軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6-5話 準備と魔術師

「あら、魔術を使ってもいいの?」

「良いの良いの。ハイエムちゃん、しっかりやっちゃって!」

「ふふ。久しぶりね。『凍れ』」

ハイエムがミル会長から指示を受けて、一言呟くと一瞬で会場が凍りつく。

「氷ステージかんせー!!」

「え、これで終わりなんですか? 他にやることは?」

リリィがミルにそう問いかけるが、生徒会長はそれに首を振った。

「無いよ! 本当はここが一番時間かかるはずだったんだけど、ハイエムちゃんのおかげで一瞬で終わったよ! ありがとう」

「あら、人に感謝されるなんて。素敵ね」

ハイエムはイグニが帝国からロルモッドまで引き連れてきた。

で、そのまま寮に放置しておくわけにも行かないので、学校に連れてきたのだ。

すると、『対抗戦』の準備で氷結系の魔術を使える魔術師を探しているとミルが言い始めたのでイグニがハイエムに白羽の矢を立てたのだ。というわけで、かつての 最強種(ドラゴン) は、こうして雑用係になってしまったというわけである。

「ありがとう。まさか、ハイエムが助けてくれるとは思ってなかったよ」

イグニがそう言うと、ハイエムは微笑んだ。

「あら、『魔法』を見せてもらったんですもの。これくらいはするわよ。息を吐くようなものだし」

「……なるほどね」

直径500mはあるだろう大きなステージを一瞬で氷漬けにして、ハイエムはそういった。尋常の魔術師であれば魔力切れを起こして倒れてしまうような魔術領域。最強種は伊達ではない。

「イグニー! こっち手伝ってくれ!!」

「了解です!」

イグニはミコちゃん先輩に呼ばれて、別の場所に向かう。

「こっちにステージを作るから、これ持っててくれ」

「なんですかこれ」

「種だよ。【生】属性の魔術で生み出された変異種だ。植えると2日で辺りがジャングルになる。それをフィールドに蒔くんだ」

「大丈夫なんすか、これ」

「ん? 大丈夫だぞ。根っこを切って燃やしたら灰も残らず燃えるから」

「便利ですね」

「魔術だからな」

そう言って歩くこと数分。

2つ目のフィールドに移動したイグニたちは、まだ何もない円形のフィールドを見渡した。

「オレが下で旗を設置しておくから、イグニは上から種を巻いててくれ」

「了解です!」

「なるべくバラけるように蒔くんだぞー!」

「うす!」

イグニは短く返事を返すと、『 装焔機動(アクセル・ブート) 』を使って上空まで飛び上がった。そして、種を持つとフィールドにばらまく。なるべくバラけるように蒔いていると、真下ではミコちゃん先輩が『身体強化』魔術を使って、凄まじい勢いで移動していた。

