軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辿り着いた真相

―――少しの間一緒に旅をした、旅芸人の一座の娘に、リリエという子がおりましてな。気が強くてあまり器量の良い子ではありませんでしたが、歌が上手くて正直で親切な娘でした。

ロージーと思い合っていたようだったのですが、お互いに流浪の身でしょう。

このまま別れてしまっていいのか、とは言ったのですが、いつ死ぬともしれない立場であの子は夫婦になろうだなんて言えずに、リリエも決定的なことは言わなかったようで、いつまでも同じ道を行っても仕方ないと別の町に行くことをあの子が選んで、そのまま…。

人前に立つ時はリリエも化粧をしておりました。だから、リリエを侮辱されたように感じてしまったんでしょう…。――――

バドルがこっそり俺にだけロージーの過去のコイバナをしてくれた。

「…その一座は今どこにいるかわからないの?」

ロージーは今、俺の楽師として定額の給料を貰っているしバドルと近場に家も借りている。結婚することは不可能ではないと思うのだが…

「わかりませんな…その時は隣国に行ったようでしたが。もう何年も前の事ですし…」

俺と会う前だからもう5年以上は前か…。それに当たり前だけど旅芸人は旅してるものだ。その娘に仕事を辞めてもらうことになる。前世の単身赴任みたいに何とかならんものだろうか…まぁ今どこにいるかわからないから致し方ないのだが。リリエ嬢もすでに別の相手と結婚しているかもしれない。

バドルは上品な老紳士だしロージーはまだ若いのに浮いた話の一つもなく、二人はそこまで女性に興味がないのかもしれないと思っていたが。

不器用なとこがあるロージーはまだリリエ嬢を忘れられていないのかも……。

アンヘンは休憩を終えて戻ってきたらラナドにポーターに関する報告を受けたらしく、何やらセイジュと話し合いをしてきて、「ご希望ならポーターはこれ以降アマデウス様の近くから外せるそうですが、どう致しますか」と俺に訊いてきた。

俺は、「ポーターと少し直接話したい」と答えた。

※※※

俺の部屋でポーターと二人にしてもらう。ポーターはすごく嫌そうな顔で入ってきて丁寧に扉を閉めた。

「……私と話したいこととは?」

「ポーターは、私の近くから外れたい? 君がそう希望するなら外れてくれてもいい。大丈夫ならそのままでいいと思ってるんだけど…」

「…………何故です? 貴方が何を考えているかわからない…あれだけ無礼なことを言った私を何故傍に置いておこうなんて気持ちになるんです?」

「ええっとね…あ、先にポーターの正直なところを聞かせてよ。無礼だとわかってて何で言ったの? クビになりたかったの? それとも…抑えきれないくらい私を罵りたい気持ちが溢れたの?」

ポーターは男爵家の出だという。今21歳くらいだ。貴族として育って、格上の主に対してあそこまで直接的なことをふてぶてしい態度で言えばただでは済まないことくらいちゃんとわかっているだろう。

クロエは19くらいだったらしい。

ポーターはふと虚ろな目で無表情になった。

「………クロエのことは、妹みたいに思っていたんです。昔から付き合いがあって…俺にはそれなりに懐いてくれてましたけど、あの子は器量が良くないから男には冷たくされがちで…―――俺も、容姿を褒めたことはなかった。小さい頃は、お前は顔が良くないんだから所作を磨けだとか、無神経な助言をしたこともあった…」

独白交じりの言葉、悲し気に伏せた目には後悔の色が見えた。

「わかっています、アマデウス様はクロエを褒めただけで、何も悪いことはなかったって…クロエに直接話も聞いたし悪いのはクロエだって……

――――――――でも、クロエは今牢に入ってるのに、アマデウス様は毎日楽しそうに演奏をするし、美味しい料理を考えつくし、高貴な令嬢との噂もあるし、順風満帆そうに見えて、………悔しくなって。

