軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いざや進まんダンジョンの道

「……本当に街の近く、だったんですね」

「だからこそギルドの連中も焦ったんだろうな……」

大門を出て徒歩約10分。

何の変哲もないような林の中に、私たちはいた。

……そう。ただの林にしか見えないんだけど、ヴィルさんが渡してくれた 護符(アミュレット) とかいうやつを首から下げてみるとだね……何故か見えてくるんだなぁ……林の中でぽっかりと口を開けている洞窟らしきものが……。

ヴィルさんの話によれば、この周辺で採取依頼をこなしている最中の冒険者……を装ったギルド職員さん達が数人がかりで幻惑の魔法をかけてくれているんだそうだ。

そうやって、渡された護符を持っている者以外には見えないような工夫がされている……ということらしい。

護符がいわば『関係者通行証』的な役割を果たしているようだ。

それと合わせて、周囲の魔力や磁場を調べるとともに、 ダンジョン入り口(こちら) に他の冒険者が来ないよう誘導もしてくれてるんだって。

リスクがあるところの実態調査と危険予想個所に人を近づけさせないって、安全管理としては間違ってないもんね。

「……今のところ、敵影、なし……」

「わかった。何かあったらすぐに教えてくれ」

「なー、ヴィルぅ。中の通路結構広いし、リンちゃんのスキルで突破する、ってダメー?」

「出現する魔物の傾向、強さ、余裕があれば出現傾向なんかの情報収集も仕事のうちに入ってるからな……リンのスキルじゃ、そもそも見敵が難しい」

「難儀ですねぇ……」

遠目ではこじんまりとしていた洞窟も、近づいてみるとなかなかどうして迫力がある。緑あふれる場所にぽっかりと真っ暗な大穴が開いている光景は、『不気味』の一言に尽きるだろう。

そんな瘴気すら漂ってきそうな入り口の近くで、アリアさんが洞窟内部の確認をしていた。斥候なのだそうだ。魔力を込めた糸を張り巡らせて、だいたいの構造や敵の配置なんかを探るらしい。

その間に目の前の洞窟を改めて観察してみると、掘った後の岩盤に直接コンクリートを吹きかけたようなでこぼこした内装の昔ながらのトンネル――岩盤モルタル吹き付けトンネルというらしい――的な様相を呈している……と言って伝わるだろうか?

野営車両(モーターハウス) が悠々と通れる程度の幅と高さはあるみたいだけれど、敵の情報が必要なら乗車したまま進む……ってわけにもいかないんだろう。

そうそう楽な仕事はない、ってことだよねぇ。

「前衛は俺とアリア、リンを挟んで、後衛がエドとセノンの隊列で進むぞ」

「後衛は何かあったらリンちゃんのフォローをすればいいのな? OK、OK!」

「バックアタック時は、前衛陣がフォローをお願いしますがね」

斥候(アリアさん) の声を受けて、とうとうダンジョンへと突入することとなった。

申し訳ないけれど、戦闘能力皆無の私は隊列の真ん中に入れてもらうことにする。

だって、 生存戦略(サバイバル) のスキルがあるとはいえ前列では敵から逃げられないだろうし、かといって最後尾を歩いたらヘバって遅れて迷子になるか、魔物に襲われるかのどっちかの未来しか見えませんがな!

みんなの後ろを 野営車両(モーターハウス) に乗って追いかける……という案もあったけど、地面設置型の罠を避けるのは難しかろう……という結論に達しましたよ。

「えと、あの……お手数をお掛けして申し訳ないです……」

「 荷物持ち(ポーター) がいるパーティなんかこんなもんだ。気にしなくていい」

「ヴィルの言う通りですよ、リン。貴女がいるお陰で、何日かかるかわからないこの仕事を受ける気になったのですから、この程度のこと当然です」

「ん。リンがいないと、この任務、途中放棄になっちゃう……ご飯、大事!」

「そうそう。 冒険(これから) のことは、おいおい慣れてけばいいんだよー」

自分のふがいなさに肩を落としていると、頭やら背中やらを撫でられたり叩かれたり……おぅ! ヌクモリティが目に染みるぜ……!

今後、何が起きたとしても 生存戦略(サバイバル) を駆使して危険を察知して、 野営車両(モーターハウス) に逃げ込む事ができる程度には身体を鍛えていきますので……。

レベルアップまではお世話になりますです。

内心で平身低頭しまくりながら、なるべく足音を立てないよう最大限の努力をして洞窟へ足を踏み入れる。

真っ暗闇を覚悟してたんだけど…………なんか……金緑色の光でほんのりと周囲が照らされてるんですが……?

光量的には常夜灯――蛍光灯に付いてる豆電球――をもう少し明るくしたような程度ではあるんだけど、なんとなーく周囲が見えるというのはありがたい。

松明とかカンテラとか……光源があればもっとよく見えるんだろうけど、いつもは暗闇なのに突然何かが光ったら、目立って目立って仕方ないと思うんだ……。

ぼんやりとはいえ光源がなくても周りが見える、というのはありがたいことじゃなかろうか??

「壁が光ってる……?」

「光苔だよ。何でかわかんないけど、光るんだよねー」

「……この程度の明るさがあれば、夜目が利かない連中でも光源なしで動けるか……」

光源の正体は、壁に張り付いている薄べったい苔だった。その性質の通り、『光苔』というらしい。

ヒカリゴケ……という名前は聞いたことはあったけど、実物を見るのは初めてだ!

