作品タイトル不明
自己評価
次の日、空き教室に俺、リーベルト、ハイライン様でこっそり集うとリーベルトは頭を抱えるようにして机に突っ伏した。
「…せっかちな男だと思われたかな~~~~…」
平気そうに振る舞っていたが意外とダメージ食らってたらしい。
「そんなことないってー」
「デウスとジュリエッタ様ほど仲睦まじくないのに、一人で盛り上がって恥ずかしい感じだったかも…」
「だーいじょうぶだって! 嫌がってるようには見えなかったし!」
プリムラ様は、何と答えるのが正解なのかと考え過ぎて黙ってしまったように見えた。
婚約してからもリーベルトとプリムラ様の関係に変化は無い。そもそも貴族、二人きりになれる機会がほとんど無いし仲を深めるというのも難しいところがある。俺がジュリ様の馬車にちょくちょく入り込んでるのだって普通なら怒られる行為だ。仲が良いって知られてて、ジュリ様が公爵令嬢だからお目溢しされてるだけだ。
「リーベルトのことはどうだっていい。話したいのはアルフレド様のことだ」
ハイライン様がジト目で言った。「ひどい…まあいいけど…」とリーベルトが顔を上げる。
今の「どうだっていい」は多分「どうせ大丈夫だろ」という信頼に基づいている。俺も大丈夫だろと思ってるところはある。だってこんなに存在が光だし可愛いのに剣を持つとカッコいいリーベルトだよ。プリムラ様は頭良いしきっと近いうちにわかってくれるよ、リーベルトの魅力を。
「アマデウス、ジュリエッタ様伝手に何か聞いていないか? アルフレド様とカリーナ嬢の縁談が持ち上がっているとか…」
「いえ、私は何も」
「そうか。ペルーシュも特には聞かされていないらしい。では単なる気まぐれだったのか…? アルフレド様らしくないが」
「リリーナ曰く、カリーナ様に公爵夫人になってほしい層、というのはあるらしいですね」
「ああ。そういう層の希望を汲もうとなさっているのだろうか…それかご両親の薦めか」
「…アルフレド様、普通にカリーナ様に気があるんじゃないですか?」
二人とも小難しい顔をしているが単純な話なんじゃね? と思ってそう言った。すると二人とも「え?」みたいな顔で俺を見た。
「それは、…そういうことも、ないとも言えんか…?」
その発想はなかった的な顔をされた。ああ、カリーナ様って割と不細工判定なんだった。
アルフレド様がカリーナ様に想いを寄せるというのは『超イケメンが容姿は優れてない少女に惚れる』といった少女漫画の展開みたいにどこか現実味が無いのだと思う。ハイライン様たちにとっては。
「まあこればかりは本人に訊いてみないとわからないですけどねぇ」
「んん…うむ…」
アルフレド様の為に何かしたくてうずうずしているハイライン様には悪いが、それに尽きる。
ハイライン様、良かれと思って余計なことしそうな雰囲気があるから「アルフレド様にもお考えがあるかもしれませんし、お節介はしない方が良いと思いますよ」と言うと
「お節介とはなん…、いや、そうだな…男女の仲に関することはお前の意見に従うか…」とハイライン様が悔しそうに俺の言うことを受け入れた。
俺に恋愛アドバイザーとしての才能は別に無いとは思うが…。彼女いない組の中で彼女持ちの意見、尊重されがち。
その後リーベルトはプリムラ様からフォローの手紙を貰ったらしく、無事メンタル回復した。
数日後、ジュリ様と帰ろうとしたらアルフレド様に呼び止められた。
「少しいいかアマデウス。…私の領でのお前の事業のことで話しておきたいことがある」
「おや…わかりました」
ジュリ様にはお帰り頂いて、領内の話なら仕方ないとペルーシュ様とハイライン様も傍を離れる。
タンタシオ領には二か月後に公演が回ることになっていた。公演の劇場のスケジュールが狂ったり、薬局設立の流れのどこかしらに障害が出たりと領によってトラブルは有り得る。相談してもらって出来ることがあれば協力する。
近くの空き教室に入り適当な椅子に腰かけて向かい合った。アルフレド様と二人になるなんて珍しい。改めて向かい合うと背が伸びたな~なんて思う。今までずっと俺より低かったのだが、ほぼ並んだ。でも俺もじんわりと伸びてるのでまだ三メンチくらいは上。
「何か問題がございましたか?」
「いや…すまない。事業についてというのは嘘だ。お前に相談したいことがあった」
「へ」
彼は煌めく睫毛を少し伏せて、目の前で組んだ指を見つめながら口を開いた。
「カリーナ様は私のことをどう思っていると思う?」
「…へっ…へぇぃ?」
※※※
「私は、両親から『公爵夫人として相応しい女性を選ばなければいけない』と言い聞かせられてきた。『見た目も大事だが、見た目で安易に選んではいけない』『全体的な能力が優れている人を』と…伴侶選びはよくよく考えるように、幼少から言われてきた」
まあ気持ちはわかる。公爵家だし息子さんの出来が最高水準と来たら、嫁に要求するレベルも上がっちゃうってもんだ。
「『表面に惑わされず、多角的に見てその人物を見極めることが大事』だと……これは伴侶に限ったことでは無いが。そう言われてきたから、一時の感情に流されて失敗しないようにと特に令嬢に対しては慎重に接してきた。その結果私はどうにも慎重になり過ぎて、一つ良い面を見ても一つ悪い面を見つけては女性に好意を持てないようになった」
「そうだったんですか」
女性に対して妙に潔癖になっちゃったんだな…。
「それなのに両親は最近になって『特に条件はつけないからお前が好いた女性なら認める』と言い出した」
――――タンタシオ公爵夫妻、息子があまりに嫁候補選ぶ気配がないから焦り始めてんじゃん!!!
