

ゴモヴィロア門下の魔法職人リュッコが作り上げた、おそらく世界初の機関銃だ。

「ヴァイトさん、魔力充填できました! いつでも撃てます!」

ラシィが緊張しきった顔でうなずいたので、俺もうなずき返した。

「よし、さっさと片づけちまうぞ!」

砦の北側は深い森になっていて、投石機などは展開できないが歩兵の急襲には弱い。

弓の射程分だけ木は伐っておいたが、それでも暗闇から敵兵が飛び出してくるのはなかなか怖い。

今は魔撃兵たちが応戦しているが、手数が足りていないな。

防壁に取り付いている敵兵がいる。

「クロスボウ隊、防壁に取り付いた敵を排除しろ! 槍隊、白兵戦用意!」

クロスボウは真下に向かって撃つのは苦手だが、魔撃兵器をぶっ放すと小規模だが爆発が起きてしまう。防壁にダメージが入ったら嫌だ。

ガーニー兄弟が顔を真っ赤にして牽引し、ガトリングを雪のトーチカに搬入する。

「そんなに慌てなくていい! それより壊すなよ!」

「お、おお!」

搬入が終わると、俺たち魔術師四人は機銃掃射の準備に取りかかる。

「さて、やるか。カイト、索敵しろ。ラシィは表示だ。パーカーは静かにしてろ」

必要な指示を飛ばすと、三人とも即座に応えてくれる。

カイトが探知魔法を使い、魔力の波をアクティブソナーとして使用する。得られた情報は、魔法を使ってラシィに伝達。

ラシィはそれを幻術にして投影してくれた。敵兵が赤い光点として、手元の地形図に映し出される。

パーカーはいじけていた。

明滅する光と叫び声のせいで、人狼の知覚は役に立たない。ラシィの表示するマーカーだけが頼りだ。

「真北じゃなくて、北西から来ているのか」

俺たちからみて左側が、敵の密度が濃い。

「悪いが死んでもらうぞ」

ガトリング砲の砲身を左に向け、俺はレバーを回そうとした。

動かない。

「おいこれ凍ってるぞ!?」

俺が驚くと、カイトがハッと気づいた。

「潤滑油がミラルディア産ですから……」

一応北部から凍りにくい潤滑油を取り寄せたのだが、それすらロルムンドの酷寒に耐えきれずに凍ってしまったらしい。

「ええい、早くしないと」

するとパーカーが沈黙を破った。

「落ち着くんだ、ヴァイト。火で温めればいい」

しかし俺の代わりにラシィが慌てる。

「でっ、でもパーカーさん、私たち火は作れませんよ!? 松明取ってきます!」

そのとき、パーカーはカタカタと笑った。

「『私たち』に、僕は入っていないんだ。ほら」

パーカーの掌にボッと炎が生まれる。魔法の炎だ。

「パーカー、破壊魔法までマスターしたのか!?」

「初歩の初歩だけどね、エレオラに教えてもらったんだよ。さ、早いとこ温めてしまおう。こいつなら松明より調節も楽だよ」

またこいつに頭が上がらなくなるな。

俺は改めてハンドルを握り、暗闇に砲口を向けた。

「いくぞ!」

通常の魔撃兵器はほとんど発射音がしないが、こいつは砲身が回転するのでかなりうるさい。

歯車の音と共に、光がパパパパパッと連続して発生する。

おお、うまくいったぞ。

光弾全部が曳光弾みたいに光るせいでまぶしくてよく見えないが、カイトが即座に探知魔法を使う。

「命中! 四人倒しました! 五人! 六人!」

全然わからないけど、ちゃんと当たってるのか。

「ヴァイトさん、右に修正! 少し下です!」

「あっ、投影します!」

ラシィが慌てて映像を修正し、地形図の上の光点が立体的に配置された。

俺はカイトの言葉を信じて、さらにぐるぐるとハンドルを回す。

放たれる光弾の一発一発には、人間の四肢をもぎ取るほどの威力がある。それがフルオートで連射されているから、凄まじい火力だ。

だが最初に装填されていた魔力が減ってきて、光弾に勢いがなくなってきた。

