軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7-2話 確認の魔術師

馬鹿の1つ覚え、という言葉がある。つまり、馬鹿が何か1つ新しいことを覚えた時に、どんな状況や場面であろうともそれを使ってドヤ顔する……というやつなのだが、今のイグニはそれだった。

「イグニ様! 顔が明るいですけど、何か良いことでもあったんですか!?」

「イリス、それなんだけどな。ずっと悩んでいたことが分かったんだ!」

「そういえばイグニ様。ここ最近、ずっと悩んでましたよね」

「……俺は、アイデンティティクライシスだった!」

「さっきの授業でやったやつですか? 確かずっと同じ属性の魔術ばっかり練習してるから不安になってくるってやつですよね」

イリスはエレノア先生の説明を繰り返すと、ぽんと手を打った。

「確かに! 言われてみればイグニ様は『ファイアボール』しか使いませんものね!」

「『 術式極化型(スペルワン) 』だからな」

まんざらでもなさそうな顔でいうイグニ。

かつてこれで滑ったのも昔の話。

今では彼の周りにいる多くの者が、彼の特性を知っている。

「なるほど。確かにそうならイグニがそうなっちゃうのはおかしくないんだね!」

ユーリは頷きながらそういった。

同じ属性ばかりを使って、そういった心理状態に陥るのであれば同じ術式しか使えない人間がそうなってもおかしくない……と、思われているのである。実態はかなり違うが。

「じゃあ、イグニ。エレノア先生に相談してきたら?」

「ん?」

「ほら。さっきの授業でもし そ(・) う(・) なってたんだったら相談してってエレノア先生が言ってたじゃん?」

「ああ」

「じゃあ、早速相談しに行こうよ!」

「え、もう?」

と、イグニは聞いたのだがユーリに押されるがままに、イグニはエレノア先生に会いに向かった。

「それでぇイグニ君はぁ、自分がアイデンティティクライシスになってるって思うのぉ?」

「はい、先生。困ってるんです」

イグニの言っていることは魔術に関することではないが、そんなことは露ほども知らないエレノアは珍しく微笑を絶やして真剣な面持ちを浮かべると、考えた。

彼女もまた、イグニと同じようにたった1つの術式を持って強者になった人間である。当然、学生時代に当たった壁は1つや2つではない。故に、自らが乗り越えた方法を伝授した。

「イグニ君はぁ、『ファイアボール』しか使えないでしょぉ?」

「はい」

「だからぁ、自分を信じるしか無いと思うのぉ」

「自分を、信じるですか」

「うん。自分のやってきたこととかぁ、これからやろうと思っていることを……信じるのぉ」

「……信じる。難しいですね」

イグニはそういって、拳を握った。

今までルクスのモテの作法や極意にのってやってきた。

でも、それで本当に自分はモテモテになっているんだろうか?

「じゃあ、周りの人に聞いてみればいいのぉ」

「周りの人に聞く、ですか?」

「うん。そうすれば、自分じゃ見えてこないことが見えてくるしぃ……」

その言葉を聞きながら、イグニはふとどこかで似たようなことを聞いたことを思い出した。一体どこだろう? いや、あれは確か1年半前のことだ。決して忘れるはずがない。

イグニの記憶が過去へと沈んでいく。

――――――――――

『イグニよ』

『どしたのじいちゃん』

『男は時として、賭けねばならん時がくる』

『急に何の話?』

『黙って聞けぇ!』

『おわっ!?』

イグニに飛んできたビンタを回避。

理不尽にも程があるが、自分の祖父がそういう人間だということは百も承知である。人間ができてないというか、人間が出来てたら女遊びで貴族を追放されないのだ。

『モテ、ということをやっているとある時、自分が本当にモテているのか不安になってくるときがくる』

『なんで? モテてたらすぐに分かるもんじゃないの? だって女の子が周りにたくさんいるんでしょ?』

『うむ。それはそうなのじゃが、人というのは時々客観性を失うのじゃ。果たして自分はモテているのか。それとも、金や名誉に集まってきているのじゃないか……と』

『ふーん?』

あまり興味がそそられないイグニは空返事。

だが、遅れて強力な痛みが飛んできた。

『いっって!? 何!? なんで急にビンタ!?!?』

『大事な話じゃ! ちゃんと聞けェッ!』

『だ、だって! モテてるのに本当にモテてるか分かんなくなるって意味わかんないじゃん! 馬鹿だよそれ!』

『今まで黙っておったんじゃがイグニ。お前は馬鹿じゃ』

『……お、俺が……馬鹿……?』

衝撃の事実に閉口するイグニ。

『じゃから、よく聞け。不安になった時こそが、賭けるべきとき。己の成果と、己の努力の真価を試す時なのじゃ……っ!』

『うーん。じいちゃんの話、回りくどいんだよね。さっさと結論だけ話してよ』

『…………』

幼きイグニによる言葉の右ストレートがルクスのボディを見事に捉えた。

『……ごほん。つまり、不安になったら聞けば良いのじゃ』

『聞く?』

『そう。女たちに聞けば良いのじゃ』

『ど、どういうこと?』

『自分のことを、好きなのかどうか。ちゃんと言葉にして、聞けば良い』

『……え、で、でも……そんなことしたら、気持ち悪がられない?』

『だからこそッ! 努力の真価が問われるのじゃッ!!』

『……努力の……真価……!?』

『お前に好きかと聞かれて気持ち悪がらないという信頼をそこまでで作れているかどうか……! それがそこで明らかになるのだッ!!』

『そ、そういうこと……!?』

『そうだ! 故にイグニ! 研鑽せよッ! 一層励めッ!』

『う、うん! 頑張るよ!!』

――――――――――

そうだ! この言葉はじいちゃんの言葉だ!!

じいちゃんが昔言っていたモテいるかどうか分からなくなる状態がまさに今!

ちょうど今なのだ……ッ!!

じいちゃんが言っていたことは正しかった……ッ!

俺は……馬鹿だ……ッ!!!

「こんなことしか言えないけどぉ……。イグニ君、大丈夫?」

「はい! エレノア先生。ありがとうございます! 先生のおかげで道が開けそうです!」

「そう? なら良かったわぁ」

イグニは颯爽と立ち上がると、先生に一礼して相談室を後にする……途中で、ふと尋ねた。

「先生」

「なぁに?」

「先生って、俺のこと好きですか?」

その言葉にエレノア先生はわずかに目を丸くすると、微笑んだ。

「先生はみんなが大好きよぉ」

「ありがとうございます!!」

イグニのテンションは有頂天になった。