軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8-21話 白夜姉妹:下

『魔王』によって生き返らされたモンスターたちが一度絶命してから生き返るまでの時間はおよそ30秒。そして、イグニたちの乗っているゴーレムに対してモンスターたちが追いつけなくなるほどに時間を稼げばいい。

「大体……15分ってところかな」

ラニアはそういうと、懐中時計を取り出して……時間を見ながらそう言った。それはアウライト領の問題を解決したときに領主から貰ったもので、彼女にとっては大切な権威付けとして持っているものだった。

「15分、しっかり稼ぐわよ。妹ちゃん」

「はい、姉さま」

そう答えるニエの足は震えている。いや、足だけではない。

全身が震え恐怖と戦っている。

しかし、降りた。あのゴーレムから降りてしまったのだ。

「残る私の『権能解放』は3回。ここにいるモンスターたちを足止めできるのはさっきの一撃を含めて2分とちょっと」

「……はい」

「つまり、あと13分は私たちの力でなんとかしないと行けないんだよ」

「分かってます、姉さま」

空はニエの魔術で未だ暗い。生き返った飛行型のモンスターが空に向かって飛んでいくが、再び酸欠に陥って死んでいく。

……上のことを考えなくていいのは幸運だ。

「じゃあ、気合いれよっか。ここを耐えたら……“ 白夜(しろくろ) 姉妹”は完璧になれる」

「……はいです」

刹那、再び起き上がったモンスターたちに向かって、魔剣が煌めく。

あと、2回。

「最後の一回は残しておく。妹ちゃん、力をあわせてあれをやろう」

「あれ……ですか」

「うん。防衛してる時に見てたあれだよ」

「あれですね」

彼女たちは、本当の姉妹ではない。

しかし、何年も何年も行動を共にしてきた。

だから、やりたいことを説明するのにだらだらと語る必要はない。

ただ必要なことを必要なだけ言えばいいのだ。

「「『 粘水弾(ウォーター・シェイブ) 』っ!」」

モンスターたちが起き上がると同時、2人の魔術が詠唱された。

それは共鳴し、モンスターたちを縫い止める。だが縫い留められるのは前線だけだ。

奥の方にいるモンスターたちが我先にと押しのけ押しのけ前に出てくる。

その瞬間、再び同じ魔術が叩き込まれた。

「これでちょっとは持つでしょ」

そう言いながらラニアは次の作戦について手を打とうとした時に、ばしゃ……! と、モンスターたちを縫い止めていた粘着性の水が、ただの水になった。

「……無効化魔術!?」

ラニアは思わず大きな声をだした。

いや、出さざるを得なかった。

それは多くの魔術師が使える 対(・) 魔(・) 術(・) 師(・) 用(・) の魔術。当然、魔術師と戦うのであれば無効化されないように専用のプロテクトをかけて使用するのが魔術だが……モンスターを相手に、そんなことを考える魔術師はいない。

ましてや、指揮官がいなければ何もできない『魔王軍』を相手にそこまで仕込む魔術師など……っ!

「……妹ちゃんっ!」

刹那、ラニアはニエを突き飛ばした。

それは、ラニアの思考が為した奇跡だった。

対魔術師用の無効化魔術をこのタイミングまで隠していたということは、『魔王軍』のモンスターの中に『英雄』が潜んでいたと見るべきだろう。

それは、ずっと見ていたのだ。

ラニアとニエの戦力を。

そして、勝てると思ったから無効化魔術を使った。

だからラニアはニエを突き飛ばしたのだ。

ここで魔術を無効化するということは、

「姉さまっ!」

魔術師を狩る準備が終わったことを意味するのだから。

……バヅッ!!

