軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6-15話 審判と魔術師

「両者、前へ!」

イグニはそういってフィールドに立っている女の子たちに声をかけると、2人が前に出た。

彼の腕には腕章。それは審判を表すものだ。

イグニが担当するのは同じ1年生の試合だ。

隣のフィールドではユーリが同じように審判を努めている。

「試合開始!」

イグニの声とともに、2人の少女たちが魔術を発動。ぶつけ合う。

まばらな観客たちから声があがって、2人の魔術師たちが戦い合うのだが……はっきりいって、イグニには物足りないと思ってしまうものだった。

そもそも、イグニがここまで関わってきた魔術師はなんだかんだと言っても一流の魔術師たち。それも、一流の 卵(・) ではなく一流の魔術師だ。だから、魔術のレベルも駆け引きもあった。

だが、イグニの目の前で繰り広げられている魔術の攻防は、そういうものは無い。

ただ、お互いに魔術をぶつけ合っているだけである。

「『ウォーターランス』」

「『ファイアボール』!」

【水】属性に【火】属性をぶつける少女を見ながら、【火】属性の“適性”があるのかなぁ、とのんびりそんなことを考える。

個人対抗戦は相手をフィールドから追い出すか、相手がギブアップするか、それとも相手を戦闘不能にさせるかのどれかによって決着がつく。クラス対抗戦よりも、もっと過激にドンパチやることを念頭に置かれたルールだ。

そのため、『 治癒師(ヒール) 』コースから、 治癒師(ヒーラー) を何人か連れてきて側に待機させている。

イグニが試合を眺めていると、【水】属性の魔術を使っている少女が【火】属性の女の子の後ろに回り込んだところだった。

「『ウォーターピアス』!」

その詠唱によって、小さな水滴が周囲に浮かび上がると、パスッ! と、音を立てて少女の腕を貫いた。

「……くぅっ」

【火】属性の女の子が悲鳴を上げる。

ポタポタと赤い血を流しながら、それでも少女は駆けた。

「『ファイアショット』!」

パパン!!

と、【水】属性の女の子を火球が吹き飛ばす。

『おおっ!』と、観客たちがどよめいた。

イグニは相手がフィールドから出ていないかチェック。

【水】属性の女の子はギリギリで耐えきったようで、肩で呼吸しながら魔術で防壁を貼った。

「『ファイアランス』!!」

ここが好機と言わんばかりに、【火】属性の女の子が魔術を叩き込む。

だが、炎の槍が水の防壁に激突した瞬間、そこから無数の水の 礫(つぶて) が跳ね返ってきた!!

……お? 反撃魔術か。

イグニは久しぶりに見たその魔術に感嘆。

反撃魔術とはその名の通り、受けた攻撃と同じ威力の攻撃をそのまま相手に返す魔術である。それだけ聞くと、多くの魔術師が使いそうな気がするが、あいにくとこの手の便利な魔術には制限があるものだ。

反撃魔術も例にもれず、大きな制限がある。

それは、攻撃を受けきれる時間が著しく短いということだ。

時間にして、恐らく一秒足らず。

それを過ぎて攻撃を受けた場合、相手の攻撃をそのまま受けてしまうことになる。

とてもリスクが高い魔術なのだ。

この土壇場では防御魔術を使って、守りに入るのが定石といえば定石だ。

彼女たちの実力的に、守りに入るものだと勝手に思い込んでいたイグニは反省。

こういうことがあるのが、魔術師のぶつかり合いの面白い所だ。

「……っづ」

魔術が帰ってくるなんて予想もしていなかった【火】属性の女の子は悲鳴を上げて、痛みに耐える。そして、少女はちらりとイグニを見た。

……ギブアップか?

と、思ったのだが彼女はイグニから視線を外して【水】属性の魔術師を見つめた。

まだ続けるのだ。

「……『ファイアテンペスト』」

【水】属性の少女は、魔術を打ち返した隙にフィールドの内側に飛び込んでいる。

そこに合わせて、【火】属性の女の子が 大(・) 規(・) 模(・) 魔術を詠唱した。

「……おいおい」

イグニはそれを見ながら、小声で呟く。

大規模魔術は一流の魔術師になるための 壁(・) 。

魔術学校の学生はおろか、最前線で戦っている魔術師たちの中でも使えない魔術師はいる。

そんな魔術を、一年生である女の子が使ったのだ。

思わずイグニの身体にも力が入る。

無論、大規模魔術は一年生だからといって使えないものではない。

例えばアリシアはその上位である天災魔術を使えるし、ユーリだって大規模魔術は使える。

だが、目の前にいる女の子たちはそこまで優れた魔術師であるように思えない。

「これで終わり!!」

【火】属性の女の子はそう言って腕を掲げると、フィールドのど真ん中に現れた巨大な炎の渦が周囲を巻き込みながら【水】属性の魔術師に向かっていく。このまま決まれば【火】属性の少女の勝ちだ。

イグニは【水】属性の女の子が巻き込まれて死なないように、いつでも救出する準備。

だが、イグニが身構えるよりも先に炎の竜巻が 崩(・) れ(・) た(・) 。

大きく竜巻が膨らむと、はち切れんばかりに風を溜め込む。

「……ッ! 試合終了!」

イグニは短く叫ぶと、足元にためた『ファイアボール』を指向性を与えて起爆!

その反動を使って、まっすぐ飛び出した!!

まず目の前にいた【火】属性の女の子を掴むと、空中で『ファイアボール』をさらに起爆。直角に曲がって、【水】属性の少女を掴んでそのままフィールドの外に出た。

遅れて、炎の竜巻が爆発。

フィールドの周囲にはられた防護魔術に爆風があたって、凄まじい音が鳴る。

「……君の、負けだ」

自身で制御できない魔術の発動。

そして、審判による救出。

それが【火】属性の女の子の敗北理由だ。

「……あれ? いつの間にここに」

イグニに抱えられた【水】属性の女の子は、まだ状況が分かっていないのかそんな声をあげた。

「うぇっ!? イグニくん!!? なんで私、イグニくんに抱えられてんの??」

【水】属性の女の子がそういって身体を起こす。

あれ、どっかで見たことあると思ったらこの娘はエスティアを探しにE組に行った時に相手してくれた娘だ。

「君の勝ちだ」

「え!? ほんとに? やったぁ!!」

そんなやけに気軽な声を聞いて、イグニは何事も無くほっと安堵の息を吐いた。