軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8-16話 反撃する魔術師

「会長なんだけど、どこにいるのかまでは掴めなかったよ……ごめん」

「……いや、良いんだ。大丈夫」

イグニがアーロンより秘密の告白を受けてから、数日が経った。

結局、前線付近ではミルの情報を手に入れることはできなかった。

彼女ほど優れた魔術師ならば噂が広まってもおかしく無いのだが、どこにもそのような話がない。

「も、もしかして……死んじゃったり、してないかな……?」

「いや、それは無い」

「な、なんで?」

「魔法使いは、そう簡単に死なないんだ」

それにもし、死んでいるのであれば必ずその話が伝わっているはずだ。

しかし、生死を含めて彼女の痕跡が1つもないということは、きっとミルが配属されたのはイグニたちのように前線ではなく、フローリアたちのように防衛戦なのだろうと推測できる。

「……それにしても」

イグニがアビスと出会ってから1週間。

その間に公国は完全に堕ち、王国の防衛線は50km以上後退した。そして、その間に多くの人間が死んだ。

それだけの時間を食ってしまったことを噛み締めながら、イグニは出発する仲間たちを見た。

彼らは車両型ゴーレムというマリオネッタが開発した蜘蛛のような形をした六足歩行のゴーレムの背に輪になって座り込んでいた。

「変なメンツだな」

アリシアにユーリ、ローズにエドワード。

彼らはイグニを前線に運んでいくために最後まで護衛してくれるという。

そして、そこまでの道を切り開いてくれるのは“ 白夜(しろくろ) 姉妹”にマリオネッタ、そして、アビス。かつては敵として戦った彼らがイグニのために道を切り開く。

「『ファイアボール』しか使えないお前がそれを言うのか?」

「たしかにな」

アビスに言われてしまってイグニは苦笑。

寄せ集めにもほどがあるメンバーだが、不思議と負ける気はしない。

勝てるとしか、思っていないのだ。

「……すまない。私には、無事を祈ることしかできない」

「気にするな、アーロン。王族は傷つかないことが仕事なんだから」

ハイエムには、アーロンの護衛として残ってもらう。

単独で彼女を上回る戦力を持っているのはイグニしかおらず、そのイグニが『魔王』討伐の中核を担っているのだから、それ以外の選択肢は無いだろう。

それに加えて、アーロンはとっておきの秘技を持っている。

イグニは最初聞かされたときには、 俄(にわか) に信じられなかったが、アーロンの話している感じからするに嘘を付いているようには見えなかった。

ならば、彼女が魔法使いであるというのは……真実なのだろう。

しかし、彼女はそれを使わないと宣言した。

彼女の魔法はとても、残酷な魔法だから。

「そろそろ出んぞ。もう1秒だって時間は無駄にできねェ」

「あぁ」

アビスの言葉に促されるようにイグニたちが拠点をあとにしようとした時、拠点の中から1人の騎士が飛び出してきた。

「イグニさん!」

「……モネ?」

突然やってきた顔見知りにイグニは首をかしげる。この時間、彼女には見回りの仕事があったはずだ。少なくとも今の騎士団にイグニたちを見送る余力は残っていない。

「これ、戦いの無事を祈るお守りです。皆さんの分用意しました」

そういって、モネは小さな宝石のように煌めく石のはめられた首飾りをイグニに手渡した。はめられている石の色は全て違い、この非常時に全員分を用意するという難しさを言外に伝えてくれていた。

しかし、それは。

「このような見送りとなったことをご容赦ください。私、モネが代表して皆様を見送らせていただきます」

きっと、彼女の独断ではないのだろう。

騎士団の上は出られない。1人だって、見送りに回せるだけの余力はない。

けれど、『魔王』を倒すと言っている勇者たちを誰も見送らないというのは……あまりに、薄情というものではないだろうか。だから、騎士団としても苦肉の策だったのだろう。力にならない新兵を1人だけでも見送りによこしたのだ。

「ご武運を!」

彼女の敬礼にイグニは微笑むと、頷いた。

「行こう」

イグニの合図にマリオネッタがゴーレムを前に出す。6足歩行だというのに、ゴーレムは全く揺れずそれでいて信じられない速度で進みだして、勢いよく山の斜面を下りだした。その間にイグニは受け取ったお守りを全員に手渡す。

「うわ、これ『古の魔術』じゃない」

「知ってるのか?」

イグニは真っ赤な石がはめられた首飾りに頭を通しながら、アリシアに尋ねた。

「知識だけね。……昔、まだ魔術が確かじゃなかった時代には、祈りが力になるって思われてたの」

「……祈り」

「そう。人の思いが力になるって。今では否定されてるけどね。でも、強い思いは世界に働きかけるって……昔の人は信じていたのよ。このお守りもそう。魔力を吸着しやすい魔石に祈りを込めて、お守りとしてもたせてたの」

「……じゃあ、これは」

「私たちの無事を祈るように思いが込められてるんだと思うわ」

「なるほどな」

それは彼らができる最大限の援助だったのだろう。

いや、もはやそれだけしか力が残っていないと言うべきだろうか。

そんな話をしている横ではアビスが目を瞑ったまま、魔力を熾し続けている。彼が使っているのは索敵魔術。周囲にいるモンスターを誰よりも先に察知して、操縦しているマリオネッタに伝えることで最低限の戦闘で駆け抜けるためだ。

「……ね、イグニ」

「どうした?」

ふと、隣に不安げに座っていたユーリがぽつりと口を開いた。

「ボク。全然、自覚が湧かないんだ……。これから『魔王』を倒しに行くっていう」

「俺もだ」

「え?」

「俺も、全然自覚が湧かないんだ」

これから魔王を倒しにいくというのに、イグニの心はやけに透き通っていた。変に緊張もしていない。それは会敵までどれだけ短く見積もっても3日かかるとアビスに言われたからだろうか。

「それに今から緊張してたって心が持たねえよ。気楽に行こうぜ」

「う、うん。そうだね」

ユーリが頷いた瞬間、アビスが目を開いた。

「この先、オーガが15体。群れになってる。誰か殺せ」

「じゃあ、私たちがやるよ」

そういったのはラニア。ニエも大きな杖を手にして頷く。

「クソガキ。お前は絶対に魔力を使うなよ」

「ああ」

イグニの言葉を聞きながら、アビスは目を瞑った。

そういうイグニの手には大きな魔石が握られている。

それは彼がここ数日のうちに編み出した苦肉の策。

サラとの魔力のパスが無いのであれば、他の場所から魔力を持ってくればいい。つまり、予め魔力の貯蓄を作っておいてそれを『魔王』にぶつけてしまえば良いと考えたのだ。

だが、魔石に蓄えられる魔力の量などたかがしれているし、時間経過で魔力は少しずつ揮発していく。だから、イグニの魔力はとても貴重だ。

こんなところで雑魚に使うための魔力はない。

「来るぞ」

アビスがそう言った瞬間、木々の隙間に隠れるようにしていたオーガがばっ! と姿を現した。15体のオーガたち全ての目が突然の乱入者であるイグニたちに向けられる。

「『闇よ、引き裂きたまえ』!」

ニエの詠唱。

バヅバヅッ!!!

肉の裂ける音が響くと15体のオーガたちの身体が内側から引き裂かれた。

その血をシャワーのように浴びながら、イグニたちは駆け抜ける。

それは誰にも知られることのない人類の反撃の狼煙だった。