軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8-28話 ラストワン

全てが消え去った後、空からアビスが落ちてきた。

「やったな、クソガキ」

「ああ。これで、全部終わりだ」

「俺はこれからこっちの世界の俺に全ての状況を伝えてくる。まだ俺が消えた世界はアホほどあるからな。少しでも人手が欲しい」

イグニが頷くと、アビスはすぐに踵を返した。

「ジジィやシャルルもこっちの世界に戻ってきてるだろうから、そいつらについては俺から説明しておく」

「任せた」

「これから色々と忙しくなると思うが、上手くやれよ。イグニ」

アビスの言葉にイグニが目を大きく開いた時には、既に彼の姿は見えなくなっていた。

「流石イグニだわ!!!」

「……っ!?」

そんなアビスの様子に驚いていたら、イグニの腹にローズが突撃してきた。女の子とはいえ、油断してたローズの一撃を食らって身体が「く」の字に折れたが気合で耐えた。耐えれないと男として失格だ。

「やっぱりイグニがやってくれると信じてたの! 流石ね!!」

「ありがとう。ローズが手伝ってくれたおかげだよ」

こういう時でもカッコつけるのを忘れない。

いや。こういう時だからこそ、か。

「ほ、本当に倒したの……?」

ガクガク動くゴーレムに乗って、おっかなびっくりユーリがやってきた。

それにイグニは深く頷く。

「ああ、倒した。倒したっていうか、消したって言ったほうが正しいか」

「あ、あの黒いやつもイグニの魔法?」

「そうだ。俺の3つ目の魔法だ」

「みっつめ……」

あまりのとんでもにユーリは目を丸くして、驚いたまま固まった。

それもそうだろう。『ファイアボール』しか使えないのに、誰が3つ目の魔法まで辿り着けるというのだろうか。

「よくやったな、イグニ!」

「ありがとな、エドワード」

ユーリと走ってきたエドワードとイグニの拳が触れ合う。

男たちにはそれで十分だった。

最後に空からずっと彼を見守ってきた魔女が舞い降りると、ふわり、と空中で一回止まるとイグニの前に立った。

「お疲れ様、イグニ」

彼女はそれだけ言って、ゆっくりと微笑んだ。

アリシアは疑わなかったのだ。イグニの勝利を。

イグニもまた彼女の信頼に応えた。

だから、言葉は多く必要なかった。

ただそれだけがあれば良かったのだ。

「イグニくーん!」

ふと空から声が聞こえてきたかと思って直上を見上げると、そこには空飛ぶゴーレムにのったマリオネッタがいて、

「急にモンスターが死ぬようになったから何事かと思ったけど、もしかして……『魔王』を倒しちゃった!?」

「ついさっきな」

そういってイグニは先ほどまで『魔王』が立っていた場所を指差す。

そこには横一文字に、まるで鉛筆で描いた絵画を消しゴムでただなぞったかのように無造作に消された世界の一端があって、

「……凄いな、君は」

その光景を見たマリオネッタはそう言って、儚く笑った。

しかし、イグニはそんなことより気になることが。

「なぁ、マリオネッタ。空を飛べるゴーレムがあるなら、最初からそれを使えばよかったんじゃないか?」

空を飛んだほうが早いに決まっている。

なんで六脚のゴーレムで移動したのだろうと思ってイグニは尋ねたのだが、

「これは数分しか飛べないんだ。そこから先は要改良」

「そういうもんなのか?」

自身の魔力が続く限り空を飛び続けられるイグニは、その感覚が今いちよく分からず飛行型ゴーレムを上から下まで見る。どうにも不思議な形をしていた。

「そのうち、このゴーレムが長時間空を飛べる日も近い。そうなったら、全てが変わるだろうね」

「全てって?」

「移動手段とか、輸送手段とか。まぁ、そこら諸々だよ。あと戦争の形もね」