貴族学院婚活もあと二年、続々と決まり始めている時期である。
アルフレド様なら相手が見つからないことはないと言っても、好条件の人から売れていくのが婚活市場というもの。第二子以下には結婚するつもりがまだない人や諦めている人、就職するからその後に決めるつもりの人などもいるが、爵位の跡継ぎはやはり学院で婚約者を見つけるのが期待される。一番色んな人と交流出来る期間だし。
アルフレド様ほどの優良物件がまだ売れていないことがむしろ不思議…いや。売り出されていると周りが思っていないのかも。売り手ではなく、買い手だと思われているのか…。実際選ばれる側じゃなくて選ぶ側だしな、圧倒的に。
「私は自分をつまらない男だと思う」
「…えっ!?」
急にどうした。動揺する俺を置いてアルフレド様は無表情で淡々と話し続けた。
「―――私は自分のことを特別な存在だと思っていた。お披露目の日まで。お前に会ってからだ、アマデウス。自分が特別な訳ではなくて、公爵家に生まれて見目が優れていたから、頑張らずともそれなりに何事も熟すことが出来たから、周りが褒め倒していただけだったと気付いたのは。お披露目の後、周りの者は私が一番素晴らしかったと口を揃えた。どう考えても一番優れていたのはお前だったのにも関わらずだ。
あの日から私は自分の価値に疑問を持った。よく周りを観察して、考え、煽てる言葉を鵜呑みにせずに自分を鍛えねばならないと理解した。私にお前のような才能は無い。人とは違う世界を見る眼も無い。努力をしなければ、特別どころか、私は自分が美麗な模様があるだけの空っぽの置物になると悟った。今の私があるのはお前のおかげだ」
「…お、おぉぅ…も、もったいなきお言葉です」
―――ぇえ~~~~~~~~~~~~……!?!??
大天使に俺がそんな影響を与えていたとは知らなんだ。
そういえば、ネレウス殿下の“前の世界の未来予知”では、アルフレド様は『傲慢で人を見下した少年』って評価だった。高貴さゆえの誤解かなと思ってたが、俺と会ったことで心境の変化があったってこと? へえぇ~………び、びっくりした。
「努力をしてきて…次期公爵としては、それなりに形になってきたのではないかと思っている。しかし男としてはつまらない人間だと思う。女性の良い所を素直に見つめることの出来ない、偏屈な男だ。お前とは真逆で」
ああ、そういえば俺、ストライクゾーンのだだっ広い女好きだと思われてたんだった。ちょっと違うんだが…。
「私は見目は良いが、少し交流したら女性もすぐ離れていくしな。近付くと男としての魅力が無いとわかってしまうのだろう」
いや、近付くとあまりのハードルの高さに(あ、これ無理だな)と思って撤退してるだけだと思うよ!!
