軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3-24話 光と魔術師

「いま、お前らが倒したのは俺の 分身体(ドッペルゲンガー) 。俺の 2(・) つ(・) 目(・) の(・) 魔(・) 法(・) でこっちに持ってきた魂の入れ 物(もん) だよ」

アビスの 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく) な解説にイグニとミルの顔に嫌気がさす。

「そんなに嫌そうな顔すんなよ。俺だって面倒なんだから」

アビスが笑いながら、イグニとミルを見た。

「なら、帰ってくれ」

「そいつはできねェ。そこにいる少女を連れて帰らないとな」

「なんのためにサラを追うんだ」

「あ? ああ、そうか。お前ら、知らねえのか」

アビスが合点の行った顔をした。

「史上最大の災厄『魔王』。それは知ってるだろ」

「……ああ」

急に『魔王』の話をしだしたアビスに理解が追い付かないが、何とか言葉だけでも追いかけるイグニ。

「なら、魔王軍による大地への浸食も知ってンだろ。曰く、魔王軍が歩いた大地は草も木も1本も生えることのない不浄の大地になる、ってな」

「『魔王領』のことだな」

「そう。ここまでは誰でも知っている。誰でも分かっている。世の中の常識だ」

「だから、それがサラを狙うなんの理由になるんだ!」

「そう焦るなよ。楽しいのはこれからだろ?」

アビスが静かに告げる。

「だが、不浄の大地を生成していたのが『魔王』じゃなかったとしたら?」

「…………それは」

間違いない。サラのことだ。

サラの魔力によって大地は浸食され、『魔王領』という名前になっていたのだから。

「そう。俺も最初は『遺体』だと思ってたよ。『魔王』のな。でも、違った。『魔王』には 娘(・) が(・) い(・) た(・) 」

「……娘?」

イグニは自分の聞き間違いかと思って、アビスを見た。

アビスはただ笑うだけで何も答えない。

「娘だと?」

「そうだ」

イグニは息を飲んだ。

隣にいるミルは何が起きているのか完全には理解していないものの、イグニとアビスの口ぶりから大まかに状況を把握。

「もう分かってンだろ。あいつは『魔王』の娘だ」

そう言って、アビスがサラを指さした。

「ふざけるなッ!」

「ふざけてねぇ。真面目だよ」

アビスは顔から笑みを消して、静かにぽつりと言い切った。

「どうする? お前の保護している相手は史上最大の災厄が落とした忌み子だ。俺たちとは、暮らしている世界が違う」

「……違う」

イグニが一歩前に出る。

「違うか? 魔導具1つで何とか身体を保ったまま。薄氷を踏むかのような生活だろ? 1歩でも間違えれば、ドカン! と、行っちまう。爆弾みたいな子供だ。だから、俺が使う」

「…………」

さらにイグニが前に出る。

「アレの凄いところは無尽蔵にあふれ出る魔力。何らかの魔術か、もしくは魔法か。そこは知らねえが、魔力の生成量よりも排出量の方が多い。つまり、無限に使える魔力タンクになる」

アビスが流れる様に紡ぐ。

「お前らじゃ、 ア(・) レ(・) を(・) 使(・) え(・) ね(・) ェ(・) 。生まれる意味が無かった奴に、俺が価値を見出してやってるんだ。良いじゃねえか」

「お前ごときがッ!」

イグニの咆哮。

「他人の価値を決めるなッ!!」

莫大な魔力がイグニの体内から熾る!

「『 装焔(イグニッション) : 極小化(ミニマ) 』ッ!」

イグニの後方に後光のような魔力の加速炉が生成。

「『 加速(アクセラレーション) 』ッ!!」

分子レベルの極小な『ファイアボール』が魔力炉によって亜光速まで加速される!!

「それはもう見た」

「『 発射(ファイア) 』ッ!」

「『綻べ』」

パァン!

