軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8-07話 尋問と魔術師

森ごとモンスターを焼き払ったイグニだったが、騎士団たちへの誤射を恐れて遥か遠方を狙った分、いくばくかの取りこぼしが生まれてしまった。

それでも、数千数万というモンスターがそのまま砦に攻め込んでくるという非常事態は避けることができたし、騎士たちにかかる負担はぐっと減ったのだ。

砦の観測所でモンスターを観測した騎士たちは最前線が崩壊してしまったという事実と、“極点”の反応が消失したという状態も相まって地獄に包まれていたが……すぐに天を裂く無数の『ファイアボール』の雨が、強制的に彼らの思考に冷水をぶっかけて冷静にした。

そんなこんなで騎士団のハプニングを未然に防いだイグニだったが、彼は頭の中で『これくらい目立ったんだから少しはモテるだろう』という意味の分からないことを考えていた。

「ぜ、全然剥がせない……っ! どうなってるんだこれ……!!」

マルコはガチャガチャと手錠を揺らしながら、『 風は縛りて(ヴェントス・カルセア) 』を外そうと必死になってもがいていたが、アリシアの魔術はびくともしなかった。それもそのはず。

『 風は縛りて(ヴェントス・カルセア) 』は高位拘束魔術と呼ばれる系統の魔術であり、本人を拘束するときの始動魔力はわずかで良く、その後の拘束には拘束されている者の魔力を微量に奪いながら強固な拘束体勢を築いていく。故に、暴れれば暴れるほどきつく縛り上げられる仕組みなのだ。

しかし、その魔術が開発されたのはここ数年のこと。

100年以上前のマルコにとっては何が起きているのかさっぱり分からないことだろう。

イグニたちはそのままマルコを砦まで連れ帰り、司令官の許可を貰った状態で砦の一室を借り……尋問することにした。

「詳しく聞きたいことがいくつかあるわ」

ちなみに尋問を担当するのはアリシア。

普通に考えてみればすぐに分かるが、イグニはこういうのを得意としないからだ。

アリシアの言葉が聞こえないのか、それとも聞こえないふりをしているのかマルコは何も言わない。

「『英雄』って何?」

「……拘束を解いたら教えるよ」

「教えてくれたら拘束を解くわ」

マルコはそれで解放が狙えるなどと思っていなかったのか、もがくのを辞めて肩をすくめた。

「見れば分かるだろ? 死人だよ」

「『魔王』が死人を蘇らせるのは分かってる。でも、あなた達は他の死人と違って意思を持ってるわ。何が違うの?」

「見て分かんない?」

マルコはすっかり諦めてしまったのか、アリシアに向かって苦笑。

「未練だよ。この世に対する未練が強いか、弱いか」

「……そんなもので、『英雄』になれるの?」

「んー。もちろん、生前の肉体の強さとか精神の強さとか関係してるとは思うんだけどねぇ。僕はあんまりそこんとこよく分からないんだよ。ほら、 僕(・) は(・) 弱(・) い(・) か(・) ら(・) 」

「モンスターを引き連れておいてよく言うわ」

「何を言ってるの? 僕は弱いから周りの力を借りるんだよ」

減らず口を叩き続けるマルコにアリシアはまだ何かを言おうとしていたが、それをそっとイグニが制した。今は彼のつまらない口喧嘩に乗っている場合ではない。

「……まぁ、良いわ。それで、未練って何かしら」

「未練は未練だよ。君だって死んで見れば分かるさ」

マルコは薄ら笑いを浮かべると、正直に答えた。

「ほら、あるだろう? 『こんなところで死ぬつもりは無かった』『自分にはまだやるべきことがあるんだ』『どうしてここで死ぬんだろう?』『まだ死にたくない』。ありきたりだ。いや、普遍性とも言っていい。僕らの時代には、満足して死ねるやつなんていなかった」

