軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6-16話 それは新たなる乱入者

「ソルが死んで、フラムが捕まっちゃったわ」

自身のネイルした爪を見ながら、ゴシックの服装に身を包んだ女性が相方に聞かせるように静かに言う。燕尾服の男はそれを聞いて、「らしいな」とつぶやいた。

それは“咎人”の名前である。

ともに、帝国に対して宣戦布告を行い、そして打ち払われた敗北者たちだ。

「悲しいわ。前に一度、お茶をしたのに」

「やり方が馬鹿だったのさ。真正面から国に喧嘩売るなんて、馬鹿か阿呆のやることだ」

「……そうなの?」

ゴシックの女性はきょとんとした様子で燕尾服の男を見つめた。

「そうだとも、クレーヌ。お前は馬鹿だから分からないかも知れないが、普通国は喧嘩を売らないもんさ」

「グレゴリーならどうするの?」

「静かに、目的を果たす」

「どうやって?」

「今やってる。お前は黙って俺の後ろをついてこい。クレーヌ」

「うん、分かってる。グレゴリーは賢いもん」

グレゴリーと呼ばれた男の近くに1つの影が舞い降りる。

そして、彼に耳打ちした。

「……なるほど。素晴らしい」

「どうしたの?」

「明日から、動くぞ」

「うん。でも、どこに行くの?」

「王国だ」

「王国? 遠いね」

「お前ならすぐだろう。クレーヌ」

「そうなの?」

「そうだとも。良いか、クレーヌ。お前は俺の言う通りにしていれば良いんだ。そうすれば、全て上手く収まる。そうだろう?」

「うん!」

王国と帝国は、強大だ。

“極点”を保有している珍しい国であり、それぞれがそれぞれの立場で『魔王領』の侵食を食い止めている。

だが、そうでない国であっても『魔王領』に面している国はあるのだ。

魔術師を使い潰して、それでも魔物たちの侵攻を食い止められず消えていった国は一つや二つではない。

そして、滅亡しかけている国に生まれた子どもたちは悲惨だ。

ろくな教育も、食事も取れず、最前線で鉄砲玉として使われる。

魔術の使えない子供も、呪術師が1人いるだけで立派な兵器になる。

“命”というのは、大きなエネルギーだからだ。

「ねぇ、グレゴリーは何がしたいの?」

「お前に言ってもわかんねえよ」

「でも……。知りたい」

「俺たちの住む場所を作るんだ」

「ここじゃダメなの?」

そう言ってクレーヌは、今の拠点を見渡した。

『魔王領』と人類の領土、その緩衝地点に作られた空白こそ“咎人”の住処だ。

「ここはもうダメだ。出ないと行けない」

「どうして?」

「『魔王』が蘇った。直にここも沈む」

『魔王領』の侵食はない。

『魔王』もまだ、動いてはいない。

だが、確実に力を蓄えている。

かつての魔王と同じように、『魔王領』に住んでいる命知らずとモンスターたちを自らの支配下に置いて、『王』になろうとしている。

叩くなら、今しかないのだ。

「グレゴリーは強いから、魔王をやっつけちゃえばいいのに」

「……クレーヌ、お前は馬鹿だな」

「何で?」

「 や(・) っ(・) つ(・) け(・) る(・) ために、王国に行くんだ」

「そうだったんだ。やっぱりグレゴリーは賢いね!」

「良いから行くぞ。奴らの抱えている禁術を奪うんだ」

「うん!」

クレーヌがうなずいて、魔術を使った。

かつて、小さな国があった。

『魔王』を討伐し、生き残った貴族が辺境に作りだしたその小国は豊かな海産資源によって、つかの間の安寧を享受した。

だが、今は『魔王領』に沈んでいる。

とても小さな国だった。

だから、今はもう誰も名前を覚えていない。

『魔王領』による侵攻によって、生み出された難民は諸外国の受け入れられるキャパシティを大きく超え、多くの者が見殺しにされた。

その地獄の中で、魔法にたどり着いた者がいる。

誰も知らず“咎人”の中で生き抜いた者たちもいるのだ。

――――――――――――――――

「え、このフィールド直すんですか?」

「そーだよ。それも生徒会の仕事なんだ」

放課後。

初日の対抗戦が終わったが、生徒会メンバーは残されたので、何か仕事はあるんだろうとイグニは身構えていたのだが、まさか本当に仕事があるとは思っていなかった。

仕事とは、ボロボロになったフィールドの修復である。

「つっても、【地】属性を使ってオレが元通りにするから、イグニは上から『ファイアボール』でも撃ってくれ」

「ミコちゃん先輩って【地】属性も使えるんですか?」

「当たり前だ」

そういってドヤ顔で胸を張るミコちゃん先輩。

「ま、難しい魔術は使え無いけどな!」

ミコちゃん先輩はそう言って、フィールドを貼り直した。

イグニは上に飛ぶと、空から『ファイアボール』で地面をボコボコにしていく。

『荒野』フィールドの修復だ。

荒野なのに、わざわざ直す必要があるのかとイグニは思うのだが、ミコちゃん先輩が直すと言ったのだから、直すのだと自分に言い聞かせて空を飛ぶ。

「イグニ! オレはジャングルの方に行くから、後はミルの指示に従ってくれぇ!」

「了解です!」

ミコちゃん先輩はそう言い残して、『ジャングル』の方に向かっていった。

イグニはまだ仕事が終わってなかったので、しばらく『ファイアボール』を地面に落としていると、

「久しぶりだな! イグニくん!!!」

と、聞き慣れたクソでかい声が下から聞こえてきた。

誰だよと思って下を見ると、そこに居たのはハウエル。

無視しようかとも思ったのだが、エリーナの兄でもあるので会釈だけ返す。

「あー。ハウエル先輩だー」

そこにミル会長の登場である。

「うむ、久しぶりだな! ミル君!!」

声がでかいので、空まではっきりハウエルの声が聞こえてくる。

ミコちゃん先輩から次の指示をミル会長からもらうように言われているので、イグニは着地。

「ハウエルさんとお知り合いなんですか? ミル会長」

「先輩だよー。ずっと首席だったから、有名だったんだ」

「うむ! ミル君も期待の優等生だったからな! 1年生のときから有名だったぞ!!」

なるほど。有名人同士は流石に知り合いなのか。

「で、なんでここにいるんですか? ハウエル先輩」

「騎士団で学校の警備にあたっているのだが、久しぶりに知った顔を見たので挨拶に来たのだ!」

「あ、そうだったんですね。じゃあ、挨拶が終わったら帰ってくださ―い」

「相変わらず冷たいな、ミル君……」

「生徒会の仕事があるんで」

そういってミル会長がハウエルを追い返した。

「……嫌いなんですか? ハウエルさんのこと」

「えー? 別に嫌いじゃないよ。でも、あの人、話すると自慢しかしないからあれくらいで良いかなって」

「はぇー……」

イグニはハウエルの扱いを真似しようと心に決めた。