軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンは今日は雪だった

国境のトンネルを抜けると夜の底が白くなったような雪国だったのは、かの有名な川端康成の『雪国』だけど、私たちの場合はダンジョンの長い階段を降りると雪原だった……が正解かな。

幸い、風は殆ど感じない。ただ、鈍色の空から牡丹の花のように大きくふわりとした雪が音もなく降りてきては、パサッパサッと軽い音を立てて足元に降り積もっていく。

うーん。懐かしいな、この風景。実家の方では冬になるとこんな感じだったよね。足元の雪を触ってみると、冷たいのは当然としてずっしりと重かった。水分を多めに含んだ、牡丹雪だ。

このくらい雪が重いと地吹雪は起こらないんだけど、歩くときに足が取られるんだよなぁ……。

上着はあるとはいえ、この寒さに耐性があるほど厚手のものじゃないし……とりあえず、毛布被っておこうそうしよう。

ヴィルさんに貸してもらってる皮のマントも寒さ耐性ありそうだけど、流石に借り物をこの悪天候の日にかぶろうとは思わんよ!

あとは、足元か……脛の半ばまで埋もれる程度には雪が積もってる現状じゃ、ハイカットとはいえスニーカーじゃ分が悪すぎる。せめて長靴だったら、まだよかったんだけど……。

まぁ、いつも釣りに行くときに使ってたサンダルじゃなかっただけいいと思うより他ないな。

……そういえば、アリアさんはもぐさパックで何とかなったっぽいけど、他の男性陣は……?

「オレはねー、そもそも割と着込んでるからね。マントもあるし、何とか大丈夫だよー」

「俺はさほど寒いとは感じんな」

「幸い、装備品が優秀なので、さほど問題があるようには感じませんね」

白い世界にぽっかり浮かぶ濃紺のケープマントを翻すエドさんはあっけらかんと笑ってるし。薄着ながらも筋肉という耐熱生産に重要な器官に恵まれたヴィルさん首を傾げてるし。男性陣の中では一番寒さに弱そうに見えるセノンさんもまったくもって平気そうですな……。

皆さん寒さに耐性があるようで何よりです。

「……とりあえず、あそこ…………建物、あるから」

アリアさんが指さす先には、降りしきる雪にかき消されながらも大きな建物のようなシルエットが見えた。……ただ、結構な距離がある上、山というか、小高い丘みたいになってる所に位置してないか??

この雪の中、あの丘まで行軍か………………雪中行軍、目星失敗、ナビゲートファンブル、耐久ロール失敗……うっ、頭が……!

……い、いや、落ち着け。あの時とは違って、今はカーナビ搭載済みの 野営車両(モーターハウス) があるし! 野営車両(モーターハウス) があるってことは凍える心配も、食料の心配もないってことだし!

……と。視界の端に赤いモノが蠢くのが見えた。

生存戦略(サバイバル) さんの 赤枠(警告アラート) だ!!

「ヴィルさん、アリアさん、右の方に何か……!」

「リン? 何か言ったか?」

「赤枠……敵です!!! 魔物です!!!!」

「何ッ!? ――チィッ! アレか!!」

吹雪く程には風は吹いてはいないが、それでも降り積もる雪が、音を、声を、吸収する。

それなりに声を出したつもりだったけど、前衛にはうまく届いてなかったようだ。怪訝そうな顔でヴィルさんがこちらを振り返る。

ああ! こうしてる間にも、結構なスピードで赤枠が近付いてきてるのに!!

改めて声を張り上げれば、私の声と近付いてくる敵の姿の両方をようやく視認したのだろう。ヴィルさんが大剣を構え、それに一拍遅れる形でアリアさんも体勢を整えた。

赤枠は……敵は、もう私にも視認できる程度の距離にまで迫っていた。

雪に紛れる白い毛並み、雪を蹴散らせる強靭な脚力、積もった雪を掘り返せるよう発達した牙と鼻……こりゃまたバカでかいイノシシがいたもんだ!

猪突猛進の字の如く、巨大なイノシシはまっすぐにこちらに向かって突っ込んでくる。

……ただなぁ……こうして愚直に来られても、こちらにはアリアさんの切断網がですね…………。

「…………寒くなって、き、た……」

「あ、だ、大丈夫ですか? 動きが……!」

「今回のフィールドは、アリアにとっちゃ相性が悪すぎたな!!」

流石に雪の中で30分もいれば、もぐさパックの温熱効果も消えちゃうよなぁ。

ぺそぺそとしょげかえったアリアさんを横目に見たヴィルさんが、半ば諦めたようなため息と共に振りかぶった大剣でイノシシ…… 生存戦略(サバイバル) さん曰く『スノウボア』を両断した。

真っ二つになったイノシシは……残念ながら黒い霧とはならなかった。

不思議に思って 生存戦略(サバイバル) さんの説明文をよく読めば……あ、コレ、魔物じゃなくて魔生物なのか!

半分魔物で、半分生き物……という性質の魔生物は、倒すとドロップ品を残して消える魔物とは違い、肉体は残るんだ。それを解体したりはぎ取ったりすればお肉や毛皮、牙や爪を手に入れられるんだけど……。

「今回は捨てておけ。両断したから肉も毛皮も使い物にならん」

「そうですね。それよりはアリアさんのケアの方が大事ですかね……とりあえず、 野営車両(モーターハウス) を出しますので、皆さん入ってください! いったん休憩しましょう!」

白い雪原と己の毛皮を真っ赤に染めて横たわるイノシシは、確かに肉を取るのも毛皮を剥ぐにも手間取るだけで、その手間に見合う対価は貰えなさそうだしな。

「まずは、車内へ! 少しみんなで温かいものでも飲みましょうか」

雪原もなんのその出現してくれた 野営車両(モーターハウス) にみんなを誘導する。車内は泣きたくなるくらいに暖かい。

とりあえず、雪中行軍の冷えと疲れを癒せるものでも作りましょうかね。