軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5-25話 スタンピードと魔術師!

大氾濫(スタンピード) とは、 地下迷宮(ダンジョン) からモンスターたちが大量に溢れ出る現象のことである。発生する要因としては様々な原因があると言われており、ダンジョンのボスモンスターの死亡やトラップの発動などが上げられる。

ただし、どんな理由であれ 大氾濫(スタンピード) の対応はその地域、その国家の最優先事項である。

地下迷宮(ダンジョン) というモンスターの 坩堝(るつぼ) には、数多くのモンスターが存在しているからだ。

「イグニさん。このことは内密に。これから我々騎士団が対応に当たります」

「大丈夫なんですか?」

それは、騎士団に入団している団員数を心配しての言葉である。

騎士団に入れるのは選りすぐりのエリート。ということは、裏を返せば一握りの人間しか入れないということである。故に、騎士団にいる人間の数はとても少ない。そんな少人数で 大氾濫(スタンピード) を抑えられるとは到底思えないが……。

「そのために、訓練を受けていますから」

若い騎士はそういうと、すっと馬車の近くから外れた。

……警備を削って対応に当たるのか。

イグニは皇族に付いている騎士たちが人知れず帝都の外に向かっているのを見て、そう感じた。

「イグニ様、何があったのですか?」

多くの人の歓声にかき消されそうな声で、イリスがこっそりと尋ねてくる。

イグニはそれに短く返した。

「 大氾濫(スタンピード) が起きた。騎士団が今から対応に当たるらしい」

「大丈夫なんですか?」

「こればっかりは信じるしかない。俺たちの仕事はアリシアを守ることだ」

もし、イグニたちの推測が正しいなら、ここでアリシアたちを狙う別動隊が動いてくるはずだからだ。

「そ、そうですよね! イグニ様の言う通りです!」

イリスがそう言った直後、イグニはふと視線を空に向けた。

それは彼の第六感。長きに渡って『魔王領』で鍛えたその直感が、空に違和感を覚えたのだ。

「……ッ! もう来たのか!!」

そこに居たのは、人の顔を持つ鳥型のモンスター。

ハーピーだ。基本的に群体で行動し、1体1体は大したことのないモンスターであっても、数というのは大きな力になる。

それが、一直線に帝都に向かって飛んでくる。

遅れて空に向かって、魔術が無数に放たれた。南の空が赤く、青く、多種多様な魔術の色に染まっていく。範囲攻撃魔術によって地面にハーピーが落ちてくるが、全てのハーピーを撃ち落とせない。

「ど、どうします?」

「あれくらいなら、騎士団がどうにかするはずだ」

イグニの推測は正しく、残ったハーピーは帝都に入るか入らないかというところで撃墜。そのタイミングで、馬車が大きく方向展開。帝都をめぐって城に帰るルートに入ったのだ。

「イリス、周囲を警戒」

このタイミングでの 大氾濫(スタンピード) が、偶然によるものだとイグニは思っていない。セリアの読みが正しければ相手は“咎人”。何らかの手法を用いて、 大氾濫(スタンピード) を起こしたに決まっている。

ということは、このまま皇族が城に戻るまでに何かを仕掛けてくるはずだ。

「何か反応があれば……」

――キィィィイイインンンンンッ!!!!

イグニが途中まで言いかけた瞬間、 空(・) が(・) 斬(・) れ(・) た(・) 。

いや、違う。そう錯覚するほどの、速さで帝都の空を何かが駆けた。

先ほどまで歓声を上げていた市民も、あまりの音の大きさに空を見上げる。

そこに居たのは5体のモンスター。

「ハーピーは陽動。こっちが本命か」

どこまでも肉を絞り、どこまでも軽さを追求し、ただ速さだけを追求した種族。

雑食、獰猛、そして簡易的な魔術まで使えるそのモンスターは、最速のモンスターであるワイバーン。

「ど、どうしましょう!?」

「大丈夫だ。騎士団を信じろ……ッ!」

最速の種族と言えども、光ほど速く動けるわけではない。

だが、騎士団には当然いる。【光】を使う魔術師が。

故に、それがワイバーンにとっての必殺になる。

狙撃スポットにいた騎士たちが、【光】属性の魔術でワイバーンを撃つ。

だが光線はワイバーンに触れる直前で、大きく屈折すると空の彼方へと消えていった。

「妨害魔術!? イグニ様! 何ですかあのモンスター!!?」

「……ワイバーンの上位種のグレートワイバーンだ」

普通のワイバーンはただ速くあるだけだ。

妨害魔術なんて高度な魔術は使えない。

『魔王領』で多くのワイバーンを狩ってきたイグニは、そのことをよく知っていた。

「あんなの倒せるんですか!?」

「妨害魔術を上回る出力で撃ち抜けば倒せるぞ」

現にイグニも何度か撃ち抜いてきている。

騎士団にしてみれば、簡単では無いだろうが不可能でも無いだろう。

「それよりも、騎士団の警戒網を抜けてることの方が問題だな」

ワイバーンを騎士団が撃ち抜けなかったことから、市民の中にわずかな混乱が芽生え始めていた。

「た、確かに。人が足りてないんでしょうか?」

「それもあるだろうけど、モンスターが多すぎるんだろうな。 大氾濫(スタンピード) は騎士団だけじゃなく、冒険者を集めて対応に回るようなものだし」

「今から……は、集められないですよね」

「まあな」

「イグニ」

イリスと話していると、上段からアリシアに話しかけられた。

「あれ、落とせる?」

「落とせるけど、落として良いのか?」

グレートワイバーンを指さして、アリシアがそう尋ねる。

イグニはそれに当然と言わんばかりに頷いて、尋ね返した。

帝都を守るのは騎士団の仕事だ。

ここでイグニが魔術でワイバーンを倒してしまうと、彼らの仕事を奪うことになる。

「大丈夫。この混乱を落ち着かせるには、イグニの魔術が必要だから」

「……分かった。やるぞ」

空中で大きく旋回しているグレートワイバーンの周囲に魔術が浮かび上がる。

……爆撃魔術だ。

このまま帝都を空から焼き尽くそうという算段だろうか。

「『 装焔(イグニッション) : 極小化(ミニマ) 』」

分子レベルまで極小化された『ファイアボール』がイグニの後方に撃ちだされる。

それは、魔術で作られた光の加速炉を駆け抜けて亜光速にまで達すると、

「『 発射(ファイア) 』」

イグニによって、撃ちだされた。

刹那、わずかに遅れてグレートワイバーンを一撃で撃ち抜く。

一撃で絶命したグレートワイバーンはそのまま地面に落下。

イグニは続けざまに残りのグレートワイバーンを撃ち抜いた。

そのタイミングでアリシアが立ち上がる。

「皆さん。落ち着いてください!」

【風】の魔術を使っているのだろう。

彼女のよく通る声によって、民衆に芽生えた混乱の種が制される。

「あのモンスターは 私(・) の(・) 騎(・) 士(・) イグニによって討たれました」

……ん??

と、一瞬不思議に思ったがイグニは黙った。

「どうぞ。このまま生誕祭を楽しんでください」

そして、その言葉で再び街に歓声が戻る。

「イグニ様。いつアリシアの騎士になったんですか?」

「……今なったみたいだな」

半分怒った様子でイリスがイグニをつつく。

だが、この場を治めるためには仕方のなかったことだろう。

そうイグニが考えた瞬間、馬車の隣を歩いていた騎士たちの魔導具から警戒音が鳴り始めた。

「……今度は一体?」

イグニの問いかけに、若い騎士は青ざめた表情で返した。

「迷宮主が現れたそうです」