軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2-12話 争奪戦は突然に

「な、何を言っているの!? イグニ! あなたを撃てるはずがないわ!!」

「……そう、ですよ。それに、あなたは……私の……護衛の、はずでは……?」

「構わない! 俺を撃ってくれ」

クララもローズも、フローリアも流石にイグニの行動を処理できず魔術の発動を止めざるを得ない。

「ローズ様。イグニ様とはあのような方なのですか?」

「あのようなってどういう意味よ! イグニはこの場を収めようとして自分の身体を張ってくれたのよ! フローリア! あなたはイグニに失礼よ!! 謝って!!!」

「……すみませんでした」

4人だけになった大通りだが、騒がしいのなんの。

「……まあ、確かに……場を、収める……方法の、1つでは……あるかも知れませんが……危険では?」

「俺は女の子が傷つく方がつらいよ」

モテの作法その4。――“常に紳士たるべし”。

「きゃああ!! カッコイイ!!! 流石はイグニ!!!」

それがぶっ刺さったのが1人。

言わずもがなのローズである。

「……でも、ダメよ。イグニ」

しかし、すぐに豹変した。

「他の女はダメ、イグニ」

ローズの周囲に魔力が渦巻く。

「でも、しょうがないわ。今は他の女に目が行くのも仕方ないもの。だから、すぐに忘れさせてあげるからね。『 聖者拘束(ホーリー・バインド) 』」

「っ!?」

急に撃たれたローズの魔術を回避するイグニ。

「何で避けるの! イグニ!!」

「俺は女の子に捕まるよりも、自分から捕まえる派なんだ」

ドヤ顔で言うイグニ。

「か、カッコイイ……」

目を『♡』にして感激するローズ。

それを冷めた様子で見ているのはクララとフローリア。

「『聖女』さん……どうします……? 『アリリメニア』に、来ますか? それとも、来ない……ですか?」

ヒュっ!

と、音を立ててクララの剣がイグニに向けられる。

「卑怯だぞ! クララッ!! 学生を人質に取るなんてッ!!」

フローリアが吠える。

俺が人質?

どういうこと……??

