軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四つの軍団

144話

俺がロルムンド軍の動きを察知したのは、ガーニー兄弟の頭をぐりぐり攻撃しているときだった。

こいつら、目を離すとすぐにバカなことをしでかすからな。

今日も勝手にスモークチキンを作ろうとして、旧市街でたき火をしていた。

「なんでたき火で怒られなきゃならねえんだよ!?」

叫ぶガーニー兄の頭にヘッドロックを極めながら、俺は叫び返す。

「旧市街でたき火は禁止だって言っただろうが!」

すると俺の尻の下敷きになっているガーニー弟が、不思議そうに首を傾げる。

「あれ、たき火しても良くなったんじゃなかったっけ?」

「それは新市街のほうだ!」

新市街は竜火工兵隊の協力で、消防用水や防火帯が整備されてるからな。道幅もゆったりしているので、延焼しにくい。

俺が魔法で強化されたジャーマンスープレックスでガーニー兄をぶん投げた辺りで、モンザがやってくる。

「あは、面白そう。あたしもやっていい?」

「いいけど、なんか用があって来たんじゃないのか?」

するとモンザはガーニー兄を引きずりながら、ふと思い出したようにつぶやく。

「あ、そうだった。アイリアが呼んでるよ。ロルムンドがどうとかって」

「それを早く言えよ!」

「ロルムンド軍が城塞都市ウォーンガングから南下を開始し、四隊に分かれた模様です」

緊急の幹部会議で、カイトが壁にかかった地図を示す。

即座にアイリアが疑問を呈した。

「軍略の基本は、兵を束ねることです。分散させる理由がわかりませんね」

城壁に囲まれた都市を包囲攻撃するには、かなりの兵力を必要とする。四隊に分けても大丈夫なぐらい兵力があれば別だが、彼女の直属の部下は二百人もいないはずだ。

俺はカイトに質問する。

「兵の規模は?」

「シュベルムとウォーンガングの駐留軍が合計七千。内訳は騎士団と傭兵です。これは北部側の総戦力に相当しますね」

南部の小都市なら力押しで潰せる戦力だが、それを四つに分ける意味がわからないな。

カイトが説明を続ける。

「あと未確認情報ですが、魔撃大隊が五百ほどとみられています」

「五百か。いつの間にかずいぶん増えたな」

軍事坑道が完成して、援軍が来たということだろうか。

城門を破壊できる魔撃大隊は脅威だ。四つに分けても百人以上いるから、これで四都市を一気に攻略するつもりだろうか。

七千の兵を四つに分けても、それぞれが二千近い兵力になる。人口数千人の南部の都市にとって、これはかなり怖い。

だが前線の四都市、古都ベルネハイネン、工業都市トゥバーン、迷宮都市ザリア、工芸都市ヴィエラには、骸骨兵が三千ずついる。

各都市の衛兵隊、魔王軍、それに市民兵が加われば、数の上では負ける気がしない。こちらには城壁もある。

エレオラ皇女だってそんなことはわかっているはずだから、本来なら七千五百の兵力でひとつの都市を攻撃するはずだ。

同じことを思ったのか、師匠が頬杖をつきながら首を傾げる。

「わしにはよくわからんが、無謀な作戦に思えるのう……ヴァイト、おぬしには敵の意図が読めるか?」

「俺も無謀にしか思えませんね。でも、そう思わせるための作戦かもしれません」

わざわざ負けに来る敵はいない。

何か必勝の策があるということだ。

蒼鱗騎士団長のバルツェが、腕組みをしながら地図をにらむ。

「敵の新兵器の性能が判明しない以上、どんなに寡兵だとしても侮ることはできません。各都市は防戦の準備が必要でしょう」

カイトが報告書をめくる。

「すでに情報は四都市にも伝わっています。ベルネハイネンでは吸血鬼隊、トゥバーンでは人馬隊、ヴィエラでは儀仗隊が、すでに臨戦態勢だそうです」

「カイト殿、ザリアは大丈夫ですか?」

「あ、はい。すぐ南のシャルディールから衛兵隊が派遣されました」

いい連携だ。

パーカーが珍しく真剣な表情で、俺に進言した。

「骸骨兵は強力だが、過信は禁物だよ。相手が魔法に長けているのなら、無力化する手段があるかもしれない」

