軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

肥肉佳肴の食卓を目指します!

とりあえず、何故かよく冷えているお肉や魚や野菜の山を冷蔵庫に突っ込んでおく。流石にあの量をこれから料理するのは、無理だもんよ!

唯一今回のメニューの薬味に使えそうな鍾乳ワサビだけは手元に残すことにしようか。

「それじゃ、ステーキも焼いちゃいますね! お肉が焼けたらご飯にしましょうか」

「おにく! お肉……!!」

「あの板みたいな肉でしょ!? どんな感じに焼きあがるのかすごく楽しみ!」

「ああ、そうだ。今のうちにお皿とか準備してもらってもいいですか? 今から私、お肉を焼くのにかかりっきりになるので……」

肉と聞いて上がった歓声が、『肉を焼く』という単語が出た瞬間にピタリと止まる。

一瞬の静寂の後、みんな弾かれたように立ち上がり、お皿を出したり冷蔵庫から野菜を出したり、目の色を変えて動き始めた。

お肉パワーすげぇぇ!

ヴィルさんをはじめパーティメンバーがわいのわいのやっている間に、私は極厚ステーキに挑みかかるよ!!

……って言っても、塩・胡椒して焼いていくだけなんだけど、『焼くだけ』ってのが曲者でねぇ……。

「とりあえず、筋切りして、両面に塩と胡椒すり込んで、っと……」

「リン、この塊肉はどうするんだ?」

「後でステーキと一緒にスライスしましょう! 私もどう焼きあがってるか見るのが楽しみですし」

「リン! チーズ! チーズも食べて、良い!?」

「ある程度残しておいていただければ、お好きにどうぞ。リンゴのスライスと一緒に食べると美味しいですよ」

余分な脂を切り取って、焼き縮まないよう筋を切りつつ声を上げる。

手は離せないけど、口を動かす程度の余裕はあるからね!

アルミホイルに包まれたままの塊肉を乗せた皿を持ったヴィルさんが、所在なげにうろうろしているのに声をかけ、冷蔵庫からカマンベールのような白カビチーズを嬉々として取り出したアリアさんには収納庫の野菜籠に入ったリンゴを示しておく。

薄切りにしたリンゴにカマンベールとかクリームチーズ載せて、ハチミツをちょろっと垂らすと美味しいんだよねぇ……。

……あ、でもハチミツ買うの忘れてた!! ま、リンゴとチーズだけでも美味しいから、不問、ってことで……!

その間にちょっと厚めのフライパンを熱しておいて……側面から焼き固めていくことにする。

これだけ分厚いお肉を広い面から焼き始めると、側面から肉汁が溢れちゃうだろうし……先に側面を焼いて壁を作ってから、広い面に火を通していきますよ!!

油は、あえて引かない。

サーロインの部分に程よく脂が乗っているので、そこから脂肪が溶けてくれると思うんだ。

なので、まずはサーロイン側の側面をフライパンで焼いていくよ!

ジュワァァァ! と陽気な音と共に、フライパンに接した脂身からジュワっと油が溶けだしてフライパンに溜まっていく。

お肉が倒れないようトングで掴みつつ支えてるんだけど、胡椒の粒やら零れた肉汁やらがパチパチと跳ねて熱いんだ!

でもこれも、美味しく焼くために必要なことと思えば苦痛でも何でもないぜ!!

強火で表面を焼き固めて、その後は弱火でじっくりと焼いて…………頃合いになったらお肉を回転させてまだ生の面を焼いていく……ということを何度か繰り返し、ぐるりと周囲に焼き色を付ける。

脂が焼ける甘い匂いと、お肉が焼ける香ばしい匂いが入り混じり、なんとも食欲をそそる香りがキッチンに充満する。

だが、まだだ! まだ終わらんよ! お肉の広い面を焼く時に、この肉汁の海にバターを加えるのだ!

「良い香りですね……これだけでワインが飲めてしまいそうです」

「ダンジョン攻略中じゃなかったら、一杯やるんだけどねー」

「おまえらの場合、『一杯』じゃすまないだろう」

「……ヴィル、も……人のこと、言えない……!」

ある程度の準備を終えて、手持無沙汰になったメンバーズがコンロの周囲に集結する。

…………なんだろうなぁ……邪魔……とは言わないけど、背の高い方々に背後からそう覗き込まれると……なんというか…………コンプレックス、が……!

…………。

……………………。

……ち、チビじゃねぇし!! 平均身長より、ちょっと……ほんのちょっとだけ低いだけだし!!!!

ああ、もう!! せっかくのバターのまろやかな香りを楽しもうと思ったのにぃぃぃ!!!!

ざくざくと心を刺してくる現実に負けず、側面が焼けたお肉の広い面を焼いていく。かなり分厚いし、強火で2分で焦げ目をつけて、弱火で5分で火を通して……って感じかな?

ジュワジュワと良い音と共に焼けていくお肉の上から、脂と肉汁が混じったモノをスプーンで掬ってはかけ掬ってはかけしてあげると、表面の乾燥を防げるうえにツヤもテリも良く仕上がるのだよ!

反対が焼けたら、ひっくり返して同じように焼いて…………。

「よし! あとはこれを10分くらい休ませたら出来上がり!! その間に、肉汁と赤ワインとを煮詰めて、この鍾乳ワサビを擂り下ろしてですね……」

「ずいぶんツンとくるが……大丈夫なのか?」

「私が知ってるワサビなら、脂分が辛みを中和してくれるので大丈夫ですよ!」

黄金色の肉汁と脂がたまったフライパンに、飲み残しの赤ワインを加えてちょっと煮詰めて、と……薬味のワサビの準備をしないと……!

タワシでよーく洗って泥を落としつつ薄っすら皮をこそげ落として、水気を拭いて……目の細かいおろし金でがしゅがしゅ下ろしていきますよ!

本当は鮫皮おろしが良いらしいけど、驚きの品揃えを誇る M(モーターハウス) ’sキッチンと言えど、そんなものはなかったみたいだ。

ワサビの辛みは揮発性だから、とりあえず全部下ろして残ったものは冷凍しちゃおう!

鼻の粘膜を刺激するツンとした香りに、手元を覗き込んできたヴィルさんが若干顔を引きつらせてこっちを見つめるけど、牛肉とワサビとお醤油はズッ友だから、大丈夫だよ!

ワサビを下ろす手は休めずに、内心でサムズアップしてみたけど、まだヴィルさんの顔色があまり良くない。

……歴戦であろうリーダーをここまで怖気づかせるって……鍾乳ワサビどんだけー!!

その間にも寝かせているステーキをひっくり返して、全体に肉汁が回るように心を砕きましょうか!

全体的についた濃い目の焼き色と、所々に肉汁がカラメル状になって絡みついている所が見え隠れするお肉からは、バターと肉汁とが混ざった胃の腑を刺激してやまない香りが漂っている。

…………もう、いいかな? 良い、よね??

期待に輝く8つの瞳が見つめる中、ステーキの皿が食卓の中央に鎮座するローストビーフの隣に着座した。

「お肉、焼きあがりましたよ! ご飯にしましょう!!!」

途端にワァっと上がる黄色い悲鳴を聞きながら、私はよく手入れがされたカービングナイフをそっと構えた。