マリオネッタがそういって笑うと、飛行型ゴーレムが震えた。

「おっと、時間だ。そろそろ収納するよ」

どろりと形が溶けて、ゴーレムが地面に消えていく。

「しかし、本当に『魔王』を倒すとは……これで、君も“極点”の仲間入りかな」

「……ん」

イグニはその言葉に少しだけ照れくさそうに笑った。

それはかつて、ローズとの約束だった。

イグニは立派な“光の極点”になり、ローズは“水の極点”になるのだと。

幼い頃に交わした約束だ。

だがどうだろうか、形は違えどイグニは“極点”へと足を踏み入れたではないか。

その幼い頃の思い出がくすぐったくて、イグニは誤魔化すように言った。

「少し気が早いぞ、マリオネッタ」

「そうかい? 『魔王』を倒したんだから、“極点”になっても良い気がするけどね」

マリオネッタは肩をすくめる。

「イグニ、そろそろ帰りましょう! 早くイグニが『魔王』を倒したんだって色んな人に言いたいわ! イグニの活躍を自慢したいの!!」

ローズがイグニに抱きついたままそう言うと、イグニは困ったように笑った。

「そうしたのは山々なんだけど……さっきの魔法のせいで、少しの間ここから動けないんだ。悪いけど、先に戻っててくれないか?」

「そ、そうなの!? だったら動けるようになるまで待つわ!」

「……そうしてくれると助かるんだけどな。でも、今も前線でモンスターと戦ってるやつがいる。残った残党を倒さないとこの戦いは終わらない」

「むぅ」

イグニの正論にローズはふくれっ面。

「大丈夫、俺ならすぐに追いつけるから。先に戻っててくれ。道中で合流しよう」

「なら、私が残るわ。イグニを1人には出来ないでしょう」

アリシアが箒を片手にそういうと、ローズが怒った。

「私も残る!!!」

「ローズは魔法を使ったばっかりだろ? 身体にどんな反動が来てるか分からない。ローズにはしばらく休んで欲しいんだ。……俺は、ローズに無茶して欲しくないんだ」

イグニがそういうと、彼女は目を輝かせてイグニのお腹に頭をこすりつけながら頷いた。

「イグニがそういうなら休むわ! 早く来てね! イグニ!!」

そんなローズに押されるようにして、ユーリも、エドワードもマリオネッタが生み出したゴーレムに乗って公都を後にした。

「本当のこと言えば良かったのに」

その姿を見ながらアリシアが静かに言った。

「ヤバイやつが残ってるから手伝ってくれ……って?」

「……そう言われると無理ね。戦いでイグニの手伝いなんて、出来るわけないもの」

アリシアが困ったようにそういって笑うと、イグニの手を取った。

「もちろん、動けるでしょ」

「ああ、もちろんだ」

イグニはそう云うと、アリシアと共に後方に隠れていた 最(・) 後(・) の(・) 英(・) 雄(・) を見た。

「いつまで見てるんだ? さっさと出てこいよ」

「……すまない。取り込み中かと思ってね」

そう言って出てきた彼は……真白い装束に身を包み、腰には一本の剣を下げていた。今までの英雄たちとは格が違う。彼が本物の英雄だ。

金髪に碧眼。端正な顔立ちのイケメンに見えるが……その両目は固く瞑られている。この世全てに決別したかのように、固く、固く目を閉じている。

「お前が、グラシャスか」

その容姿はマルコやルーラントから聞いている異様の英雄に酷く似ていた。最も強く、最も異常な英雄がいると。故にイグニは彼だと推測。短く尋ねると、白い男は静かに首を横に振った。

「グラシャスは……訛っている呼び名だね。僕の国ではそう呼ばないよ」

彼は一歩一歩前にやってくる。

イグニの魔法を感じていただろうに、それに怯むこと無く前に来る。

「この時代でなんて呼ぶのかは知らないけど、僕の時代では僕の名前はこう呼ぶんだ」

そして彼は剣を引き抜いた。

「グローリアス……ってね」