「魔力供給!」

「僕のを使ってくれ。もう暖気は十分だろう」

パーカーは砲身の機関部を温めるのを中止し、本体への魔力供給を開始する。みるみるうちに光弾が輝きを増してきた。

この頃にはもう、敵は防壁から数メートルのところにまで迫っていた。

魔撃兵も遠くを狙わず、引きつけてから確実にしとめるスタイルに移行している。的ならいくらでもある。

一般兵はクロスボウの踏み輪に慌ただしく足をつっこみ、脚と背中の筋力で弦を引っ張り上げている。クロスボウは再装填に時間がかかるのが欠点だ。

そして防壁の上では、味方の槍兵たちが敵の長梯子を押し返していた。そこらじゅうに攻城用の長梯子がかけられ、危険な状態だ。

敵の矢を受け、転落する槍兵も出ている。

数が多すぎるが、もうこれなら狙う必要もない。薙ぎ払ってやる。

「この野郎!」

俺は敵の密集地帯に向けて、ガトリングの光弾を掃射し続けた。俺自身も魔力を使い、弾幕を維持する。もう人狼には変身しないことに決めたので、持てる魔力を全部ぶちこんでやる。

「ヴァイトさん、左から敵の増援です!」

「こっちか!」

俺がガトリングの照準を動かした瞬間、森から敵兵の一団が飛び出してくる。歩兵の小隊だ。

だが光弾の乱れ撃ちが彼らを襲い、まるで熱湯をかけられた氷のように部隊が消滅していく。数秒で半数以上が倒れた。

逃げていく残党は放置して、俺は迫る敵をさらに撃ちまくる。

敵の様子を見ながら、味方の指揮もする。

「伝令! 南側の様子を確認してこい! ハマーム隊、東側を警戒しろ! モンザ隊は西だ!」

どれぐらい戦っていただろうか。数十秒のような気がするが、時間の感覚が完全にわからなくなっている。

ふと気づいたときには、動く敵の姿は見えなくなっていた。

森の奥へと逃げていく敵兵と、そこかしこの雪を赤く染めて動かない敵兵。それ以外の敵はいない。

カイトが探知魔法を使い、砦周辺の人間の数を調べる。

そして大きく溜息をつきながら言った。

「反応ありません……北側の敵は撤退しました」

「よし」

どこかで再集結して再度突撃してくるかもしれないが、時間が稼げたのは大きい。

「魔撃兵、警戒しつつ休息を取れ! 呼吸を整えろ!」

呼吸法は魔力回復の基本だ。

北側の魔撃兵の大半は魔力切れになっていると思うが、一発でも撃てるようにしておかないと後が続かない。

俺は北側の警戒をカイトに任せることにして、南側に走る。

「カイト、敵が来たらお前が撃て! 敵の矢に気をつけろよ!」

「わ、わかりました!」

俺が南側に駆け戻ると、こちらも半数以上の魔撃兵が魔力切れになっていた。

だが同時に、敵の攻勢も弱まりつつある。光弾に照らされる景色は、そこらじゅう敵の死体だらけだ。

「魔撃兵、よくやった! 撃てる者以外は下がって休息しろ! 東側と西側から魔撃兵を呼べ! それぞれ二個小隊を南側と入れ替えろ!」

幻想的な月明かりの雪原で、地獄のような応酬はしばらく続いた。

しかし北側の別働隊が敗走したことが敵にも伝わったらしく、南側の敵も突然後退を開始する。

一度退くとなると彼らは迅速で、あっという間に戦場から姿を消してしまった。

辺りに静寂が戻ってくる。

銃眼にへばりついていた魔撃兵が、顔についた雪片を拭いながら隣のクロスボウ兵を振り返る。

「か……勝ったのか?」

「わからん……」

クロスボウ兵は弦を引く手を止めて、俺のほうを振り返った。

「ヴァイト様?」

俺は耳を澄まし、戦闘の音が完全に途絶えたことを確認する。駆け寄ってきたカイトがうなずいているので、間違いないだろう。

だから俺は堂々と胸を張り、にっこり笑った。

「勝ったぞ、諸君」

その瞬間、砦を揺るがすほどの歓声がわき起こった。