軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6-17話 弟と魔術師

『E組とA組はそれぞれ所定の位置についてください』

【風】属性の魔術によって、大きくなった声がフィールドに響く。

2日目の開幕試合であるE組対A組の戦いは、昨日と打って変わって信じられないほどの人が集まっていた。

「凄いな。前の『大会』みたいだ……」

イグニは観客席で周囲を見回しながら、そう呟いた。

会場には割れんばかりの歓声が飛び交って、2つのクラスを応援している。

いや、正確にはたった2人を応援しているのだ。

「エスティアさん頑張って!!」

「応援してるぞ! 頑張れー!!」

「フレイくん勝って!!」

「A組!! 優勝しろーォ!!!」

この戦いは、エスティアVSフレイの戦いでもある。

昨日からE組は案の定、エスティアを中心に置いた戦法を取っていた。イグニは見ていないが、A組も似たような感じでフレイを中心に置いた戦法を取っていたらしい。

「……いま、気がついたのだけど」

「うん?」

観客席に見えるように、巨大なディスプレイで両名がズームされる。

余裕綽々のフレイに反して、エスティアはひどく緊張しているように見えた。

「この戦い、もしかして“極点”を運用するときの訓練なのかしら」

イグニの隣に座り込み、相変わらず大きな帽子で顔を隠すようにしているアリシアがそういった。

「……そう言われれば、どこもクラスの中にいる強いやつを中心に組んでるな」

誰も彼も1年生にしては、ずば抜けた才覚を持っている者たちばかりだ。

彼らのポジションは魔術師として学外に出た時にはどうなるだろう?

きっと、それは“極点”と同じ枠に入る。

「強い“個人”を集団で使って、目的遂行をする。……これって、考えられてるのかしら」

「どうだろうな。先生たちならそこまで考えててもおかしくないな……」

そんなことを言っている間に、全員の準備が完了したようで対抗戦の開始を知らせる合図が鳴っていた。

「……そういえば、イグニってフレイの兄貴なんでしょ?」

「ん? そうだぞ」

別に隠しているわけでも無い事実をアリシアから聞かれたので、イグニは頷く。そう、イグニはタルコイズ家出身だということを隠してはいない。そこから追放されたということも隠してはいない。

ただ、 必(・) 要(・) な(・) い(・) から言っていないだけである。

いや、だがイグニとて最初からそこを気にしていないわけではなかった。

あれは『魔王領』での特訓中のこと……。

――――――――――――――――

『うむ? イグニ、どうした。そのマナーのなっとらん食べ方は……』

『こうしたら貴族出身だってばれないだろ』

汚らしく食事を食べるイグニにルクスがわずかに引いた。

『ふうむ。つまり、イグニ。お前は貴族出身であることを隠したいのか?』

『だって貴族はモテないって言ったのはじいちゃんじゃないか! 俺だってちゃんと考えてるんだぞ!』

『考えが浅い!! そして汚い!!!』

くちゃくちゃと咀嚼音を立てて食事を取るイグニをルクスがふっとばした。

何を隠そう。ルクスはこの世でクチャラーが一番嫌いな存在である。ちなみにだが、一番好きな存在は女性である。クチャラーの女性はどうなるのかというと、相殺しあって零になる。

『ぐへぇ! 何すんだよ! 食事中だぞ!!?』

『音を立てて食べるな! 親の教育を疑うわい!!』

『親はあんたの息子だよ!!』

『ワシはマナーはしっかり叩き込んだぞ!!』

ああ、通りでマナーにクソうるさかったんだ 親父(あいつ) ……。

と、イグニの中で点と点がつながった。

『良いか、イグニ。何事も、 使(・) い(・) 所(・) じゃ』

『使い所……?』

イグニは身体を起こしながらルクスに尋ねた。

『つまりな、元貴族という肩書も使いどころによっては使えるということだ……』

『ど、どういうこと……?』

『ふうむ、では逆に考えてみるんじゃ。例えばお前が平民とする』

『いま俺は平民だけど……』

『そこに元貴族の女が現れたとする。そして、泣きながらお前に頼み込んでくるんじゃ……。『貴族を追放されちゃった……!』と』

『……っ!?』

『さて、イグニどう思った……?』

『い、良い……! なんか助けてあげたくなる……!!』

『そういうことじゃ。これは逆でも使える。お前がいざという時に、女に助けてもらいたい時に自らの弱みを見せるのじゃ……!』

『な、なるほど……。あ、あれ? でもモテの極意のその1は……?』

――“強い男はモテる”。

イグニの新しい考えの軸となるその考えを脅かす考えに、イグニは目の前が真っ白になりかけた。

『じゃから、何事も使い所だと言っておるじゃろう! 阿呆!!』

『あ、アホって……』

そこに引っかかるのがちょうど良い証である。

『じゃが、いまのお前に使い所だと言っても難しくて扱えん。いったん忘れろ』

『え、忘れるってのは?』

『武器になるが、それは基礎が出来てから。まずは、追放なんてものに頼らずにモテるようになってみろ!!』

『わ、分かったよ! じいちゃん!!』

―――――――――――――――

というわけである。

「その……弟のことはどう思ってるの? やっぱり気まずいの?」

「いや、別に……。どうとも……」

そもそも言われなければ存在すら忘れているような扱いである。

気まずいも何もないのだ。

「わっ! イグニ! 見て! 2人が!!」

すると急にユーリがイグニの手を取って、まっすぐディスプレイを指差した。

柔らか………っ!

本当に男なのか疑いたくなる柔肌に驚愕しながら、イグニがディスプレイを覗き込むとそこにはエスティアとフレイが激しい魔術のぶつかり合いを繰り広げていた。

だが、

「……ん?」

「どうしたの? イグニ」

「いや、なんか……。変だなって」

「変って?」

「魔力の熾りから、魔術の発動までに 遅延(ラグ) があるんだ。フレイの方が」

魔力を練り、魔力を熾し、魔術となる。

その流れがスムーズであればあるほど、発動までに多くの物をロスせずにすむ。

つまり、優れた魔術師ということだ。

だが、イグニの目の前で繰り広げられている攻防はあまりに一方的なものだった。

エスティアによる流れるような連撃をフレイは食い止めるので精一杯といった様子なのだ。

「……あいつ、あんなに弱かったっけ?」

ふと、イグニの口からそんな言葉が漏れるほどにはあまりに酷い状態だった。

「体調が悪いとか?」

「……かもな」

熱でもあるのかも知れない。

イグニがフレイの様子を見ていると、A組勝利のファンファーレが鳴り響いた。

どうやらフレイがエスティアを食い止めている間に、他のクラスメイトがE組の旗を全て奪ったらしい。

イグニにしてはどうも納得の行かない決着だったが、フレイのことなのですぐに忘れた。