と、嫌な音がした。本当に、嫌な音だった。

何度も何度も聞いたことのあるその音は、肉が裂ける音に他ならない。

ニエの耳を貫いたのは……そんな、ラニアの肉が裂ける音だった。

左の肩から腹にかけて、深く、深く肉が断たれた。

「……姉さまっ! し、しっかりしてください! い、今から治癒魔術を……」

「…………駄目、だよ。妹ちゃん」

傷口を右手で抑え、しかしそれだけで血が止まるはずもなく彼女の白い服に真っ赤な染みが信じられない勢いで広がっていく。ラニアの身体から溢れ出す血液が川のようになって広がっていく。

「モンスターを……止めないと」

「な、何を言ってるんですか!? 姉さまの治療のほうが……!」

「……止めないと、妹ちゃんが……死んじゃう、から」

生き絶え絶えになりながらラニアは残る力を振り絞ってそういうと、前のめりに倒れ込んだ。

「……いや、いやっ! 姉さま!! 姉さま!!」

ラニアのもとに、ニエが駆け寄る。

「やだ。いやだ! 死なないで!!」

「…………こんな、ことじゃ、死なないよ」

モンスターが迫りくる。

「姉さまがいないと、私は……なんにもできないんです。だから、姉さま……」

「……大丈夫、だって」

既にラニアは呼吸をしていなかった。そんなラニアに向かって追撃の魔術が飛ぶ。

横たわった彼女の背中が断ち切られた。

その瞬間、ラニアは血しぶきの中に……己を見た。

酷く矮小で、惨めで、何もできない無能な自分を見た。

「……あぁ」

息を漏らす。思考が加速する。

「なんで」

モンスターが迫りくる。

ラニアが死んでいく。

「やだ。やめて」

どうすればいい。

どうすればいい。

どうすれば、この状況は……。

「……ニエちゃん」

初めて、ラニアが彼女の名前を呼んだ。

「逃げて……」

その時、ニエの呼吸が止まった。心臓が止まった。

時が止まったかと思った。

姉を助けないといけない。

こっちに迫りくるモンスターを止めなければいけない。

どこかに隠れている『英雄』を探しだして倒さなければならない。

そして、何よりもこの場から逃げ出さないと行けない。

やるべきことが多いのに、どれからやっていのか分からない。

いま姉を助けてしまえばモンスターに襲われる。

モンスターを抑えていれば姉が死ぬ。

そして、どちらにも手を出したら英雄に殺される。

――あぁ、どうして。

自(・) 分(・) が(・) も(・) う(・) 一(・) 人(・) い(・) れ(・) ば(・) い(・) い(・) の(・) に(・) 。

こんな無能な自分じゃなくて、有能で強くてこんな状況をどうにかできる自分がもう1人いてくれればいいのに。

……いや、違う。1人だと届かない。

だから、たくさんいれば……きっと、この状況もどうにかできる。

「……自分が、たくさんいれば…………」

そして、世界は流転する。

何を迷っていたのだろう。

治癒魔術も、攻撃魔術も、索敵魔術も。

「……全部同時に使えば」

そしてニエは、魔術の極点にたどり着いた。

自らの人格をベースにして、自らの精神にもう1つの人格をプラスした。

その疑似人格は、ニエと同じように自らの人格をもう1つプラスした。

そして、同じように増えた人格は同じように人格をプラスする。

分割された人格は主人格であるニエの統制のもと、全ての状況に対して同時にアプローチする。今回、ニエが生み出した人格は16384。

そのうちの8192の人格が同時にラニアに対して治癒魔術を使った。

そのうちの4096の人格が同時にモンスター達に対して攻撃魔術を使った。

そのうちの2048の人格が同時に索敵魔術を使って『英雄』を見つけ出し、残る2048の人格が『英雄』に対して攻撃魔術を使った。

ニエは『治癒魔術』が得意ではない。

擦り傷を治すことのできる初級魔術『 治癒(ヒール) 』しか使えない。

だが、それは1人だった時の話だ。

今は、8000人の 自分(ニエ) がいる。

矮小であるならば、無能であるならば、たどり着けない無数の0をかき集めてでもその領域に手を伸ばす。誰も分からない。他の 奇跡(まほう) のように派手ではない。何かに対して働きかけることはない。

だがそれは、単独で万の魔術が使える歴戦の魔術師になることができる。

だがそれは、単独でたった1つの国を相手取れる魔法使いになることができる。

それは、0が1に。2が4に。4が8になる至高の領域。

彼女は誰よりも自分の才能を知っていた。

彼女は誰よりも周りの才能に恋い焦がれていた。

故に、彼女はたどり着いた。

弱い自分を受け入れたまま、最強に至る道に。

それは人呼んで、『夜空の奇跡』。

夜空に光る無数の星々のように、無限に届く 魔法(きせき) である。