と、空気の破裂する音とともにイグニの『ファイアボール』がアビスの目前、2mの地点で爆発した。

「うし。初めて使うにしては、まあまあ上出来だな」

「……ッ!」

「説明なんて要らねぇだろ。俺は言ったぞ。『覚えた』ってな」

アビスはそれだけ言うと、跳躍。

わずか一歩で、ロッジ付近に着地した。

「ミコちゃん! 逃げて!!」

「リリィ! 食い止めてくれ!」

「「分かった!」」

2人の合図は同時。

イグニが『 装焔機動(アクセル・ブート) 』で近づこうとした瞬間、ミルが呼び止めた。

「待ってイグニ君!」

「はい!?」

「あいつの術式は私の術式。それは、分かるよね!?」

「……はい。何らかの方法でミル会長の術式を 模倣(コピー) してるんだと……思ってます」

「多分、そう。でも、あれは大した術式じゃない」

「大した術式じゃない? どういうことですか?」

「あれは凄く簡易的な妨害術式なの。私が2つ目の名前を手に入れたのは、アレだけに頼らなかったから。だから、アレにも当然弱点がある」

「それは……?」

ミコがサラを抱きかかえたまま後方に飛び下がり、リリィが短剣を持って前に飛び出た。

「イグニ君、アビスが真似た術式は魔術を 見(・) て(・) か(・) ら(・) 壊すの」

「……ということは」

「魔術を見せずに撃ち抜いて」

ミルの言ってきたこと、イグニは笑った。

「そうは言っても、俺の術式は全部『ファイアボール』ですよ」

「でも、その顔は自信があるんでしょ?」

「はい。俺は……“最強”ですから」

「でも、あいつを倒しても代わりが出てくる」

「ええ。全部倒しますか?」

「ううん。私がアビスの魂の位置を固定する。イグニ君は私が合図したら、アビスを撃ち抜いて」

「分かりました」

イグニは足元に数千の『ファイアボール』を展開。

それに指向性を与えて移動する『 装焔機動(アクセル・ブート) 』で空中に跳びあがった。

空中から狙撃するわけでは無い。

それでは、相手に止められてしまう。

『ファイアボール』を亜光速まで加速して放つあの術式も、加速中にアビスの眼に入る。故に、先ほど止められた。

だから、速さがいる。

魔術を展開したその瞬間から、着弾まで一瞬で決着がつくような……そんな魔術が。

「きゃあっ!」

リリィが投げ捨てられる。

ユーリがアビスの足止めをしようとして、魔術を散らされる。

「『呼べ。呼べ。魂を呼べ』」

「『 熾転(イグナイト) 』」

イグニは空中で魔力を回転。

回転数は秒間50回転!!

「『闇は影より来たりて、呼応する魂をつなぎ給え』」

ミル会長の声が遥か後ろに流れていく。

イグニにとっては制御できない数字だが、空中での一瞬。

時間が静止したように停滞するその一瞬であればその無茶も効く。

そして、イグニは全てが減速していく世界の中でアビスを両目でとらえた。

「イグニ君!」

そして、ミル会長の合図がイグニに届く。

アビスがゆっくりとイグニに振り向く。

イグニの魔術を止めるつもりなのだろう。

次の瞬間、アビスの心臓めがけて影から闇の鎖が飛び出す。

アビスの首がイグニから鎖に向かって動き始めた。

あの鎖はミル会長が生み出した魂を固定化する鎖。

あいつが鎖を見れば魂を固定化している魔術を壊してしまうだろう。

だから、

「『 装焔(イグニッション) : 極光(ルクス) 』ッ!」

イグニは魔術を使った。

だが、イグニの周囲のどこにも『ファイアボール』は生み出されていない。

通常の『 装焔(イグニッション) 』はイグニが生み出した『ファイアボール』に魔力を込めて、その威力を数百倍にまで跳ね上げる詠唱である。

だが、今回の『 装焔(イグニッション) 』は大きく違う。

イグニのそれは、『ファイアボール』を 生(・) み(・) 出(・) す(・) 前(・) に(・) 魔力を込める。

イグニは『ファイアボール』しか使えない。

だから、イグニが『ファイアボール』に対して行える操作は以下の3つ。

1つ、大きさの変更。2つ、威力の変更。3つ、発射速度の変更だ。

だが、当然生み出した『ファイアボール』は空気中で減速する。

そして、撃ちだす速度にも限界はある。

だからイグニは考えた。

どうすれば、もっと速い『ファイアボール』が撃てるのか。

亜光速まで加速させる『ファイアボール』は、その1つ。

【光】の魔術師を撃ち破るための術式だ。

だが、イグニにはそれでは足りなかった。

イグニの師。祖父という最強を倒さなければ、自分は最強に至れない。

それはある時、天啓にも似た閃きとともにイグニに舞い降りた。

魔術を形にする前に、速度だけ先に与えてしまえばどうなのかと。

『ファイアボール』を生み出すときに決定する意志順序。

形→威力→速度が通常の流れだとするならば、それを無視して速度→形→威力で決めてしまえば、その境地にたどり着けるのではないかと。

だが、それは机上の空論だった。

『 術式極化型(スペル・ワン) 』の処理能力を持ってしても、『ファイアボール』を光の速度で撃ちだすことは叶わなかった。

けれど、『 熾転(イグナイト) 』を手に入れたことで、不可能が可能と化した。

故に、それは祖父の名を冠する魔術。

『ファイアボール』に光の初速度を与えて放つその術式こそ、

「『 迸れ(ファイア) 』ッ!」

刹那、一筋の光が煌めいてアビスの身体が蒸発した。