軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴァイト卿の日常

112話

意外にも北部側が静観を決め込んでいるので、しばらくは平和な日常が続いたが、やることは日増しに増えていく。

太守間の会議や調停もあるし、リューンハイト市内のトラブル解決もある。

「おいお前たち、兵舎から美味そうな匂いを漂わせて何事だ」

俺がベルーザ陸戦隊の兵舎に顔を出すと、モヒカンどもがエプロン姿で料理の真っ最中だった。

隊長のグリズが凶悪な棍棒を持って、塊肉をバンバン叩きながら答える。

「見りゃわかんだろうが、料理だよ料理」

「お前たち軍人だろうが」

するとモヒカンたちが一斉に叫びだした。

「ベルーザ料理が食いてええ!」

「海の幸が恋しいんだよぉ!」

「飯ぐらいは好きに食わせてくれよぅ!」

なんなんだこいつら。

だが事情はわかった。

ベルーザの海鮮料理は、リューンハイトでは食べられない。鮮度のいい魚介類が手に入らないからだ。

そこで彼らはリューンハイトの食材を使って、ベルーザ風に調理しているのだった。

そこまではいい。

「なんでお前たち、兵舎を改築して店舗を作っている」

兵舎の横にいつの間にかレストラン(違法建築)がオープンして、リューンハイト市民がこわごわ食べにきているのだ。

するとグリズたちが笑う。

「しょうがねえだろ、美味いんだからよ!」

「ヴァイトの旦那、ベルーザのソースは最高ですぜ!」

「ここもよくトマトが育つから楽しいぜ!」

「唐辛子もな!」

「おいてめえら、チキンの旨辛トマト煮込み四人前だ! 旧市街のラフォール商会に大至急配達だ、間違えんなよ!」

「ヒャッハー客だぁ!」

答えになってないぞ。

ていうか注文を取るな。宅配までしてるのか。

すっかり魔都の生活に溶け込んでいるようなので、もう好きにやらせることにする。

「まあいいだろう。鴨ローストランチをくれ。三人前だ」

「へい、ヴァイトの旦那からの注文だ! 急げ野郎ども!」

軽い昼食を終えた俺が旧市街に戻ると、さっそく面倒事が待ちかまえていた。

今日は評議会の集まりがある。

太守たちの活動報告などは、特に問題はない。

交易都市シャルディールが砂漠の遊牧民たちを引き込むのに成功し、一部が定住して衛兵隊に志願したとか。

工芸都市ヴィエラに、北部太守からデザインの発注……とみせかけて、評議会とのパイプ作りに高官が来たとか。

どこの太守も得意分野を生かして、連邦の発展に貢献してくれている。

問題は、都市間のトラブルだ。

「聞いてくれ、ヴァイト!」

ベルーザ太守の海賊男ガーシュが眼前に迫ってきたので、俺は若干のけぞりつつうなずく。

「どうした?」

「ロッツォの漁船がベルーザ沖まで来て操業してやがんだよ! 追い返してもしょっちゅう来やがるし、もう撃沈しちまっていいだろ!?」

するとロッツォ太守のペトーレ爺さんが不機嫌そうに腕組みをする。

「ふん、潮の流れでちょっと迷い込んじまっただけじゃわい」

「嘘つけ、ここんとこ毎日来てるじゃねーか!」

「うるさいのう、それなら海の上に線でも引っ張っとけ」

「それができたら苦労はしねえよ!」

なんでこんなのの調停までしないといけないんだ。

「今まで通り、両都市で協議して決めればいいだろ」

だが二人とも首を横に振る。

「勝手な取り決めをするより、評議会で白黒つけたほうがはっきりするだろ?」

「どうせ議決を取れば、ロッツォの正当性が証明されるからの」

あ、さてはペトーレ爺さん、根回ししてるな。

シャルディール太守のアラムがサッと視線をそらしたので、俺は確信する。ヴィエラ太守のフォルネもニヤニヤしていた。