それはきっと『大戦』のことを言っているのだろうということくらい、イグニにだって想像がついた。

「やがて未練は恨みに変わるんだ。『あいつらは生きてて羨ましい』『ああ、恨めしい』『さぁ、どうしてくれようか』……ってね」

「……逆恨みじゃないの」

アリシアの正論に、マルコは肩をすくめるだけ。

何も言おうとしない。

「 死(・) ね(・) ば(・) 分(・) か(・) る(・) さ(・) 」

彼は手錠をだらりとぶら下げて、それだけ言った。

「……分かったわ。それと、もう1つ聞くけど」

「どうしたんだい?」

「ここに来る途中の基地を破壊したのは……アンタ?」

「そうだね」

マルコは悪びれもせず、当たり前だというように答えた。

「僕がやったよ」

「……そう」

アリシアは拍子抜けと言った具合の表情を浮かべていた。流石にマルコがこんなにぺらぺら馬鹿正直に話すなんて思っていなかったのだろう。嘘をついていないかの確証を取る必要はあるだろうが、“ 傀儡(くぐつ) ”の能力を知ってしまった今では、1人で最前線を落とすことなど造作もないように思える。

“ 傀儡(くぐつ) ”の最も得意とするのは【生】属性魔術による生体操作。生きているモンスターの身体を複数体操ることによって、1人で軍勢を作ることができる魔術だ。当時は最強格として讃えられていたが、やがて『魔王』という完全上位互換によって叩き潰されたのだという。

そう考えると、どこか同情を覚えなくもない。

「もう出ましょう。イグニ」

「ああ」

話は終わったと言わんばかりにマルコに背を向けるアリシア。『 風は縛りて(ヴェントス・カルセア) 』は拘束者の魔力を吸い上げている間は半永久的に駆動し続ける。術者が近くにいなくても拘束し続けられるのは流石、高位の魔術と言った所だろうか。

いつのまにかアリシアがそんな高度な魔術を使えるようになっていることにイグニは驚きが隠せなかったが……彼女もまた、成長しているということなのだろう。

「……イグニ。彼の話、どう思う?」

「嘘を付いている感じはしなかったけどな」

部屋を出てすぐにアリシアはそう聞いてきた。

「嘘を付く必要も無いんだろう」

「……そうね。そんな気がするわ」

アリシアは困ったように眉をひそめる。

「とりあえず報告しに行きましょう。……いくら人手不足だからって、まさか私たちが尋問をやることになるなんてね」

騎士団は現在、森の中に入ってきたモンスターの掃討戦を行っており、尋問に人を割けない。なので、捉えたイグニたちがマルコに対する尋問を行うことになったのだ。あまりにもザルすぎるというか、どれだけ人が足りないのかが分かるというものである。

しかし、マルコという規格外の個人を相手に普通の騎士団で尋問が務まるかというとそれもまた首を傾げてしまう。そう考えると、イグニたちが案外適任だったのかも知れない。

「それと、話は変わるけど」

「ん?」

「森の中で女の子と抱き合ってたのは何だったの?」

「んんっ!?」

抱き合ってたというとモネのことだ。

「いや、あれは抱き合ってたんじゃなくて危なかったから抱えてただけで……」

「なんで抱えるのにお姫様抱っこなのよ」

「……なんでって」

モテそうだから……とは流石に言えないイグニが、なんて答えるか迷った瞬間、

ドゴッッッツツツツ!!!!

まるで爆発したかのような重低音が、マルコの部屋から響き渡った!

「……ッ!?」

ドンッ! と、ドアを蹴り飛ばすようにして、イグニとアリシアが部屋の中に入ると、風が2人の顔をなでた。そこには、先ほどまであった窓も壁もない。ただ、何者かによって開けられた大きな穴があるだけだ。

そして、その大きな穴の向こうには……。

「……巨人!?」

アリシアが驚いた声を上げる。

それもそのはず。巨人族は『大戦』の時、たった1人の裏切り者によって絶滅したからだ。

「ごめーん。迎えが来たからさ、帰るよ」

その巨人の肩には、マルコがいる。

彼は悪びれた様子も見せずに、元気に手を振っていた。

「ついでに砦も壊しちゃおうよ、ルーラント」

『ああ』

腹の底に響き渡る低い声がイグニの耳に届くと同時に巨大な拳が砦に向かって振り下ろされた。