軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【書籍発売記念番外編】リーベルトの能天気な親友

リーベルトがアマデウスに声をかけたのは、彼が騎士見習いになるだろうと思ったからだった。

自分も騎士になるつもりだから、一緒に訓練を頑張れる友人が欲しいと思っていた。伯爵家以上の子息に声をかけるのは緊張してしまうし、見下した対応をされる可能性もある。そのため赤毛が多いと聞いたロッソ男爵家の子息であろうと予想出来たアマデウスをまず選んだ。

少し高めの背、外側に跳ねた真っ赤な髪。付き添いがおらず一人なのに所在なさそうでも退屈そうでもなく興味深そうな目で会場の人々を眺めている様子は、少々気が弱い自覚があるリーベルトからすると妙に頼もしく見えた。屈託のない笑顔で挨拶してくれたのも嬉しかった。

しかしお披露目の演奏の披露で彼を見る目は変わった。子供とは思えない腕前に、子供も大人も驚いていた。その後彼はその利発さを買われて伯爵家の養子にまでなった。素直にすごいと讃えるのと同時に、彼は自分と友人になるような身近な存在ではなかったのだ、と少し気落ちした。

グロリア子爵家が歳の近い子供がいる近隣の貴族を招いてお茶会を開いた日に、リーベルトとアマデウスは再会した。

「えっと、あの……お披露目以来ですね、アマデウス様。この度伯爵家にお入りになったとのこと、おめでとうございます」

「リーベルト様! ありがとうございます」

鮮やかな赤い頭は見つけやすい。お茶会で早速令嬢に囲まれていた彼におずおずと話しかける。身分は下になったし平凡な顔の自分と違って彼はなかなかの美男子なので、他に仲の良い人が出来たら素っ気なくされるかもしれない、それは無理もないことだと思っていたが、前回と変わらない笑顔で答えてくれてホッとする。

リーベルトの内心など知らずにアマデウスは親しげに振る舞った。三回目に会った時には「敬語も様付けもいらないよ」と言われた。

「伯爵令息に対してそんな……」

「公式の場ならともかく、普段はいいでしょ。友達だし」

事も無げなその台詞をリーベルトは嬉しく感じた。癖で暫くはお互いに敬語混じりだったが、少しずつ対等な言葉遣いにしていった。

「えっ。騎士の訓練、まったくやらないの?」

「うん。楽器の練習時間が取れなくなってしまうし……他にやりたいことが色々あって」

教養として一つか二つ弾ければ充分なのだが、彼はあらゆる楽器に手を出しているらしい。

令嬢の一人が一曲弾いてもらえないかとねだると彼は快く了承し、侍従がリュープを用意している。本業の演奏家と比べても遜色ない、と近くの大人が褒めた。

一緒に訓練する友人になれなかったのは目論見が外れたが、この長所を伸ばす方が正解だろうなとリーベルトは納得した。

「アマデウス様、お初にお目にかかります。グロリア子爵家第四子、リリーナですわ」

「初めまして、リリーナ嬢。いいなあ、私は弟しかいないから可憐な妹君がいて羨ましい」

「可憐って。私と同じで普通も普通だと思うけど」

「お兄様ったら、褒め言葉に謙遜を返していいのは本人と親だけでしてよ!」

「ああ、ごめんごめん」

お世辞とわかっていても妹は嬉しそうに口角を上げ、その日一日機嫌が良かった。

後々知ったが、彼はどの女性に対しても好意的だし言葉に嘘っぽさが無い。女誑しってこういうものなのだなと感心した。

しかし十一歳のある時期からアマデウスが女性を有り体に褒めることがなくなった。

何かあったのかと聞くと「いやあ、褒め言葉が良くない方向に転ぶこともあるって学ぶ機会があって……」と自嘲するように笑う。

時々普段の楽観的な雰囲気からは意外に感じる表情をするところもモテる所以なんだろうなとリーベルトは苦笑した。彼を見習ってモテたいと思ったこともなくはなかったが、真似できそうなところがあまり見つからなかった。

アマデウスとの仲を取り持ってもらえないかという令嬢からの申し出がリーベルトに来ることもあった。リーベルトが紹介しても特別扱いにはならないから自分で声をかけた方がいい、と押しなべて断った。自分から声をかけるのが恥ずかしいから頼んでいるのに、と不機嫌になられたりキツい言葉をぶつけられたりしたが、そういう我儘な女性は優しい性質のアマデウスには相応しくないと感じていたので後悔はない。

令嬢に声をかけられる度に(もしや自分に……)とどぎまぎしては落胆するのを重ね、貴族学院入学の頃には期待しなくなった。

哀しいことだと思っていたが「逆に良かったのでは? 余裕があるように見えて。女の子にいちいち緊張してる男性って頼りなく見えますわ」と妹は言った。

大抵の少女達には好かれ、一部の少年達には嫉妬され、高位貴族からは出自を見下されたり、腕っぷしを自慢にしている少年達には音楽趣味の腑抜けと侮られることもある。様々な思惑に囲まれていたがアマデウスの友好的な態度は誰に対しても隔てなかった。リーベルトはその態度を尊敬すると同時に危ういとも思っていた。

「私が強くなって守ってあげなきゃなぁ、とつい思っちゃうんだ」

「男友達に対する感情としては珍しいのでは……」

でもわかる気がする、なんて言って妹も笑った。

小さい頃から騎士になりたいと思っていた。子供の憧れを越えて本物の騎士になるにあたって、何を守る騎士になるのか。国家の安寧、平和、仕える主。建前ではそういうものになるだろう。だが、具体的に守りたいものを見つけた時にこそ本当に強い騎士になれるような気がしていた。

守らなければとリーベルトが思った最初の具体的なものは、能天気な親友の笑顔だった。