軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話 《賢者ノ時間》

闘技場で向かい合わせになるアンナとクルト。

「合格発表の日にこういった模擬戦をやることは聞いていたけど、相手がまさか君とはね」

クルトは奇妙な巡り合わせだと感じていた。

リヴェルの幼馴染で彼の近くに長年いた少女。

クルトはアンナこそがリヴェルの強さを支える根源であると疑わない。

リヴェルの努力はアンナのために、そしてアンナの強さもリヴェルの存在が大きいのではないか、クルトはそう思うのだ。

「あはは、胸を借りるつもりで頑張りますね」

アンナのこの言葉は謙遜などではなく、心からの言葉だった。

中等部では自分が学年で一番の実力だったが、それはあくまで一時的なものに過ぎない。

いずれ誰かに抜かされて自分は簡単に一番じゃなくなる。

そして、その方がみんなの為になり、自分の為にもなる。

「……そういうところ誰かさんに似てるね。……だから楽しい試合をしよう」

クルトは目を見開いた。

「はい! もちろんです!」

アンナは誰かさんに似てる、と言われてリヴェルを想像した。

そして似てるなんて言われたことに思わず嬉しくなってしまった。

「それでは交流戦を開始してください」

司会のその一言で交流戦は始まった。

「なんだかやる気が出ない始まり方だ。でも今の僕にはそれで十分。なにせ君が相手だからね」

クルトは手を振りかざすと、5本の巨大な氷柱が現れた。

「えっ!? 無詠唱!?」

「はは、リヴェルも出来るだろう?」

「そうだけど……っ!」

鞘から剣を抜き、襲い掛かる氷柱を切り裂いた。

「やるね」

それはクルトも思わず感嘆の声をあげるほどの身のこなしだった。

「ピーーーーっ」

アンナはすぐさま口笛を鳴らした。

すると、闘技場に大きな影が現れた。

空を見上げると、火竜が闘技場に向かって降下している。

ドンッ!

土埃が上がる。

そして晴れる頃にはアンナは火竜の背に乗っていた。

「竜がいない間が好機ではあるんだけど、僕は少しずつ手の内を見せるのが好きなんだよね」

そう言うクルトは既にアンナに次の攻撃を用意していた。

土埃が舞う中でアンナ達の上に魔法で氷柱を作っていたのだ。

氷柱は勢いよく降下していくが、これに気付かないアンナではない。

「それは助かりますっ! フェル、火炎!」

アンナは火竜のフェルに指示を出した。

フェルは上に向けて炎のブレスを吐いた。

じゅう、と音を立てて氷柱は蒸発した。

「さぁ、どんどんいこう。《多重詠唱》」

クルトの足元に青白く光る幾何学模様の魔法陣が現れる。

これはクルトが2年前の魔物の大群で対峙したデュラハンに使ったスキルだ。

一度の詠唱で二つ以上の魔法を発動させることが出来るクルトが編み出したスキルである。

無詠唱で魔法を放ってしまうため、相手に休む暇を与えずに攻撃を仕掛けられ続けることが可能。

しかし、ここで高威力の魔法を放ってしまえばすぐに決着を迎える恐れがある。

だからクルトはあえて、簡単に攻略できてしまうような魔法を放った。

風の刃で攻撃する《 鎌鼬(かまいたち) 》、渦のようにアンナの周りを覆う《火渦》、鋭く勢いのある水が放射される《水撃》、それらを一瞬のうちにクルトは発動した。

「フェルッ!」

アンナが叫ぶとフェルは翼を広げ、勢いよく振り下ろした。

引き起こされる風圧にクルトの魔法は全て無力化された。

「次はこっちの番だからね! 《灼熱炎舞》」

フィルは飛び、炎のブレスを吐きながら翼を回転させ、旋回した状態でクルトに突撃する。

その背中に乗るアンナもフェルの突撃によって生まれた力を活かし、多方面からの斬撃を浴びせる。

「凄い技だけど──それじゃあ僕には届かない」

クルトは《アースクエイク》を詠唱。

地面を隆起させて出来た土塊が突如としてアンナとフィルの前に現れる。

「こんなものっ!」

土塊を瞬時に斬り裂くが、その先にクルトはいない。

クルトは《テレポート》でアンナの後方へ移動していた。

「そこ!」

しかし、それにアンナは気付いていた。

正確さには少し欠けるが、クルトの魔力の流れをアンナは追ったのだ。

フィルを巧みに操り、器用にその場で折り返した。

先程のクルトの防御を見事打ち破り、アンナの攻撃が直撃する好機となった。

《灼熱炎舞》が一度でも当たれば、この模擬戦はアンナの勝利になるほどの威力を持つことは一目瞭然だ。

しかし、それを目の当たりにしてもクルトが動じることは無かった。

「さすがリヴェルの幼馴染だ。2年前の僕では成す術が無かったかもしれない」

クルトは素直にアンナを称賛する。

《無詠唱》、《多重詠唱》を利用し、いくつもの魔法を瞬時に発動させる規格外の戦法。

それを力技で打ち破るアンナの【竜騎士】としての実力と才能は英傑学園でも最高峰のものだろう。

だが、あれから2年経ったクルトにとって《灼熱炎舞》を対策することなど造作も無い──。

「《 賢者ノ時間(マジシャンズタイム) 》──これは僕だけに許された時間だ」

クルトの目が朱色に輝く。

《賢者ノ時間》は、古代魔法を知り、現代魔法を極め、【賢者】の才能を持つクルトにだけ許されたユニークスキルだ。

魔法によって自身の両眼を一時的に魔眼化するというもの。

魔眼化した片目は、視覚によって認識することが出来る情報量が10倍になり、映るものの動きがスローモーションのようにゆっくり見えるようになる。

そしてもう片方の目はスローモーションの状態で2秒先の未来を映し出す能力を持つ。

片方ずつ見えるものが違うため、常人には上手く扱うことが出来ないだろう。

だが【賢者】のクルトならば、それを完璧に使いなこなすことが出来る。

それゆえに《賢者ノ時間》はクルトだけに許された時間なのだ。