1人だけ状況がつかめていないイグニは首を傾げる。

「なあ、クララ。これはどういう状況なんだ?」

「……ああ。そういえば……何も、話して……ませんでしたね」

剣を向けられたというのに、イグニは何も気にしていないように話しかける。

いや、事実この男は何も気にしていない。

直感でクララが己を殺さないことを確信しているからだ。

そして、それは正しい。

クララとて、イグニを殺した後に『聖女』が『アリリメニア』に来るとは思っていない。故にこれは、ブラフである。

「イグニ……。『聖女』の……属性は……?」

「【聖】属性だが……?」

「そう……。それは、『魔王領』の……汚染を、唯一……除去、出来る……属性、です」

「ああ。そういえば、そんなものもあったな」

長い間『魔王領』に住んでいたから当たり前のことを忘れていた。

普通、『 魔(・) 王(・) 領(・) 』 に(・) 人(・) は(・) 住(・) め(・) な(・) い(・) のだ。

『魔王領』は死後100年以上経つ魔王の死体からあふれる魔力によって動植物が異常な進化を遂げているだけではなく、モンスターたちも通常より数倍強い。

それに加えて、『魔王軍』の忘れ形見の化け物たちがそこら中を歩いているのだ。

「イグニ様。お忘れですか。……『魔王領』は通常の大地を 侵(・) 食(・) いたします。故に、放っておけば大地の全てが『魔王領』と化すでしょう」

「……ああ。思い出した」

フローリアの言葉も、イグニにとっては言われて思い出した要素の1つ。

「それを、食い……止められるのが……『聖者』と『聖女』です」

「だから、国が『聖女』を保護する、か」

昔に物語で読んだ内容を思い出しながらイグニがぽつりとつぶやいた。

「……はい。そういう、こと……です……」

「エルフの領土を広げるためにクララはローズを連れて帰りたいのか」

「……はい」

周囲を通常の大地に包まれた公国は『聖女』が必要ない。

しかし、王国や帝国をはじめとする多くの国は領土のどこかが『魔王領』と触れている。ならば、時間とともに自らの領土が『魔王領』に沈むことは避けられぬ運命。

「【水】属性、の上位属性である……【聖】属性はそう、生まれません……。しかし、『聖女』さんは……【聖:S】。まるで、神に祝福されている……みたい、ですね」

「みたいではない! ローズ様は神より祝福されているのだ!!」

“極点”2人がにらみ合う。

そこにイグニが割り込んだ。

「けど、行き先はローズが決めることだ」

イグニたちの足元を風が吹き抜ける。

「ここで、俺たちが決めることじゃない」

「い、イグニ! 見て、フローリア! イグニがカッコイイわ!!」

「……イグニ様。それは、できません」

フローリアはローズを無視して、イグニに告げる。

イグニはクララの前に出て、フローリアと対面した。

「どういう……ことだ」

「ローズ様の予定は40年先まで決定しているのです」

「それは……」

「……決定事項です。『聖者協定』と呼ばれる協定により『聖者』もしくは『聖女』が生まれた時に向かう国は全て決められています」

「だから、ローズの人生は……」

「はい。決まっています」

イグニはローズを見た。

「ローズは、それでいいのか」

「うん。良いわ」

ローズは静かに笑う。

「だって、それが『聖女』の使命だから」

「……っ」

イグニは言いよどんだ。

自分の人生を自分で決めている女の子に、口を出す男は無粋というもの。

「本当に、それでいいのかッ!」

イグニの問いに、ローズは何も言わない。

ただ、全てを受け入れたようにほほ笑んでいるだけ。

しかし、静寂を破るようにしてクララが静かに言った。

「……人生を、縛り……つけて……楽しく、ないでしょう」

風が吹き付け、彼女の前髪が舞い上がると両目に巻かれた包帯が露わになる。

「あなたの……歳で、人生を……決めるのは……愚か、です」

「そうかしら? 私は自分の人生に誇りを持っているわ」

「……わかり、ました。『アリリメニア』に来て、いただけるなら……あなたの、自由な……人生を、保証しましょう」

「んー。魅力的だけど、駄目ね」

「イグニ……も、つけます」

「行くわ」

「ローズ様ッ!」

俺の扱い雑じゃない?

まあ、女の子たちだから別に良いけど。

「やはり……あなたが……邪魔、ですね。フローリア」

「邪魔? ローズ様に手を出さなければ良いだけだろう。クララ」

2人はそう言って向かい合うと、

「『 水鞭(ウォーター・ウィップ) 』ッ!!」

「……ふッ」

ギギギギギンン!!!

刹那、鈍い金属音と魔術のぶつかる激突音が響く!!

それと同時に空気が弾かれ、空中が爆発したかのように周囲の物を吹き飛ばした!!

「ちょっと! フローリア!」

「口で言って聞くような相手なら、困りません」

フローリアが生み出したのは水の鞭。その数、15。

「クララ!」

「大丈夫……。殺しません……」

それをたった1本の剣で、しかも盲目で弾ききったクララ。

しかし、事態はそれだけに収まらない。

なんと、それに驚いているローズの足元が 溶(・) け(・) た(・) のだ。

「ローズッ!」

その中で 誰(・) よ(・) り(・) も(・) 先(・) に気が付いたイグニが地面を大きく踏み込んで、ローズに手を伸ばす。

遅れて気が付いたフローリアがローズに向かって水の鞭を伸ばして、液体化した地面に落ちるローズを助けようと動いた。

だが、両者を食い止める様に地面から無数の『 岩礫(テツラ・バレット) 』が放たれる!!

「『 撃墜(ファイア) 』ッ!」

イグニは自分に向かって飛んでくる『 岩礫(テツラ・バレット) 』を叩き落とした瞬間に、ローズの身体が完全に地面に落ちてしまう。

「ば、馬鹿なッ!」

フローリアが叫ぶ。

その叫びはイグニの心境と全く同じだった。

「魔力の 熾(・) り(・) も無しに魔術を使うだと!?」

「……そんな……ことが……」

フローリアの叫びと、クララの戸惑いがその状況の全てを表してた。

魔術とは、魔力を 熾(おこ) して初めて使われる物。

逆に言えば、 熾(おこ) さないと使えない。

だからこそ、イグニたちのような“極めた”魔術師は魔力の熾りを見て魔術に対処する。

故に、突如として起きたローズの誘拐はイグニたちをはじめ誰も想定していなかったもの。

「イグニ! あっちよ!!」

だが、空には新しい乱入者がいた。

「アリシアかっ!」

「ぼ、ボクもいるよ!」

空を駆ける箒に乗る少女と、少女にしか見えない少年。

「あっちに運ばれていったわ!」

アリシアの指さす方向は公都『リヒリア』の外側。

「『 装焔機動(アクセル・ブート) 』っ!」

イグニは『ファイアボール』を地面で爆発させて浮かび上がると、アリシアたちと同じ高さまで上昇。

「イグニ! 『聖女』を早く捕まえないと、ヤバいことになるわよ」

「ヤバいことって!?」

どうしてここにいるのか、などと不必要なことは聞かない。

「あれと全く同じ魔術を戦場で見たことあるの! あの魔術を使うのは『“支配”のマリオネッタ』! 【 固有(オリジナル) 】の魔術師よッ!!」

「【 固有(オリジナル) 】……っ!」

イグニが吠える。

フローリアが歯をかみしめ、クララが地面に剣をついて索敵開始。

「俺が追いかける! アリシアは付いて来てくれ!」

「分かったッ!」

この日、この瞬間を以って『聖女争奪戦』が始まった。