軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

同盟の崩壊(前編)

129話

「ミラルディア解放軍」として侵攻を開始したロルムンド軍の、いや皇女エレオラの動きは迅速だった。

南部連邦の密偵たちからの報告を、アイリアが伝えてくれる。

「宗教都市イオロ・ランゲが現在、『ミラルディア解放軍』によって包囲されている模様です」

ミラルディア解放軍が存在を明らかにしてから、まだ十日と経っていない。

「早いな……戦況はどうだ?」

俺の質問に、アイリアは報告書をめくる。

「ミラルディア解放軍の主力は市民兵ですが、城塞都市シュベルムに駐留していた常備軍も参加しています。かなりの勢力ですね」

イオロ・ランゲはミラルディアでの輝陽教信仰のために作られた聖地でもあり、北部民にとっては極めて重要な街だ。

しかし塩の件といい、ロルムンド軍は長期の外交戦の構えで来ると思っていただけに、これは意外だな。

そう思いながら評議会でみんなと相談していたところ、第二報が飛び込んできた。

「イオロ・ランゲがミラルディア解放軍に降伏しました! ミラルディア解放軍の無血勝利です!」

前線からの連絡を人馬兵の伝令が伝えると、太守たちは騒然となる。

「せ、先生!? これは圧倒的すぎませんか!?」

うろたえているのは、北部に近いザリア太守のシャティナだ。

しかし海賊都市ベルーザの太守ガーシュは、あごひげを撫でながら首を横に振る。

「いや、こりゃ茶番だな。そうだろ、ペトーレ爺さん?」

漁業都市ロッツォの太守ペトーレが、その言葉に仏頂面でうなずいた。

「後々のことを考えて、一応『攻め込まれたので降伏した』っちゅう体裁を取っただけじゃな。どうせほれ、同胞で殺し合うのはどうとか、声明を出しとるじゃろ?」

すると人馬族の伝令は、驚いたような顔をしてうなずく。

「そ、そうです。えー、『聖地イオロ・ランゲで同胞が血を流すことは許されない。ロルムンドもまた輝陽教を信奉する同門であり、我々は城門を開いて彼らと共に歩むこととする』だそうです」

交易都市シャルディールの若き太守アラムが、納得したようにうなずいている。

「南部の太守たちが団結しているのと同じように、北部の太守たちもつきあいが深いですからね」

ということは、北部太守が一致団結してロルムンド支持を続ける限りは外交で切り崩すのは難しいか。

工芸都市ヴィエラのクソオカマことフォルネが、溜息をついている。

「それに元老院に矛先が向いているのなら、自分の街を危険に晒す必要もないわよねえ。街を守ってこその太守だもの」

元老院は権力こそ大きいが、都市の統治を太守たちに丸投げしている。だから太守たちをうまく味方につければ、元老院は滅ぶ。

「元老院さえ潰せば北部同盟がまるごと手に入るのを、エレオラ皇女はよくわかっているようだな。敵と味方の選別がうまい」

俺は敵ながらエレオラ皇女に感心したが、フォルネがじろりと俺をにらむ。

「なにノンキなこと言ってんのよ。このままだと南部連邦も危ないわよ? あいつらは民衆との付き合い方が、多少はわかってるみたいだもの」

その件は俺も心配しているところだ。

「エレオラ皇女の施策はどういうものか、ちょっとまとめてみたんだ」

俺は昨夜作った資料をみんなに配った。

ミラルディア解放軍の旗揚げ以来、エレオラ皇女は一貫して「解放軍の協力者」という立場を取っている。

解放軍のトップは北部の太守たちだが、もちろん彼らを束ねているのはエレオラ皇女だ。

そして彼女は実に巧みに、北部の都市を掌握していた。

俺は一同に、エレオラ皇女の脅威について説明する。

「一番大きいのは、ロルムンドも北部同盟も輝陽教を信仰していることだな。巡礼者たちの報告によると、すでに輝陽教神殿の改修などの手厚い保護策が決定している」

輝陽教の聖職者たちさえ懐柔しておけば、市民のほとんどは彼らの言いなりだ。そして生活を脅かされる心配もないとなれば、解放軍に逆らう理由もない。

おまけに元老院はどちらかといえば嫌われている。

もうひとつ、大事なことがある。

「ロルムンドのエレオラ皇女、北部民にかなり人気が出ているらしい」

彼女とは実際に言葉も交わしたので、これは俺も納得がいく。

「遠い国からミラルディアを助けに来た美人のお姫様で、弁舌は鋭く決断力もあり、太守たちが一目おいている。そんな印象を持たれているようだ」

深く考え込んでいる様子で、アイリアが険しい顔をしている。

「早急に対処しないといけませんね」

「ええ……そうですね、アイリア卿」

心なしかアラムも顔色が悪い。

俺は評議員たちに、今後の方策について説明した。

「エレオラ皇女は輝陽教を通じて、南部連邦に切り崩しを仕掛けてくる可能性がある。輝陽教神殿との関わりは大事にしてくれ」

南部連邦でも、北部と接する四都市は輝陽教徒が多い。彼らが聖職者の求めに応じて武装蜂起することは、過去のユヒト司祭が証明している。

その他にも色々な重要事項を決定した後、俺はバルツェたち魔王軍の幹部たちを集めて北部情勢の説明を行う。人間社会の複雑さは、魔族にはなかなか理解しがたいのだ。

ようやく俺が執務室に戻ると、カイトがくつろいでいるところだった。

「お疲れさまです、ヴァイトさん」

「ああ、来てたのか。そっちはどうだ?」

するとカイトは溜息をついた。

「もう大混乱ですよ。元老たちの何人かはイオロ・ランゲにいましたから、どうやら拘束されてしまったみたいです」

「自業自得だな」

太守や職員を粗末に扱うから、そういうことになるんだ。

カイトはそれにうなずきつつ、今日も書状を取り出した。

「で、今回のお手紙です」

「こんなにしょっちゅうよこされても、保管場所に困るんだが」

「ま、そろそろ終わりだと思いますよ」

皮肉っぽく笑うカイトから手紙を受け取って、俺は中身をざっと読む。

「同盟と連邦で友好関係を結び、ロルムンドへの共同戦線を展開したい……か」

いい度胸だ。

俺はそれを書類棚に突っ込むと、カイトに向き直った。

「何を飲む?」

「ぬるめの緑茶ください」

「そうだ、ラシィが焼いた岩塩クッキーがあるぞ」

「それはいらないです」

カイトが露骨に迷惑そうな顔をしたが、俺は首を横に振る。

「俺の執務室に来た者は、一人につき三個消費するよう義務づけられている」

「横暴だ!?」

黒狼卿の横暴っぷりをしかと堪能してくれたまえ。