アルフレド様が令嬢たちの敬遠をそんな風に思っていたなんて全然気付かなかった。地味に婚活勢にとって由々しき事態だぞ。ハイライン様もペルーシュ様も気付いてないよなコレ。あとで情報共有しないと。
「いやあ、誰も彼も恋をするとは限らないですし…合理的に考えて結婚相手を選ぶ方が貴族としてはそもそも主流でしょう? 女性を好きになれないからといってつまらない人間だなんてことは絶対に無いですよ」
そこにコンプレックスを持つ必要はないんじゃないかなぁと俺は素直に進言した。
「いや、女性を好きになることは出来たのだ。最近」
なんだよ解決してんのかよ!! 早く言ってくれよ。
「あ、それがカリーナ様ってことで…冒頭のお話に戻る訳ですね!?」
「そうだ。…どう思う? お前が黙ってしまったから色々と話してしまったが」
そうだった。いつかのプリムラ様と(多分)同様、何と答えればいいか思考を巡らせていた結果沈黙を返してしまった俺に、彼が――これまでのあらすじ――という感じで語り掛けてくれていたのだっだ。
「ええと……カリーナ様のこと好きになれたんですね。ひとまず、おめでとうごさいます」
そう言うと彼は目を丸くした。
「めでたいこと、か?」
「恋をするのって楽しい、嬉しいことじゃないですか?あ、叶いそうにない恋だと苦しいかもしれませんけど…」
アルフレド様は表情を曇らせた。楽しいとか思える余裕はまだないのかもしれない。
「…お前と王女殿下の事件の時…カリーナ様が危険を顧みず教室に飛び込んで救助したり、泣きながらイリス嬢と殿下を叱ったりしただろう。あの時…カリーナ様のような心根の真っ直ぐな人が、隣で公爵夫人としていてくれたら、私はどんなに心強いだろうと思ったのだ。しかし、私のようなつまらない男の妻になったら彼女に後悔させるのではないかと思ってしまった。今、多少でも私を男として好いてくれているなら婚約を申し込もうと思ったが…サンドリヨンの靴の話の時の反応を見ても、私のことは純粋に友人としか思っていまい。それなら、婚約の打診をするのは申し訳ない。公爵家からの打診を…ヴェント侯爵夫妻は断らないだろう。カリーナ様が嫌がろうと」
めちゃくちゃ良縁だもんな~~~~…。
女性を好きになれても自分をつまらない男だと思うのは変わらないんだ。褒め言葉を鵜呑みにしないという決心が多少のフォローの言葉も跳ね返してしまってるらしい。おそらく何年もかけて形成された自己評価だ、そう簡単には覆らないか……。
見た目がこれ以上なく良いからこそ中身で幻滅されるのを恐れているのかもしれない。
「言いましょう」
「うん?」
「王女殿下の事件の時~…から今言ったこと、カリーナ様に伝えましょう。正直に。家から婚約の打診をする前に、嫌か嫌じゃないかちゃんと直接訊くんです」
「…しかし」
「今は友人としか思ってなくてもそう言われたら意識しますしちゃんと考えてくれますって! 私の意見としては、カリーナ様はアルフレド様のこと嫌がりはしないと思います。でもカリーナ様のお考えは結局カリーナ様にしかわかりませんから、ちゃんと伝えてから様子を見ましょう!!」
恋を伝えるのは勇気の要る事だから、伝える前に諦めたくなるのはわかる。つーかアルフレド様なら絶対大丈夫ですと言いたくなるがそれは抑える。だってそれじゃ『王女殿下を好きにならない男はいない』と決めつけていたイリス嬢と同じになってしまうし。
美しいから、立派だから、優しいから、それらの理由は好きになるきっかけにはなるが絶対に好きになるとは限らない。恋とはきっと…そういうものではない。
やっぱり俺に恋愛アドバイザーの才能は無い。結局は『親を通さずに告れ』という普通のアドバイスしか言ってない。だが恋に悩む人間は案外そういう簡単なことを見落としてたりするものなんだろう。
この世界の時代観では親の許可を得ないと結婚は無理だからまずは親から親に話を通すのが正しい順序ではあるんだ。でも現代日本を生きた人間からしたら本人同士の気持ちが大事だろ! が最初に来る。
「…そうだな。お前の言う通りだ。伝える時の付き添いを頼めるか?」
「! …私で良ければ。謹んでお引き受け致します」
柔らかく笑んだ彼に首を垂れる。
いつぞや俺がジュリ様に婚約を申し込もうとしていた時、アルフレド様に付き添いをお願いした。結局それは実現しなかったが、その時と立場が逆になるとは。
―――――すっげぇ緊張する!!!!!
ディネロ先輩の時もドキドキだったが学友の色恋は学生生活に直結するから負けじと恐い!!!
……でもまあ、カリーナ様も今特に誰かが好きとかそういうのはなさそうだし? すんなり上手くいくんじゃないだろうか――
…なんて思って油断していると障害が出てきてしまうのが、世の常というやつなのかもしれない。