軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5-07話 極点の魔術師たち

「え、そんなにあっさり頷いて……良いの?」

イグニの返答に隣から見ていたユーリが慌てた様子で尋ねる。

「ああ、大丈夫だ。ドラゴンと戦ったことは無いけど……行けるだろ」

根拠のない自信……というわけでは無い。

イグニは最強種たるドラゴンと戦ったことは無いもの、最強種の強さを『魔王』が兵器転用したドラゴンゾンビやスカルドラゴンとは戦ったことがあり、その2体とも 相(・) 手(・) に(・) な(・) ら(・) な(・) か(・) っ(・) た(・) 。

ならば、その元となる種族と戦ったとしても、勝てるだろうというのがイグニの認識である。

「本当に? なら、爺やに話を付けとくわ。イグニが付いて来てくれるなら、被害も減るだろうし」

アリシアが嬉しそうに言う。

それを見ていたエリナが横から口を挟んだ。

「えーっと、イグニが強いっていうのは知ってるんだけど……そんなに強いの?」

「勿論。だってセリア姉さんに勝ってるし」

そう言ってドヤ顔で応えるアリシア。

まるで彼氏を自慢する彼女のような顔である。

「え、本当に?」

それは知らなかったのか、驚いたようにイグニを見つめるエリナ。

イグニはそれに頷きかけるが、ここは黙秘。

何しろセリアと交わした約束は勝敗を誰にも口外しないである。

しかし、かのセリアもアリシアには口止めの約束を交わしていない。

「本当よ。私が目の前で見たもの」

「え、魔術師が魔法使いに勝ったの? 勝てるの??」

興味津々でイグニに尋ねるが、イグニはそれを否定する。

「いや、俺は魔法使いだから」

「本当に!?」

大声を出して立ち上がるエリナ。

急に大声を出すものだから、喫茶店にいた人たちの視線が一斉に集まる。

それに気が付いたエリナが恥ずかしそうに座る。

「で、でも。なんでそんなに簡単に……OKなんて出して。その……良いの?」

「良いよ。アリシアには色々と世話になってるしな」

イグニはアリシアの境遇を知っている。彼女の悩みを知っている。

そして、彼女がそれら全てを受け入れて、諦めていることを知っている。

ならば少しでも彼女の役に立ちたいと思うのは、いけないことだろうか。

アリシアの救いになるのであれば、力を貸したいと思うのは当然ではないだろうか。

「でもアリー。ここでイグニに頼ったら、爺やたちのメンツ丸つぶれよ」

「なに言ってるの?」

アリシアがにやっと笑う。

城の中では見たことも無い顔に、エリナがわずかに引いた瞬間。

「姉さんもイグニを推すのよ」

エリナはその時気が付いた。

城の中の死んだようなアリシアは、彼女ではなく。

きっとこちらが本当のアリシアなのだと。

――――――――――

『今はローズ様の側を離れるわけにはいかないので、この姿で失礼する』

水が人型となり、円形の机に着席する。

まるで本当の人間であると錯覚してしまうほどに、人くさい動きをするそれは、“極点”の魔術師でなければ不可能な御業。

故にそれは、“水の極点”たるフローリアの魔術である。

それに応えるのは、エルフの守護者。“剣の極点”クララである。

「む。フローリアで最後かの」

そして、彼女の到着をもってその場の唯一の男が場を回す。

「では、そろそろ始めるかの」

“極光”の2つ名を持つ“光の極点”の言葉に、その場にいた5名が頷いた。

「欠席は“地”じゃが、あれは王国の守護に残しておいた」

「それが……良い、でしょう。帝国と、王国は……狙われて、います、から」

「ふん。それでは私が帝国を放りだしたみたいではないか」

「そのためにイグニを置いておる。心配するでない」

「……分かってはいる。だが、不満だ。どうしてせっかくイグニが帝国に来ているのに私は会えないのだ?」

口を挟むのは“生の極点”。