ザリア太守のシャティナが意見を言おうと立ち上がりかけて、笑顔のフォルネに首根っこを捕まれている。

どうやら東部の連中はロッツォ支持で裏取引しているようだ。

魔族の太守はというと事前の相談は受けていないようで、フィルニールとメレーネ先輩は双方の言い分が書かれた書面を読み比べている。

アイリアだけは俺を見て、微かに苦笑してみせた。どうやらガーシュから相談を受けているらしい。

ということは現時点で確定しているのが、ロッツォ四票、ベルーザ二票か。

この調子だと確かにベルーザは不利だな。漁場を荒らされているのだから、ちょっと気の毒だ。

あまり一方に肩入れはしたくないが、俺は今回ベルーザに味方することにした。

ペトーレ爺さんはどこまでやったら評議会に怒られるのか、ギリギリのラインを見極めようとしているからな。

「線を引いてないというのなら、ロッツォの養殖場にベルーザの軍船を乗り入れてもいいよな?」

ロッツォが魔王軍の協力のもと、高級食用貝の養殖をやっているのは聞いている。まだ試験的な段階だそうだが、今後大きな富をもたらすだろう。

するとガーシュが笑った。

「おお、そりゃいいな! うちの軍船はロッツォより多いぜ! 根こそぎ盗ってやる!」

ペトーレ爺さんは渋い顔をしたが、俺とほんの一瞬だけ視線を交わして溜息をつく。

「一番でかい一票を取られたか。……しょうがない。今後は漁場に気をつけるよう、若いもんに伝えておくわい」

その言葉に、ガーシュが不思議そうな顔をする。

「おや? 意外とあっさり引きやがったな、ジジイ」

ペトーレは澄まし顔をして、ふっと微笑んでみせた。

「なに、よく考えてみればロッツォ側にも非はあるでの」

「おい! その笑顔は、また何かやらかすつもりだろ!?」

俺がベルーザ側につくと、メレーネ先輩とフィルニールもそれに続く可能性がある。最大で三票が動く訳だ。

その場合はロッツォ四票に対してベルーザ五票。ベルーザの勝利だ。

議決は強制力を持つ上に、過去の議決例として公式に記録が残る。議決で負けると今後へのダメージが大きい。

だからいったん退いて、この件を曖昧なままにしておくつもりだな。

あくどいジジイだ。

人間の太守たちはお互いに親戚感覚で仲良くしているし、何かあれば助け合う。特に軍事分野での協力態勢は整っている。

だが彼らが「都市の代表」という立場を忘れることはまずない。

大勢の市民の生活を背負っているだけに、きれいごとばかりも言っていられないのだ。

だから地元の利益になるよう巧妙に立ち回る訳で、市民生活に直結する経済分野では、しょっちゅうトラブルが起きる。

せっかく人狼に生まれてきたというのに、相変わらず人間関係が面倒くさい。

ただ評議会さえ終われば、いつもの気楽な集まりに戻れる。

「よし、今日はリューンハイトの街で夕飯とするか」

会議の終わり際にガーシュがそう言ったので、俺は首を横に振る。

「太守がそろって街中で会食なんて、警備上の問題がありすぎるぞ」

すると彼はニッと笑った。

「はっはっは、心配すんな! これ以上ないぐらい安全な飯屋がある。五百人の腕利きが守る最強の料理屋だ!」

あ、わかってしまった。

ガーシュはもったいぶって、一同に告げる。

「ベルーザ料理とリューンハイト食材の融合を、味わってもらおうじゃねえか。今夜は俺のおごりだ!」

やっぱりあの店か。

俺とアイリア以外のメンバーは興味津々だ。

「おぬし、面白そうなことをやっとるのう。そうか、料理か。ロッツォも魔都に出店してみるかの」

「あら、文化的事業ならヴィエラも混ぜてよ」

「センパイ、ごはん楽しみだね」

俺の今日の昼飯、そこだったんだけどな……。