なんで、どうして、って気持ちが消えなくて………わ、わたしも悪かったのかもしれないって。もっとクロエを昔から褒めてやっていれば、あいつもこんなことやらかすまで思いつめなかったかもしれないのに。やらかす前に、わたしに相談したかもしれないのにって…………」

家族みたいに思ってた子が犯罪者になってしまったことは、ポーターにとってかなりショッキングな出来事だったのだろう。きっと自分やクロエが悪いと思いたくなくて、他の誰かが悪いことにしたくて、でも出来なくて、ずっと溜め込んでいたフラストレーションがあったのだ。

多分、俺が娼婦通いをしている(してないが)とわかった時、俺を責めたい気持ちが爆発したのだ。

「……俺、異世界で暮らしていた記憶があるんだ。こことは全く違う国、違う文化、違う星で生きていた記憶。17歳で死んで、気が付いたらこの体で生まれてた。俺がここで思いつく変わったことは、その異世界では全部普通の事だったんだよ」

「……………………頭がおかしくなったんですか?」

「まぁそう思うよね~…。私が君を近くに置いておこうかなぁ…と思ったのは、君が正直に私にものが言えるから、言ってくれるかもしれないから。今私の周りにいる人は皆優しいから気を遣ってはっきり言わなかったりするじゃん? それだと私は困るかもしれないんだよね、これから……」

アンヘンもロージーもバドルもラナドも俺に好意的だからこそ、俺が傷付くような言葉は使わない。しかし俺に好意的ではない人が俺の行動にどう思うのか、という意見は知っておいた方がいいと思う。

実際ポーターが娼婦云々言い出さなかったら、ラナド達は娼婦については触れずに大道芸人に関してのことしか俺に伝えなかったかもしれない。貴族が格上の相手に自分から性的なことに言及するのはかなり勇気の要るミッションだ。日本の現代でも上司に自分からエロい話を振る奴はかなりの猛者だろう。

セクシャルな無礼者だと思われて首切られたら洒落にならないもんね……。

こそっとアンヘンに聞いたところ。

こちらの世界では化粧という行為は『顔を美しく偽って人を騙す行為』と思われているらしい。

娼婦や男娼、見世物として芸をする人間は客を取る為にそれをする。そういう職業の人間が仕事の為にしているならともかく、普通の人間が化粧をするのは相当恥ずかしいとされるのだそうだ。

親から受け継いだ顔を恥ずかしいと思い変えるなんて不届き者だと言われたり、本当の顔を隠し美しく装って結婚相手を捕まえるのは不誠実な詐欺行為だとされる。

――――――――これ……多分、前世における一昔前の美容整形の立ち位置、だな……!?!?!

時代が進むにつれ美容整形の技術も進み胡乱さが薄れ、一昔前ほど人々に忌避感はないと思う。容姿がコンプレックスで苦しい思いをした人が整形する番組なんかも定番になりつつあった。

でも抵抗感がある人はやはりいるし、騙されたと思う人はいるし、芸能人がしていたとなったらニュースになる。整形したことを人に知られたくない人も多いだろう。堂々と出来る人はおそらくまだ少数派だ。

この事実が示すことが何なのか。

すなわち…この美形インフレ世界は……化粧をすると、マジで別人みたいに美人に変身することが出来るということである。

そう……美容整形並みに!!!!!!!!!!

俺は今まで不細工側にカウントされていた人達の顔を一人一人思い出す。

化粧で変わる部分とはどこか、ということを踏まえて思い出す。

そばかすがあった。

黒子があった。

わずかに吹き出物の痕があった。

そして、………―――――――――――――――――痣。

美形インフレ故に。

マジでほっっ……んの少しの違いがものをいうのだ。

―――――――――――肌の上の異物。

白粉で隠せば一発のそれが。この世界の美の瑕疵だったのだ。

わ……

わかるかァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!