近接戦闘を得意とする彼女は甲冑をカチャリ、と鳴らした。

「それが、仕事……ですよ。セリア」

師匠の言葉に肩をすくめるしかない彼女は、無言。

「久方ぶりの集まりじゃから、話すことは多いが……今回の議題は2つ。1つはアビスの言った『魔王』について。人類の敵対者がもう一度現れるというやつじゃ」

「また増えるのか?」

セリアが呆れたように呟く。

「正直、手いっぱいなのだが」と、セリア。

「……私、も……アビスの、話は…… 戯言(たわごと) に……過ぎない、かと」さらにクララ。

「そもそも『魔王』ほど力を持った個人は今の時代溢れている。アビスは元々頭がおかしかったが……力に魅入られただけじゃないのか?」最後にフローリア。

3人の“極点”の言葉に、ルクスはため息をついた。

「ワシもそう思う。しかし、警戒するに越したことは無いんじゃ。お主はどう思う」

ルクスは、この場において一言も口を挟まなかった“風の極点”に話を振った。

「えっ、あっ、いやっ、あの……っ!」

急に振られると思わなかったので、あっぷあっぷしながらも彼女は言葉を紡ぐ。

「わっ、わたっ、私も! 警戒っ! しておくのに、越したことはないとっ! 思いますっ!」

だが、セリアが深くため息をついて。

「それは王国が3人も“極点”を保有しているからだろう。帝国は1人だぞ? 今は落ち着ているから良いが……これからはそうも言ってられないでしょう」

「セリア……“極点”が、泣きごとを……言っては、いけませんよ……」

「師匠。そうは言いますが、帝国は巨大なのです」

「他の……国、には……魔法使いも……いないの、ですから」

クララが静かにセリアを諭す。

「ふむ。まあ、これはワシらでいくら話しても憶測の域を超えぬ。本題は次じゃ」

「……『咎人』たちですか」

水で形作られたフローリアの呟きに、ルクスが頷いた。

魔法使いながら、人類に牙を向く大罪人。

「うむ。『魔王領』の浸食が止まったいま、奴らのエネルギーは遅かれ早かれワシらに向けられる。これは間違いないじゃろう」

「私たちも抑えて回ってはいますが……全てを抑えるのは難しいでしょう」

呻くのはフローリア。

『魔王領』と『人類領』の緩衝地帯に拠点を置く“咎人”たちも、たった2人で全てを抑えられるわけでは無い。

それに、彼女たちの主たる任務は『魔王領』の浄化である。

犯罪者を捕まえることではない。

「人手が足りぬ。魔法使いが必要じゃ」

「イグニ……さんは……どうです」

クララの言葉に5人が黙る。

「実力は良し。じゃが、 実(・) 績(・) がない」

最初に口を開いたのは、ルクスだった。

「“極点”になり得るための、実績がの」

「アビスの……逮捕。“咎人”と、なった“極点”を……生きたまま……確保は、十分だと、思いますが」

「アレの主目的は『魔王の娘』の確保。 ま(・) だ(・) 、人類に牙を向いたわけではない」

クララはしばらく言葉を探したが、しかしルクスの言葉にも一理あると思い黙った。

「空席たる“炎の極点”には……まだ、なり得ぬ」

「これからに……期待、ですか」

「そうじゃ」

ルクスの言葉に、フローリアが呟いた。

「ローズ様が魔法に届けば……あるいは」

そうなれば世界初の“聖の極点”が生まれることになる。

だが、それは容易い話ではない。

魔法を目前にして数年どころか、数十年燻る者もいる。

“ 開(とびら) ”のミラがそうであるように。

「今は期待をしている場合では無いだろう。実力で“極点”に手を伸ばしつつある者と、現状の“極点”でどうにかしなければ」

「それは……そうですが」

セリアの言葉に、フローリアはしょんぼりと落ち込んだ。

「特に“咎人”に『宣戦布告』された王国と帝国はな」

セリアの言葉で“極点”たちは、再び議題を元に戻す。

人類の敵対者は、やはり同じ人である。

魔法使いたちの会合はまだ続く。