……まぁ、コレが 日本(むこう) の『ヒカリゴケ』と同種なのかどうかはわからないけどね。

物珍し気に苔を眺めている私の前では、周囲の明るさを確かめるようにあちこちに視線を向けつつヴィルさんが呟いていた。

……夜目が利かない、か……鳥目というわけでもない私ですが、この暗さは結構ツラいですよ……? ようやく暗さに目が慣れてきたとはいえ、足元とかはかなり心もとないのですが…………。

こっちの世界の人だと、暗順応までにかかる時間とかが違うのかな……?

それとも、そもそも『夜目が利く』のレベルが違うのかもなぁ……。

……と……。

突然、ヴィルさんの掌が顔の前に突き出されてきた。『何事!?』と顔を上げれば、人差し指を唇に当てたヴィルさんの瞳が、険しさを帯びているのが見えた。

それと同時に、アリアさんの「来た」という囁きが鼓膜を震わせ、 生存戦略(サバイバル) の警告アラートが目の前を赤く染め上げる。

……あ! コレは音を立てちゃいけない奴だ……!

音もなく戦闘態勢に入ったパーティメンバーを視界に収めつつ、壁際にいた私は一層壁に張り付くようにして身を縮めた。

湿った苔と岩肌の感触が気持ち悪いけど、そんなこと言ってる場合じゃないからね!

シュルリ……シャラリ……音に現すのならそんな感じだろうか……? 幅広い何かを軽く引きずるような音が、闇の奥から響いてくる。

「……青臭い香りと、この独特の甘酸っぱい蜜の香り…………マールフラワーでしょうね」

「あぁー………………それじゃあ、燃やしちゃえばいいよね?」

「まーるふらわー……」

「葉が発達していて自走する植物の魔物だ。ほら、見えたぞ」

セノンさんの呟きに、ふと周囲の空気が緩んだのを感じた。……セノンさんが言ってた名前のモンスターと戦った事でもあるのかな……?

『アレかぁ』的な雰囲気をひしひしと感じるんですが……もしかして、そんなに強くないのかな……?

ただまぁ、私はその『マールフラワー』なるモノを見たことがないので、どう判断していいかわかんないんだけどね!

……そう思いつつもまだなお身体を固くしていると、ヴィルさんがちょいちょいと洞窟の奥を指さした。

…………うぇぇぇ……何だろ、アレ……?

葉ランの葉っぱを巨大化させてタンポポみたいに地面に這わせたようなモノの中心に、茎の短いチューリップの花が乗ってるんですが……??

そもそもシルエット自体が違和感だらけなのに、さらにその葉っぱがもっさりもっさり動いて自走までしてるとか、もうね……。

さっきから聞こえるシュルシュリシャラシュラっていう軽い音は、この葉っぱが地面を這うというか掃くというか……その時に出る音だったんだ……!

生存戦略(サバイバル) さんのウィンドウを見てみれば、確かに名前欄には【マールフラワー】と記載されていた。ちなみに、食用程度は『可食』。

なんだよ! 美味しくないのかよ!!

……て……え……ちょっと待って…………説明文に『肉食』の記載があるんですけど!?

「あの花の所から魅惑効果のある香りを漂わせて、近づいてきた他の動物や植物を栄養にして生きてるんだ」

「あぁ……植物なのに肉食系なんですね…………うわー……うわぁぁぁ……!」

「そう。でもね、植物だから、火に弱くてねぇ!」

食虫植物とかは見たことあるけど、食肉植物とか聞いたことないわ!

生態系のバランスが崩れる!! そして何よりあの動き方が微妙にキモい!!

……一瞬気が遠くなりそうになったところで、エドさんが笑いながら手を伸ばして……。

「はい、終、了……っと!」

「…………はぃ?!」

「植物系のモンスターはね、燃やしちゃうのが一番楽ちんだよ!」

エドさんの伸ばした手の先……広げられていた掌がきゅっと握り込まれると、目の前でわさわさしていたマールフラワーなるものの動きがぴたりと止まり、くしゃりと潰れ、ボウっと火の手を上げたかと思うとあっという間に燃え盛り、燃え尽きて……。

「相変わらず エド(おまえ) の炎はよく燃えるな」

「え、は??? え、いま、火、燃え…………えっ!?」

「隔離して、圧縮して、燃やすだけ! ね、簡単でしょ?」

「なるほど、わからん!!!」

呆然としている私の目の前で、残った煤までもがザァっと消えていき、握り拳ほどもある種と葉っぱのようなものだけが残されていた。

『魔物』と言っていたし、多分あれがドロップ品なんだろう。

地面に散らばったそれらを拾い上げるヴィルさんの言葉に、エドさんが胸を張る。その得意げなドヤ顔、アリアさんと似てるなぁ……夫婦は似てくるっていうもんねぇ。

ただ、何を言ってるのかはさっぱりわかんないんだけどね!!

……いずれにせよ、気を引き締めていかないとなぁ……今回はエドさんが簡単に倒しちゃったけど、次もそううまくいくとは限らないだろうし、私もうまく逃げられるかどうかはわかんないしね……。

何せ、調査はまだ始まったばっかりなんだから……!