軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フライ揚げて 気分アゲて ネコに手ぇ焼いて ヤキモチも妬いて

半分は冷凍に回したものの、それでも皿の上の揚げ物ダネの山の高さは相当なものだ。

ソードフィッシュの唐揚げを作ったときの揚げカスをきれいに掃除をして、お鍋を再びコンロにかける。

「リン、リン! なにか……なにか、手伝う?!」

「そうですねぇ……それじゃあ、レモン切ってもらっていいですか? 輪切りでもくし切りでもどっちでもいいですから」

「ん! まかせて!」

揚げ物と聞いてそわそわと落ち着かない様子のアリアさんが、キラキラと輝く瞳でこちらを見ている。

待ちきれないんだろうなぁ、きっと。この前の海鮮BBQした時に思ったけど、アリアさん、けっこう揚げ物好きだもんね。

それじゃあ、ということでレモンとお皿を渡せば、その皿の上でアリアさんの手が翻り、次の瞬間にレモンが綺麗に両断されていた。

「……糸の威力、スゲー……!」

「斬れないものは、わりとない!」

ドヤッと得意げな顔で胸を張るアリアさん。相も変わらず魔性のお胸である。

ただまぁ、本当に横半分に切れているだけだったので、それをさらに半分に切ってもらうようお願いして、私は鍋に向き直る。

さっきの唐揚げの水分が、まだ若干残っていたのだろうか。カラカラと微かに油が熱せられていく音がして、鍋の中に陽炎のような揺らめきが起こる。

油も対流するんだなぁ……と取り留めもなく考えているうちに、その揺らめきも次第に治まってくる。菜箸を突っ込んでみれば、油に浸かった所からしゅわわわっと細かい泡が噴き出してきた。

うむ。ちょうどいい頃合いだな。

「よし、行きます! 揚げたそばから食べますよ!!」

「やっ、た!! フライ! フライ!!」

「アリア、リンちゃんの邪魔したらダメだよ? リンちゃんも、他に何か用意するものある?」

「そうですねぇ……冷蔵庫の中に、ソースとかの調味料があるので、お好みのもの出して使ってください!」

「ああ。自分好みの調味料をかけて食べる、ということですね。わかりました」

いうが早いが、冷蔵庫の扉を開けたセノンさんが、中から瓶入りの調味料各種を取り出してくれた。

「食欲」という共通理念がある分、こういう時の意思の疎通が図りやすいのは非常にありがたい。

まぁ、それだけみんな、はやくフライが食べたいんだろうなぁ……と容易に想像がつくので、さっと作っていきたいと思いますよ!

静かに揺れる油面を荒らさないよう、そっとタネを滑り込ませる。

途端にジュワワワッッと水分が弾ける音が周囲に響き、沸き立つ油面にパン粉がさっと散っていく。

あ! この時点でもう美味しそうだ! 匂いが良い!!

タネを弄りたくなるけど、我慢我慢……衣が剥がれちゃう!!!

「……腹の空く匂いと音だな……」

「わかります。この音だけでご飯がかっ込めそうです!」

「なんなら2杯はイケるな……」

何かが背後に立った気配がしたと思ったら、胃の辺りを押さえたヴィルさんが沸き立つ鍋を覗き込んでいた。

さすが 暴食の卓(ウチ) の食いしん坊筆頭らしい感想ですね!

……え? お前は食いしん坊じゃないのか、って? やだなぁ! 私は食いしん坊殿堂入りですよ!!

……それにしても、落語の『しわい屋』みたいな会話をしちゃったよ……お代はお金の落ちる音でいいかな??

まぁ、そんなことしなくても、もうすぐに食べられますけどね!

タネをそんなに大きくしていないから、すぐに揚がるんだ。

「はい、コレはOK、OK、もうちょい、OK……!」

「……凄いな、それだけでわかるのか……!」

「持ち上げた時に、ジジジ……ってなってればOKらしいですからね。作り慣れれば、誰だってできるようになりますよー」

レシピを増やしたくて単発の料理教室に行ったときに、講師の先生がそんなことを言っていたような記憶があって、それ以来揚げ物をするときの一つの目安にさせてもらっている。

キッチンペーパーを厚めに敷いた大皿の上に、揚がったフライをひょいひょいと載せていく。

揚げたての香ばしい香りはなかなかに攻撃力が高い。今回みたいに空きっ腹だとなおさらだ。

つまみ食いしたくなる衝動をぐっと抑え、ひたすらに油と格闘する。

幸い、揚げている時の油の匂いで胸焼けしたり胃もたれしたりしない程度には、私の胃は強靭なのがありがたい。

丈夫に生んでくれたママンに感謝感謝ですよ。

「OK、OK、OK、OK、OK、OK……OK! よし、終わった!!!」

綺麗なキツネ色に揚がったフライを満載した皿をテーブルに運んでいけば、飲み物や取り皿、調味料の準備が終わっていた。

揚げ物の音に驚きっぱなしのごまみその面倒も、ヴィルさんに代わってアリアさんが見ていてくれたようだ。

ぐるぐると喉を鳴らして満足そうに目を細めているごまみそを、あのけしからんお胸に抱いてゆらゆらと揺らしている。小さく漏れ聞こえるメロディは子守唄かな?

実に優しい世界だと思います……が……エドさんがギリィしながらごまみそを見てるのが……。

アイエェェェ……修羅場!? 修羅場なんで!?!?

「と、とにかく、揚げ物できましたよー!」

「やった!! フライ!! ごまちゃん、ごめん、ね?」

『なんで!? 朕とフライと、どっちがだいじなん!?』

「そりゃあ、ごまみそと揚げたてのフライなら、フライの方が大事でしょうよ」

先ほどまでの慈愛に満ちた顔が、揚げ物を楽しみにする子どもの顔にコロリと変わる。

それでも、ごまみそに一声かけてから優しく床に置いてあげるあたりに、アリアさんの優しさが詰まってると思うよ、うん。

ただ、けしからんお胸に包まれるという極楽から、いきなり床に下ろされたごまみそはたいそう不満気だ。そもそもこの子、抱っこしてもらったりとか、撫でてもらったりするの好きよね、うん。

今度は私をターゲットに定めたらしく、脛の辺りにごつごつと頭をこすりつけ……もとい、頭突きをしかけてくる。

だが今は、ごまみそに構っている暇はない!

すりすりと全身ですり寄ってくるごまみそを躱し、私は椅子に腰を掛けた。