軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嗚呼 酒場の夜は更けてゆく

「とりあえずはアレだ。今回の旅の無事を祈って、今夜は飲んで喰らうぞ!」

「かんぱーい!」

西の空がオレンジ色に染まるころ、例の山猫亭に集った私たちはヴィルさんの発声と共にグラスを掲げた。

ヴィルさんとエドさんがエール、セノンさんとアリアさんはワイン。私はベリーの果実水を頂いておりまするよ。

山猫亭の果実水、みんな美味しいんだもん!!! せっかくだからコンプしたいなぁ……と思ったら、つい……!

駆けつけ三杯……というわけではないけれど、とりあえず各自の飲み物で喉を潤してから、卓上の 菜譜(メニュー) と壁にかかった本日のおすすめをみんなで眺める。

山猫亭のメニューは、流石に写真はついていないものの、料理名の下に簡単な説明書きが書かれている……らしい。

私は、ほら……こっちの世界の字、読めないからさ……。

それでも大して困らないのは、みんなが「これはこういう料理!」って瞳を輝かせて説明してくれるからだ。

うんうん……メニューを眺めてる時って、想像力が滾るせいか、めちゃくちゃ楽しいんよねぇ……わかるー。

どんな料理が出てくるのか、とか、味はどんなのだろう、とか……いつまでも眺めてられるよ、本当に。

「虹尾長のスープは頼みましょう。 山猫亭(ここ) のモノは絶品ですからね」

「あ! 今日、山吹サーモン入ってるじゃん! カルパッチョ頼もうよ!!」

「フライ! フライ、も!!」

「リン。カースシリンプがあるようだが、食うか?」

「食べます!!!」

アレがいいコレがいいとグラスを傾ける中、ヴィルさんからありがたいお言葉が……!!

カースシリンプってアレだ!! 前に食べたランダムフライに入ってたエビ!!! あれ、美味しかったんだよねぇ……!!

遠慮もへったくれもなく即答して、私は他の食卓の方々が食べている料理をちらりと眺める。

お行儀が悪いとは思うけど、字が読めないからどうしたって実際に食べてるメニューが気になっちゃうんだよね……。

ふむふむ……あそこの商人さんたちが食べてる鳥の丸焼き……アレも美味しそうだなぁ……。

野営車両(モーターハウス) のオーブン、そこそこ大きそうだし、ひょっとしたら作れるんじゃないか??

でも、丸焼きよりは 油鶏(ヤオカイ) ……醤油煮の方が失敗は少なそうだな。

『朕はなー、朕はなー』

「おみその分も頼んでもらうから、にゃーみゃー鳴かない」

レシピを検索する私の足元……というか、私の足の甲に身体を乗せて丸くなっていたごまみそが頭を上げる。

山猫亭は従魔も入れるお店ではあるものの、流石に椅子には載せられないため、ごまみそは私の足元で待機なのだ。

従魔用のメニューもあるとのことなので、それも頼んでもらおう。多分、味付けなしで焼いたり茹でたりしたお肉なんだろうけどもね。

私の腿に手を置いて伸びあがり、にゃごにゃごと主張するごまみその口に、指で作った輪っかを嵌めた時……。

ボインでバイーンでむっちむちのネコ獣人のおねいさんがお盆を片手にやってきた。「時間がかかるから」と、席に案内された時点で頼んでいた串焼きの盛り合わせが来たんだろう。

果たして、こんがり焼けた肉やら魚やら……諸々の焼き串を満載した皿を持ったおねいさんが、ながーい睫毛でバッシバシの目でパチンとウィンクして……。

「ハァイ、お・ま・た・せ♪ ランダム焼きと、追加の飲み物よォ☆」

……艶やかに彩られた唇から飛び出したのは、ものすごーく酒焼けした感じのお声でした…………。

………………おねいさんではなく、オネェさんでしたか……。

よく見ると、むちむちというよりもムキムキに近い肝っ玉母さん的なお姐さんが、ふとごまみそに目を止める。

「あらぁ☆ 可愛い子連れてるじゃなぁい? お姉さんの従魔ちゃん??」

『え……え? ち、朕? 朕、かあいい……??』

「はい、私の従魔です。良かったねー、おみそ。可愛いってさ!」

『そでしょ? そでしょ??? 朕、かあいいでしょ????』

ほんの一瞬、お姐さんに恐れをなしたごまみそが耳を伏せるが、「可愛い」という単語に瞬く間に反応する。

私もお姐さんに同意をしてみせれば、途端にごまみその耳がピンと立った。そのままお姐さんの足元にすり寄って、全力のドヤ顔を披露している。そして、それを見るお姐さんの目は蕩けんばかりだ。

お姐さん、ご自分もネコ獣人さんなのに、獣のネコもお好きですかそうですか。

撫でたそうにしていたが、流石にウェイトレスさんの職務中に撫でるわけにもいかなかったのか、名残惜し気にしながらお姐さんは厨房に戻っていく。

制服を着てるとはいえ、お姐さんも長毛種だし、ごまみその一撫でくらい良いのではないか?? と思うんだけど……仕事人の心意気、ってやつかなぁ?

かっこいいわぁ……その、ピンと一本芯が入ってる感じ!!

『あんなー、さっきのおねさんな、いいひと! 朕のこと、かあいいってゆったもん!!』

「自分の欲望に負けず職務を果たしてる所とか、すごく真面目だよね。私だったら誘惑に負けて撫でてしまうかもしれん……っと!?」

「ネコの誘惑も良いが、こっちの誘惑は良いのか? 早くしないとなくなるぞ」

「え?? あ、ありがとう、ございます…………あれ!? もう半分しかない!?」

私の足元に戻ったごまみそが、んぺんぺ毛繕いしながらつぶやく持論に反応していると、目の前に肉串がズズイッと差し出された。

ヴィルさんが、渡してくれたからだ。

気が付けば、さっき来たばかりの串焼き盛り合わせは、もう半分以上みんなのお腹に納まっていた。

これ、ヴィルさんが確保してくれなければなくなっていたのでは……??

とりあえず、早くこの串を食べきって、もう一串くらいは頂きたい……!

ホカホカと湯気の立つ肉串に息を吹きかけつつ、皿の上の残りの串をじっと見つめた。