軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

楽観

俺がロージーのかっこいい話をラナドから聞いている間、ロージーは少し青い顔をしていた。本人の前でノリノリで話すラナドに恨みがましい視線を向けつつ黙って座っている。

「……アマデウス様の一の楽師として、恥ずかしい振る舞いを致しまして反省しております…」

吟遊詩人って言ってしまえばアウトサイダーだし、荒事にぶち当たることもあるもんなんだろうな。ロージーは結構血の気が多いとこある。バドルはそんなことないんだが…バドルは平民じゃなかった時期ありそうだしな…。

「カッとして怒鳴って相手に乱暴な真似をするのは、確かに最善とは言えないけど。ロージーはちゃんとそれが良くなかったってわかってるみたいだし、今回限りは問題ないでしょう。相手の言動があまりに非常識だったということで…」

「ええ、借金を返せば娼婦が辞職出来るのは当然ですから…相手は平民ですし、問題ありません」

ラナドが平民とわざわざ付けたのは、貴族だったら許されないという強調だった。平民が貴族に手を上げたらマジで一族郎党逮捕されるので洒落にならないのだ。罪がかなり軽く済んでも何年も牢屋に入ることになる。

―――ロージーはポーターに手を上げかけた前科があるからな…。

ラナドは少し窘めて揶揄うくらいの気持ちだったろうが、ロージーはぐっと顔を後悔に染めた。

「…今後はこのようなことはないように気を付けます」

「ん。お疲れ様。落ち込む必要はないよ」

気持ち的には褒めたいくらいだけど、行動としてちょっと良くなかったのはそうなので軽いフォローにしておく。ロージーが何もしなくとも保管庫の用心棒がとっ捕まえて追い出しただろう事例だそうだ。しかし保管庫の人は皆ロージーに拍手してくれたそうである。

「わたくしの元雇い主がご不快にさせてしまいましたこと、謝罪致します…」

「マリア…ああ、部下になったから呼び捨てにさせてもらうけれど。大丈夫、マリアに非がないのはわかってるよ」

「しかしわたくしが持ち込んだ面倒事ですから…寛容なお言葉、ありがとうございます。お手数をおかけ致しました…ロージー殿にも、改めて御礼申し上げます」

「…必要ない。マリア殿も苦労されたな」

目を合わせて気まずげに微笑み合ったロージーとマリアは実にお似合いだった。

滅多に消えない目の下のクマがマイナスだそうだが、クマが無い時はロージーは結構な美青年という評価。マリアは平民にはそうそういない金の目の美女。

二人とも異性に消極的だけど歳も釣り合うし、この二人が本当に結婚したら眼福だな~~~…有り得ちゃうのでは…? 偽装ではなくマジの結婚……。

と思ったけど、それを口に出すのはセクハラだよな…と黙っていた。

―――この後ロージーとマリアはまっっっっ……たく驚くくらいそういう雰囲気にはならず、マリアは俺が予想もしなかった相手との恋に悩むことになるのをこの時の俺はまだ知らない。

スザンナは回収した荷物を部屋に運び、伯爵邸に来てマリアと再会を喜んだ。

平民の小汚い掃除婦がアマデウス様の雇われ人だと名乗って来ていますが、追い返しますね…? と門番から報告が来て焦った。急いでポーターに迎えに行ってもらった。

「マリア! 良かった、脱出出来たね!」

「あんたのおかげよスザンナ。あんたって本当にあたしの命の恩人だわ」

「ははは、そうかもね!」

抱き合って笑う二人は親子みたいだ。全然似てはいないけど。言葉を崩してスザンナの肩に顔を埋めるマリアは、普段の色っぽさがまるでなく少女みたいだった。

娼館で出会い歌を通じて仲良くなり、マリアをのど自慢大会に連れて来たのはスザンナだった。

希望を捨てるなと叱咤して、店主を説得して、何をしても無駄だと思っていたマリアを連れ出したという。

―――――スザンナに水をかけられてマリアが激高した理由が、貴族に手を出せば死刑も有り得るとわかっていながらもフローラ嬢に殴り掛かろうとした理由が、腑に落ちた。

スザンナはマリアにとって文字通り恩人だったのだ。たとえ優勝して賞金を得るとはまだわかっていない時点でも、既にそうだったのだ。

スザンナもちゃんと出場すればマリアが入賞すると確信していて、マリアを庇って水を被った。大の男でも恥ずかしく思うだろうに、若い女性が水浸しで大勢の人前に出るというのはハードルが高いだろう。

……堂々と舞台に立ったスザンナが豪胆だったとしか言いようがない。

※※※

「…おそらく、リーマス様にはわたくしがスカルラット伯爵家に囲われたと伝わってしまいます」

マリアに賞金を与えたのがうちだということはのど自慢大会の時に見張りに付いてきた男から店主に伝わるだろうとのことだった。店主は伯爵家に無理矢理マリアを連れていかれてしまったのだと言い訳するだろうと。

囲っとらんわ!

でも元娼婦を雇うとそう邪推されてしまうのだ。こういう名目で雇ったと説明しても隠れ蓑だと思われがち。実際そういうこと、よくあるそうで…。

水商売の人間、再就職難し過ぎるな…どうにかならんか。吟遊詩人も就職きつかったんだもんな。堅気に戻るというのは厳しいんだな…。

「そのことでアマデウス様やスカルラット伯爵家にご迷惑がかからないといいのですが…」

「…でも、流石に『自分の馴染みの娼婦を返せ』だなんて言えないよね…?」

江戸時代的な世界観でイメージしてみる。

贔屓にしてた遊女を身請けするつもりだったのに先を越された!!

こっちが先に目を付けたんだから返せ!!!

…いちゃもん付けてくるゴロツキじゃあるまいし、そうはならんよな。相手が格上だったらますます言えんだろう。

来るのが遅かったテメーの落ち度です~~~!!

「娼婦を買っていたということも秘するものなのに、入れ込んでいた娼婦を寝取られたなんて言えないでしょうな。しかも年下に…」

「ね…寝取ったとか言わないでもらえる??!?」

ラナドの物言いの人聞きが悪い。俺へのセクハラになるぞ!!

なるほど? 学校の後輩に女を寝取られるというシチュエーション………く、屈辱!! AVかよ!!

そりゃ恥ずかしいわ。親にも友達にもぜってぇ知られたくない。そういうのが好きなマゾだったら喜んでしまうかもしれないが…リーマス殿の性癖はサディストだしな…。

さすがに表沙汰にはしないだろう、ということで結論。一般人でも恥ずかしいと思うのに面子を気にする貴族だからな。

「…そうだといいのですが…」

マリアが不安そうに呟いた。