旗を手に持って、フィールドに直接埋め込んでいるのだ。

「旗の取り合い、ね」

1チーム3つ。

それを全て取られた時点で、そのクラスの敗北というのがルールである。

「空を飛べると簡単そうだな……」

空を飛べる魔術師というのは少なくない。

イグニもそうだし、アリシアもそうだ。

多分、ユーリやイリスもまだ飛べないだけで飛ぼうと思えば飛べるだろう。

「いや、対策ももちろんしてあるか」

イグニでも思いつくような案である。

ロルモッドの教師たちが考えていないわけがない。

「イグニ! 終わったら教えてくれ!」

「終わりましたよ!」

ちょうどイグニに渡された種がなくなった瞬間、ミコちゃん先輩から声がかけられたのでイグニがそう答えると彼女は手を天高く掲げた。

「『ウォーター・レイン』」

そして、雨を降らせた。

【水】属性魔術の中規模魔術だ。

「ミコちゃん先輩って、【水】属性も使えたんですか?」

「この程度【火】属性以外なら使えるぜ」

「凄いっすね……」

イグニは素直に感嘆。

【火】属性の、それも単一の魔術しか使えないイグニでは絶対に出来ないからだ。

「そうか? ま、いっぱい練習したからよ!」

そういってちょっとだけ照れるミコちゃん先輩。可愛い。

いっぱい練習してドヤ顔するのまじで可愛い。

「よし、あとは30分はこのままだからな。次、行くぞ」

「フィールドって全部で5つですよね?」

「ああ。だから、オレたちがやるのは次で最後だ」

そういってミコちゃん先輩は最後のフィールドを指差した。

「よしイグニ。オレが止めるまで魔術を打ち込め!」

「え、あのフィールドにですか?」

「ああ! 最後のフィールドは『荒野』ステージ! 荒れてれば荒れてるほど良いのさ」

「なるほど!」

そうまで言われるのであれば、イグニも魔術を使わないわけにも行かないだろう。

イグニは一息ついて詠唱。

無数の『ファイアボール』が出現すると、そのまま地面にぶつかっていく。

「もっとだ! もっと削れ!!」

「だ、大丈夫なんですか!?」

「やりすぎたら【地】属性のやつらが直す!!」

「じゃあ遠慮なく!!!」

ズドドドドドッッツツツ!!!!

激しい衝撃派を撒き散らして、『ファイアボール』が地面をえぐっていく。

「わ! やりすぎだよ! ミコちゃん! イグニ君!!」

だが急にやってきたミル会長がイグニにストップ。

「え? 別にこれくらい去年と同じだろ?」

だが、なんでストップがかかったのか分かっていないミコちゃん先輩。

「明らかにやりすぎだって! もー! 私が直すよ」

「おいおい。これくらい高低差があったほうが良いって」

「んー。でも全体的にボコボコし過ぎだよ」

「どう思う? イグニ」

え、俺?

「いや、別に大丈夫だと思いますよ。これくらいなら……」

と、イグニは自分がやった手前少し自分に甘いジャッジ。

「2人が言うなら、それでも良いけど……」

ミル会長は両手を腰に当てて困惑。

「ちょっと削りすぎだと思うんだけどなぁ」

――−―――−―――−――−

ロルモッドの校舎の最奥には、生徒たちが普段立ち入らない禁忌の区域がある。

それは教師たちのもう一つの面。魔術の探求者としての側面だ。

だが、そこに1人の生徒が立ち入っていた。

無論、1人ではない。側には教師がいる。

「フレイ君、本当に良いんだね?」

「はい。もう、決めたことですから」

金髪碧眼。

兄とは似ても似つかぬその目に闘志をたぎらせて、彼はうなずいた。

「魔力量の底上げと、魔術処理速度の上昇……。確かに、今の君の強さを押し上げるにはこれ以上ない実験だ。でも……本当に、良いのかい?」

「二言はありません。俺は、もっと強くならないと行けない」

「それは、イグニ君が関係しているのかな」

ロルモッドで一年生を担当している教師の中で、あの激闘を知らない者はいない。

優勝候補であったフレイを退けて、代わりに優勝したあの魔術師のことを。

「いや、必要のない問いかけだったね。じゃあ、始めようか」

それだけ言って、教師は魔術陣を描いた。

「これは今、僕が研究している契約魔術だ。特定の条件を達成する代わりに、こちらの望むものを手に入れる。魔法のように0から1は生み出せないが、1を別の1に変換することは魔術の得意領域だからね」

その魔術陣を地面に転写すると、フレイにはその中心に立つように指示。

「今から君は仮想空間に飛ばされて、内部空間で72時間戦ってもらう。だが、こちらの時間では10分にも満たない。覚悟は良いかい?」

フレイは首肯。

「そして、最後に。この魔術はまだ完成していない。72時間戦っても、何も得られない可能性だってある。全てが徒労に終わる可能性だって……」

「良いから」

フレイはそれを遮って、

「始めてください」

「……分かったよ。『開門』」

ぱっと光って、フレイの姿がその場から消えた。