「具体的には?」

「死霊術には、召喚された死者を強制的に冥府に送り返す術がある。三千体を追い返すのは大変だけどね」

薄々わかってはいたが、やっぱり魔法に頼った戦略は安定しないな……。

アイリアが考え込んでいる。

「リューンハイトからも援軍を送りましょうか。ベルーザからお借りしている陸戦隊がいます」

「そうだな。城壁の弱いベルネハイネンと、兵力の少ないザリアに増援を送っておきたいが……」

俺は地図をじっと見つめる。

どうも気になるな。

エレオラ皇女は慎重な軍人だ。力押しで勝てる場合でも、包囲させて降伏を促す。戦力の消耗を避け、後々の統治をやりやすくするためだ。

そういう意味では俺と似ているかもしれない。

だとすれば、この作戦は明らかにおかしい。

まさかエレオラ皇女が不在で、別人が指揮しているのだろうか。わからない。

考え始めるとキリがないので、俺は一番危険なケースを想定した。

エレオラ皇女は健在で、必勝の策がある。

その作戦のためには、兵を四分割する必要があった。

そういうことにしておこう。

「敵側の行動の結果、こちら側が受けている影響は何だ……?」

俺のつぶやきに、バルツェが何かに気づいたように地図を指さした。

「四都市が同時に攻撃を受けているため、この四都市は互いに他都市への援軍を出せない状態です。そして、この状況を作り出すのが目的とすれば……」

「こちらを釘付けにするための策略ですか、バルツェ殿」

「ええ、そう考えるとつじつまが合います。四つのうち、いずれかが精鋭を集めた本命かもしれません」

エレオラ皇女に七千五百の兵がいても、中身はごちゃごちゃの寄せ集めだ。士気や練度にはかなりばらつきがある。

そういうときはあまり役に立たない兵を牽制や陽動に使い、精鋭だけを動かすほうが指揮官としては楽なのだとバルツェが説明してくれた。

確かに魔王軍もそうだな。能力の差が激しいから、種族単位で使い分けている。

ウォーンガングから出撃したロルムンド軍のその後の動きについては、「不和の荒野」に配置した監視砦から情報が入っている。

四つの軍勢のいずれにも、魔撃大隊の兵士がいるという。

これだとどれかが本命だとしてもわからないな。

本命以外の都市に増援を送ると、その兵力が無駄になってしまう。悩ましいところだ。

後方の都市からの援軍を出しづらくさせるのも、エレオラ皇女の策略か。

しょうがない。魔王陛下を偵察に使おう。

「師匠、ひとまずベルネハイネンへ飛んでもらえますか?」

「うむ、そうしようかの。敵の動きを見極めた上で、本命でないとわかればトゥバーンへ向かう。次にザリア、最後にヴィエラじゃな」

師匠は転移魔法の専門家ではないので、テレポートを連発できない。全部回るのにはかなり時間がかかるだろう。それでも今は頼もしい連絡員だ。

しかし重要人物が前線を飛び回るのは良くないな……。

とりあえず前線の様子を確認することに決まったところで、アイリアが口を開く。

「後方のベルーザとロッツォに援軍の準備を要請しましょう。本命がわかり次第、そこに援軍を送ってもらいます」

頼もしい申し出に、俺はうなずいた。

「わかった、それで頼む。リューンハイトの魔王軍も動かせるようにしておこう。当面は臨戦態勢で待機だ。手配をお願いしたい、バルツェ殿」

「お任せください」

「こうなると、後は情報が入るまで待つしかないか……」

いや、俺が人狼の脚力を魔法で強化して、一気に四都市の偵察をするというのもアリかもしれない。

と思った瞬間に、俺は全員から両肩をつかまれた。

「ヴァイト殿、お待ちください」

「ダメですってヴァイトさん!」

「おっと、君はここにいなきゃね!」

「おぬしの悪い癖じゃのう……」

なんでそんなに警戒されてるの。

するとアイリアが笑顔を浮かべて、こう言った。

「もう少し自重して頂かないと、そろそろ評議会で議題にしますからね、ヴァイト卿?」

「あ……はい……」

じっとしていよう。