軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7-27話 そして向かうは

アーロンが忍者に狙われてからしばらくの間、王都は仮初の平和に包まれた。

と、言うもの公国と神聖国を犠牲にし……『魔王軍』の戦い方を学んだ人類と、“極点”たちを主軸にした防衛戦の成果が、じわりじわりと現れていたからだ。

ゆっくりと、しかし確かに人類は反抗を開始していた。

イグニが王城に呼び出されのは、そんな時であった。

「イグニ。大切な話がある」

「どうしたんだ? 改まって」

アーロンの部屋に呼び出されたイグニは、高い紅茶を振る舞われながら彼女の凛々しい顔を見た。忍者に襲われたときの顔とは打って変わって、やる気と元気に満ちいている顔だ。

……それは、空元気かも知れないが。

「……私は、前線に行こうと思う」

「なんだって?」

アーロンがぽつりと漏らしたそれを、イグニは信じられずに強く聞き返した。

「前線に私も行こうと思う」

聞き間違いかと思ったが、そうではないらしい。

イグニは目を丸くして……問い返した。

「……しかし、アーロン」

「分かっている。自分のやろうとしていることが、おかしいということくらいは……」

イグニは基本、女の子の決断を否定しない。

それが自分自身で悩み抜いた末にでた結論であれば……なおさらだ。

それは彼女たちの意志であり、それは何よりも尊重されるべきだと思っているからこそ……イグニは、否定しないのだ。

だが、アーロンの言っているそれは……そんなイグニでも、思わず問い返してしまうほどのものであった。

「しかし、イグニ。再び、刺客が迫ってきているのだ」

「また、か」

「そうだ。今回は冒険者崩れたちで……王都に入る前に騎士団によって止められたが、次にいつまた王都へと侵入されるか、分かったものじゃないんだ」

イグニは思わず歯噛みした。

先に戦った忍者は強いか弱いかで言えば、強くないと答えるだろう。

だが、酷く戦いにくかった。

それは、戦いに安定感が無いということだ。

王都の中という、大規模な魔術が使えない場所。

そこで、近接戦や暗殺に特化した暗殺者が侵入してきた場合……100%どんな状況、どんな敵でもアーロンを敵の魔の手から守れると、胸を張れるほどイグニは驕っていなかった。

だからこそ、歯噛みしたのだ。

「……疎開じゃ、ダメなのか」

前線に出るということは、それだけで危険が高まる。

彼女を狙う刺客たちだけではなく、モンスターたちも相手にしなければ行けないからだ。

だが、アーロンは首を振った。

「私も最初はそう考えた。だけどな、イグニ。それでは……逃げた先が、また王都と同じ状況に陥る。民が安心して過ごせないのだ」

「…………」

それは、そうだろうけど……と、イグニも思わず納得してしまう。

『魔王軍』の侵略に日々怯えている者たちが、より安全な場所を目指して疎開するのだ。

そこにアーロンが逃げ込んで……先日の王都と同じ様にモンスターの侵入を許したら、そして、それが何度も続いたら。

誰も彼も、“安心”を求めることができなくなる。

「だから、前線なのだ。そこならモンスターたちだけで済む。そして、イグニ」

アーロンの鋭い視線が、ふわっと柔らかく変わった。

「……お前は、そういう場所でこそ強いだろう?」

前線の避難は済んでいる。

強制か、非強制か。

それはともかくとして、前線にいるのは兵士たちだけだ。

「そうだな」

アーロンに嘘をつくわけにも行かず、イグニは首を縦に振った。

振らざるを、得なかった。

確かに王都のような場所で戦うよりも、前線のような開けた場所で戦う方が……楽に決まっている。

「……無理強いはしない。だが、イグニ。お前さえよければ」

わずかに彼女は言いよどむと、

「ついてきて、くれないか?」

恐る恐る、そう言った。

イグニはティーカップを置くと、アーロンを見た。

彼女の顔には、先程と同じようなやる気に満ちていたが……今のイグニにはそれが気丈に振る舞っているのだとよく分かった。

だからこそ、

「もちろんだ」

彼は、すぐに頷いた。

モテの作法その5。

――“困っている女性は助けるべし”だ。

「ただ、俺からもいいか?」

「ああ」

「もう2、3人ほど連れて行ってもいいか?」

前線となると、1日中彼女に危機が訪れる。

それをたった1人で守りきろうと……守りきれると思うのは傲慢だ。

そんなイグニの決断を知ってか、アーロンは深く頷いた。

「もちろんだ。……すまないな、イグニ」

「気にするな、アーロン。お前の決断は、何よりも尊重されるべきものだ」

イグニはそう言うと、早速仲間たちに声をかけることにした。

……だが、残っている者たちはそう多くないということに気がついた。

まず向かったのは、ローズのところだった。

「ローズ、話があるんだ」

「ど、どうしたのイグニ! ついに結婚式の日程が決まったの!?」

「……『依頼』の話だ」

「お仕事ね! イグニと一緒ならなんでも良いわ!」

と、秒で快諾をもらったので、次に向かったのはミコちゃん先輩の家。

「ん? つまり、オレとイグニでその王子様を守るってわけか?」

「はい。そういうことになります」

イグニがそういうと、ミコちゃん先輩は申し訳無さそうに顔をしかめた。

「悪いな。オレは弟たちと妹たちの元を離れらんねぇ」

「……いえ、俺の方こそ無理言ってすみませんでした」

そう言われてしまえば、仕方がない。

イグニは彼女に礼と謝罪を告げて、他に当たることにした。

もちろん、向かったのは彼女の元だった。

「……アリシア」

「あら、イグニ。どうしたの?」

「頼みがあるんだ」

イグニの言葉にアリシアは口角が上がりそうになるのを必死にこらえると、真顔で聞き返した。

「どうしたの?」

「実はな……」

イグニに頼ってばかりで、頼られた経験の少ない彼女は……すぐに、イグニの頼みに頷いた。

「良いのか? 前線に行くことになるんだぞ?」

「構わないわよ。姉さんと戦うよりは……安全だわ」

それは彼女なりの冗談で……思わず、イグニは微笑んだ。

「ありがとう、頼りにしてる」

「それにしても、珍しいわね。イグニが戦いで頼み事なんて」

「……流石の俺も1日中ずっとは守れないしな」

それにアーロンは女の子なので、男のイグニが立ち入れない場所もあるだろうと思って彼女たちを誘ったのだ。

最後に 治癒師(ヒーラー) ということで、とある男の元を尋ねた。

「何ッ!? アーロンが前線に行くだと!?」

「そうなんだ。それで…… 治癒師(ヒーラー) が欲しくてな」

「もちろんだ、イグニ。僕に任せろッ!!」

エドワードは、快くイグニの頼みを引き受けてくれた。