軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8-12話 次元渡りの魔術師

「俺は、この世界のアビスじゃねェ」

静かにアビスがそう言った時、ついに彼はモテなさすぎて頭がおかしくなったのかとイグニは思った。

「さっきからどこまで話せば良いのか確かめてたが……この調子なら大丈夫そうだ。全部喋るぞ」

「ああ」

「まず、大前提として こ(・) の(・) 世(・) 界(・) の俺はもういない」

「……この世界?」

「……そこからか」

アビスは静かに息を吐くと、指先に闇を纏い……床に何個か縦線を引いた。

「この縦線が世界だ。互いに交わることはなく、近いところにある世界はほぼ差異がない。だが、遠く離れれば離れるほど世界のありようは変わっていく」

「……はぁ」

イグニはそれを見ながら首を傾げる。

今いち理解しきれていないのだ。

だが、そんなイグニをスルーしてアビスは続ける。

「いま引いた線は数本だが、実際のところ平行世界は無限に存在する。だから、例えば『魔王』に襲われていない世界とか、逆に『魔王』によって人類が滅ぼされた世界だってあるわけだ。俺はこれを、ここに引いた線になぞらえて世界線と呼んでいる」

「……ふーん?」

だんだんと理解できたイグニはそんな声を漏らした。

「なら、魔術がない世界とかもあるのかしら」

「あるんじゃないか? 俺は行ったことないが」

アリシアの問いにアビスは淡々と返すと、再び指の先に闇を灯す。

「で、話はここからだ。俺の魔法『渡りの奇跡』は3次元空間を2次元空間に落とし込むことで無限の地平線に落ちる魔法だが……その結果、2次元平面は無限大というその性質上、このように 世(・) 界(・) を(・) ま(・) た(・) ぐ(・) 」

そういって、アビスは先ほどの縦線――世界線――に交わるように横線を引いた。するとどうだろう。先ほどまで互いに独立していた何本かの縦線を横断する横線が引かれるではないか。

「互いに交わることのない世界線だが、俺の魔法を使えば移動できる。これを使って、俺はここに来た」

「……はぇ」

魔法とは荒唐無稽なものであるが、世界をまたぐなどと聞かされてもその実感が湧かない。とは言っても、イグニが同じように『ファイアボール』から世界を創る話を周囲にしても同じリアクションが返ってくるだろうが。

「で、俺はジジィ……ルクスによって『魔王』から逃された。後を任せたと言われてな」

「じいちゃんが?」

「勘違いするなよ。この世界のルクスじゃねえ」

そう言うと、アビスは深く息を吐き出した。

「で、ジジィとシャルルは消えた。俺を守ってな」

「……そんなことが」

「おい、悲惨な顔をするな。こっちの世界じゃ俺も消えてるんだぞ」

本人を目の前にしてどうリアクションすれば良いかも分からず、イグニは困惑。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

だが、そう止めたのはローズだ。

「なんで“極点”のあなたが消えるのよ。『魔王』に何されたのよ」

「分かってンだろ。魔法だよ」

「……魔法」

「俺は『 泡沫(うたかた) の奇跡』って呼んでる。フローリアのやつに似てる魔法だ。全部消すんだよ。0にするんだ」

「じゃあ、じいちゃんはそれに巻き込まれて」

「あァ」

イグニは閉口。

とりあえず、“極点”たちが姿を消したのは何かしらの策があったわけではなく、本当に敗北してしまったのだと……理解した。

「んで……ここからが大事な話だ」

それまでの話が前座であるかのように、アビスは話を強制的に打ち切った。

「ジジィから逃されるときに……お前に頼れと言われたんだよ。クソガキ」

「俺?」

アビスが指を指したのは……間違いなく、イグニだった。

というか、そもそもこの世界のアビスはイグニのことをクソガキなんて呼ばないので、違和感しかない。いや、この世界のアビスも言いそうではあるが。

「お前なら『魔王』によって消えたやつらをどうにかできると聞いたが?」

「……俺が?」

「ああ、お前だ」

アビスはイグニを見る。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! イグニは確かに魔法を使えるわ! すっごい魔法が! でも、あれは時間を止めるだけよ!」

「知ってンよ。俺だってそれは食らってんだ。だが、あのジジィが……戦ってる最中にそう言ったんだ。なら、間違いはねェ。絶対だ」

それは“極点”同士の信頼だろうか。

アビスの並々ならぬ自信に他の面々も突っ込めず黙り込む。

そして、必然的に考え込んでいるイグニに視線が集まった。

「……心当たりが、無いことはない」

魔法の相殺、と言うべきだろうか。

イグニは頭の中で理論をこねくり回すが……しかし、どうにかなる未来が見えない。

だが、今のイグニには見えないだけで、別世界とは言えルクスがそう言ったのであれば、

「じいちゃんができるって言ったら、できるんだ。なら、どうにかするよ」

「頼もしい言葉だ。ぜひこっちの世界の俺をさっさと連れ戻して欲しいね」

「……だが、問題がある」

「ん?」

「魔力がいる。それも……無尽蔵の魔力が」

「……ふむ」

アビスはその言葉を吟味するように黙り込んだが、すぐに顔をあげた。

「おい。『魔王の娘』はどうした。クソガキ、お前あいつとパスを結んだんじゃないのか」

「……それなんだが」

イグニはアビスに状況を説明。

サラとのパスが上手く機能していないのか、流れ込んでくる魔力が10分の1になってしまっていると。

自称ではあるが、研究者を名乗っているアビスはすぐに何かを理解したのか口を開いた。

「あァ……そりゃ、 同一視(アイアンデム) だろ」

「あ……何だそれ」

「『古の魔術』の考え方だよ。同じ音には同じ意味が含まれる。言霊って聞いたことあるか? あれをもっと拡大解釈したものだ。つまり、現実的には別存在だが、魔術的に同一の存在であると認定されたら、そういう性質を持つってことだよ」

「それがどうして俺とサラのパスに関係してくるんだ?」

「あァ? そりゃ、『魔王』に決まってンだろ」

アビスは3つの円を書く。

ご丁寧に、『イグニ』『サラ』『魔王』と名前を書いて、

「良いか、今まではお前と『魔王の娘』の間にパスがあった」

そういって、イグニとサラの間に線を引くアビス。

「だが、この世界に『魔王』が突如として現れた。もちろん、前の『大戦』のやつとは別もンだ。だけどな、魔術的にはこの『魔王』と前の『魔王』は同じ存在なんだよ」

そう言いながら、イグニとサラの間に引いていた線から派生して、『魔王』へと繋がる線が伸びる。

「これは推測だけどな、『魔王の娘』は……前の『大戦』のときに、父親と強力なパスが繋がってたンじゃねえか? だから、『魔王』は無尽蔵の魔力で人類を圧倒した。だから、前回をなぞらえるように強力なパスが今回の『魔王』にも強制的に繋がれたンだろ」

「……どうしたら、良いんだ」

「『魔王』を殺す」

「…………なるほどな」

思わずイグニは笑ってしまう。

今までこんなにも簡単な解決方法があっただろうか。

『魔王』によって奪われた全ての物を奪い返すには、『魔王』を倒せばいい。

『魔王』を倒せば、全てが丸く収まり解決する。

「やるか、『魔王』討伐」

イグニの言葉に、全員の目の色が変わった。